ロドス劇場寄稿if:ペガサスの目を持つ女性たちとともに源石のない世界の日本に行ったとある狼トレーナーさん 作:東京<アズマ キョウ>
の
【カジミエーシュ】√
→【ロドスアイランド】
からの、
【カジミエーシュ】√
→[源石の悲劇絶対除去フィルター]
→【トレセン学園】
に至った世界。
マリア・ゾフィア・マーガレットは【カジミエーシュ】ではなく
日本の【トレセン学園】にて競バを学ぶことになり、ヤマトは【ニアール家】現当主のムリナールと共に日本に入国していた。
「(あの時の失態は『奇貨なり』、というものになるのでしょうか?)」
日本競バ界において有数の実力を誇る名門【メジロ家】邸宅の庭に建てられた、白の柱に淡緑色の屋根を備えたガゼボにて、『メジロマックイーン』はこれまでのことを思い出してふとそう感じた。
◆◆◆
事の発端は週末の【トレセン学園】にて、メジロマックイーンがトレーニング中に身体の不調を感じて普段より早くカリキュラムを切り上げた日のことだった。
「減量中にこのトレーニングは不向きですわね……もっと効率的で良い方法はないものでしょうか……」
夕方の走るウマ娘のもういないコースの横を歩きながら、メジロマックイーンはトレーニング計画の練り直しに迫られていた。
彼女は周囲から認められるように、【メジロ家】の令嬢として恥じない振る舞いとレースの実績を積み上げていた。
中等部ながら他の有力ウマ娘にひけをとらない彼女だったが、そんな彼女を強く悩ませるのが体重管理だった。
体質のせいか、食事次第では直ぐに体重増へと繋がってしまうため彼女は日々の食事管理に神経を尖らせていた。
勿論トレーニングも平行して行っているが、激しい運動はエネルギーを大量に消費するため食事制限との相性は悪く、彼女のプランは必然的にお互いにしばしばぶつかり合う状態だった。
優れたトレーニング方法を模索して考案した今日の内容は彼女には合っていなかったようで、メジロマックイーンは意気消沈しながら宿舎に向かって歩いていた。
「……あら?」
土を踏む音。
コースに誰かがいることに気づいたメジロマックイーンはその方向を見た。
「あれは、〈ナロス〉の『カタパルト』さんと、〈エニフ〉の副トレーナーの『ヤマト』さんでしたか」
メジロマックイーンの視線の先には2つの姿があった。
セパレートタイプの黒インナーにダークグリーンのホットパンツ、ミリタリーテイストなコートと何か箱のようなものを肩に掛けているウマ娘。
社会人選手枠として製薬企業【ロドスアイランド】から出向しているカタパルト。
学生の着るものとは異なる白をベースとして黒の縦ストライプの入ったジャージに青のトレーニング服を羽織った、明るい茶色の髪にループス人を現す三角の耳。
日本競バとは全く異なる『カジミエーシュ競バ』を修め、現在外国人選手枠として【トレセン学園】に留学している『マリア』『ゾフィア』『マーガレット』属するチーム〈エニフ〉でトレーナーの『ムリナール』をサポートするヤマト。
そんな2人が誰もいないコース内にいた。
2人共【トレセン学園】において知られた人物だった。
〈ナロス〉には『フェン』『ヘビーレイン』『カタパルト』の3人が所属しているが特にカタパルトは悪戯を好むタイプの暴れウマであり、【トレセン学園】の迷バ『ゴールドシップ』と合わせてトラブルメーカーとして知れ渡っていた。
※因みに〈ナロス〉はトゥインクルシリーズのような個人レースではなくタウラス杯のような団体レースを得意としたチームである。フェンは先行型にてチームのレース運びを整え、ヘビーレインは差し型で競争相手の注目を引いてチームメンバーへの警戒をぼかし、カタパルトが追い込み型にて後背から競争相手をまとめて一気に抜き去るという戦略となっている。※
ヤマトについては
現在主流のカジミエーシュ競バ以前より実力トレーナーだったムリナールの他、彼の母国でも他の現役トレーナーから指導を受けたとされるヤマトは〈エニフ〉の懐刀ではないかと噂されていた。
またループス人である彼からはトレーニング指導中に研ぎ澄まされた牙の如き雰囲気を漂わせるため、一部の気弱なウマ娘からは怖がられてもいた。
メジロマックイーンはというと、カタパルトは〈ナロス〉としては注目しているがゴールドシップ絡みで警戒して距離をとっており、ヤマトについては副トレーナーということもあって正トレーナーのムリナールや〈エニフ〉メンバー程の意識を向けたことがなかった。
そんなメジロマックイーンにとって慮外であった2人がコースで何かをしているということに何となく興味を惹かれた彼女はトレーニング不発の気分転換にと近くの柵に体を預けて観察することにした。
ヤマトとカタパルトがダートコースに移動しながら何やら話しているようで、メジロマックイーンは優れた聴力で耳をそばだてた。
「次は例のアレいくからねー。うちの『マドロック』さんが作った会心作だから、きっとヤマトの希望通りになると思うよ」
「ありがとうカっちゃん。おかげで重バ状態での対策訓練が漸くできるよ」
「いいのいいの、アタシだって偶にはこうしてぶっ放してみたいなぁと思ってたし。でも一応聞いとくけど、これって危なくないの?普通こういうことはしないと思うけど」
「どうして?カジミエーシュ競バだと似たような訓練プログラムには結構入ってたけど」
「マジかー。カジミエーシュ競バ、ヤバいなぁー」
「一体何をするんですの……?」
メジロマックイーンには2人の『訓練』の内容が予想出来なかった。
『荒っぽい』という表現では物足りないほど好悪共に名高いカジミエーシュ競バの本レースの事はまだしも訓練方法についてはレース学習に勤勉なメジロマックイーンであってもその詳細は不明だった。
ムリナールトレーナーは正統派と言える程に整然とした日本競バ式の訓練を〈エニフ〉に施しており、むしろ入学早々にマリア達カジミエーシュ人と日本ウマ娘の間に起きた『日カ文化ギャップ事件』で明らかとなったカジミエーシュ式ロジックからの脱却を計っていた。
スポンサー企業がカジミエーシュ競バのPRとして選手のトレーニング風景を動画で放送しているが、それは専ら外宣用であり実際の訓練は軍隊そのものであるという分析もある。
また日本競バの成長を計るために外国視察を行った理事長がカジミエーシュ競バを見て、
「拒絶!アレでは一握りの勝ちウマ娘と万の挫折したウマ娘しか生み出さない!」
と参考にならなかった旨を叫んだという。
そうした事情があって、ここ【トレセン学園】ではカジミエーシュ競バの浅い所は知られていても詳細は不明という状態になっていた。
「(気になりますわね、カジミエーシュ式……。流石にいきなり棍棒を振り回すようなことはないと思いますし、何かトレーニング方法発案のきっかけになればいいのですが)」
少しでも自身の研鑽に活かそうとするメジロマックイーンの意志が彼女をコース外に留まらせた。
そしていざヤマトがダートコースのスタートラインに立ち、カタパルトがカウントダウンをとり、
「ゼロ!」
言い切った時、ヤマトが走り出した。
「はぁ?!」
次の光景を見てメジロマックイーンは思わず声を挙げた。
カタパルトは肩に掛けていたものを構えると、メジロマックイーンから見ても理想的なスタートダッシュを決めたヤマトに併走しながら彼の前方に向かって何かを射出した。
「何を考えていますの?!」
メジロマックイーンは突然の暴挙に声を張り上げた。
それはどうみてもヤマトへの進路妨害にしかならず、しかもあからさまにヤマトの前方を狙ったことから転倒の誘発を目論んだ悪質なものでしかなかった。
ウマ娘は一見すると華奢にも見える体躯に反して他の種族を圧倒する脚力とバイタルを備えている。
フィジカルに限って言えばヤマトのようなループス人はもとより、極北のウルサス人や中東のヴィーグル人など優れた素質を持った人種はいくつか存在する。
しかし殊脚力について言えばウマ娘をおいて他に並ぶ者は個人はともかく種族としてはほぼ存在しない、ウマ娘のように自動車やバイク並の速度で走れる人物はまず居ないのだ。
だがその速度は同時にウマ娘を危険に曝すこともある。
いわばウマ娘は外装のない車にヘルメットもシートベルトもなしに走っているようなもので、何かの拍子に転倒でもしようものなら自動車事故を生身で引き起こしたも同然のダメージを一身に受けることになるからだ。
故に日本競バ界では意図的に転倒状態を引き起こす行為や転倒を招く危険な行為を強く取り締まっており、ここ【トレセン学園】においても斜行を行ったと見なされた選手に対しては当該レースのいかなる結果の剥奪や次回レースの出場停止などの厳しい処置が施されるのだ。
しかし今メジロマックイーンが目撃したものは斜行が只のランニングに見える程の悪質なものであった。
ウマ娘でないとはいえスピードの乗ったヤマトが転倒でもすれば大怪我しかねない。
ましてやカタパルトは肩に掛けていた大砲でヤマトの前を撃っているのだ。
直撃すればどうなるか判ったものではない。
「なんて無謀な……!?」
メジロマックイーンは2人の危険な行為を止めさせようとコースに入ろうとしたが、その足は更なる衝撃を以てその場に留まることとなった。
「シィッ!」
ヤマトのスピードは落ちない。
カタパルトが発射したものが着弾して辺りに飛び散ってもヤマトは姿勢と歩法を変えるだけで全て避けきり決してスピードを落とそうとしなかった。
どうやら泥玉のようなものを撃ちだして、落ちて飛び散った泥を避けるトレーニングをしているようだった。
「これは、まさか泥除け……!?」
メジロマックイーンはその姿を見てある光景が浮かんできた。
それは例えるならレースが中止にならないギリギリの降水量の中で走るダートの条件であった。
ウマ娘にとって雨中のダートは泥濘に加えて前方を走る選手が蹴り飛ばす泥礫にも神経を張り巡らせなければならない。
顔や目に当たれば致命的になりかねない他、体に当たっても意識が命中箇所に引きずられて足運びの妨げになる可能性が高い。
【トレセン学園】では授業の一環としてそうした泥礫から顔を守る方法や集中を散らさないように慣れる訓練を設けているが、ヤマトのそれは正に別の解法だった。
[いかに姿勢を変えてスピードを落とさないか]
より良いトレーニング方法を探求していたメジロマックイーンにとっては新たな可能性の萌芽を見たかのようだった。
「っあ゛!ヤマト、不発弾!」
突然カタパルトが叫んだ。
メジロマックイーンがその先を見ると、カタパルトが撃った握り拳ほどある丸い弾がはじけることなくダートを跳ね、そのままヤマトのほうへ飛んでいった。
「危ない!」
あれが当たればどうなるか判らない……メジロマックイーンは悲鳴を挙げた。
ヤマト目掛けて弾が迫り、直撃しそうになる。
「ヤッ!」
腰の高さに飛んできた弾に合わせて背を屈めると、ヤマトはその場で一気に回転して勢いをつけた蹴りで弾を蹴り上げた。
「……すごい」
メジロマックイーンは砕かれた破片の中を走るヤマトから目を離せなかった。
蹴るという行為をしておきながら、ヤマトは姿勢を乱すことなく着地してそのまま走ったのだ。
そのような芸当ができるウマ娘など、メジロマックイーンには思いつかなかった。
「これは是が非でもヤマトさんに話を……?」
メジロマックイーンはヤマトの抜きん出た技術を少しでも学び取ろうと柵を超えてヤマトに駆け寄った。
そして興奮した彼女は、
「きゃん」
「「えっ?」」
柵を超えて近づいたことでヤマトが蹴り飛ばした弾の破片の弾道が自身の動線上に交差してしまったことに気づかないまま、彼女は泥玉の破片を頭に食らって倒れ込んだ。
よそ様の子を利用するスタイル。
【原作:アークナイツ】にて多数の話が投稿されている『ロドス劇場』の感想欄に書いたプロットを基に作りました。
この場を借りて作者のゆっくり妹紅さんには設定利用の許可を頂きましたことを御礼申し上げます。「コレジャナイ」感が強いと思いますがどうがご容赦を…。
尤もアークナイツのあのむせる世界観はさっぱりターフの上の風になってしまったのでほぼ『ロドス劇場』おアークナイツキャラの出るウマ娘作品と思えばいいかな?と思います。少しでも読める作品になっていたら幸いです。
本当は先週投稿したかった……