悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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解体作業

 

とある日の昼下がり、生徒会室にはシンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアンの三人が集まっていた。その理由は、彼女達の前に立っている理事長にあった。

 

「感謝ッ! 忙しい時期に集まって貰い、大変心から感謝する! 君達を呼んだのは決して軽くは無いお願いがあるからだ!」

 

彼女は"感謝"と書かれた扇子を畳むと、まるでこれから戦が始まるかのような真剣な眼差しを彼女達に向けた。

 

「依頼ッ! 本日の夕方頃に現在使用していない倉庫の解体工事があるのだが……その様子を見張って貰いたいっ!!」

 

何かとても重大な事だと思っていた生徒会長は、その依頼の軽さに違和感を覚える。

 

「理事長、理由をお聞きしても良いでしょうか?」

 

「うむ! 今回の解体工事を担当するのは……あのハイゼンベルクなのだ!」

 

その言葉に、約二名が半分納得し、面識がない一名が首を傾げた。

確かに扱うのが面倒なタイプではあるが、仕事を疎かにする者ではない。何故、ここまでの危機感を理事長が持っているのか分からなかった。

 

「彼である事で何か問題が?」

 

「解説ッ! 今回のこの仕事、彼奴が自ら名乗り出てきたのだ! あの毎回毎回帰りたいと吐かしている彼奴が!?」

 

そう語る理事長の顔色はたづなに怒られた時と同様、真っ青であった。それだけではなく、手に持った扇子も小刻みに震えている。

 

「惨烈ッ……! 放っておけば倉庫を中心にクレーターが出来上がる事、間違い無し……! いや、それだけに収まらず校舎も……!?」

 

「大袈裟だと思うのは私だけか?」

 

ぶっ飛んだ工場長の事をよく知らないナリタブライアンが、疑惑の眼差しを向ける。

 

「ブライアン、理事長の言っている事はあながち間違いでは無いだろう。私も一度会ったが、常識外れという言葉があれ程似合う男は他には居ない」

 

面識のある副会長がその疑惑を晴らそうとする。しかし、言葉だけではその根拠は薄い。そこで、彼女は最適な例えを出した。

 

「分かりやすく言えば、アグネスタキオンが男になったとでも思えば良い。性格もやり方も彼女より荒いが、大体同じだ」

 

「そうか、少しイメージがついた。感謝する」

 

今、彼女の脳裏には眼鏡をかけた科学者の男のイメージが思い浮かんでいる事だろう。

 

しかし、まだ疑問は積もる。

 

「だが、私達が見張る必要があるのか?」

 

「うむ! あの男を止められるのは君達しかいない!」

 

「それは一体、どういう事でしょうか?」

 

「説明ッ! 以前、彼に敷地内の不要な木の伐採を頼んだ時! それは起こった!」

 

その一言に会長は理解が追いつかなかった。あの者はトレーニング器具を卸す事が業務の筈だ。何故、業務と関係の無い伐採を頼んでいるのだろうか。

 

思わずその疑問を理事長に投げかけた。

 

「少し良いでしょうか? 彼はトレーニング器具の業者では無いのですか?」

 

「肯定ッ! シンボリルドルフ、君のいう通りだ! だが……彼奴は色々と融通が利いてだな……」

 

「突然頼んでも問題ない人材。そういう事ですか……」

 

「うむ……! 端的に言えばそうだ!」

 

少し悪びれた様子で理事長はそう告げた。そんな事実を聞いた会長は、ほんの少しだけ彼に同情したのだった。

 

「それで! 伐採を頼まれたあの男は、まとめて切った方が楽だと吐かし、刃渡りが5メートル以上もあるチェーンソーを持ってきたのだ!!」

 

刃渡り5メートルのチェーンソーと言われても、そのイメージは全く湧かない。困惑する彼女達を置いてけぼりにして、理事長は続けた。

 

「無論ッ! 生徒に当たれば危険! 係員含め5、6名ほどで止めに入ったが……あの男は止まるどころか、その者達を引き摺りながらあの凶刃を振り回しておった!」

 

彼女はその時を思い出しているのか、驚きと恐怖が入り混じったかの様な顔をしていた。

 

「故に! 何かあった時、君達に止めて貰いたい! 恐らく、君達三名の力を持ってすれば無理矢理止める事も可能!」

 

「……何故そんな奴に頼むんだ?」

 

全員が思っている事を代弁するかの様に、ナリタブライアンが指摘した。

 

「うむ……! 一言で言えば、時間が無かったのだ。少し調子に乗って色々と早く決め過ぎてな、納期の問題が……」

 

彼女達三人は、理事長の言う"融通が利く"の意味を完全に理解しただろう。彼に対して良い印象が無い副会長も、流石に少しばかり同情した。

 

「兎に角! 私はこれから用事で学園を離れる! その間、よろしく頼む!」

 

理事長は時計の時刻を見て、驚いた表情を浮かべると、そそくさと部屋から出て行ってしまった。

 

残された彼女達は例の工場長が来るまでの間、終わっていない書類仕事や会議を行って時間を潰すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり、解体予定の倉庫へと足を運ぶ。そこには既に、コンテナ三個分程の大きさの倉庫にホースを使って水を撒いている工場長の姿があった。

 

「あ? 何だテメエら? 見学でもしに来たのか?」

 

「理事長に頼まれて様子を見に来たんだ」

 

「様子? 何でだ?」

 

「貴様がふざけた行動をしたら止めろとの事だ」

 

「ああそうかい。そんじゃ、そん時は止めたきゃ勝手に止めろ」

 

彼は水を撒き終えると、携帯を弄り出す。そして、悪い笑みを浮かべてこう言った。

 

「止められるもんならな!」

 

彼が携帯を操作し、何かのブザー音が響く。そして、重々しい足音が等間隔で響き始めた。

 

その音源は近くに止めてあるトラックの荷台からだ。しかし、今回は緑のカバーに阻まれてその正体は伺う事は出来なかった。

ガシャガシャという金属音を響かせながら荷台から降りてきたそれは、まるで人を金属板で隙間なく埋め尽くし、その両の手にドリルを三本くっ付けた異様な存在だった。

 

「な、な、な、何だこれは!?」

 

「見て分かんねえのか副会長さんよ! コイツは建物解体用ロボット! 名付けてゾルダート・パンツァーだ!!」

 

驚愕の表情を浮かべるエアグルーヴに彼は最高の笑みと握り拳を作り、自信満々に宣言した。

 

驚いているのは彼女だけでは無い。ナリタブライアンもシンボリルドルフもその圧倒的な威圧感を放つそれに目を大きく見開いていた。

 

「安心しろ! 人型だが中に人間なんぞ入ってねえ! コイツは100%機械の塊だ!!」

 

「そういう問題ではない!」

 

「おい、ドリルというのはあんなに必要なのか?」

 

ナリタブライアンは引き攣った表情で、そのゾルダートとかいうロボットの、物を持つ気が一切無い手の部分を見てそう言った。

 

「テメエが誰だか知らねえが教えてやる! ドリルってのはな、あればあるだけ良いんだよ! カッコよさの塊だからな!」

 

一切迷いの無い狂った眼差しが彼女を貫く。

 

見た目に関しては副会長の例えは違っていたが、性格に関しては共通する部分があると思ってしまった。

 

「まあ、コイツはまだ使わねえ。先に別の作業があるんでな」

 

彼はそう言いつつゾルダートの肩を叩く。そうすると、ソレはまるで俯く様にして停止した。先程まで装甲の隙間から漏れていた光も完全に消えている。

 

「すまない、今は何をしているんだ?」

 

会長はこちらに背を向けて、座り込んで何かの作業に没頭するハイゼンベルクに尋ねる。彼は少しニヤリと笑うと、自身の身体で隠していたソレを見せた。

 

「見て分かるだろ? ハンマーに小型のジェットエンジンをくっ付けてんだ!」

 

彼が意気揚々と見せたのは、いつも手に持っている鉄槌の両サイドに、見た事もない筒状の物が付けられていた。

 

見ただけでは何なのかは分からないが、ただ一つ分かる事がある。

 

どうせロクな物ではない。

 

「よし、完成だ! ったくよお! 最高にイカしてんじゃねーか!」

 

「待て貴様! そ、それで何をするつもりだ?」

 

エアグルーヴはとてつもなく狼狽えた様子で、その改造された鉄槌を指差した。

 

「粉塵も舞わねえ様に水はちゃんと撒いた。そして、今この場には圧倒的加速力を得たハンマー。後はテメエのお堅い頭でも分かんだろ?」

 

わざとらしく丁寧な説明に、彼女は今から彼が何をするのか大体察した事だろう。そんな彼女を差し置いて、狂気の笑みを浮かべた彼は、ついに鉄槌の柄に手をかけた。

 

「おっと、重えな。だが問題ねえ! テメエらに見せてやるぜ! コイツの素晴らしさをな!」

 

ハイゼンベルクは鉄槌を両手で持ち上げると、その柄に付いたスイッチを躊躇いなく押し込んだ。すると、横に付いたジェットエンジンが段々とその自己主張を強め、いつしか耳を塞ぎたくなる様な轟音を発し始めたのだ。

 

「最高のショーの時間だ!」

 

彼はとんでもない付属品が付いたそれを横薙ぎに大きく振るった。彼女達も初めて見るだろう、倉庫の白いコンクリート壁が豆腐の様に抉れるところなど。それ程までにぶっ飛んだ代物を彼は振り回していた。

 

「流石に止めるぞ! おい、聞いているのかブライアン!」

 

「まだアイツは何もしてない。それに、よく見てみろ。瓦礫など一つもこちらに飛んできていない」

 

ナリタブライアンはエアグルーヴの呼び掛けに対し、淡々とした返答と共に地面を指さした。

 

適当かつ乱暴な解体作業。しかし、その瓦礫は全て倉庫側へと飛んでいる様で、その地面はただ粉塵で白く染まっているだけだった。

 

「すごいな……! 如何にも無闇矢鱈に振り回している様に見えるが、瓦礫はおろか、小さな破片さえ飛んでこない。本当に出鱈目な技術だ」

 

シンボリルドルフは彼の楽しそうな後ろ姿を見て、感心した様に笑った。彼はそれが聞こえていたのか、一旦その手を止めて調子の良さそうな笑みで面白い事実を言い放った。

 

「流石は生徒会長様だ。良く物事が見えてやがる! この理屈はアルミ缶をぶっ潰すくれえ簡単だ! でけえ質量がとんでもなく速くぶつかれば物は粉砕されんだよ!」

 

本当にその理屈は正しいのかどうかは分からないが、彼が倉庫という名のバターを片っ端からジェット付きのスプーンで抉り取っていく様子から見て、間違ってはいないのだろう。

尤も、あれ程ぶっ飛んだ速度であの質量を振れるものなどいない故、検証不可なのだが。

 

「……あんなに高速で振っていたか?」

 

彼の鉄槌を振るう速度は段々と上がり、ナリタブライアンがそう呟いた頃にはその軌道すら殆ど見えなくなっていた。そこから得られる物は、風を切る音と壁は砕け散る音、そして、ジェットエンジンの唸り声だった。

 

結局、彼女達は彼を止める事はなく。彼はもはや兵器と化したそれを振り回し、一時間も掛からずに倉庫の上半分を綺麗さっぱり消し去ったのだった。

 

「さあ、テメエの出番だ! この地盤ごとぶち抜いちまえ!」

 

彼は例のマシンに声を掛ける。ゾルダートと呼ばれたそれは、静かな起動音を鳴らして上体を起こした。

 

そして、腹と思わしき部分から明らかに砲身と思わしき部分が飛び出した。

 

「おい! 待て、貴様!」

 

「あ? どうした、何か問題でもあったか?」

 

「問題しか無いに決まっている! その異様な機械の腹から出たそれは何だ!」

 

「見れば分かんだろ、直径20cmの砲身だ! 大口径にはカッコよさとロマンが詰まってる! 本当は30cmにしたかったんだが……」

 

「なるほど、何か理由が?」

 

「ゾルダート自体の幅が足りなかった! 改良の余地ありってヤツだな!」

 

副会長のご指摘に特に抵抗もなく正直に答えるハイゼンベルク。本人は納得がいかないのか、少し悩んだ素振りを見せる。

 

地味にシンボリルドルフが、彼にその理由を尋ねている所から、彼女も彼のぶっ飛び工作に少し興味がある様だ。

 

だが、彼のふざけたこの機能を許すわけにはいかないエアグルーヴは、いつも以上に鋭い目付きで彼に詰め寄った。

 

「いい加減にしろ! こんな物を撃ったら文字通りここにクレーターが出来るぞ!」

 

彼女は危険なマシンと化したそれをバンッと乱暴に叩き、そう言い放った。しかし、彼は笑みを崩さない。まるで勝手にどうぞとでも言いたいかの様に、一人軽く笑っていた。

 

「さあ、やって見なきゃ分かんねえな?」

 

両手を広げ、悪役らしい笑みを浮かべる。それが何かの合図だったのか、ゾルダートはその主砲を彼女へと向けた。流石にナリタブライアンもこの行動は看過できない様で、舌打ちしながら殺戮マシンに向かっていくが、その歩みはシンボリルドルフの手にそっと阻まれた。

 

「心配無用だ。彼女が傷つくことはない」

 

彼から会長に向かって放たれたウインクを見て、彼女は勇敢な一人のウマ娘にそう言った。

 

その直後、破裂音と共に例の大砲が火を噴いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思いきや、噴いたのは火ではなく大量の水だった。

 

エアグルーヴは冷たくも熱くもない、生温いそれを全身に被った。腕で目を覆っていたためかメイクは無事だが、制服も髪もびしょ濡れだ。

 

「ダッハハハハハ! 悪いな、砲弾が出るなんて一言も言ってねえぜ? まあ良かったじゃねえか? これで文字通り、"水も滴るいい女"ってヤツだ!」

 

その返答は、言葉ではなく拳だった。

 

ガッシャーンッと大きな音を立て、その拳は主人の命令に従っただけの機械へと打ち込まれた。ウマ娘の全力が注ぎ込まれたそのパンチは、哀れな機械を地面へと叩き込んだ。

 

「会長、少し時間を頂きます」

 

「ああ、分かった」

 

エアグルーヴは早足で自身の寮まで去っていた。

 

残された男は大爆笑している。

 

「コイツに何でこんなクソ分厚い装甲があるか知ってるか? 今みてえのを耐えるためだ! よし! 完璧じゃねえか! クソ程頑丈に作った甲斐があるぜ!」

 

まるでゾルダートは何事も無かったかの様に立ち上がり、今度こそ砲身を倉庫だった物に向けて、水をばら撒いた。

 

そして、問題の元凶が腹部へ仕舞われると、両手のトリプルドリルで残る壁や床を凄まじい勢いで削り出す。その間、ハイゼンベルクは粉々になりきらなかった瓦礫を回収し、トラックに乗せていた。

 

その結果、本来なら一日以上掛かる解体作業をぶっ飛んだ方法を使ったとはいえ、たった数時間で終わらせてしまった。

 

「早いな」

 

「そりゃそうだ。さっさと帰りてえからな」

 

「見事な手腕だった。だが、エアグルーヴをあまり虐めないでやって欲しい」

 

シンボリルドルフは少し顔をしかめながらそう言った。流石に少しやり過ぎたのだろう。

 

「そいつは悪かった。だったら俺の趣味の次の標的は生徒会長、アンタになるぜ?」

 

「ああ構わない。()()たる者、どんな試練でも受けて立とう! いや、君にとって立場や名前の()()差は無いような物だったね。では一人のウマ娘として受けて立とう!」

 

「おっと、まさかの全()()か? ()()()よくいられちゃあ俺もやり辛えな。何()()か挟まねえと、テメエに一泡吹かせるのは()()無理そうだ」

 

まさかの普段の十八番が返ってくるとは思ってもいなかったのだろう。珍しく、完全にやられた表情を彼女は浮かべた。

 

「会長よりアンタの方が一枚……いや、三枚上手だな」

 

「そいつはどうも」

 

先程の言葉のやりとりはナリタブライアンにも聞かれていた様だ。淡々とした言葉に、淡々とした言葉を返す。

だが、肝心の皇帝はその言葉に苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

その後、トラックにゾルダートを乗せて彼は満足そうに帰って行った。

その仕事ぶりは完璧の一言だったのだが、約一名少し納得のいかない者がいたそうだ。

 




シンボリルドルフのヒミツ
実はハイゼンベルクの独特な言い回しを気に入っている。
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