悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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ランチ

 

太陽が真上へと昇る昼の時間帯。授業も終わり、皆が休み時間へと入り昼食を楽しみ始める中、一人の男が天真爛漫なウマ娘に引っ張られていた。

 

「トレーナー! 早く早く! 座れるとこ無くなっちゃうよ!」

 

「あのな、俺は後で食うから良いんだよ! テメエだけでさっさと行ってこい!」

 

「ええー! ここのご飯とっても美味しいんだよ! 一緒に食べようよ!」

 

彼の腕を掴んでカフェテリアへと走るハルウララ。力加減を考えていないのか、結構な勢いでハイゼンベルクは引っ張られて行く。おまけに急いでいるせいか、スピードが速かった。

 

「おい、待て! あんまり引っ張るんじゃ……」

 

ドゴンッという鈍い音と共に、彼と鉄槌は床へと転がった。力は強くても足が速い訳では無いのだ。

盛大に転倒した彼を見た彼女は心配そうに駆け寄った。

 

「ああっ!? ごめんねトレーナー! だ、大丈夫!?」

 

「ったく、地べたを這いずるのは何年振りだったか……?」

 

悪態を吐きつつ平然と立ち上がると、ひび割れた床に落ちている鉄槌を拾い上げる。そして、首を鳴らし体に異常がないことを確認すると、彼は彼女を指差して言った。

 

「ああ、分かったよ! この面倒なランチに付き合ってやるよ! だから、俺を引っ張り回すんじゃねえ!」

 

「ほんと!? やったー! じゃあ、先に席取ってくるね!」

 

彼女は彼を残してカフェテリアへと走り去る。その後ろ姿をため息混じりに見送っていると、彼の背後から見覚えのあるウマ娘が同じく彼女を追いかけて走って行った。

 

「むむっ! ウララさん! 待ちなさい! 廊下は走ってはいけませんよ!」

 

盛大なブーメランが突き刺さっている彼女だが、そんな事に気付くはずもなくハルウララを追って曲がり角に消えていった。

 

その後、彼がゆっくりと食事処へ向かう道中にて、厳格な副会長に叱られている二人の姿を見かけるのだが、彼は特に助け舟を出す訳でもなくただ"ご愁傷様"とだけ呟いて先にカフェテリアへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こっ酷く副会長に叱られたハルウララは、非常にどんよりとした様子でカフェテリアに到着する。最低まで下がってしまったテンションだが、四人席に座る人影を見るや否や再びレッドゾーンを振り切って最大へと戻ったのだった。

 

「あっ! トレーナー! エルちゃん! グラスちゃん!」

 

「あら、ウララちゃん」

 

「やっと来ましたね! ウララも一緒に食べるデース!」

 

彼女は自身のトレーナーの隣の席に当然のように座る。そして、本日のメニューを見て何を食べるか迷っていた。

 

「トレーナーは何食べるの?」

 

「さあな、適当に決める」

 

結局、彼とお揃いのものを食べようと考えていたようだ。しかし、彼はぶっきらぼうな答えを返すと先に立ち上がって食事を受け取りに行ってしまった。

 

彼女は慌ててついて行き、彼の後ろに並んで全く同じメニューを頼む。そして、食欲を誘う美味しそうな香りと共に渡されたのは、ソーセージがメインのランチメニューだった。

 

肉汁がその身から溢れ出しているソーセージにふんわりと焼かれたパン、付け合わせのサラダ、おまけにカリカリに揚げられたポテト達による素晴らしい誘惑に涎を垂らしそうになるハルウララ。

 

何とか手を出すのを我慢しつつ席にたどり着くと、未だトレイを持ったまま厨房の年配者と話をしている彼を待つ。その様子は、さながら"待て"と言われた犬のようだ。

 

「この間はありがとよ! アンタのお陰で火力が段違いだ!」

 

「礼なら俺じゃなくて理事長に言いな。あのチビがテメエらの為に手配しただけだ。俺の鼓膜をぶっ壊してな」

 

「はははっ! まあまあ、コレで機嫌を直してくれよ」

 

「ヘッ……ありがとよ」

 

彼の皿に追加で二本のソーセージが置かれる。そんな様子を見て鼻で軽く笑うと、呟くように礼を言って自身の席まで戻ってきた。

 

そのやり取りを横から見ていたハルウララは、羨ましそうに彼のトレイを見やる。

 

「良いなあ……! 5本もある!」

 

普段、ウマ娘たちが食事を取るところである為、一つ一つの品の量がそこそこ多い。勿論それは彼の分も例外ではない。

 

「こんなに食えねえ、テメエに一本やる」

 

そう言った彼は、まだ未使用のフォークで特大のソレを一本彼女の皿に放り込んだ。

 

「ほんとっ!? ありがとー! えへへ、お肉がいっぱいだ! うっらら〜!」

 

「意外とお優しいんですね」

 

「うるせえ。食い切れねえからくれてやっただけに決まってんだろ」

 

刺身がメインの定食を席へと持ってきたグラスワンダーは茶化すように彼へ言った。返ってきた反応は至って単純、本当か嘘か分からない誤魔化しだった。

 

「そうですよグラス! ウララのトレーナーはもっと恐ろしい存在デース! 情けも容赦も優しさも全くもって無いに等しいのデス!」

 

エルコンドルパサーは至極当然のようにそう言い張ると、オムレツがメインの料理を持って席に座る。

とんでもなく失礼な言い分だが、彼は全く気に留めておらず、既に料理を楽しみ始めていた。

 

まあ、彼女が初めて会った時の彼は色々とあり頭のネジが吹き飛んでいたので、そんな評価になるのも致し方ないと言えるだろう。

 

「そんな事ないよ! トレーナーは優しいもん!」

 

しかし、彼ではなく別の者がそれに異議を唱えた。勿論、ハルウララだ。迷いなき眼をエルコンドルパサーへと向け、彼女と同じような自信満々といった様子でそう言ったのだ。

 

そして、最強の彼女に追撃を加えようと続けて何かを言おうとするが、それは男の声によって遮られる。

 

「テメエら黙って食え」

 

どこか呆れた様な表情と声調で、彼はこれから自分に都合の悪そうな言い合いが始まるのを阻止した。

 

「そうですよ二人とも。楽しく話すのは食事が終わってからにしましょう」

 

その言葉に少し悪びれた様子を見せる二人は、各々の料理に手をつけ始めた。

 

おまけのソーセージをハイゼンベルクから貰った彼女は、フォークをその肉の塊へ突き刺す。すると、刺さったフォークの隙間から肉汁が溢れ出す。そんな様子を見てしまってはもう我慢はしていられない。

 

迷わず口いっぱいに頬張ると、彼女の味覚は歓喜に震えた。

 

いつものランチとは一味違う、ほっぺたが落ちてしまいそうな程の料理に、思わず彼女は疑問を口に出す。

 

「んんっ〜!! すっごく美味しいっ! なんでなんで!? いつもと味が全然違うよ!」

 

そんな彼女の嬉しそうな声は厨房まで聞こえていたのか、一人のコックのおじさんがカウンター越しに彼女の疑問に答えた。

 

「簡単な話だよ。文字通り火力が違うんだ! 一人の優男が直してくれたからな! しかも、そのソーセージは別格だ。何せ、そいつが"作ったけど要らねえ"って言って、高性能なミンサーまで提供してくれたからな!」

 

「……っ!?」

 

コックの言葉に一人の男の手が止まる。だが、三人ともそれに気付く事は無かった。そして、男は何事も無かったかのように食事を続けた。

 

「へえ! 世の中にはとっても良い人もいるんデスね! 次回はそっちを食べてみようと思います!」

 

「きっと美味すぎて驚くぞ!」

 

「ブエノ! それは期待大デース! 明日のランチがとても楽しみデスね!」

 

「ふむ、確かにとても美味しそうですね。私もエルと同じように明日はそのメニューを頂きましょう」

 

コックの熱い説明と、実際に目の前にある品を見て、二人の興味はそのメニューへと向く。

 

見ただけで美味しいと脳が感じているのだ、実際に食べてみたらどれだけ美味しいのだろうか。考えただけで涎が出る。

 

しかし、今は目の前の食事に集中するのが良いだろう。あの料理も美味しいがこっちの料理も当然美味しい筈だ。

 

そうして自身の注文した料理に再び手をつけるグラスワンダー。だが、その隣のコンドルは彼女と同じように食べ始めるかと思いきや、懐から一つの瓶を取り出した。

 

「見て下さい! これがあのメーカー新作のデスソースでーす! きっとこれは料理を新たな高みへと持っていってくれるはずデース!」

 

その瓶に入っているのは真っ赤な液体。血よりも赤いそれには、とんでもない辛さが詰まっている事だろう。

 

そして、少しだけそれに見覚えのある彼はその瓶を見て思わず言葉を漏らした。

 

「そいつは食いもんじゃねえ。どっちかと言えば護身用の武器だ」

 

「護身用!? こんな素晴らしい物を一体どうやってそんな物騒な物に仕立て上げるのデスか!?」

 

「水鉄砲にぶち込めば丁度いいモンの完成だ。顔面にでも引っ掛ければ一発で無力化出来る」

 

「違うデース! コレはそんな野蛮な物じゃありません!」

 

その言葉に納得を見せないのは工場長だけでは無かった。その隣の大和撫子。天真爛漫な彼女。皆が懐疑的な視線をその劇薬へ向けていたのだ。

 

そんな視線を気に留めず、彼女はその赤い赤い悪魔の液体を、オムレツへと振りかけようとしていた。

 

「エル?」

 

「安心して下さいグラス! 今回の新作にはちゃんと少しづつしか出ない様に特殊なキャップが付いてます! エルは同じミスはしないのデース!」

 

キャップを開けて、思い切りオムレツに瓶をひっくり返す彼女。しかし、死の液体は一滴たりとも瓶から出てくる事はなかった。

 

不思議に思った彼女がキャップの穴から中身を見ると、そこにはアルミの封がしっかりとされていた。

 

「あ、まだ中に蓋が……よし、コレで完璧デース!」

 

キャップを外し、封を完全に取り外す。そして、今度こそ味覚が壊れる一撃をオムレツに放ったのだった。

 

しかし、彼女は肝心な何かを忘れていた。

 

「あ、あれ……? どうしてこんなに出てるのデスか? あ……! キャップ外したままデース……」

 

思いっきり振りかけたその液体は、彼女の想像の10倍以上の量だった。

 

隣のグラスワンダーには勿論、反対側に座るハイゼンベルクの料理にまで、味覚を殺すソースがばら撒かれた。なお、幸運にもハルウララの分は無事だった。

 

「エル……?」

 

「テメエ……」

 

「ヒィッ!?」

 

エルコンドルパサーによる、真紅の液体を使った儀式は、どうやら悪魔ではなく大和撫子の中に潜む鬼だけではなく、鋼の魔王までこの世に顕現させたようだ。

 

黒魔術としては大成功である。

 

鬼と魔王の夥しい程の殺気が彼女を覆う。顔を一気に青ざめさせ、コンドルからただのヒヨコへと成り下がった彼女は、ただただ震える事しか出来なかった。

 

絶望、滅亡、エル惨状。

 

雷に撃たれるよりも、炎に焼かれるよりも悍ましい経験を彼女はこれからする事だろう。

 

全てが終わった後、二人は食べれなくなった分を交換して貰い、食事を続けた。

 

先程までエルコンドルパサーのいた席には、代わりに彼女に似た何かが顔色を真っ白に染めて卓上に突っ伏していた。

 

彼女がエルコンドルパサーに戻った時、幸か不幸か先程の記憶はスッポリと抜け落ち、代わりに背筋に謎の悪寒が走り続け、しばらく悪夢を見たそうだ。

 




平日限定ソーセージランチ
学園内で人気のメニューの一つ。肉厚のソーセージがとても美味しい事で有名。ソーセージの本場であるドイツの食卓を模したものとなっている。
なお、どこかの誰かさんのご要望で生まれたようだ。
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