悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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筋肉

 

ある日の朝、ハイゼンベルクは理事長室にて一枚の紙を理事長とたづなに見せ付けていた。どうやら、何かの設計図のようだ。

 

彼はペンを持ち、一部分に注釈を加えながらそれの解説をし終えると、自慢げに口端を吊り上げた。

 

「どうだ? 意外と悪くねえ代物だと思うが」

 

「驚愕っ!? 話を聞く限りはまともな代物ではないか!」

 

「何言ってやがる、まるで今までのブツがマトモじゃねえって言ってるみてえじゃねえか」

 

今回、彼が持って来たのはとある図面。普段なら、商売に関してはかなりの杜撰さが目立つ彼。しかし、珍しい事に目の前の紙に関しては、彼が直々に売り込んできた代物だった。

 

理事長は彼を信頼してはいる。だが、その製品に関しては例外もある。故に、彼女は過度な期待を寄せずに彼の話を聞いていた。

 

しかし、彼の売り込んできた物は彼女の想像を良い方向で超えていたようで、話を聞く前はどこか懐疑的な表情であったのに対し、聞き終わった後は驚いたかのように目を丸くしていた。

 

「賞賛っ! 素晴らしい発想だ! 君の発想力には感心するな」

 

「私もそう思います。それにしても、磁力で擬似的に重さを変えられるバーベルなんて、よく思い付きますね」

 

「ヘッ、ただの偶然だ」

 

そう、彼が彼女達に売り込んだのは磁力によって負荷を変えられるバーベルやその他器具用の重りであった。

 

重りの代わりに巨大な電磁石を付けるだけなので、既存の器具もそのまま使用が可能である。一応、床に鉄板のような磁力に反応する床材を打ち付けておかないといけないが、それは些細な問題だ。

 

それにしても、たづなの言う通り良く思い付いたものである。磁力などに詳しいのだろうか。

 

「理事長、もしこれがあれば保管してる重りで床が抜けかける事が完全に無くなりますよ……!」

 

「うむっ! 私もそう思っていた! だが、いきなり全ての器具を入れ替えるのは些か早計! まずは一台だけ注文する事にする」

 

ウマ娘のトレーニングに使用する重量という物は、人のそれとは比べ物にならない。故に、しっかりとそれを満たせる程の重りを用意しておかねばならないのだが、この学園ほどの規模になると必然的に数も必要となる。

 

そうなると、その合計重量は恐ろしいものとなるだろう。器具の保管庫が悲鳴を上げるのも理解出来る。

 

そして、それを解決出来る方法が目の前にあるのだ。使わない手はない。

 

「おい、早まらねえとか言っておきながら早まってんじゃねえか! まだ話は終わってねえ、コイツにはデメリットが何個かある」

 

お客に親切なこの男は、言わなくても良い問題点まで喋ってくれるようだ。やはり、根がちょっぴり優しいこの者はセールスには向いていない。

 

「まず、消費電力がそこそこある。まあ、当然だな」

 

「了承っ! その点に関しては問題は無い!」

 

「次は、コイツのグレードがCってのが問題だ」

 

初めて聞くグレードという言葉に、彼女達は首を傾げる。彼もその様子を見て、自身の説明不足に気付いたようで、すぐさま補足を入れる。

 

「グレードって言うのは……まあ、俺の所の製品の性能……ではねえな。頑丈さとでも思っといてくれ」

 

「それがCだと何か問題があるんですか?」

 

「あのマシンクラッシャーに触られただけで壊れる」

 

「ああ、そういう事ですか……」

 

恐らく、全員の脳裏に一人のウマ娘の姿が浮かぶ事だろう。約一名、作ったマシンを何度も機能停止に追いやられた、あの時の事を思い返している。

 

「まあいい、最後だが……これが一番不味い点だな」

 

悔しそうな表情と共に吐き出される溜め息。彼のそんな様子に、どんな恐ろしいデメリットが潜んでいるのか想像し、思わず彼女達は身構える。

 

そして、彼は非常に残念そうに言葉を吐いた。

 

 

 

「使ってるシャフトが既製品のせいで、最大荷重が約400kgまでだ……!」

 

 

 

 

彼の発言に理事長は思わず気の抜けた声を出し、たづなはキョトンとした表情を浮かべた。

 

「疑問っ! 一体それの何が問題なのだ?」

 

「どう考えても問題だろうが。合計荷重1トンまで出せるようにしたんだ! それがボロっちいシャフトのせいで出せねえなんて……!」

 

「きょ、驚愕っ!? 1トンなど、逆にどこで使うのだ! トレーニングにおいては無用の長物ではないか!」

 

「大は小を兼ねるって良く言うじゃねえか。それと同じだ」

 

「それにしては、大の部分が大き過ぎる気がするんですが……」

 

結局、彼の言う問題点はどれも致命的な物では無かった。まあ、彼にとっては大問題な部分もあるのだが、それは彼女達には関係のない話だ。

 

結論として、使用するメリットが大きい事から、無事に試用が決定したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり、ハイゼンベルクは理事長達に見せていた例のブツを学園へと持ち込む。勿論、床に設置するための鉄板も一緒である。

 

だが、肝心の設置場所であるトレーニングルームには一人の先客が居た。

 

「あ、こんにちは!」

 

「ん? ああ、どうも」

 

そのウマ娘から投げ掛けられた挨拶を彼は軽く手を上げ、適当な返事をする。

 

ぶっきらぼうと思われても仕方がない言い方だが、彼は知らない顔に対してはいつもこうである。

 

「その大きなハンマー……もしかして、ハイゼンベルクさんですか?」

 

「ああそうだ、何か用か?」

 

「やっぱり! 私、メジロライアンです! 一度お礼を言いたかったんです!」

 

「お礼……?」

 

彼と彼女は初対面である。お礼を言われるような事をした覚えなど一切無い。思わず彼は首を傾げた。

 

「はい! ここの器具の重りの数を増やしてくれたのって貴方ですよね! 私、それのお陰で良い筋トレが出来て、レースで結果が残せたんです! 本当にありがとうございます!」

 

笑顔でこちらに頭を下げるメジロライアン。しかし、彼の表情は納得したようなものでは無く、逆に更なる疑問が浮かび上がったようなものであった。

 

「あー……確かに重りを納品してた時もあったが、かなり前の話だ。多分、テメエが礼を言う相手は俺じゃねえ、別の奴だ」

 

「えっ……!? も、もしかして、また早とちりしてました? あわわっ……! は、恥ずかしい……」

 

メジロライアンは自らの勘違いに思わず赤面する。だが、彼が慰めの言葉を投げ掛けるはずも無く、彼女の様子に目もくれずに自身の仕事に取り掛かっていた。

 

彼は元々設置されていたバーベルとその台座を、何の苦もなく端に寄せると、空いたスペースに大きな鉄板を敷く。

 

そして、ドリルで下穴を開けた後に鉄槌でアンカーを打ち込む。瞬く間に鉄板は床へ固定された。

 

「噂通り、凄いマッスルですね! その鉄槌を軽々持ち上げちゃうなんて……!」

 

「ああ、コイツか? まあ、少し重い程度だ」

 

「え? 前に一度持ち上げた事があるんですけど、結構重かった記憶が……一体何kgあるんですか?」

 

「……知らねえな」

 

何故か、彼の怪力は噂になっているようだ。愛用している鉄槌よりも、先程退けたバーベルの重さである200kgの方が断然重い筈なのだが……

 

そんな事を考えながらも、先程退けた一式を鉄板の上へと戻した。

 

「おい、テメエは力自慢ってやつだろ?」

 

「どちらかと言えばそうです!」

 

「丁度いい、テメエにおあつらえ向きの新作がある。試してみねえか?」

 

「し、新作!? わ、私が試して良いんですか? もしかしたら、壊しちゃうかも……!」

 

「安心しろ、テメエじゃ壊せねえ」

 

彼はバーベルから円形の重りを外し、代わりに箱型の装置を取り付けた。

 

ただの金属の箱にしか見えないそれを取り付けたバーベルは、彼女へと手渡される。意外にもその箱は軽く、そこそこの期待を寄せていた彼女を拍子抜けさせた。

 

だが、彼が箱についているボタンを弄った途端、その重さは一気に跳ね上がる。慌てて力を入れるが、その時には重さは元に戻っていた。

 

「どうだ、面白えだろ? 磁力で負荷を変えられるブツだ!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

彼女はすぐに改造バーベルを台に置き、箱についたボタンを押す。直感的に分かりやすい操作盤であるためか、特に迷う事なくその負荷を200kgに設定出来た。

 

そして、本当の200kgと殆ど同じ負荷が筋肉に掛かることを感じたのか、彼女は使用しながらも感心の声を漏らす。

 

「す、凄い! 重りを交換する手間も無くて良いですね! どこまで重く出来るんですか?」

 

どんどん重さを上げていく彼女に、彼は非常に残念そうに呟いた。

 

「一応400kgまでだ……本当は1000kgまで出るんだが、軸の耐久性の問題で使えねえ」

 

「せ、1000kg!? それって良くある1トンってやつですよね!? 何でそこまで出せるようになってるんですか!」

 

「それにはクソッタレな理由がある……」

 

彼は床に鉄槌を置き、ベンチに座る。そして、僅かに顔をしかめるとゆっくり話し始める。

 

「テメエは知らなくて当然だが、とあるゴリラが俺は大っ嫌いでな。そいつに負けねえようなブツを作ると、どうしてもそうなっちまう」

 

「ゴリラ……?」

 

「比喩みてえなもんだ。だが、あの野郎の家系図には絶対ゴリラがいる筈だ!」

 

彼は複雑そうな表情を浮かべ、頭を抱える。その様子はまるで、授業で何もかもを理解出来ない時のものと同一だった。

 

「あのゴリラ野郎は一応人間。だから、テメエらウマ娘よりも力は劣る……筈なんだ! だが、あの野郎は200kgもある鉄の塊を殴って1m以上ぶっ飛ばしやがったんだ!」

 

「に、200kgを殴って吹き飛ばす!?」

 

メジロライアンの脳裏には、いつも使ってるバーベルが浮かぶ。確かに持ち上げるのは簡単に出来るが、殴って1m以上飛ばすとなると……

 

彼女にそのイメージは一切湧くことは無かった。ただ、彼の言うゴリラ呼ばわりされている男が、人外に片足を突っ込んでいる事だけは嫌でも理解出来た。

 

「おまけに、爆発物でも無い限り取れなくした筈の装甲を、あの野郎は素手で無理矢理剥がしやがった……!」

 

「えっ……? 爆発物? 装甲?」

 

「クソ、思い出しただけでムカつくぜ……! やっぱりアイツは人間じゃねえ! 筋肉とゴリラで出来たBOWだ!」

 

段々と物騒な方向に進んでいく話を飲み込めなくなった彼女は、途中で理解するのを諦めた。

 

だが、彼女はこの話の理解出来た部分だけでも前向きに捉え、自身のモチベーションに繋げた。

 

「つまり、人間でも鍛えればウマ娘を超える力を出せる様になる! という事は、私も頑張って鍛え続ければ……!」

 

そんな恐ろしい彼女の呟きは、幸運な事に彼の耳に入る事は無かった。

 

結局、彼はもう少しだけ愚痴を漏らした後、例のブツの試運転に何も問題が無い事を確認して帰って行った。

 

そんな中、彼女はまだ見ぬ先を目指し、一人限界まで追い込んでいたそうだ。

 

もし、ウマ娘である彼女があのゴリラと同等の領域に達したら、一体どうなるのだろうか。

 

あまり、想像したく無いものだ。

 

 




ハイゼンベルクのメモ

グレードS:シュツルム
グレードA:パンツァー、超強化製品
グレードB:ジェット、
グレードC:ツヴァイ、強化製品
グレードD:アイン、一般製品
グレードE:その他ガラクタ

ジェットは壊されたが、パンツァーは動きが悪くなるが無事だった。
恐らく、グレードB以下はあのマシンクラッシャーに触れただけで壊されちまう。
製品の方もツヴァイやアインの強度をベースに作ったはずなんだが……クソッ!

追記
Code.VはSかAだが、FはB以下になりそうだ……
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