悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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ほのぼの回です


お出かけ

 

ハイゼンベルクの工場は今日も稼働中。白い一筋の線を空に描き、色々な金属製品を作っている。

 

だが、その工場の長はその活動を停止していた。

 

理由は単純、作業机のすぐ横に居る一人の存在が、彼を大いに妨害しているからだ。

 

「ねえねえ、トレーナー! お出かけ行こうよー!」

 

「何でだよ、いつものお友達と一緒に行けば良いじゃねえか」

 

「あのね、スペちゃんもセイちゃんも言ってたんだけど、トレーナーとお出かけすると楽しいんだってさ! だから、わたしもやってみたい!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら、そう主張するハルウララ。その目は、期待に溢れキラキラと輝いている。

 

「面倒だ」

 

「ええっー! じゃあ……どうしたら行ってくれるの?」

 

先程とは一転して、その表情は悲しみに染まる。しかし、彼女はまだ諦めていない。尻尾がその落胆を大いに示す中、彼女はお出かけの条件を尋ねた。

 

「……何か賭けでもしてテメエが勝ったら行ってやる」

 

「ほんとっ!? ほんとに行ってくれるの!」

 

「ああ、行ってやるよ。もう一度言うが、テメエが勝ったらの話だ」

 

彼女は彼にゲームを挑むため、工場の中に何か良い物が無いか探索する。

 

そして、彼がいつもお気に入りの作品を置いている棚で、彼女は見覚えのある物を発見する。

 

「あっ! これだっ!」

 

彼女が手に取ったそれは、彼の工場のロゴが描かれた鉄のコイン。そう、彼が彼女と再契約を交わした時に使用された物だ。

 

今回の賭けに最適だと思ったのか、彼女はそれを大事に握り締め、得意げに彼へと見せつけた。

 

「ふっふっふ! コイントスで勝負だ! トレーナーが好きな方選んで良いよ!」

 

彼女は見様見真似でコインを弾く準備をする。表が上になったそれを見て、彼は呆れたように笑った。

 

「ヘッ……じゃあ裏にする」

 

「よーしっ! いっくぞー!」

 

彼女はコインを思い切り弾く。力み過ぎたのか、コインは天井にぶつかって鈍い音を立てると、勢いそのままに彼女の元へ落ちてくる。

 

かつて彼がやったように、カッコよく掴み取ろうとするが、見事に失敗。コインは硬い床にその身を激しくぶつける。

 

その後、二、三度跳ねて勢いを殺すと、金属音と共にその結果を露わにした。

 

「やったーっ!! 表だ! じゃあ、今から行こうよトレーナー!」

 

「仕方ねえ、準備するから外で待っとけ」

 

「分かった! 出来るだけ早く来てね!」

 

彼女は喜びでうらうらと言葉を漏らしながら、工場の外へと出て行った。早く追わねば色々と言われる事間違い無しだろう。

 

「……ちゃんと隠しておかねえとな」

 

彼は床に転がったコインを拾い上げる。そして、こなれた手つきでそれを何度か弾くが、結果は全て表。

 

なんとも不思議な結果を見て彼は鼻で笑うと、彼女に二度と触られないようにそれを棚の一番上へと置いた。

 

ひっくり返されて置かれたそのコインには、表と変わらぬ模様が描かれていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の賑わう街へと約束通り訪れた二人。方や普段と変わらぬテンションでその足を進め、方や自身よりも小さな影に引っ張られる形で連れ回されている。

 

「うっらら〜、お出かけだー!」

 

元気なそのピンク色の影は、迷う事なく街の中を進んでいく。明確な行き先があると思われるこの行動とは裏腹に、これから何をするか一切考えていなかった。

 

所謂、ノープランというやつである。

 

「あ、見てよトレーナー! パフェだって!」

 

そんな彼女が指差した先にあったのは、とあるカフェ。店の外に出されている看板に、大きなパフェが描かれていた。

 

彼の返事を待たず、彼女はその店へと突き進む。幸運にも席は空いており、特に待つ事は無かった。

 

初めから特大パフェを頼むつもりだった彼女だが、卓上に置かれたメニューを見てその意思は揺らいでいるようだ。

 

「えっ! アイスでできたケーキもあるの!? うーん、どうしよう……?」

 

彼もメニューを一通り眺める。だが、彼の求めるような物は無く、ただただ甘ったるい食べ物ばかりであった。

 

その中には、カップル用の飲み物のような一際甘い物もあったが、彼らには似合わないだろう。

 

歳の差カップルというには余りにも厳しく、どちらかと言えば親子、かなり酷い表現をするなら子供を誑かす不審者にしか見えない。

 

「俺はコーヒーだけで良い」

 

結局、彼が頼んだのは何の変哲もないコーヒーだけだった。

 

「よし、こっちにしよう!」

 

なお、彼女が最終的に頼んだ物は、初めから気になっていたパフェであった。

 

注文した物が来るまでの間、彼女はこの後どうするかを彼へと尋ねる。

 

「ねえねえ! この後どこ行く?」

 

「知るか、勝手に決めろ」

 

「じゃあ、わたし水族館行きたい! おっきいお魚さん見たいんだ! あれ、トレーナーどうしたの?」

 

「あ、いや……何でもねえ」

 

大きな魚と聞いて何を想像したのだろうか。彼の表情が少し歪んでいるのを見て、彼女は不思議そうに首を傾げていた。

 

しかし、パフェよりも先に届いたコーヒーを飲んで、一息ついた彼はその表情をいつものものへと戻す。

 

「まあ良い、じゃあその魚とやらを拝みに行くか。道分かんのか?」

 

「うんっ! 前に一回行った事あるから、道案内は任せてよ! えーっと、確かあのコンビニを右に曲がって……あれ? 左だっけ?」

 

「……大丈夫な気がしねえ」

 

彼女の発言に、彼は呆れたような表情を浮かべる。なんというか、道を間違える気しかしない。

 

だが、当の本人はそんな朧げな記憶しか無いにも関わらず、何故か自信満々な様子である。

 

「あっ!! パフェが……ええっ!? 見てよトレーナー! このパフェすっごくおっきいよ!」

 

想像以上の大きさに、目を見開いて驚く彼女。だが、沢山食べれるという事実に気付き、可愛らしい笑顔を浮かべて大いに喜んだ。

 

明らかに先程話していた道の事など、頭から吹き飛んでいるだろう。薄々察してしまった彼は、ため息混じりに携帯で道を検索していたのだった。

 

 

 

 

 

特に時間もかかる事なく、ハルウララはペロリとそのパフェを平らげる。満足そうな様子の彼女へ、ハイゼンベルクは驚愕の表情を向けていた。

 

「胃袋どうなってやがる……! ブラックホールでも飼ってんのか……?」

 

どうやら彼は、彼女の胃の大きさ的に明らかに入らないと思っていたらしい。だが、彼女もれっきとしたウマ娘。本気になればこの程度の量など余裕だろう。

 

だが、どこぞの"怪物"に比べれば彼女の食事量など可愛いものだという事を、彼はまだ知らない。

 

そんなこんなで、ちょっとした休憩を取った二人は水族館へとその足を向ける。

 

道中、彼女の危なげな案内で何度か明後日の方向へ連れて行かれそうになるが、どこかのお節介焼きのお陰で大事には至らず、無事に目的地まで到着する事ができた。

 

すんなりとチケットを購入し、ゲートから入場すると、彼女の目が壁に貼られたとある紙に釘付けになった。

 

「ねえ、早く行こうよトレーナー! もうすぐ魚の餌やりあるんだって! 一緒に見ようよ!」

 

「あっ、おい! 分かったから引っ張んじゃねえ!」

 

彼のコートの裾を掴み、彼女がグングンと奥へと進んでいく。小柄な彼女とは違い、体躯の大きい彼は人混みに何度か阻まれるも、何とか転ばずにその背中について行った。

 

辿り着いた先は円柱状の大型水槽の前。酸素ボンベ、ウェットスーツ、足ヒレやゴーグルなどの潜水特化の装備をした者が既にその中で泳いでいる。

 

「わわっ! すっごい沢山お魚さんがいるよ! まるでお団子みたい!」

 

元気に飛び跳ねる彼女の視線の先には、撒かれた餌に群がる小魚達が大きな球を成していた。

 

だが、彼の見ている所は彼女とは違うようだ。

 

「何やってんだよ、あの野郎……」

 

どうやら、彼は潜水中の者に見覚えがあるらしい。

 

水の中にいるその者は、頭の耳とウェットスーツから飛び出ている尻尾からして、ウマ娘である事は間違いない。水流で揺れるその長髪は不思議な美しさを生み出している。

 

何故か分からないが、耳当てと帽子がとても似合いそうだ。

 

「えへへっ! こんにちはー!」

 

水中で絶賛餌やり中の彼女は、小さなピンクの呼び掛けに対して、ゆっくりと手を振る。反応してくれた事に嬉しく思った彼女は、両手で大きく手を振り返した。

 

「うわわっ! お魚さんがこっち来た!」

 

ファンサービスと言わんばかりに、その従業員は彼女の目の前に餌を放った。未だに空腹の魚達がそれ目掛けて群を成し、瞬く間に彼女の視界は沢山の魚に覆われた。

 

「すごいね! わたしこんなの初めて見た! トレーナーは見た事ある?」

 

「まあ、似たようなもんだったらあるな」

 

「へえー、そうなんだ! 似たようなのって事はウサギさんとか?」

 

「あー……いや、近いのはオオカ……イヌだな」

 

彼の言葉を聞いた彼女は、ドッグフードが入った皿に群がる子犬を想像する。脳裏に浮かべたその可愛らしい姿に、彼女は思わず緩んだ表情を浮かべていた。

 

珍しいものを見た後、二人は全ての水槽を巡る。彼女らと同じく、ウマ娘とトレーナーの関係の者もそこそこいるようだ。その大半が横二列に並んで進む中、彼女らは縦二列になって進んでいた。

 

勿論、特に意味がある訳でもなく、彼が彼女に引っ張り回されているだけである。

 

そして、全て見終えた彼女は出口近くにある売店に赴き、友人達へのお土産を選んでいた。クッキーやチョコなど、ちょっとしたお菓子を買った後、彼女はその内の一つを彼へと差し出した。

 

「トレーナー! これ一緒に食べて帰ろうよ!」

 

「テメエが買ったもんだろ。自分で食えば良いじゃねえか」

 

「ええっ!? もしかして、お腹空いてないの? わたしはもうお腹ぺこぺこなのに! すごいねトレーナー!」

 

「アレをもう消化したのかよ……胃液の主成分、絶対に塩酸じゃ無えだろ……」

 

結局、しつこく差し出され続けたからか、帰り道の途中で彼は何枚かそのクッキーを摘んだ。

 

目的を達成した彼女は口癖をうらうらと溢しながら、満開の笑顔を浮かべてスキップ混じりに歩いている。河川敷沿いの道を行く彼女の可憐さを、背景の草木や川がより一層引き立てる。

 

もしここに記者が居たならば、このシャッターチャンスを逃す筈も無いだろう。

 

「ヘッ、相変わらず呑気な奴だ」

 

彼はそんな可愛らしい彼女を見て、鼻で笑った。

 

小バカにしたようなその仕草は、一体誰に向けられているのだろうか。少なくとも、その行き先は彼女では無いことは確かだ。

 

「うっらら〜!」

 

いつの間にか彼女の動きはスキップではなく、ダンスのステップに切り替わる。どうやら、道そのものをステージ代わりにしているようだ。

 

だが、お土産を持っていたからか、彼女は河川敷の下り坂の方へバランスを崩す。

 

「うわわっ!?」

 

慌てた表情で咄嗟に右足を前に出すが、肝心の地面はもっと下。踏ん張れるための足場など、そこには無い。

 

空気を踏み抜いてそのまま坂を転げ落ちる未来が見えたのか、彼女は思わず目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

だが、彼女の右足はある筈のない足場をしっかりと踏んだ。

 

 

 

 

 

 

「えっ……あれ?」

 

"何か"を蹴るように踏んだ彼女は、無事に道へとその両足を戻す。困惑した表情で転けた場所を見つめるが、そこには後ろの川が映るだけで何も無い。

 

「あれ? なんでなんで!?」

 

踏んだ感触を確かめるかのように自信の靴の裏を見る。普段使いのそれには立派なU字の"蹄鉄"があるだけだ。

 

まるで魔法のような体験に、彼女は驚いた表情のまま彼へとその事を伝える。

 

「と、トレーナー! あのね! わたし今、空気を踏んだ!」

 

「何をバカな事言ってやがる。さっさと帰るぞ」

 

「あっ、待ってよトレーナー! 今の嘘じゃないよ! ほんとだよ!」

 

呆れた表情を浮かべ、彼女の言葉を妄言だとぶった切ると、早足で先に行ってしまう。

 

その後を、彼女は急いで追いかける。その足で体験した、未だに納得のいかない現象に首を傾げながら。

 

背後から近づく足音を聞きながら、彼は大きな溜息を吐く。

 

いつも通り眉間に皺を寄せながらも吐いたそれは、何かに安堵する。不思議とそんな風に感じさせるものであった。

 

 




ハイゼンベルクのヒミツ
実は、ウマ娘の名前はハルウララとゴールドシップ以外覚えていない。
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