悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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シュツルム最速伝説の爆誕


皇帝

 

「良し……これで完成だ!」

 

ハイゼンベルクの工場は今日は休みのようだ。普段、コンクリート製の煙突から立ち上っている煙はその姿を消し、その代わりに彼の咥える葉っぱの煙突から紫煙が上っていた。

 

「耐久度は……ゴミ以下か。使い捨てにしちゃあコストが高えな……やっぱ常用は無理か」

 

そう呟く彼の目の前に立っているのは、一際目立つプロペラとエンジンを持つシュツルムだ。ただ、そのフォルムはいつもとは少し違う。

 

全身の大部分を占めるターボプロップエンジン。その排気口に何本かのパイプが外付けされている。見たところ、その殆どはシュツルムの側面へと回っているようだ。

 

無理矢理付けた感が否めないその不自然な見た目に、彼は少し不満げな表情を浮かべながらも、その手に持ったスパナを仕舞う。

 

「モローよりかは……マシか」

 

彼曰く、深海魚よりかはカッコいいと思えるデザインらしい。

 

なお、同じ化物部門に属するシュツルムにとっては見た目などどうでも良いようで、嬉しそうにブンブンとプロペラを回していた。

 

きっと、壁を粉砕しつつ走れれば何も文句は無いのだろう。

 

いつもより静かなエンジン音が響く中、インターホンが工場への来客を告げる。葉巻をふかしつつ確認したモニターには、いつものピンク色と彼のよく知る一人のウマ娘が立っていた。

 

「鍵持ってんだろ? 勝手に入ってこい」

 

入り口まで行くのが面倒な彼はハルウララにそう告げる。だが、肝心の彼女はちょっと気まずそうな笑顔を浮かべて、こう言った。

 

『えーとね……寮に忘れてきちゃったんだ。えへへ……』

 

「改良しとくか……」

 

工場の中から遠隔で開けられるようにしようと心に決めながら、彼は葉巻を灰皿に放り込んで入り口まで赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金網の門を開け放ち、外へと続く砂利道に立っていたのは一人の凛々しい影。それは、この場にはとても似合うとは言えない者であった。

 

「よう、まさかここでテメエの真面目面を拝めるなんてな」

 

彼のニヒルな笑みが向いた先にいたのは、なんとあの生徒会長であるシンボリルドルフであった。しかし、彼の皮肉混じりの言葉は異質な空気を纏うこの場所に驚く彼女の耳には入っていない。

 

「驚いた……まさか、こんな所に工場があったなんて……」

 

「すごいよね! わたしも初めて見た時、とってもびっくりしたよ!」

 

実は、彼の工場は非常に巧妙な隠蔽が成されている。入り口は太く高い木々で目立たない事に加え、繁華街からは離れている故にビルから見渡した程度ではただの林にしか見えない。

 

極め付けに、この工場の本体は地下にある。地上に出ている部分はそこまで大きくない事から、一瞬で工場だと判別するのは難しいだろう。

 

「そんなに驚くもんか? 普通だろ」

 

「いや、なんというか……私はこの辺りの地理は良く理解していると自負していた。しかし、こんな場所があるとは全く知らなかった。本当に驚かされたよ」

 

「そうか……まあ良い、とりあえずついて来い。テメエのお望みのヤツがお待ちだぜ?」

 

シンボリルドルフは彼の後をついて行きながらも、興味深く周囲を見渡す。

 

怪しい工場、錆びた車や巨大なボルトなどのスクラップが成す山々、この敷地を囲む有刺鉄線付きのフェンス。彼の城を中心としたこの場所だけ、雰囲気が完全に日本ではなく海外だ。

 

そして、最終的に彼女の目を完全に釘付けにしたのは、地面に突き刺さった鉄槌の隣に立つ、機械仕掛けの異形だった。

 

「ほらよ、テメエが会いたがってたテストプレイヤーだ! 名前はもう知ってるだろ?」

 

「こ、これがシュツルムなのか……? 何というか、その……独特な見た目なのだな」

 

クルクルと回るそのアイデンティティを見て、彼女は何とも言えない表情を浮かべる。だが、そこに恐怖の色は一切無い。

 

「何だ、驚かねえのか。テメエがビビり散らす様が見れると期待していたんだがな」

 

「勿論、驚かされたよ。ただ、以前君が解体のために連れてきた者や光る棒のような物を振り回していた者のように、この者もロボットなのだろう?」

 

「あ? ロボット……? まあ……そうだな。一応、ロボットみてえなもんだ……」

 

彼女の言葉を聞いた途端、彼は少し唖然としたような表情を浮かべた。曖昧さの残る返答に、彼女は思わず首を傾げる。

 

何か変な部分でもあったのだろうか。

 

「あれ? 何かいつものシューちゃんと違うね! 変な筒がいっぱい付いてる!」

 

そんな中、ハルウララは友人の変化を敏感に察知する。普段とは異なるフォルムに違和感を覚えているのか、後付けされたパイプをペタペタと触っていた。

 

「まあな、どっかの生徒会長とやらがそこのポンコツマシンとお手合わせしたいらしい。だから、少しだけ弄ったが……試運転してねえからどうなるか分からねえな」

 

「ふふっ、機械のテストをするテストプレイヤーなのに、自身のテストはしないのだな」

 

「ヘッ、何言ってんだ。だからこれからテストするんじゃねえか! テメエでな!」

 

勝手に会長をテストプレイヤーに仕立てた彼は不敵に笑うと、今回走る者達をスタート地点まで誘導する。

 

「おい、テメエはダメだ」

 

「ええっ!? なんでなんで!? わたしもレースしたい!」

 

「悪いが、文句ならあそこにいる生徒会長とやらに言ってくれ。一対一が良いって言ったのはアイツだからな」

 

実は、この勝負はシンボリルドルフが希望したものである。

 

あのランキング付きのトレーニングマシンで圧倒的なスコアを叩き出していたテストプレイヤーと実際に会って戦える。そんな、面白そうな機会など滅多に無いだろう。

 

彼女も凛としているが、れっきとしたウマ娘。胸の内には速さへの渇望が炎となって燃えている。より速い者がいるのなら、どんな者だろうと競わずにはいられない。

 

そんな欲望の結果が今の状況である。

 

「じゃあじゃあ、次走る時は良いよね!」

 

「ああ、構わないよ。これが終わったら皆で走ろう」

 

「うんっ! 分かった!」

 

ハルウララは二人の競争を眺めるべく、梯子を使って工場の屋根へと登る。全貌が見えるそこは、このレース会場においての特等席だ。

 

「そんじゃ、さっさと始めようぜ?」

 

「ああ、望む所だ……ん? それは一体……?」

 

「コイツか? スタートの合図代わりみてえなもんだ。こういう時ぐらいしか景気良くぶっ放せないんでな!」

 

シンボリルドルフの視線は彼の手に握られた黒いリボルバーに注がれる。まるで、見せつけるかのようにその大口径の代物をクルクルとスピンさせた後、彼はその銃口を真っ直ぐ天へと向けた。

 

「さあ、始めるぜ? 準備は良いか?」

 

そんな彼の言葉に、彼女は大きく息を吐くとゆっくりと目を見開いた。

 

そこに普段の彼女などいない。

 

今ここに立っているのは、数々の戦いで勝利をその手中に収めてきた"皇帝"だ。

 

横の高鳴るエンジン音に負けない威圧感を放ちながら、皇帝はその時を待つ。

 

 

 

 

 

 

そして、一発の合図が放たれた瞬間、二人は同時に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「速い……!」

 

スタートのタイミングは完全に同じ。しかし、隣のシュツルムはニトロ燃料の力を借り、爆発的加速で皇帝の前を取る。

 

だが、ここで焦る彼女では無い。

 

彼の今のスピードは一般的なG1レースのウマ娘と同程度。加速面においては彼女の知る強者達を凌駕しているが、最高速度はそこまででも無い。

 

今の所は、だが。

 

「……速度が乗ってねえ。多少は出力下がるとは予想はしてたが、ここまで下がっちまうか……」

 

「どっちもがんばれー!」

 

方や応援、方や溜息。正反対の声援が彼女達に送られる中、シュツルムが依然としてトップを取ったまま舞台はカーブへと移行する。

 

シンボリルドルフの前にいるその異形は、重そうな体を傾け、凄まじい異音を立ててカーブを曲がる。

 

今、彼の体では後方へ放つ筈のジェットをパイプを用いて横方向へと強引に変換している所だろう。故に、誰がどう見ても無理矢理曲がっている感は否めない。

 

しかし、そんな方法を用いてもその速度は先程と変わらない。

 

二足歩行でこの速度を出せる機械など一度も見た事など無かった彼女は、このふざけた代物を作り上げたハイゼンベルクに対して賞賛の念を抱かずにはいられなかった。

 

だが、このロボットの凄さが分かったとはいえ、負けるつもりは毛頭ない。

 

今まで残しておいた足。カーブの終わり際にそれら全てを地を蹴る力として注ぎ込む。

 

段々とシュツルムとの距離が縮まっていく。

 

「マジか……化けもんレベルに速えな」

 

カーブが終わるその時、彼女は外からシュツルムを完全に差した。その威厳に溢れる走りは、あらゆるものを寄せ付けない。

 

これこそ、彼女が数々の戦場を駆け抜けた皇帝の走り。

 

それに続く事など、普通の者に出来るはずがない。

 

彼女に追いつこうとエンジンの音が咆哮のように高鳴るが、彼のスピードが上がる事はなく、その距離は開いていくばかりだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シューちゃん! がんばれー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった一言、それ以外には何もない。ただその一言が響き渡った瞬間、皇帝の背後で突如として異常な音が鳴り始める。

 

まるで、何かが外れて吹き飛ぶかのような音。だが、何が起こっているのか確認する暇など無い。今ここにある5バ身以上の差をより広げる事に彼女は注力していた。

 

「っ……!?」

 

強大な嵐の種が鉄の地面を打ち砕いてその芽を出す。今まではお遊び、そう言われてもおかしくない程の爆音が彼女の鼓膜を激しく揺らし、その背中を形容し難い圧が襲う。

 

本来なら皇帝の足について行く事など普通の者なら不可能。

 

だが、今この瞬間にその皇帝に刃を突き立てようとしているのは、そこらの平凡なウマ娘では無い。

 

炎と嵐を纏う魔物だ。

 

「ハッハッハッハ! やっぱり、テメエは俺と同じだな! 枷があるとどうしてもぶっ壊さずにはいられねえ! 曲がった道に矯正されるより、そこを真っ直ぐぶち抜いたほうが面白えからな!」

 

ハイゼンベルクが外付けしたパイプ達を、シュツルムはその高すぎる出力で片っ端から吹き飛ばす。そして、炎で真っ赤な軌跡を描きながら、皇帝へと肉迫する。

 

彼女もさぞ驚いた事だろう。

 

あの機械仕掛けの咆哮から数秒足らずで、あの開いていた差が埋められたのだ。

 

今やその火の熱と悪魔のような圧は彼女のすぐ横にある。

 

「あわわっ!? また燃えちゃってるよ!?」

 

「だったらこれでも構えとけ」

 

「あっ、そっか! 消してあげれば良いんだもんね!」

 

ハルウララがホースを構えてゴール地点に立つと、皇帝の真横の魔物はその化け物じみた咆哮を更なる高みへと持っていく。

 

その速度はもはや彼女の限界値を優に超えている。

 

「これが……君の本来の速さか……!?」

 

皇帝とはまた違ったその走り。燃え盛る軌跡を残すその道は、続く者達を文字通り焼き尽くす悪魔の道であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴール地点のスクラップの山を一つ崩して停止したシュツルムに、ハルウララは急いで消化活動を行っていた。

 

「と、トレーナー! 水がジュージュー言って蒸発してっちゃうよ!」

 

「だったら言わなくなるまで水掛けとけ」

 

次々と水蒸気となって消えていく水に、慌てた様子を見せる彼女。そんな様子を横目に、シンボリルドルフは滝のような汗をかいて、息を整えていた。

 

短距離にも関わらず、その疲労度は長距離を走った時と大差ない。アレに追われるという状況は、とんでもない程に体力を奪われるようだ。

 

歴戦のウマ娘達を凝縮してもなお、放つ事は出来ないであろうあの威圧感。思い出すだけでも心臓の鼓動が少し早まってしまうだろう。

 

「まさか、ここまで完敗するとは思っていなかったよ」

 

「いや、こっちも色々弄くり回してやっとこの結果だ。悪いが、俺も勝ったとは言えねえな」

 

「……つまり?」

 

「次は小細工無しって事だ。勿論、テメエに不利じゃねえ場所でな」

 

「ふふっ、そういえば君は工場長兼トレーナーだったね。脚質についての知識はしっかりと入っているようだ」

 

「あー……いや、テメエの分しか調べてねえ」

 

気の抜けるような彼の返事に、思わず笑いが漏れる。なんというか、この男はトレーナーをしているのか、してないのか、よく分からない。

 

そんな二人の思考を遮るように、一人の元気な声が響く。

 

「あっ!? 動いちゃダメだよシューちゃん!? まだ燃えてるよ!」

 

「あ、おい! それ以上引っ張ると……」

 

動き回るシュツルムを追いかけるハルウララは、ホースの限界の長さなど気にも留めずに思い切り引っ張った。

 

当然、根本が見事に外れ、晴れにも関わらず空からは雨が降る。

 

慌てふためいてその雨を止めに行くハルウララ。そんな様子を見て、シンボリルドルフはボソリと呟いた。

 

「Horseがホースを持ってるな」

 

「ヘッ、おまけに放水してるぜ?」

 

「ふふっ、そうだな」

 

この後、何度か全員でレースをしたが、カーブ用の制御装置を粉砕したシュツルムが再び勝利を収める事は一度も無かった。だが、彼にしか出せない直線のイカれたスピードは、生徒会長の記憶に色濃く残ったようだ。

 

そして後日、学園では面白い噂が囁かれ始めた。

 

 

 

 

 

あの"皇帝"と互角と言われる謎の存在。

 

 

 

 

 

"鋼鉄の嵐"と呼ばれる走者の噂が……

 

 

 

 

 

 




鋼鉄の嵐
学園で囁かれる噂で出てくる名前。
嵐を起こす事が出来る、炎を吹ける、生徒会長に勝ったなど、根も葉もない噂が立っている。
一応、存在している事だけは確からしい。

ちなみに、噂の発端は生徒会室だ。
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