悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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お化けの友達

 

今日は生憎の雨。しかも土砂降り。葉巻の火が付きにくく、ご機嫌斜めの工場長。そして、何食わぬ顔でパイプ椅子に座ってにんじんジュースを飲んでいるハルウララ。

 

きっかけは数分前に遡る。ここ最近、いつもこの工場に遊びに来ているハルウララ。その理由は、彼の持っているあのふざけたボールにあった。

毎回毎回、あの異次元軌道を描くボールを捕まえられずにいた彼女は今日もまた、彼の言うゲームにチャレンジしに来た。そして、いつも通り繰り返される逃げと追い。そんな中、予報にはなかった雨が突然降り始めた。

 

雷を伴うそれは、瞬く間に大地を泥沼へと変える。そして、珍しく何回も使用された機械仕掛けのボールは防水性能が劣化して、火花と共にその命を散らしてしまったのだ。そこを見事に捕まえた彼女はゲームに勝った褒美としてにんじんジュースを貰ったというわけである。

 

なお、この雨の中わざわざジュースを買いに行くのが面倒だった彼は、ネットで適当にレシピを検索して工場にある材料で作ったそうだ。

 

「ほらよ、さっさと体と頭を拭け」

 

「ありがとー! トレーナー!」

 

「礼なんて要らねえ、工場を濡らされんのが嫌なだけだ」

 

相変わらず冷たい態度を取る彼だったが、渡されたタオルはふわふわでとても暖かかった。

拭き終わった彼女はにんじんジュースを美味しそうに飲む。彼女の横に置かれたミキサーの中にはまだまだ沢山のにんじんジュースが。

 

「美味しいなー! うっらら〜!」

 

彼曰く、作る量を間違えたそうだ。そして、彼自身が飲むのはコーヒーか紅茶。自ずと全てのジュースがハルウララ行きとなった。

 

「ねえねえ、トレーナー! テレビとかってないの?」

 

「ある事にはあるが、壊れちまってる」

 

彼は何かの作業をしながら、ぶっきらぼうにそう答える。

 

「そっか! じゃあトレーナーは今何してるの?」

 

「壊れちまったブツを直してる」

 

彼は葉巻を咥えながら、作業机に向かっている。その上には先程彼女が捕まえたボールが分解されて置かれていた。もちろん、彼女が見ても何がどうなっているのか全く分からなかったのは言うまでもない。

 

「トレーナーは飲み物飲まないの?」

 

彼女の視線はすぐ横の小さいテーブルに移る。彼女の好物がたっぷり詰まったミキサーの横に置かれたマグカップ。もう湯気も出ておらず、とっくに冷めてしまっているだろう。

 

「悪いが、そっちにコイツは無いんでな」

 

彼は背を向けながら天井を指さす。そこにはでっかい換気扇らしき物が。天井の他の部分と比べて、何故か換気扇だけピカピカだった。

 

しばらくお互い無言が続く。激しく降る雨の音だけが響く中、彼が一つの疑問を問いかける。

 

「そういや、あのお偉いさんからメールが来てた。模擬レースがあったんだってな?」

 

「うんっ! そうだよー!」

 

「何着だった?」

 

「6着!」

 

「何人出てた?」

 

「6人!」

 

「ビリじゃねえか」

 

彼は元気にビリを言い張る彼女に思わず笑いが込み上げる。だが、彼女からは背中しか見えないので分からないだろう。

 

「でもね、次は1位を取るんだ! わたし負けないぞー!」

 

「ほう、どうしてだ?」

 

「だってレースってすっごく面白いんだよ! それで、一位を取れたらもっっっと面白くなると思うんだっ!」

 

彼女のメンタルの化け物具合に笑みを浮かべながらも、彼は作業を終える。葉巻の火を消して作業机に放ると、新しく進化したボールを彼女に見せつける。

 

「よし! これで次からは浸水でショートなんてつまらねえ死に方はしねえ! おまけに速度も判断能力も上がった! テメエからも完璧に逃げ切れるボールの出来上がりって訳だ!」

 

「ええっ!? でも負けないぞ! わたしの方がもっと早くなれば捕まえられるもんね!」

 

「悪いが、試すのはまた今度だ。外があれじゃあな」

 

工場の巨大の扉の隙間からでも分かるほど、地面は池と化していた。今外に出れば、水上に浮かぶ家のような気分を味わえるだろう。

 

「ええー! わたしは平気だよ?」

 

「悪いが、俺は平気じゃねえ。泥まみれの足でほっつき回られても迷惑だ」

 

彼の言葉に仕方なく、にんじんジュースを啜る。その美味しさのせいか、無意識に尻尾の振りが大きくなる。結局、ただそれだけで彼女の中にあった不満の種は外へと抜け落ちた。

 

空になってしまったので、おかわりをしようとミキサーに手をかけた時、謎の轟音が工場内に響き渡った。

ブオンブオンと何故か鳴り響く音に驚いた彼女は、尻尾が完全にピンッと伸び切ってしまう。

 

「ああ、クソッ! またか!」

 

彼はハルウララに少し待ってろと伝えると、工場の奥の方へ姿を消す。おかわりしたジュースを飲んで待っていると、彼の叫び声があの音の代わりに響き渡った。

 

「おい! うるせえぞ! 静かにしてろ!」

 

そして、バンッと何かを思い切り閉めるような音が響くと、先ほどまで鳴っていた低い音は見事に止んだ。

 

「あー……悪かったな」

 

帰ってきた彼は珍しく悪びれた様子で彼女にそう言った。

 

「トレーナー! さっきのは何かの鳴き声?」

 

「まあ……そんなとこだ」

 

「じゃあトレーナーって動物飼ってるんだね! わたしも見ていい?」

 

「え? あー……そんな生易しいモンじゃねえ。どっちかと言えばバケモンに近え、だから……」

 

「えっ!? お化けがいるの!? 見たい見たい! わたしね、お化けと友達になってみたかったんだ!」

 

「は? おい、マジかよ……!」

 

かつての敵の口癖が移ってしまうほどに彼は大きく動揺する。そして、その隙を突くかのように再度鳴り響く轟音。そして、ハルウララはお化けに会いたいが為、勝手に音のする方向へ突き進んでいってしまった。

 

ウマ娘の発達した聴覚で、迷わず真っ直ぐに音源まで向かっていくハルウララ。そして、たどり着いた先には沢山写真が貼られたボードと音の発生源である戸付きの穴があった。

ボードの方は赤ペンでバツがいっぱい書かれていたが、彼女にその意味は分からない。そのため、彼女の興味は自動的に穴の方に向いた。

 

「ここかな?」

 

彼女は戸を解放すると、その中に向かって話しかける。

 

「お化けさーん! そこにいるのー?」

 

先程まで無規則的に鳴っていた轟音は止み、代わりにブオンッと一回だけ音が返ってきた。

 

「わあ! お化けって本当にいたんだ!」

 

その声に反応するように今度は三回の返事が響く。

 

「ハァ……ったく、テメエの度胸はバケモン並か? ちったあ恐れってもんを知りやがれ……!」

 

「あ! トレーナー! お化けさんってここに居るんだよね? 会ってもいいかな?」

 

「これに関しては……完全に俺の負けだな。しょうがねえな、ビビって泣き喚くんじゃねえぞ?」

 

ハイゼンベルクはハルウララを抱き抱えると、そのまま穴に飛び降りた。無事にすんなりと着地した彼は彼女を下ろす。そして、彼女の目の前に現れたのは、見た事もない異形の姿だった。

 

けたたましい音と共に回るプロペラ。それの動力であるエンジン。そしてそれを支える二本の足。文字通り、プロペラ機のエンジンと人間を合体させたかのような化け物が彼女の前に現れたのだ。

 

ハルウララは尻尾も耳も完全に伸び切って、驚愕の表情を浮かべている。その様子に、ハイゼンベルクはいかにも極悪そうな笑みを浮かべるが、次の彼女のセリフでその表情は吹き飛んだ。

 

「すごいっ! プロペラのお化けなんだね! わたし、ハルウララって言うんだ! お友達になろうよ!」

 

その言葉に、彼の笑みもプロペラも止まった。思わず、お化けと彼は目を見合わせる。お化けに目は見当たらないが、何故かそう思わせるような仕草だった。

その結果、二人から溢れ出てきたのは盛大な笑いとエンジンの轟音だった。

 

「ダーハハハハハ! おいマジか、普通コイツを見て友達になるなんて言えねえぜ? 頭のネジ一本どころじゃねえ、もはや全部外れてぶっ飛んでやがる!」

 

彼の笑いと比例するかのようにプロペラは凄まじい勢いで回転する。それはまるで、お化けも一緒に笑っているようだった。

 

「バカも極まれば恐れ知らずってか? 悪くねえ、大したもんだ、ハルウララ! お前の度胸だけは気に入ったぜ!」

 

「ほんとっ!? やったやったー!」

 

「良いもんを見せてくれた礼に教えてやる。コイツは"シュツルム"! テメエの大好きなお化けだ! 精々仲良くするこった」

 

「しゅつるむ? じゃあ、お菓子みたいな名前だからシューちゃんって呼ぶねっ!」

 

シュツルムはエンジンを最大限に吹かし、彼女との出会いに盛大な祝砲と言わんばかりに轟音を上げたのだった。

 

「テメエの物騒なプロペラ、今度交換しねえといけねえな。もうチェーンソーの三枚刃は必要無え」

 

彼はそれをシュツルムに伝えると、ハルウララを担ぎあげる。

 

「うわっ! トレーナー? なんで担ぐの?」

 

「テメエが勝手にあっちこっち行かねえようにするためだよ!」

 

口調は悪いがいつもよりテンションの高い彼に連れられて、彼女は工場の迷路のような道を通って、少し開けた場所へ出る。

再び、彼女の表情が驚きのそれへと変わる。それもそうだろう、あんなちっぽけだと思っていた工場が実は地下に続きがあり、その広さが学園の校舎に匹敵する物だったのだ。

 

「ねえねえ! トレーナー! あれって何? なんかいっぱいぶら下がってるよ! なんだかお祭りの射的みたい!」

 

「アレか? ただの鉄屑だけどな」

 

巨大な吊り下げ式の輸送機には、沢山のスクラップがぶら下がっている。学園で見るようなバーベルやランニングマシンもその中に入っているようだった。

 

「さて、工場見学はもう終わりだ。さっさと帰るぞ」

 

彼はそれだけ言うと、巨大な業務用のエレベーターに乗る。そして、壁のボタンを押してから彼女を肩から下ろした。彼女が地面に降り立った時には、既にエレベーターの金網の扉は完全に閉まっており、彼女の勝手な行動を封じ込めていた。

 

エレベーターが上がっていくにつれて遠ざかっていく地下施設を名残惜しそうに見ながら、彼女達は無事地上へと戻ったのだった。

 

「わあっ! 見てみてトレーナー! 虹だよ!」

 

外を見ると、先程までの土砂降りは嘘だったかのように消え、代わりに外は見事な晴れ模様と大きな虹が掛かっていたのだった。

 

「もう夕方だ、さっさと帰りな。また降られねえうちにな」

 

しかし、彼は空を見ることなく彼女にそう告げる。彼女が携帯で時間を確認すると、確かにそろそろ戻った方が良い時間帯だった。

 

「分かった! じゃあまた来るねー!」

 

彼女は虹を見ながら、先程の雨のように去っていった。その後ろ姿を横目に、作業机に向かう。

 

「さて、丁度いいモンがあれば良いけどな」

 

置きっぱなしだった葉巻を咥え、プロペラと思われる設計図を広げる。そして、今度は換気扇など付けずに意気揚々と作業に没頭するのだった。

 




シュタールフィアーツ
ハイゼンベルクの工場の名前。ドイツ語で"鋼のウマ"を意味している。不思議な事に工場のロゴにウマ要素と言えるものは蹄鉄しかないため、どこか違和感を感じる名前である。
恐らく、根本的な何かがズレているのだろう。

なお、彼が訳すと"鋼の馬"となる。
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