悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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観察

 

太陽が完全に隠されて暖かな日差しが雲に奪われたある日。一人のウマ娘がコソコソと遠くからとある者へと目を光らせていた。

 

「みてみてキングちゃん! 今日の授業で作った人形だよ! キングちゃんにあげる!」

 

「あら、良いの? ありがとうウララさん。ふふっ、よく出来てるじゃない! 流石ね!」

 

「えへへっ!」

 

キングヘイローの手がハルウララの頭を優しく撫でる。そんな彼女の行動に満開の笑みを返す桜の花。優しさ溢れるそのやり取りを見て、かの者は悶絶した。

 

「しゅ……しゅばらしすぎる!!! くうううぅぅぅ! 目を向けていたい! でも、これ以上の尊みは私の体が……!!」

 

尊みという刃を食らい、比喩ではなく実際に血を流しているのはハルウララと同様のピンク色の毛並みを持つアグネスデジタル。さっきからずっと見ているようで、その足元には血溜まりが出来ている。

 

学園では意外とよくある事らしいが、何も知らぬ者が見たら、腰を抜かしそうな程である。

 

「ですが……!!! この命に代えても……見届けなければなりません!!!」

 

よく分からない使命感に背中を押され、彼女は再び視線を二人へと戻す。だが、不運?にもその命が散ることは無かった。

 

「道のど真ん中で喋ってんじゃねえ、搬入の邪魔だ」

 

二人の間にそこそこ大きな器具を運ぶ男が小言を並べながら割り込んだ。それ故に、これから先に続いたであろう数々の言葉は、今この瞬間を持って消え去る事となる。

 

「あら、悪かったわね」

 

「あ、ねえねえこれ見て! シューちゃんも作ったんだ! どうかな?」

 

ハルウララもキングヘイローも嫌な顔を一つもせずに道を開ける。男が通り過ぎる際、小さな桜色の影が何故か彼にもう一つの人形を見せつけた。

 

「……そんな丸っこかったか?」

 

彼女が掲げたのは、扇風機に足が付いたかのような人形。パッと見では可愛く見えるが、その男は難癖だけを吐き散らす。

 

「まあ、本人にでも見せれば良いんじゃねえか? そうすりゃ、ちゃんと出来てるか分かんだろ」

 

「そっか! じゃあ見せてくるね!!」

 

彼の言葉通り、元にした本人に見せに行ったのだろう。ハルウララは目をキラキラさせながら何処かへと駆けて行ってしまった。

 

「ねえ、本物があの見た目だったら良いと思わないかしら?」

 

「ふざけんな。あの見た目のどこに需要あんだよ」

 

悪態をつきながら男は器具の搬入を再開する。歩き去るその後ろ姿を横目に、キングヘイローもやるべき事の為にその場を後にしてしまった。

 

「な、な、な、なんて事を……!!!! 他のウマ娘ちゃんならまだしも、あんな悪人顔にあの尊みが崩されてしまうなんて……!」

 

誰も居なくなった廊下を見て、アグネスデジタルは悔しそうに膝をつく。尊み成分の中毒症状とはまた別の意味で吐血しているように見えるがきっと気のせいだ。

 

だが、起こってしまった事は仕方が無い。気を取り直し、再び尊みを求めて徘徊を始める彼女であった。

 

 

 

 

 

だが、不幸というものは意外と重なる物のようだ。

 

 

 

 

 

 

「おい、そこ退け。今から使う」

 

場所はトレーニングルーム。とある二人が使っているランニングマシンを目の前に、彼はそう言い放った。

 

「ウララのトレーナーさん!? ちょっと待って下さい! コイツと決着付けるんです!」

 

「そうだぜオッサン! オレもコイツと白黒付けなきゃいけねえんだ!」

 

「そんなの俺の知ったこっちゃねえ」

 

「「あっ!?」」

 

器具を絶賛使用中なのは、ダイワスカーレットとウオッカ。どうやら何かで争っている様子。だが、無慈悲にも両方の電源は引っこ抜かれた。

 

ゆっくりと止まるマシンに二人は不満げな声を上げる。

 

「オッサン! なんで止めちまうんだよ! あのままだったらオレの勝ちだったのによ!」

 

「ちょっと! 勝手に嘘つかないでよね! あのままだったら勝ってたのはアタシよ!」

 

「いや、オレだっ!」

 

「アタシっ!」

 

「うるせえ!!」

 

イラついた声と同時に、両方の顔面へと叩きつけられる一枚の紙。汗で額に張り付いてしまったその紙をそれぞれが確認すると、そこにはトレーニング器具の整備作業の日付と時間が記されていた。

 

そして、指された時間帯が今この瞬間である事は言うまでも無い。

 

「俺がまだ手を付けてねえブツで遊ぶのは構わねえ。だが、その時が来たらちゃんと退きやがれ!」

 

ぐうの音も出ない言葉に彼女達は黙るしかない。

 

気まずくなった空気など露知らず、彼はさっきまで使われていたランニングマシンへと手をつけ始めた。

 

「仕方ないわ。この勝負の決着は次にしといてあげる」

 

「こっちのセリフだ!」

 

頭を冷やしにでも行ったのだろうか、ダイワスカーレットは男へと一言謝ると、そのままトレーニングルームを後にする。

 

だが、ウオッカの方は男に用があるようで未だこの部屋に残っていた。

 

「なあオッサン」

 

「なんだ?」

 

「またあのイカしたバーベルみたいなカッコいいヤツ作ってくれよ! やっぱそういうのでトレーニングした方がやる気出るし!」

 

「あー……気が向いたらな」

 

彼の作る物はウオッカに刺さる所があるのだろう。彼女はその要望だけ伝えると、休憩すべく部屋から出て行った。

 

そして、空っぽになった部屋に響くカチャカチャとした作業音を聞き、隠れて見ていたある者が一人悲しげに慟哭した。

 

「なあああぁぁぁ!!! 整備の時間帯なのはしょうがないにしても……どうして……どうしてウマ娘ちゃん達をわざわざ分断するんですかあああぁぁぁ!!!」

 

最後の最後で阻まれた尊み。本来なら実際に観れたであろう光景をその脳裏に浮かべつつ、アグネスデジタルは血の涙を流す。

 

何故なのかは不明だが、あの悪人面が割り込むと不思議と推しカプが離れてしまう。永遠に離れる訳では無いにしろ、見れたものが見れなくなってしまうのは彼女にとってかなりストレスなのだろう。

 

「あの者を何とかしなくては!!」

 

訳の分からない正義感に背中を押され、彼女は彼の妨害を阻止するべく、敵の観察を開始した。

 

 

 

 

 

 

何をするにもまずは情報が第一。だが、都合よくあの男の話をしている者などいる訳がない。少し困り顔を浮かべる彼女へ一つの助け舟が出た。

 

「やあ、こんな所で何をしてるんだい?」

 

「た、た、た、タキオンさん!?」

 

「おや、あそこに居るのは工場長じゃないか。君がウマ娘以外を追い掛けるなんて、珍しい事もあるものだね。それともアレかい? ウマ娘の観察はもう飽きてしまったというやつかい?」

 

「い、いや、違うんですタキオンさん! 私がウマ娘ちゃんに愛想を尽かすとか、そういう訳ではな、な、な、無くてですね!」

 

今にも茹で上がりそうな真っ赤な顔を携えて、彼女はテンパりながらも自らの頭の中に浮かぶ考えを伝える。

 

一通り伝え終わった後、アグネスタキオンはその目をマッドサイエンティストらしく、興味に染めた。

 

「私で良ければ教えてあげようじゃないかデジタルくん」

 

「え? いや、そんな、自分には畏れ多いと言いますか……」

 

「おや、残念だ。私は君に嫌われてしまったらしい」

 

「あぁ……! シュンとするタキオンさんもかわっ……ああいや嫌うなんて事はこれっぽっちも無くてですね! あの、その、えーっと、是非とも教えて下さいいいぃぃぃ!」

 

一瞬見せた科学者の残念そうな表情に、彼女の心臓は一瞬停止した。そして、すぐさま復活を果たした彼女は顔から湯気を出しながらアグネスタキオンに教えを乞うのであった。

 

「そうだね……まず名前からかな。彼の名はハイゼンベルク。とある工場の長をしている」

 

その薄ら笑いと狂気の目は真っ直ぐと工場長へ向けられる。

 

「学園には主にトレーニング器具を入れてるみたいだね。そのせいか、よく整備しに来ているよ。ただ、結構便利屋の色が強くてね。かく言う私も、ある測定器を特注で作ってもらった。中々良い出来だったよ。まあ、見た目が残念だけれどね」

 

視線に気づくハイゼンベルク。嫌悪溢れる表情を浮かべると、視線を少し泳がせる。

 

すると突然、彼女達の覗いていた入り口のドアが音を立てて閉まった。おまけに鍵まで掛かっている。

 

「見てくれたまえデジタルくん! やはり彼は面白い! 彼に睨まれるだけでこんなにも磁場が乱れる! 一体何を持っているのか気にならないかい?」

 

「ひゃあああぁぁぁ……! 科学者としての表情もしゅばらしすぎる……! 普通のウマ娘ちゃんには出来ないそのオンリーワン! それをこんな至近距離で眺められるなんて……」

 

「ふむ、これではちゃんと聞いているのか分からないな」

 

惚けたその顔に近づけられる科学者の瞳。なんだか、立ったまま気絶していそうである。というか気絶していた。

 

その後、アグネスタキオンが目の前で手を振ろうとも、体を揺すろうとも彼女の意識が戻る事はなかった。

 

結局、彼女の意識が現実世界に戻ってきたのは工場長が整備作業を終えて調子の悪い器具を運び出した後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失神から回復したアグネスデジタル。ウマ娘ちゃん達の間に割り込む不届き者の情報は手に入れたが、肝心の本人を完全に見失ってしまう。再び探そうとするが、目の前に映った良すぎる光景に心を奪われて、その目的は脳内から消え去った。

 

「ひゃあああぁぁぁ……! ライスさんとウララさん! 歳の差を感じさせない友人関係! ああ……笑顔が! 笑顔が眩しすぎるうううぅぅぅ!」

 

彼女の視線の先には、ハルウララとライスシャワーが並んで談笑する姿。確かに、あの男の事など忘れてしまうのも仕方がないと言えるだろう。

 

二人の楽しそうな姿を惚けた顔で観察するアグネスデジタル。だが、二人の歩みを追っていくと、何故か校舎の裏側に辿り着く。そして、彼女達の進む先に居たのは、色々な器具をブルーシートの上に広げて器具を修理するハイゼンベルクであった。

 

「ああっ……!! ま、また尊きお二人が分かたれてしまう!! かくなる上は……!」

 

もう、行き先を塞いで彼による分断を防ぐしかないと思い、オールラウンダーたるその足に力を込めようとした時、耳に届いたうららかな声がその動きを止めた。

 

「あっ! トレーナー! 何してるの?」

 

「何もしてねえ」

 

「へっ!? と、と、と、トレーナー!?」

 

突然の重要情報に脳内CPUは完全停止。その耳に聞こえるのは近所の草野球の音と、進んでいくやり取りだけ。だが、脳が理解を要するまで、彼女はただただポカンと口を開けることしか出来なかった。

 

「トレーナー! これあげる! さっき見せたシューちゃんのやつと一緒に作ったんだ!」

 

ハイゼンベルクへと差し出されたのは一体の人形。帽子にサングラス、白みがかった髪、くたびれたコート。

 

そう、それは彼自身を模した人形であった。

 

「あー……俺はこんなアホ面じゃねえ気がするんだが?」

 

嬉しいのか嬉しくないのか、微妙な表情を浮かべるハイゼンベルク。確かに、本物にあるはずの厳つさが綺麗さっぱり消えている。

 

なんというか、いつもの不機嫌混じりな声ではなく、朗らかで優しいおじさんの声でいつも通りの凶悪な装置を作ってそうである。

 

「そのお人形さんとおじさま……ら、ライスはとってもそっくりだと思うよ!」

 

「……」

 

ライスシャワーの援護射撃が見事に彼へぶっ刺さる。

 

「そっくりだよね! わたし、これ作る時にたづなさんとか、せいとかいちょーとか、みんなにそっくりだって言われたから、絶対そっくりだよ!」

 

無意識に追い打ちをかけるハルウララ。なお、当の本人は特大のため息を吐いて、人形からは目を逸らしていた。

 

そして、黙って作業に戻るハイゼンベルク。ブルーシートの上に置かれた人形を拾い、似ている点を話し合うハルウララとライスシャワー。

 

やっと、正気に戻るアグネスデジタル。

 

「はっ!? 驚きすぎて正気を失ってました……ううむ、ウララさんにトレーナーが付いたことは知ってましたが、まさか……見るからに危険そうなお人とは……」

 

"危険そう"

 

今しがた自分が発した言葉を彼女は咀嚼する。彼が本当にその言葉に当てはまるのか。残念ながら、第一印象は最悪。だが、振り返って考えてみれば、彼と接した者達のほとんどは不快な顔を浮かべていなかった。そして何より、彼の担当バであるハルウララはわざわざプレゼントを贈るほど親愛している。

 

そうして、脳内検索で出てきたのはこの答え。

 

『もしかして、"良い人"?』

 

ほぼ結果は決まったようなものだが、もう一つ強力な証拠として、あのライスシャワーが自ら話しかけるぐらいの存在という事が挙げられる。

 

そうなれば、疑う余地はあんまり無い。

 

「あ、あ、あ、危ない所でした……もう少し早とちりしていればとんでもない無礼を……いや、切腹コース不可避でしたぞ……!」

 

熱くなりすぎた故の行動だと自己分析した彼女は、一旦離れて頭を冷やそうと踵を返す。

 

しかし、その視界の端にキラリと何かが映りこむ。

 

「あれは……野球ボール? はっ!? あの軌道は!!!?」

 

見事な放物線を描くそれの着弾地点は、先程の尊き二人がいる所。推しの為なら頭脳も覚醒する彼女は一瞬でそれを認識すると、何の躊躇いも無く駆け出した。

 

だが、離れようとしていたのが凶と出る。

 

(間に合わない……!)

 

 

 

 

 

 

「痛っ……」

 

 

 

 

 

速度の乗ったそのボールの行き先は、誰かさんの被った帽子であった。

 

「あれ? トレーナー! いきなり立ち上がってどうしたの?」

 

「……ずっと座ってると腰がやられんだよ」

 

後頭部をさすりながら、落ちた帽子を拾う工場長。

 

「そうなの!? じゃあ後で肩たたきしてあげよっか?」

 

「要らねえよ。そもそも、テメエらのパワーでやられたら肩が消し飛ぶだろうが」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「仕事の邪魔だ。さっさとどっか行ってろ」

 

「はーいっ! ライスちゃん行こう!」

 

彼のぶっきらぼうな言葉を聞いた彼女は、来た道を戻って校舎へと戻っていく。咄嗟に隠れたアグネスデジタルは彼女達にバレずに済んだようで、内心ホッとしながらも再び彼へと視線を向ける。

 

「……へッ」

 

彼は地面に落ちた野球ボールを蹴っ飛ばし、側に置かれた人形を手に取ると、その間抜けな顔を鼻で笑い飛ばして小さく呟いた。

 

「机の上しかねえか」

 

そして、彼は自身の人形を真っ先に車へと積みに行ったのだった。

 

今の流れを見ていたアグネスデジタルは、口を押さえて声無き声を上げていた。

 

「えっ!? えっ? えっ!! まさかのツンデレ属性!? 眩し過ぎるウララさんの好意を適当にあしらってるのかと思いきや、裏では当然かのように受け取っていらっしゃる! しかも、さっきわざと立ちあがって誰にも気付かれないように庇って、しかもバレないように誤魔化して、最後は乱雑を装って安全な場所へ追いやりましたよこの人!?」

 

そうして、彼女は確信した。"この人、見た目が怖いだけの良い人だ"と、第一印象がマイナスに振り切れるレベルで悪いだけなのだと。

 

「ああああっ! ま、まずいです! あろう事かウララさんのトレーナーで尚且つあんなに根は優しい人に、私はなんか色々と良からぬ企みを……!!! 間違いなく不敬罪ですよ!!!」

 

何故か今すぐ謝罪するべきと、彼女の感性は訴えたらしい。だが、顔を上げた時には敷かれていたブルーシートは消え去り、完全にもぬけの殻となっていた。長い思考時間は彼らが帰るのに十分すぎたようだ。

 

そうして、空っぽの空間に何とも言えない小さな叫び声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

後日、ハイゼンベルクに向かって土下座し、無礼を詫びるアグネスデジタルが発見されたそうだが、当の彼は何のことか分からず困惑していたそうだ。

 

一度も話した事の無い相手に謝罪されるなど、おかしな事もあるものだ。

 

 

 




ハイゼンベルク人形
文字通りハイゼンベルクを模した人形。本人から厳つさを取って丸さを足したような見た目をしている。

なんだか、人形劇で使われていそう。そんな気がする。

シュツルム人形
ウララのお化け友達であるシュツルムを模した人形。ウララマジックによって凶悪な部分が完全に丸くなり、ある意味見る影も無い。

ちゃんと可愛い。
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