悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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ウマ王再び

 

穏やかな風の吹くある日の昼下がり、エルコンドルパサー、グラスワンダー、そしてハルウララの三人は理事長室へ呼び出されていた。

 

だが、そんな彼女達には理事長に直接呼び出される理由など思い当たらない。強いて言えば、この中の誰かが食堂で勢い余ってデスソースをばら撒いた事ぐらいだろう。しかし、もしそうなら呼ばれるのは一人のはずだ。

 

一体何を言われるのか見当もつかない故、自然と身構える二人に対し、うらうらと何も考えず楽しそうにしているハルウララはこれっぽっちの遠慮もなく、その理由を直接尋ねた。

 

「ねえねえ、りじちょー! なんでわたし呼ばれたんだっけ? この前のテストは赤点じゃなかったよ!」

 

「諸君ッ! 説明が遅れてすまない! 今回君達を呼んだのは他でもない、とある頼みがあるからだ!」

 

「頼み……ですか?」

 

理事長は開いた扇子を閉じると、一瞬それを口元に当てて思考を巡らせる。そして、言いたい内容を整理すると、再び扇子を思い切り開きながら話し始めた。

 

「傾聴ッ! 君達は一度、VRウマレーターでの事件を解決した実力者! それを見込んで今回もそれ絡みの事件を解決して貰いたい!」

 

「もしや、今回もゴルシ先輩では?」

 

「正解ッ!」

 

「成程……! つまり、最強パーティーのエル達にまた暴れてる魔王を倒してこいって事デスね!」

 

意気揚々と返事をするエルコンドルパサー。だが、返事を受け取った理事長は少し浮かない表情を浮かべて、今の状況を語る。

 

「無論ッ! そういう事になる! と言いたい所だが……何やら状況が違うらしい。把握している情報では、彼女は朝にVR装置を使い始めたそうだ。だが、今になっても戻ってこないどころか、内部に直接メッセージを送っても返事が一切無い!」

 

どうやら、幻想の世界へ黄金船は出港した後、全く音沙汰が無いらしい。おまけに、何をしているか分かる様に監視のシステムがあるはずだが、作動していないのかずっと真っ暗闇を映し続けているそうだ。

 

「要約ッ! 恐らく、中で何かがあったか、彼女自身が出てくるのを拒否している! それ故、今回は彼女を連れ戻すのを頼みたい!」

 

理事長直々の依頼に真剣な顔持ちで頷く三人。それを見た彼女は心からの礼を言うと、再び勇者となる者達をVRウマレーターの元へと連れて行ったのだった。

 

なお、この事を後から知ったたづなにこっぴどく叱られるのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時計は昼を過ぎ、おやつでも摘みたくなってくる時間帯。そんな中、緑の制服が焦った様にとある人物を探していた。メカ関係に精通していて、尚且つ急な事態でもなんだかんだ対応してくれるあの者を。

 

数十分間探し回り、彼女はようやくその目立つ怪しい背中を発見した。

 

「ハイゼンさん! すみません、今お時間大丈夫ですか?」

 

「問題ねえ、何の用だ?」

 

「あのー……VRウマレーターって覚えてますか?」

 

「VR……? ああ、あのふざけたヤツか」

 

「はい、そうです」

 

ハイゼンベルクの脳裏に浮かぶあの幻想世界。色々あって、二度とやるものかと決めこんだその名前は、彼の気分を少し乱し、ため息を吐かせた。

 

「それで? そのガラクタがどうかしたか?」

 

「少し言いづらいですが、またトラブルが起きまして……プレイした者が音沙汰無しでこちらに戻って来ないんです……それで、ハイゼンさんにお力添えをして頂けたらと思いまして」

 

「電源切っちまえ。それで終わりだ」

 

「それが、そう簡単にいかないみたいなんです」

 

たづなが言うには、何故か電源ボタンを押しても電気が切れないらしい。そして、コンセントを抜いても内部の緊急用バッテリーのお陰で丸一日電気はしっかりと供給されるようだ。

 

おまけに、そのバッテリーの製作及び取り付けをしたのはどこぞのイかれた工場長。性能に関しては言わずとも分かるだろう。

 

つまり、中にいる者はさっさとあの世界から出て来ない限り、水も食事も取れないまま丸一日を過ごす必要がある。死にはしないが、体に相応の負担が掛かることは間違い無い。

 

「それで、何かこちらから打てる手は無いでしょうか?」

 

「無えもんは無え」

 

「そうですか、そうなると心配ですね……ハルウララさん達に何事もなければ良いのですが」

 

「……っ!? おい、聞いてねえぞ? どうしてあの能天気も混じってやがる?」

 

「その文句は理事長へ言って下さい! 今回ばかりは一切止めませんので!」

 

彼はあのお化け屋敷を解体した事を後悔すると同時に、非常にイラついた様子で何かを葛藤する。まるで憤怒の様なそれを拳を握り込む力に変換しつつ、彼は自身の胸ポケットからとてもゆっくりと躊躇うかのように、一つのUSBメモリを取り出した。

 

「ああ、癪だ……本当に癪だ。今すぐにでもコイツをへし折りてえぐらいには癪だ!」

 

今にもどこかにロケットランチャーでもぶっ放しそうなオーラをばら撒く彼は、怒りを無理やり押し殺した様な表情を露わにする。

 

「おい、さっさとそのガラクタまで案内しろ」

 

「良いですけど、それは一体?」

 

「ただのデータだ。とある男一人分のな」

 

彼はその言葉の後に"DNA詐欺してるがな"と付け加えた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい! それでは、仮に元凶がウマ娘だったら対抗出来ないじゃないですか!」

 

彼は彼女の言葉を鼻で笑うと、様々な感情が入り混じった瞳を向け、大真面目にこう言った。

 

「チッ、ご忠告ありがとよ。代わりに一つだけいい事を教えてやる。どこの馬鹿野郎がしでかしてるのか知らねえが、イかれた野望をぶっ壊す事に関してはこの"脳みそ筋肉野郎"の右に出るヤツは居ねえ! もし居たらそいつに是非とも一言アドバイス願いてえな! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

珍しい事にたづなはその様子に気圧された。いや、今回に限っては誰であろうとその圧に怯む筈だ。何せ、彼の言い振りはまるで、自分自身もその者に苦汁を舐めさせられたかのように、様々な負の感情がこれでもかと込められており、今にも爆発寸前だったからに他ならない。

 

色々と相容れない何かがあったのだと察した彼女は、それ以降データの中身については尋ねない事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実世界と似て非なる幻想世界。物理現象などの大元は同じだが、その上に成り立つ構造が大きく違う。それ故に、普通ならばその世界に翻弄される筈だ。しかし、勇ましく降り立った救世主達にとってはそれは二度目。大きく揺さぶられることなどある訳がない。

 

 

 

 

 

はずだった……

 

 

 

 

 

「ど、どうしようっ!? わたし何したらいいかな!?」

 

「ウララちゃんは右を止めて下さい! 私は正面! エルは左をお願いします!」

 

「了解デス! こんな奴ら、エルにかかれば一瞬で終わりデース! グラス、それまで持ち堪えて下さい!」

 

慌てふためくハルウララ。動揺を最小限に抑え指示を出すグラスワンダー。友の言葉に冷静さを取り戻すエルコンドルパサー。

 

そして、彼女達の降り立った小さな村の前から濁流の如く押し寄せるのは、フィクションの世界ではその名が知れ渡っている、"生きる屍"の姿だった。

 

「くっ! どこからどう見てもゾンビとしか言いようがありませんね! これもまたあの人がやったとしか思えません」

 

「すごいよグラスちゃん! このゾンビさん達、ちょっと前にテレビで見た映画のやつとそっくりだよ!」

 

「映画? なるほど……そういう事ですか」

 

何となくこうなった発端を察しながら彼女は己のローブを翻し、前方へとその杖を掲げた。そして、村の人々をこの怪物から守るべく、彼女は躊躇なく特大の雷を命無き放浪者へと解き放つ。

 

「やはり、この数は……一筋縄ではいかないようです!」

 

前方の集団は文字通り黒焦げと化した。だが、二度目の死を迎えた者達を踏みにじり、二度目の生を得た者共が絶え間なく押し寄せる。

 

いくら魔法を使えても、あっさり倒せる数では無い。それ故に、治癒師の彼女からの援護は期待出来ないだろう。

 

「うわわっ! 入ってきちゃダメだよ!!」

 

当然、ハルウララも同様だ。桃色を基調とした軽鎧を纏い、民家に立て掛けてあった梯子を横にして十人以上の屍と押し合いをしている。他のプレイヤー達もそれに参加し、辛うじて防ぎ止めていると言った状況だ。

 

どうやら、背中に背負った巨大なハンマーは彼女にとっては飾りらしい。

 

「ぎゃああああああっ!」

 

残念ながら、襲撃は後方からもあったようだ。村の中から響き渡る叫び声。思わず後ろへ振り向いた彼女達が見たのは、見境無く噛み付かんとする、さっきまで人だったであろう者達の姿であった。

 

「ま、まずいデスよ! このままじゃ、エル達も囲まれちゃいます!」

 

格闘家の彼女が放つ鉄拳が、群がる腐れの一人へ炸裂する。人智を超えたその力は後方に続く四、五人を纏めて吹き飛ばす。だが、その様子を見る暇もなく次の者達が襲い掛かった。

 

村の中に回す手などありはしない。

 

猫の手も借りたい程に迫り来る化物。各々が苦い顔を浮かべる最中、飢えた犬のような唸り声に混じって聞こえてきたのは、幻想などではない確かな科学の叫び声であった。

 

「うわっ! なんかすっごいバンバンって音がするよ! なんだろう?」

 

「こんな音鳴らす人なんて一人しかいないデース!!」

 

幻想世界に科学を持ち込む不届き者と言えば、思わず浮かび上がるとある男の姿。暫くすれば、帽子、葉巻、鉄槌の不審者三点セットを装備した者がきっと出てくるに違いない。

 

 

 

だが、破裂音と共に民家の角から現れたのは、格闘家も治癒師は勿論、ハルウララでさえ全く知らぬ一人の男だった。

 

 

 

そんな彼の手に握られているのは、科学の結晶でもある小銃。そして、先程から鳴り響いていた刻むような破裂音の正体は、その科学の獣が牙を剥く音に他ならなかった。

 

少々汚れた黒いコートをたなびかせ、彼は村の中に蔓延る化物へその牙を次々と向けていく。

 

みるみるうちに減っていく頭数を見るに、後方は彼に任せて良さそうだ。

 

「エル、今の内に魔法で殲滅します! 援護を!」

 

「了解デス! グラスには指一本触れさせません!」

 

左側の対処を一区切り付けると、エルコンドルパサーは大きく跳躍してグラスワンダーの前に躍り出る。彼女の詠唱を止めんとする者共が群れを成して押し寄せるが、腰を落とした正拳や華麗なる回し蹴りの前に儚く散っていく。

 

そして僅かな間の後、赤く輝く杖の先は真っ直ぐと目の前の群勢に向けられた。

 

「燃え尽きなさい! "フレイム"!!」

 

薙ぎ払うように放たれたそれは、前方を扇状に焼き尽くす。やはり、こういった手合いには火葬が一番のようで、効果の薄かった雷とは違い、今度はしっかりと大半の敵を消し炭に出来た。

 

しかし、右翼側に位置する彼女の方にその浄化の炎は行き渡らなかったようだ。

 

「うわわっ!? ど、どうしよう!? みんなゾンビさんになっちゃった!!」

 

未だ勢力の衰えぬ右翼側。懸命に食い止めていたハルウララだったが、盾代わりにしていた梯子が見事に折れてしまい、彼らの侵入を許してしまう。協力して食い止めていたプレイヤー達は、瞬く間にその仲間入りを果たしていた。

 

背負っていた己の獲物を振り回し、なんとか自身から遠ざける事は出来ているが、それも時間の問題だろう。疲労は誰しも平等に襲いくるものだ。

 

そんな最中、彼女の元へ駆け付けたのは格闘家でも治癒師でもない。科学の武器を持つガタイの良い一人の男だった。

 

「伏せろ!」

 

その一声に彼女がしゃがんだのを確認するや否や、彼は引き金に掛かった人差し指を引き絞る。

 

大きな音と共に放たれる回転を帯びた鉄の塊は、少女を襲う怪物の頭へ否応無く降り注ぐ。先の尖ったそれは一人では飽き足らず、更に後ろの者にまで頭蓋骨への穴空け加工を施した。

 

「無事か?」

 

「うんっ! ありがとう、おじさん!」

 

「いや、礼を言うのはまだ早い」

 

男はそう言うなり、まるで彼女を隠すかのように残党の前に立ちはだかる。彼女の視界が大きな背中で埋め尽くされて慌てている合間に、彼の得物が近づけさせまいと火を噴いた。

 

しかし、その火は有限だったようだ。敵の群れの大半を地へと叩き落とすなり、彼の持つ小銃はガシャンと音を立てて止まってしまう。

 

新たな弾倉が装填されるよりも早く伸ばされる腐った手。銃を持つ太い腕は、なす術なくその手に捕らえられる。そして、美味しそうな獲物を前に凶悪な顎が近づいた。

 

「かんじゃダメっ!」

 

流石にゾンビ映画を観ただけあって、脳内花畑の彼女でもその先がどうなるのか分かっているようだ。良くない結末を止めるべく、焦った表情のままゾンビへと体当たりをかました。

 

体の小ささに対して大きすぎるその力をモロに食らった腐れ人は、壁で跳ね返るボールの如く地面を転がり、後ろに連なる幾人かを盛大に転けさせた。

 

「すまない、助かった! それにしても、凄い力だ……俺も見習わないとな」

 

彼女の勇気に感謝を述べ、彼は軽口と共に前を見据えた。目の前の脅威を退けてホッとしている少女の背後から伸びてきた冷たい手を払い退け、その顔面に体重を乗せた拳を思い切り叩き込む。

 

文字通り彼女の力技を見習ったかのように、吹き飛んでいく腐肉の塊。グシャリという鳴ってはいけない音と共に、人の形をしたその塊は五、六人を巻き込みながら地面と強すぎるハグを交わした。

 

その隙に再装填し終えた彼は素早く流れるような射撃を行い、残りの者共を掃討したのだった。

 

「ありがとう、おじさん! すごいかっこよかったよ!!」

 

「フッ、ありがとな。そっちこそ、勇敢で格好良かったぞ?」

 

「ほんとっ!? えへへ、嬉しいな!」

 

花咲く笑顔で礼を言ったハルウララ。男は彼女の真っ直ぐな言葉に微笑みを浮かべると、己の内を包み隠さずに感謝と称賛の言葉を返す。

 

その中に含まれた格好良いという褒め言葉は彼女にとってかなり嬉しかったのか、可愛らしい笑みと共に尻尾をブンブンと左右へ振っていた。

 

「ほら、仲間が呼んでるぞ? 戻ったらどうだ?」

 

「あっ、ほんとだ! じゃあ、わたし戻るね! ばいばーい!」

 

ぼんやりと嬉しさに浸っていた彼女は、駆け足で自らを呼ぶ友人の元へと戻って行く。うらうらと幸せなオーラを振り撒く彼女とは反対に、後ろに佇む男は地面に広がる犠牲者達に目を向けて悲しげな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひとまずは無事のようですね」

 

「うんっ! 大丈夫だよ!」

 

「意外と大したことない相手だったデース!」

 

一応、パーティーメンバーが誰一人欠けることなくこの危機を乗り切った三人。村の者達も殆どが生き残っており、それぞれが彼女達と同様に危機を乗り越えた事に安堵していた。

 

「この後はどうしましょうか?」

 

「そんなの決まってます! あのゴルシ先輩の元まで一直線デス!」

 

「わーいっ! あれ? でもゴルシちゃんってどこに居るんだろ? いる場所分かんないや!」

 

「おう! じゃあアタシが案内してやるよ!」

 

会話に割り込む幻の四人目の声。聞き覚えしかないその声の発信源は、エルコンドルパサーの真後ろだった。

 

「こ、この声は……!?」

 

案の定と言うべきか、彼女の背後からひょっこりと顔を覗かせて、全員を驚愕させたのは主犯格であるはずのゴールドシップ本人であった。

 

だが、何故か服装はウマ王のそれでは無く学校の制服のままである。

 

「遂に現れましたね! 今こそエルの格闘術で終わらせてあげます!」

 

「待て待て待て!? 今回のはアタシじゃねえ!!」

 

蹴りの構えを見るや否や、両手を前に出し弁明を始めるゴールドシップ。どうやら、訳ありのようだ。

 

「どういうことでしょうか? 私はてっきりゴルシ先輩がやったのかと思っていましたが……」

 

「あー……犯人はアタシじゃねえ。いやでも、アレもアタシにカウントされんのか? ちょっと訳わかんなくなってきたぞ!?」

 

「一体どういう事デース……?」

 

何やら、色々な定義に頭を悩ませているようだ。しばらくすると、彼女は考えるのが面倒になったのか分かっている事実だけを話し始めた。

 

「とりあえずだな、アタシはこの世界でゾンビ出して遊んでた! それで、オマエらがまた止めに来るかと思ってよ、挟み撃ち出来る様に分身したんだ!」

 

彼女の放った分身という一言に、耳を傾けていた者達の思考が一瞬停止する。しかし侮るなかれ、なんだかんだで彼女の突飛な行動に巻き込まれてきた者達なのだ。この程度であれば、一呼吸置くだけで理解可能である。

 

「そしたら、あのヤローこのゴルシ様を裏切りやがった! そんで、不意打ち食らってカッコいい衣装と色んな権限取られてお外にポイっとされちまった……お陰で今はただの一般ウマ娘だ……」

 

かつて幻想世界で大暴れした輩のどこが一般なのだろう。どこぞの工場長と同様に、彼女も一般という言葉が示す基準を間違えているのかもしれない。

 

「つまり、もう一人のゴルシ先輩……いえ、ここは便宜上、ウマ王としましょう。そのウマ王に全ての力を取られて追い出されたのが、今のゴルシ先輩という事ですね?」

 

「おう、そういう事!」

 

「なるほど! じゃあ、エル達がそのウマ王を倒せば万事解決という訳デスね!」

 

彼女の説明のお陰で為すべき事が明確になる。後は、その目的へ向けて突っ走るだけだ。

 

そんな、勢い付き始めた彼女達の前で黄金の不沈艦はとある物を取り出した。

 

「ほい、コレやるよ」

 

「わーいっ! ありがとうゴルシちゃん! これってなんだろう? いちごのジュースかな?」

 

フラスコを満たすように詰められた薄い赤色を帯びた怪しげな液体。ハルウララの言う通り、かき氷に使う苺味のシロップを薄めたような見た目だ。どうやら全員分あるようで、他のメンバーにも同様に手渡される。

 

「えーと、確か使ったやつの体を成長させるポーションだ! 一年後ぐらいにはなるんじゃね?」

 

「要は、肉体の時間を進めるという事ですね。切り札になれば良いですけど……」

 

「なんか滅茶苦茶怒ってたから多分大事なもんに違いねえ! いやー、闇堕ちしたとは言え流石もう一人のアタシ! セキュリティ面ガバガバだったぜ! 怪盗ゴルシーヌ5世を止めるんだったら工場長クラスのやつを用意するんだったな!」

 

「ぬ、抜け目無いデース……」

 

一応、ゴールドシップが手土産として持ってきた物は、ウマ王が鍵を掛けて保管するぐらいには貴重な代物のようだ。とりあえず持っておいて損は無いだろう。

 

「では行きましょう! 今回の発端を倒すために!」

 

とりあえず、一通りのやり取りを終えた彼女達は、いざ行かんと片足を一歩前へと踏み出した。先頭を行く黄金船の案内に視線が向く最中、四人の背中側からあまり聞き覚えの無い声が掛けられた。

 

「すまない、少し良いか?」

 

「あっ! おじさん!」

 

「げっ!? 嘘だろ……」

 

声の発信源に居たのは、先程の村で見かけた近代の兵器を持った黒いコートを纏った男だった。

 

その姿に一人は喜び、二人は不思議そうな表情を浮かべ、そして残った者は顔をこれでもかと青ざめさせた。

 

「先程少しだけ会話が聞こえたんだが、君達はこれを引き起こした者を知っているのか?」

 

「はい! エル達は今からその相手を懲らしめに行くんデース!」

 

「そうか! なら、俺も同行させてくれないか? 通りがかった身だが、この行為は許しておけなくてな」

 

「ブエノ! エルも同じく許しておけません! そうなれば、今からアナタもエル達の仲間デース!」

 

エルコンドルパサーの右手が男の前に差し出される。見ず知らずの己に全く抵抗感を抱いていないその様子に驚いたのか、一瞬表情も体も固まった彼。だが、一呼吸置いた後に力強くその右手を彼女と同様に差し出した。

 

「ああ、よろしく頼む!」

 

「えっ! おじさんも一緒に来るの? わーいっ! おじさんも仲間だ! うっらら〜!」

 

「……フッ、そうだな……仲間だ」

 

挨拶代わりの握手を見て喜ぶハルウララ。彼女へ優しい笑みを浮かべる男の裏側で、グラスワンダーは少し怪訝な表情を浮かべていた。

 

「確かに、衆寡敵せずとは言いますが……ウマ娘でない普通のお方を引き入れて大丈夫なのでしょうか?」

 

「多分大丈夫だぞ? ゴルシレーダーによるとアイツ強えから。何なら、アタシの体で証明済みだ!」

 

「……? 以前にも会った事があるんですか?」

 

「あるぞ! 一応、夢の中で……」

 

まるで会ったことがあるような言い振りに疑問符を浮かべる彼女に対し、ゴールドシップは是と断言した。

 

だが、それに続けて発せられた場所の情報を言う内に、説得力が皆無であると自身でも認識したようだ。そのせいもあって、言葉の尻尾は頭のようなハッキリとした喋り方では無く、お茶を濁すかのような弱々しいものであった。

 

そうして、微妙な裏付けのある新たな仲間を引き入れた彼女達。その中で、人見知りという言葉を忘れた桜色が、我先にと自己紹介をし始める。

 

「わたし、ハルウララ! よろしくね! おじさん!」

 

右手を上げて己の存在をアピールする彼女。その姿を皮切りに、他の者達も同様に続く。

 

「エルコンドルパサーです! 最強のエルと四人の力があれば勝利は確定デース!」

 

「私はグラスワンダーです。よろしくお願いします」

 

「ゴールドシップだ! なあなあ、アタシの顔に見覚えとかあったりしないよな? あ、いや……無いなら良いんだけどよ」

 

一人だけ不思議な発言をしているが、彼は平然とそれに"無いな"と返すと、どこかこの光景に眩く感じている様子と共に己の名を言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レッドフィールド……いや、クリス・レッドフィールドだ。よろしく頼む」

 

 

 

 

 





「あれ? おじさん、変な顔してどうしたの?」

「いや、何でもない。気にするな」

「本当に大丈夫ですか? もしもの時に心を乱していては大事になると良く言いますが……」

彼は少しの躊躇いの後、ポツリポツリと言葉を選ぶように語り始めた。

「……君達には全く関係ない話だが、ここに迷い込む少し前に、友人が遠い所に行ってしまってな。ただ、あまりスッキリとした別れじゃなかった」

「えっ!? もしかして、友達とケンカしちゃったの!?」

「いや……簡単に言えばそいつの為を思ってやった事があまり良くない結果になってしまった。だからこれは……俺が悪い事をしてしまっただけだ」

「……難しいですね。でも、クリスさんが善意を以って動いた事に変わりは無い筈です」

「グラスの言う通りデス! 一旦、腹を割ってお互いに話し合ってみればきっと解決します! エルも話し合わなかったらゴルシ先輩がこんな事になってるって気付けなかったデス!」

「そうだよっ! だから、その人に次会った時にちゃんと"ごめんなさいっ!"って謝れば絶対仲直りできるよ! だっておじさん、良い人だもん!」



「……っ! ああ……そうだな……!」

彼は深いため息と共に何かを見るようにその瞳を空へと向ける。

その声は、酷く悲しげに震えていた。
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