悪くねえ 大したもんだ ハルウララ   作:黒チョコボ

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工場見学 後編

スクラップの山々がそびえ立つ工場の敷地内で、ボールと全力の鬼ごっこをしているウマ娘の姿があった。

 

「ああ、もう! 何なのよこのボールは!? 常識破りにも程があるわ!」

 

キングヘイローは目の前にある機械仕掛けのボールに対して悪態をつく。ただの機械如きと侮った過去の自分を引っ叩いてやりたい程に、この高性能なボールは彼女の嫌な要素の詰め合わせであった。

 

全力で追えば途中で急な方向転換。かと言って、一定ペースで有利な場所まで追い込もうとしたら、気がついたら自分が砂場まで誘導されているこの始末。

極め付けは、彼女が休憩や思考を挟んだりする度に、煽るかのように目の前に現れて左右に揺れ始めるのだ。

 

この地味な精神攻撃はキングヘイローの冷静さをほんの僅かだが削り取っていた。

 

「ウララちゃん。あれってどんな動きするか知ってる?」

 

「うんっ! うおーって追いかけるとビューンッて行っちゃうの! でもね、えいっ!て捕まえようとしたらピョーンって逃げちゃうんだ!」

 

「あーこれはキングに同情するな……ははは」

 

「だからね、ボールさんに見つからないように行くのが一番良いと思うんだ!」

 

「見つかる? あのボールって目があるの?」

 

「うんっ! うさぎさんみたいな真っ赤な目がついてるんだ! でも、トレーナーがなんかガチャガチャした後は見えなくなっちゃった!」

 

「流石、一流の技術を詰め込んだだけあるねー……お? あれは……もしかしてチャンスではないか?」

 

セイウンスカイの視線の先には、こちらに向かってくるキングヘイローとボール。偶然にもボールに対し、挟み撃ちをする形となったのだ。

 

セイウンスカイは転がってくるソレが逃げないよう、左右に展開するよう二人に指示を出す。左に展開したハルウララが少し心配だったが、特に問題なくボールは作戦通り彼女の元へやってきたのだった。

 

「やあやあキング! 追い込みご苦労!」

 

「ちょっと! それは反則よ!」

 

「全員で捕まえに行けって言われてんだから反則じゃないでーす! さあ、ボールちゃん。私の胸に飛び込んでおいで!」

 

彼女は完全に勝ち誇ったふざけた口調でボールを待ち構える。ボールは特に左右に逃げる事なく一直線に彼女の元へ加速して行った。

 

しかし、彼女が捕まえようと手を伸ばした瞬間。ガシャンッという機械音と共にボールは空へと飛び立った。そのまま、彼女の上を通り越すような放物線を描いて、重々しい音を鳴らして着地を決める。そして、その場に止まると捕まえ損ねた彼女を煽るかのように左右に揺れ始めたのだった。

 

当の本人は驚きのあまり、口をぽっかりと開けたまま尻尾をピンと逆立てていた。今の様子を見たスペシャルウィークはようやくハルウララの言っていた難解な説明を理解したのだった。

 

「……これはキングの言う通りだね。何というか、ご立腹って感じ?」

 

「あのボール、中々に性格が悪いわ。中にウララさんのトレーナーでも入ってるんじゃないの?」

 

顔に苛立ちを見せる二人に対し、今度はハルウララとスペシャルウィークの二人がボールを追い始めた。

 

「今日は負けないぞー!」

 

元気よく二人はボールを追いかける。残念ながら、スペシャルウィークの方が走力が高いので必然的に彼女とボールの一騎打ちとなってしまう。

 

そうなってしまえば、後はボールの独壇場。跳ねたり曲がったりする縦横無尽な動きに嫌でも翻弄されてしまう。だが、長距離を走れるそのスタミナは飾りではない。

 

「……今なら!」

 

ずっとボールを追いながらもここぞという場面で最高速を出せるのは、彼女の成せる技だろう。その技に対抗するべくボールが繰り出したのは、そもそも全力を出させない様に砂地へと飛び込む事だった。

 

砂地へと誘導されたスペシャルウィークは足を取られ失速してしまう。しかし、彼女とバトンタッチするように突っ込んできたのはピンク色のダート走者だった。

 

「まかせてスペちゃん!」

 

砂地でも問題なくスピードを出すハルウララ。こんな悪路でも失速しないのは、普段からこの場所で鬼ごっこをしているお陰だろう。

だが、左右に大きく揺さぶられたせいで彼女のスタミナは底をついてしまう。どうやらあの意地の悪い工場長はしっかりと対策していたようだ。

 

結局彼女の足は止まってしまい、ボールは先に砂地を抜けて行ってしまった。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ、全然追いつかないや!」

 

「そうだね……やっぱり全員で上手く追い掛けないと……!」

 

涼しい風が吹き、彼女らの火照った体から熱を奪い去っていく。頭の冷えた彼女達はこのままではいけない事に気付き、一度工場前に集まって作戦を練り始めた。

 

「ほう、ようやく四人同時に遊ばせた理由がわかったか」

 

工場内ではなく敷地の入り口の方から葉巻を片手にやってきたのは工場長。少し離れた場所から彼女達の作戦会議を見物していた。

 

「ちょっと、それ仕舞いなさいよ! こっちまで臭うわよ!」

 

気が散ったからか、キングヘイローは彼の葉巻を指差して、嫌悪の表情を浮かべる。しかし、返ってきたのは面白い答えだった。

 

「ほう? お嬢様は鼻まで一級品みてえだな? 風上にいるにも関わらず、火もついてねえコイツの匂いが分かるなんてな」

 

彼は葉巻の先端をこれ見よがしに突きつけて皮肉を吐く。そして、ニヒルな笑みを浮かべ、今度こそ本当に葉巻に火をつけて咥えると、どこかに去って行った。

指摘した張本人はその後ろ姿を悔しそうに睨んでいたのだった。

 

「いやー、上手くおちょくられてるねえ」

 

「このキングが……!! 手玉に取られるなんて……!」

 

どうやら、彼女は自身の誇りを突っつかれてお怒りの様だ。彼女が冷静さを取り戻すまで、代わりにセイウンスカイが話を切り出した。

 

「さてさて、あれをどうやって捕まえますかねー?」

 

「はーいっ! セイちゃんが釣り竿で釣れば簡単に捕まえられると思うんだ!」

 

「いやいや、アレは流石に釣れないでしょ……」

 

「じゃあ、砂場に追い込むのはどうかな? 私達はボールが砂場から出ないように囲んであげれば、後はウララちゃんが捕まえられると思うんだ」

 

司会進行役の彼女がその訳を聞くと、スペシャルウィーク曰く、柔らかい雪の上では跳びづらい経験から、砂地の方が跳躍の高さを抑制出来るのではないかとの事だった。

 

「採用! その案で行っちゃおう!」

 

「すごいねスペちゃん! 雪の上だとジャンプ出来ないなんてわたし知らなかった! 今度雪が降ったら試してみようっと!」

 

「あはは……こっちじゃそんなに積もらないと思うよ」

 

最終的に、正気に戻ったお嬢様に作戦を伝える。いざ作戦開始と行きたい所だが、肝心のボールがどこにも見当たらない。

普段なら近くにいるはずなのだが、今回ばかりは違うようだ。恐らく、彼女達の様子が変わった事を察知したのだろう。

 

しかし、その姿は意外にもあっさりと見つかった。

 

「見つけた! このキングの力見せてやるわ!」

 

第一発見者はキングヘイロー。ただ、今回の彼女の役目はこのボールを砂地へと追いやること。普段の彼女であれば地味な役回り故に断るだろう。

 

しかし、あのムカつく男に対し盛大に啖呵を切ってしまった以上、もう引き返すことは出来ない。焦らないよう、一息深呼吸を入れてからボールを追いかけ始めた。

 

「おーっほっほっほっほ!! さあ逃げると良いわ! このキングからね!」

 

わざとボールを有利な方向へと逃がすこの役は、思ったよりも彼女に適していたようだ。脳裏でどんな想像をしているのかは知らないが、かなりノリノリでボールを追いかけ回す。変な方向に逃げようものなら、すかさず先回りしてそれを防ぐ。爆発的加速力を持つその脚だからこそ出来る役回りだった。

 

「おおー! キングがあんなにノリノリなんて珍しいね!」

 

「セイちゃんが意外とやる気なのも珍しいよ?」

 

「そりゃあ、勝ったらご褒美貰えるっぽいし?」

 

「そうだよー! トレーナーはゲームに勝ったら毎回ご褒美くれるんだ!」

 

「ほんと!? じゃあわたしも頑張ろ!」

 

三人のやる気が絶好調になったところで、追い込まれたボールが一流の王に追われてやってくる。

 

「あら? 改めて見ると哀れなものね? 自分から檻に入ったことに気付かないなんて」

 

予定通り砂地に追い込んだ後、ハルウララ以外の三人は追うのを止める。その様子を疲れて休んだと認識したのか、いつも通り左右に揺れるボール。

だが、今度ばかりは違う。自分が有利だと思い込んでいるボールを勝ち誇った様子で見ながら、キングヘイローは今日一番の高笑いを決めたのだった。

 

「後はウララちゃんに任せるね!」

 

「うんっ! まかせて! よしっ! 絶対に捕まえてやるぞー!」

 

元気に砂地へと突っ込んでいくハルウララ。お嬢様の高笑いに気を取られていたボールは、彼女の接近を許してしまう。捕まる直前にジャンプして脱出するが、その高さは高くて1メートルと言ったところ。雪国出身の彼女の考えは間違ってはいなかった。

 

「スペちゃんの言った通りだ! さっきと比べて全然ジャンプしてないよ!」

 

始めはなんとか避けていたボールだが、段々と彼女の適応力にじわじわと端へと追い込まれていく。しかし、砂地の外側には彼女より速いウマ娘が三人体制で待ち構えていた。

 

そして、遂にボールを四人で囲む事に成功する。

 

「本番はここからだよ。分かってるキング?」

 

「私を誰だと思ってるの? 真の一流は油断なんてしないのよ?」

 

「わたしね! このボールはスペちゃんのほうに跳ぶと思うんだ! だから、そっちはお願いするね!」

 

「うん! 任せて!」

 

切り込み隊長はハルウララ。迷わずボールへと突っ込んで行く。追い込まれたボールは彼女の予想通りスペシャルウィークの元へ。当然、跳躍機能を使い彼女の横をすり抜けるようにボールは跳んだ。

しかし、飛んだ先には王者と天空が待ち構える。地面に着く前にキャッチするつもりだろう。そうすれば二度と跳ばれることは無い。

 

だが、秘密兵器とは最後まで取っておくもの。少なくとも機械仕掛けのボールの製作者ならそうするだろう。

 

空気の抜けるような音と共に、ボールの描く放物線は歪み始める。そう、スラスターによる擬似的な空中ジャンプ。別名、二段ジャンプと呼ばれるふざけた機能をこのボールは最後まで隠し持っていた。

 

「うわ、マジ!?」

 

「そんな!?」

 

ボールは二人の頭上を飛び越える。夕日が反射して赤く輝くその様子は、どこか誇らしげに勝ちを確信しているようにも見えた。

 

地面がゆっくりと近づく。

 

しかし、ボールとその間に滑り込む一つの影があった。

 

一番最初にボールにアタックを仕掛けたハルウララが確かにそこに居た。勝ち誇った顔など浮かべておらず、ただただ楽しそうな笑顔でボールへと飛び付いた。

 

「……っっやったやったやったー!!」

 

その結果、三段ジャンプをされるよりも先に彼女の手が確かにボールを捕まえたのだった。それは、四人掛かりだったが、運ではなく、彼女達の実力で掴んだ確かな勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナー!!! 捕まえたよっ!!!」

 

工場の入り口でボケーっと立っていたハイゼンベルクに突っ込んできたのは、スーパーハイテンションのハルウララ。気を抜いていたせいか、彼は強烈なタックルをお見舞いされて見事に吹っ飛ばされた。

 

「ああ、クソ。今のは効いた……」

 

「ねえねえ! トレーナー! わたしちゃんと捕まえたんだよ! ほらっ!!」

 

「……!? おい嘘だろ?」

 

彼女は両手でボールを思い切り掲げる。痛そうに起き上がってから、それを見た彼は珍しく驚愕の表情を浮かべていた。

 

「おーっほっほっほっほ!! 私の一流の方が数枚上手だったようね!」

 

「……ったく、認めてやる。テメエのその負けん気含め、立派な一流だぜ。ああ、っクソ! 自信あったんだがなあ」

 

「あら? 貴方の技術は確かに一流よ? このキングが保証するのだから間違いないわ!」

 

「そいつはどうも!」

 

悔しそうに捨て台詞を吐き、彼は喜びに溢れるハルウララからボールを受け取って工場内へと戻って行った。

 

全員がそれに続いて工場内へと戻ると、人数分のスポーツドリンクが机に置かれていた。各々がそれを引ったくるように取ると、砂地でいつも以上に奪われた水分を補給する。味はよくある市販品の物と同一だった。

 

「そういや、勝者には褒美がねえとな」

 

「よっ! 待ってました!」

 

「わーいっ!」

 

殆どそれ目的で頑張ってきた約一名の目が輝いた。だが、肝心の彼は浮かない顔のままボールを棚に突っ込んでいた。

 

「とは言ってもな、何も思いついてねえんだが……」

 

「何でもありなら……ご飯一食とか!」

 

「……俺の財布をスクラップにしてえのか? ただでさえ食う量が多いんだろ? 特にテメエ!」

 

スペシャルウィークを指差して、彼は"ジョークは胃のサイズだけにしやがれ"と付け足した。その後、下を向いて考えていた彼だったが、コツコツとなる足音を聞いて思いついたかのように提案した。

 

「御誂え向きなのがあるじゃねえか。テメエら、靴あんだろ?」

 

彼の言葉にそれぞれが自分の靴を見る。高級な物もあれば普通な物もある。ただ共通しているのは、一般的なそれとは違って蹄鉄というパーツが付いている事だ。そのため、意外と値段が張ったりする。

 

「蹄鉄がもしダメになったら持ってこい。一度だけ、タダで直してやる」

 

「あら? この工場、蹄鉄なんて作ってたかしら?」

 

「実は作ってるんだぜ、お嬢様? まあ、勝者の権利だ。そこそこ良いブツをくっ付けてやる」

 

「ふーん? この工場でそこそこの物……ねえ?」

 

「どうやらお嬢様はこのサービスを受けねえみてえだ。二足分やって欲しい奴いるか?」

 

空いたお嬢様分を誰かに当てるつもりなのだろう。彼は勝手に希望者を募り出した。

 

勿論、誰か以外は全員手を挙げた。

 

「ちょっと!? まだ受けないなんて一言も言ってないわよ!」

 

「ヘッ、こっちだってレース用のモンを交換するなんて一言も言ってねえよ。普段から履いてるやつで構いやしねえ」

 

彼は彼女が考えていた事を見事に看破した。どうして思考が読まれるのか彼女は不思議に思っていたが、彼がもっと面倒な輩と付き合っていた事は知る由もないだろう。

 

「トレーナー!! じゃあお願い!」

 

彼の言葉を聞いたハルウララは今履いている靴を脱いで、素直に差し出した。

 

「まさか、今か?」

 

「うんっ! キングちゃんが前に言ってたんだ! 蹄鉄がちょっと擦り減ってるねって! だから、ちょうど良いかなって思ったんだっ!」

 

「あー……今は無理だ。材料やら機械がここにはねえ。全部地下だ」

 

「そっか……あれ? 地下……? あーっ! シューちゃんの事、みんなに紹介してなかったよね? 今から連れてくるね!!」

 

「あ、おい! 待て!」

 

彼女は彼が制止の言葉を掛けるよりも早く、業務用の巨大なエレベーターで下へと消えて行ってしまう。残されたのは、非常に焦った表情を浮かべたハイゼンベルクと何がどうなっているか分からない友人達だった。

 

「テメエら……あの能天気からお化けについて聞いたか?」

 

「え、ええ……聞いたわ。今日ここに来たのは、そんな事を言い始めたウララさんの事が気になったからなの」

 

「そうか、なら先に結論から言うぞ? アイツの言う"お化け"は確かにいる」

 

その言葉に彼女達は動揺を隠せない。その額に流れる汗は既に運動によるものでは無くなっているだろう。

 

そんな彼女達に追い打ちを掛けるかのように、彼は続けて言い放った。

 

「だが、そうじゃねえ! アイツがお化け呼ばわりしてんのは、お化けが可愛く見えるほどのバケモンなんだよ!」

 

彼女達の顔色は一瞬で真っ青に変わった。しかし、こんなふざけたことを言われて素直に信じる訳がない。

 

「ちょっと!? からかうのも大概にして頂きたいのだけど!」

 

彼女が思わず席を立ちそう言い放った瞬間、身を震わせる轟音が地下から地上へと響き渡った。

 

「さて、少しは理解したろ? 悪い事は言わねえ、さっさとここから逃げるんだな」

 

しかし、その言葉に従う者は一人も居なかった。興味が勝ったのか、はたまた三人一緒なら問題ないと思ったからか。

 

「ったく、後悔しても知らねえぞ?」

 

エレベーターが重い音を立てて動き出した。勿論、地下から地上へと向かって来ている。緊張と恐怖で高まる鼓動を無理矢理押さえ付けて彼女達が見た物は、とびきりの笑顔を浮かべるハルウララと油やら何やらで薄汚れた布を掛けられた何かだった。

 

「みんなー! 紹介するねっ! お化けのシューちゃんだよ!」

 

「あら? 思ってたのと違うわ……?」

 

「にゃはは、うんうんお化けだー!」

 

「ウララちゃん! その布がお化けなんだよね?」

 

彼女達は白いそのシルエットを見て安堵する。そして、心の中で思った事だろう。自分の考え過ぎだったと。

 

「あっ! 忘れてた! あのね! こういうのテレビで見た時にやってみたいと思ってたんだ!」

 

彼女は取り忘れていた布を取り払ってしまった。その結果、まだ可愛らしかった白い影は消え去った。

 

「じゃじゃーんっ!! これがシューちゃんです! 本物のお化けだよ! すごいよねっ!」

 

代わりに現れたのは、お化けのイメージを壊すかのように二本足で立っている、機械仕掛けの化け物だった。

 

カバーを外されたソレは、今まで鳴りを潜めていたエンジンを全開にし、威圧感しかない轟音とプロペラの駆動音をあたりに響かせたのだ。

 

「ひぅ!」

 

「きゃああああああっ!!」

 

驚愕の正体を見てしまった彼女達。

一名のお嬢様は声にならない声を上げ、その場で気絶。

もう一人の食いしん坊は悲鳴と共に工場の外へと逃げ出した。

最後に残ったお調子者だけが逃げも隠れもせず、引き攣った笑みでソレを見ていた。

 

しかし、そのお化けが彼女の目の前までゆっくりと近づいて来たせいか、恐怖を抑え込んでいたダムは決壊し、叫び声すら出さずに出口へと全力疾走したのだった。

 

「あれ? みんなどうしたの?」

 

残ったハルウララとシュツルムは首を傾げながら、互いに顔を見合わせる。その様子に、ハイゼンベルクは思わず軽く笑っていた。

 

「ヘッ、やっぱりテメエが異常なだけじゃねえか! ウマ娘は恐れ知らずかと思ってたが、杞憂だったみてえだな!」

 

「ええっ!? わたし、どこかおかしいの!?」

 

「ああ、可笑しいな! お化けをわざわざ見せようとする奴なんて、俺は今まで見た事ねえ! そんじゃ、さっさとソイツを戻して来い!」

 

「分かったっ!」

 

エレベーターで面倒の種を地下へと戻しに行く彼女を横目に、気絶したお嬢様を担ぎあげる。

恐らく表にいるであろう二人に、この荷物をさっさと預けたいと思っていたのだが……

 

「あー……まあ、そうだよな……」

 

周辺を探してもその姿は見つからず、代わりに強引に開け放たれ、壊れかかったフェンスの扉が見つかった。

 

結局、地下から帰ってきたハルウララに彼女を学園まで送り届けるよう頼むと、彼は頭を掻きつつ渋々と扉の修理を始めたのだった。

 

 

 

 

 

なお、三人はしばらくの間、風車などの回転体を直視出来なかったようだ。流石に彼女も反省したのか、学園でお化けの話はあまりしなくなったという。

 

 




ハイゼンベルクのヒミツ
実は、ドリルとジェットエンジンを付ければ大抵の事は何とかなると思っている。
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