我が師への畏敬を胸に   作:岩窟鸚

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 円卓に付くのは錚々たる面々だ。

 悪魔陣営からは、四大魔王の一人であると同時に超越者として世界でも十指に入る実力者の一人サーゼクス・ルシファー。そして、外交担当であり女性悪魔の中では最強とも言われるセラフォルー・レヴィアタン。

 天界陣営からは、四大天使の一人であり、天使長でもあるミカエル。

 堕天使陣営からは、総督であるアザゼル。

 実力、知名度、どちらをとっても重要人物と言わざるを得ない。仮に、誰かが欠けでもすれば、その時点で大戦が再度勃発してもおかしくない。

 そして、この面々の中で、どの陣営にも属さない位置に置かれた椅子に座るものが居た。

 というか、冥利だ。彼の席は、三大勢力何れに対しても一定の距離が置かれた場所に設置されており、人間代表の様な立場となっていた。もちろん、そんな事実はない。この場における人間としては唯一ではあるが、だからといって彼の発言一つが人間すべての総意であるはずがない。

 

 

「初めまして、ですね。沖草冥利さん。私は、ミカエル。この度は、教会の戦士である二人への救援、感謝いたします」

 

「え?ああ、まあ、成り行きでそうなっただけなんで」

 

「それでも、被害が最小限に済んだのは貴方の尽力ありきでしょう。ですので、感謝を」

 

 

 ミカエルから向けられる純粋な感謝の気持ちに、冥利は居心地の悪さを味わっていた。

 種族上、天使というのは邪な気持ちを抱けない。抱けば、その時点で堕天してしまうからだ。

 だからこそ、彼らの感謝に裏は無い。純粋な感謝となるのだ。だからこそ、向けられる側というのはどこかむず痒く感じてしまう。

 座りが悪く頭を掻いて、目を逸らす冥利。そんな彼に茶々を入れるのは、この場においても最年長といっても良いアザゼルだ。

 

 

「はっはっは!俺の時とは偉く反応が違うじゃねぇか」

 

「アンタとミカエル様だと、言葉に宿ってる誠実さがちげぇんだよ。見た目も、チンピラと聖人だぞ?説得力が違う」

 

「誰がチンピラだ、誰が。イケてる叔父様だろうがよ」

 

「スーツ着崩してるのを見ると、場末のホスト崩れじゃねぇか」

 

「お前、ホンット俺には辛辣なのな?」

 

 

 ケッ、と吐き捨てるアザゼルだが、この場における陣営のトップたちの中で冥利と一番気安い関係であるのは確かだろう。

 彼の性格上、上層部でいる事に拘り等無い。どちらかというと、部屋に引っ込んで研究をしている方が好きなタイプだ。であるのなら、こうして体面を気にする必要も無い。

 かくして、会談は始まった。といっても、主な話題は少し前の堕天使幹部からの襲撃事件なのだが。

 

 

「もう少し、トップとしての自覚を持っていればこのような事にはならなかったと思いますよ、アザゼル?」

 

「それに関しちゃ、こっちも否定はしねぇよ。コカビエルの件に関しちゃ、こっちの落ち度だ。だがお前らも……いや、突っつき合いは無しにしとくか。揚げ足取りに来たわけじゃねぇからな」

 

「ほう、貴方にも場の空気を読むスキルが身に付くんですね」

 

「抜かせ」

 

 

 割と毒づいてくるミカエルに対して、アザゼルは肩を竦める。

 ぶっちゃけ、この三陣営はどこもトップが完全には手綱を握れていないのが現状だったりする。いや、そもそも完全に統率の取れた陣営など皆無と言って良いだろう。

 悪魔は、内部分裂を起こしており、天界は天使のみで全てを統率する事が不可能、堕天使は比較的纏まっているが末端のみならず幹部も今回暴走を起こした。

 力が強いからこそ、人間以上に統率をとる事が難しい。それが人外揃っての悩みの種であると同時に特色でもあった。

 

 続く会談。時折水を向けられ、受け答えをしていた冥利だったがふと彼の直観に違和感が引っ掛かった。

 極めれば、少し先の未来を見る事すらも可能な見聞色の覇気による先読み。当然ながら、彼はそのステージに至っており、この覇気もまた彼が戦闘中における被弾率の少なさに繋がってもいた。

 

 そして見たのは、止まる世界と、それから襲撃。

 この未来視、万能の様に見えてその実弱点がある。

 一つ、無機物などの意思が介在しないものは見通せない。自然現象や突発的な爆発などがこれらに該当する。

 二つ、仮に未来を見ても見た当人の反応速度を超える攻撃に関しては避けられない場合がある。

 三つ、見た未来がなぜそうなるのか、という道程が分からない。

 四つ、あくまでも視えるのは覇気の効果範囲に限る。

 その他にも覇気というのは消耗するモノであり、疲れれば疲れるだけ精度が落ちる。視点者本人が荒れているなど冷静さを失っている場合は未来視が機能しない、等もある。

 決して万能でも、無敵でもないのだ。それでも、力に優れたものであるならばそれら手札で十全に戦える。

 果たして、冥利は覇気をもって体を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 色の失われた世界。動けるのは、三大勢力の首脳陣に、アザゼルの護衛役であるヴァーリ、上級悪魔であるリアス、そして覇気をもって自分自身をガードした冥利。

 そこからは、一気に事態が動く。もっとも、この場での冥利の役割など戦いのほかにはないのだが。

 

 

「はいよっと!」

 

 

 襲撃者である魔術師をぶん回した三節棍でぶん殴って、近くの魔術師へとぶつける砲弾代わりにする。

 空を見上げれば、白銀の鎧をまとったヴァーリが魔術師相手に無双しており、黄金の鎧を纏ったアザゼルが今回の襲撃の主犯核と戦っていた。

 実に派手だ。とはいえ、冥利の方も余裕がある訳ではない。遠中近と対応できる彼だが、その中でも大得意なのは接近戦だ。一方で魔術師の戦い方は、その名の通り魔術を用いた遠距離攻撃。

 倒す手段はあるが、手札を次から次に晒すのは冥利の望むところではない。という訳で、尋常ではない身体能力をフルに使って、やられる前にやれ、戦法を敢行していた。

 

 

「47。コレ一人一万位くれねぇかな」

 

 

 一纏めにした三節棍で肩を叩きながら、冥利はため息を一つ。

 駒王学園を取り囲んだ結界。安全面などを考慮して、サーゼクス、セラフォルー、ミカエルが防御の結界で会議室を守り、アザゼル、ヴァーリ、冥利の三名が外に出ている現状。

 囲んだ結界の一部を壊せば、冥利だけならば脱出も可能かもしれない。だが、彼はその選択肢を現状採る訳にはいかなかった。

 折角、顔繫ぎが成功したというのに、態々その相手への悪印象を与える事に意味を感じなかったからだ。ついでに、戦えば報酬が出るという話もあり、逃げる方が旨味が少ないという判断もある。

 雑魚狩りをするだけで美味しい仕事。しかして、世の中そう上手くはいかない。

 

 冥利は、基本的に戦闘以外では覇気をオフにしている。

 先述の通り、覇気というのは消耗するのだ。魔力の様に、霊力の様に、消耗してしまい回復には一定の時間を要する。

 もちろん、覇気を少し使った程度でガス欠するほど、軟な体ではない。限界は知らないが、それでも全力戦闘で日没から夜明けまで動き続ける事も可能だ。

 だが、可能であることと実行する事は別問題。手を抜けるときに抜くのもまた、出来るものの素養であると言えるだろう。

 

 話を戻す。冥利には、若干の余裕があった。魔術師は弱く、この場における敵の主戦力はアザゼルが受け持っている。このままいけば、ろくな苦労も無く大金をせしめる事が出来る――――

 

 

「――――さあ、場は出来上がったぞ」

 

「……おいおいおいおい、ここで裏切るってマジか?」

 

 

 風を切る音に反応した体が飛び退き、間髪入れずに白銀が襲い掛かる。

 

 

「そこまでして、戦いたいのか?」

 

「元々は、アースガルズから戦闘を進められての事だがな。この場に置いて、魔王を除くのならば俺は君と戦ってみたい」

 

「……ケッ、神器も持たないただの人間に、神滅具の禁手化果たしたような輩が向かってくるなよなぁ」

 

 

 言いながらも、冥利は覇気を纏わせた三節棍を構えた。

 この手の戦闘狂からは、大抵の場合逃げられない事を彼は知っている。特に前世に置いてはその経験が多々あり、鷹の目や鬼の跡目などとも鎬を削り合わざるを得ない状況に置かれていたというのもある。

 

 一方で相対するヴァーリは、その仮面の下で笑みを深めている。

 左手を前に、右手を腰の側に。左足を前に出した構えの冥利は、端的に言って隙が無い。

 

 仕掛けたのは、ヴァーリ。小手調べとでも言わんばかりに、神器の力は使わない純粋な拳による打撃。

 だが、相手はかの白龍皇。若くして禁手化へと至り、その持続時間は何もしなければ一ヶ月とも言われているほどだ。

 そんな彼からの攻撃は、ただの打撃であろうとも人間である冥利にとっては致命傷になりかねない。

 故に、迎撃。完全に突っ込まれる前に、三節棍を体の周囲で振り回して遠心力を派生させ、その勢いを殺すことなく右腕で振り抜いて拳を叩き落しにかかった。

 硬質な音。火花が散り、ヴァーリの拳は逸らされる。この隙を、冥利は逃さない。

 

 

「フッ――――!」

 

 

 短く息を吐き出して懐へ。

 三節棍は、その特異な見た目から特殊な技能が必要に見えるが、その実根本にあるのは棒術の動きだ。遠心力を乗せれば乗せる程に繋がれた両端は緩やかな弧を描くような軌道を辿る。

 

 

「こ、れは……!」

 

 

 仮面の下でヴァーリは目を剥く。

 目の前に居るのに、その攻撃は縦横無尽。一撃処理している間に、三撃、四撃撃ち込まれ、禁手化の鎧に衝撃が襲い掛かってくるのだから。

 純粋な肉弾戦に置いて、冥利に勝る者など世界広しといえどもそうは居ない。

 彼の強みは、その身体能力に目が行きがちだが、その実攻撃における回転率の良さだろう。

 一撃一撃が確りと重いが、そんな一撃が反応速度を超えて襲い掛かってくるのだ。相手にしてみれば堪ったものではない。

 

 冥利は、このまま押し切るつもりだ。というか、神滅具の禁手化相手に加減が出来る程、慢心していない。

 しかし悲しいかな、相手は神をも滅ぼすとされた力だ。ただ手数だけで押し切られるほど、脆くはない。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 膝が抜けた。そう錯覚するほどに、冥利の体から力が抜けた。

 反射的に踏ん張る事で倒れる事を阻止するが、この瞬間に攻め手を欠いてしまう。

 そこに迫るは、ヴァーリ。振り抜かれるのは、右足。

 下から上へ、直撃すれば体に大部分を持っていかれそうな一撃に対して、冥利は()()()()

 力の抜けた体を無理矢理動かすのではなく、そのまま回避へとつなげていた。

 

 

「――――『紙絵』」

 

 

 名は体を表す。その回避は、宛ら絵の描かれた紙が風に揺れるが如し。文字通り、紙一重で上体を逸らす形で蹴りを躱す。ついでに、後ろに倒れた反動を利用してバク転、一時的に距離を取る。

 

 

「……はぁ……やっぱりチートくせぇよな、神滅具って」

 

「その神滅具を相手に、約二分一方的に殴り続けた君が言うのか?」

 

「ハッ、大したダメージなんざ無いだろ」

 

 

 軽口をたたきながら、冥利は力が一瞬抜けた体を解して活力を取り戻していく。

 ヴァーリの神器『白龍皇の光翼』は半減と吸収の力を有している。禁手化すれば、一気に相手を弱体化させたり、攻撃の威力を減衰させることが可能となる。

 今回の場合、一時的に冥利の体力が削がれ、結果としてその体が崩れかけたのだ。直ぐに回復したのは、偏に彼のタフさ故。ついでに、魔力などではない為、ヴァーリの吸収による常に最大レベルを保ち続ける神器の力は活用されていない。

 長期戦は不利。冥利は、ここで勝負を決めにかかる。

 両足に力を込めて、跳躍。高速による側転からの振り落とし。

 

 

――――岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き

 

 

 現状における全力の一発。それこそ、その脳天を粉砕して頭蓋ごと叩き割る気概による一撃だ。

 これを受けてヴァーリ、迎え撃つ形。

 

 時に、冥利の扱う三節棍は、その品質で見れば凡骨そのもの。三流から良く見ても二流止まり。武装色の覇気を纏う事によって誤魔化してはいるが、神滅具や伝説上の武具が相手となると心許ないと言う他ない。

 そして今回ぶつかり合うのは、神滅具が禁手化を果たす事によって発現する鎧だ。ぶっちゃけ、そんじょそこらの防具など霞んでしまう代物であるし、相性にもよるが神々の振るう武具が相手であろうとも負けることは無いだろう。

 そんな代物が全力で迎撃してくる。結果、

 

 

「――――あっ、やっべぇ……」

 

 

 鈍い音を立てて粉砕される三節棍。棍の部分を担う鉄材と木材がひび割れ砕け散り、関節である鎖もまた砕けて弾け飛んでいく。

 元々、コカビエルを滅多打ちにした辺りでガタが来ていたのだ。だからこそ、アザゼルに謝罪の品を武具にするように頼んでもいた。

 そして今回、格上の鎧を殴り続けた事で重なっていたガタが加速し、天面砕きと迎撃の衝突が最後の一押しとなった。ついでに、ヴァーリが三節棍の耐久度を半減させたのもまた、この武具崩壊につながっている。

 

 アクシデント。とはいえ、戦闘中に武器が壊れたから待ってくれ、等という言い訳は通用しない。

 空中の冥利が、両腕を武装色の覇気で硬化させ胸の前で交差させた直後、ヴァーリの拳がガードの上から突き刺さる。

 骨が軋むような音を立て、一瞬の間。黒衣の体は、まるで砲弾の様に後方へと吹き飛び盛大に体育館の壁を突き破って粉塵の向こう側へと消えていく。

 その姿を見送りながら、しかしヴァーリは追撃に移れずにいた。

 鎧越しでありながら、拳を伝わってきた違和感がその足を止めさせたのだ。

 まだ終わっていない。その予感から、仮面越しに未だ粉塵を上げる体育館を見つめる。

 その顔には、玩具を待ちきれないような子供の笑みが浮かんでいた。

 


















覇気の設定に関しては、自己解釈を多分に含んでいます。ネット情報を拾っても、色々と錯綜してましたので

補足をすると、主人公の覇気の適性は武装色>>>見聞色となっており戦闘中は未来視を併用していません
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