そのウマ娘が“白銀の突風”と呼ばれるまで   作:乃亞

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第62話 映像研究:Movie researching

 

 

 

 

 

 

 スズカさんに“私の思うように走ってみたら?”と言われた次の日の放課後。トレーナーの部屋に呼ばれた私は着くや否やすぐにパイプ椅子に座らされていた。

 

 目の前には一世代前くらいの小さなパソコンと、何やら『メルクーリ用』と書かれたDVDのケースが2つ。1つだけ空箱になってるのはもうパソコンに入ってるからかな?

 

「えっと……なにこれ?」

「お前さんのレースの映像とか色々編集して比較できるようにしたモンだ。ちょっと見てもらおうと思ってな」

「別に良いけど…」

 

 …チラッとトレーナーの頭越しに作業デスクを見やる。なんか妙な甘い匂いがしてるのは気づいてたけど……ふーん、そういうこと。

 

「…メルクーリ?準備できたぞ?」

「んぇっ…あー、うん」

 

 

 トレーナーに促されて前を見ると新潟レース場の広い直線の中に何人かウマ娘がいて、その端っこに見慣れた銀髪が1人。…デビュー戦かこれ。

 サッと先頭をとってそのまま押し切ったデビュー戦、最後方からまとめて撫で切ったサウジアラビアRC。…この辺は私の思った通りのレースをできてるはずだけど。

 

 

 …にしてもやっぱりイヤに目立つな、レース中の私。長い銀髪と他の娘と比べても低い加速姿勢のせいでどこにいるか一発で分かる。この2レースは大逃げとシンガリからの大外一気っていう真逆の戦法で相手の裏をかいたから大丈夫だったけど…。

 

 

『……スタートしました!おっと1人出遅れたのは3番ハンズクラップか?注目の1番人気、スバルメルクーリは今日は後方からのスタートです!…』

 

 3レース目、朝日杯FS。背後の出遅れた娘に反応して思いっきり掛かってる自分の映像を見るの…しんどいなぁ。

 

 …というかレース中の私、いくらなんでも他の娘から見られすぎじゃない?

 他のウマ娘から見てもどうやらレース中の私の髪は目立つ…らしい。っていうのも他のウマ娘の目線の動きを見るに、どうやら上がっていく私のことを()()()()()()()()()()()()レースしていて、中には伸びない内コースに誘導しようとする娘までいるし…どんだけ注意向けられてんのさ私。掛かってる私があんまりにも怖かったのかビビってやめてるけど。

 

 

 で、こんなにマークされてても関係なしにそのまま外に出て差し切ってるんだけど。

 …どうやって勝ったのコレ。正直な話、自分でもちょっと意味がよくわからないんだけど…。

 

 

 とてもじゃないけどG1を勝ったようには見えない表情の私が外ラチ沿いにいるトレーナーたちの方へ足を向けたところで…ピタッと動画が止まった。なんかあるのかなとそばにいるトレーナーをちらっと見やると何やら思案顔。……あぁ、そっか。

 

 

 朝日杯の次は弥生賞ーー私が暴走した挙句、ゴール後に倒れたレース。その後は病院に突っ込まれて短期の休養に入った私はこの日の映像を見てないわけで。

 本当に私にコレを見せて大丈夫なのかどうか。あの日のことをフラッシュバックしないかどうか。そんなことを心配してる…って感じかな、多分。

 

 

 

 …はぁ、つくづくお節介なヒトだことで。

『足りないモノに自分で気づけ』なぁーんてこと言っておきながら私のために夜なべして映像を編集してるし、休養期間中にチームの手伝いをさせてたのも私が1人にさせないための配慮だろうし。お節介がすぎるったらありゃしない。

 

 

 ……期待、されてるんだろうなぁ。トレーナーにも、感謝祭に来てたヒトたちにも、通学路であったあの小さな子にも。

 

 

 …まったく、もう。

 

 

「…ほい」

「!?…あぁ、メルクーリ」

「あのさ。トレーナーは私の復帰に弥生賞の映像も絶対必要だと思って編集したんでしょ?……なら、見る。私の様子が明らかにおかしいと判断したら止めてくれればいいから。それでいいでしょ」

「…いいんだな?」

「ん」

 

 

 

 

 

『スタートと同時に一気に前に出たのは1番人気、9番スバルメルクーリ!今日のメルクーリは前!前です!』

 

『先頭のスバルメルクーリ、大失速!大失速です!中山の坂を前にあれだけあった差がみるみるうちに詰まってきています!』

 

『勝ったのはラモール!1番人気のスバルメルクーリは3着、無敗のジュニア級最優秀ウマ娘は3着!三冠路線にニューヒロインが現れました!…おおっと、そして今どうやらスバルメルクーリが倒れ込んでいるようです。入線後に何かあったのでしょうか、スバルメルクーリは倒れています』

 

 

 初めて映像で見た私の弥生賞の走りは……まぁ、ひどいというかなんというか。表情もずっと髪に隠れて見えないし。一切息が入る様子もないままずっと前に何十バ身も抜けた挙句、最後の4コーナーで既にフラフラ。

 

 

 …マヤノが病室に居残るわけだわ。改めて今度何かしてあげなきゃいけないかもしれない。

 

 

 

「とりあえずレース映像はここまでだが…どう思った?」

「……今整理するからちょっと待って」

 

 座っていた椅子の足を2つ浮かせながらぼんやりと思考を巡らせる。

 目立つのは朝日杯の序盤と弥生賞の暴走、言ってしまえば掛かり癖だよなぁ。映像だけ見れば段々悪化してるわけで、それを重く見たからトレーナーは私を休養させた…んだろうな、多分。

 …ただ、それだけ(かかり癖)を伝えるためにわざわざこんな編集した映像を見せる必要があるかどうか。他にも理由があるような気がするんだよなぁ。

 

 

「ちなみにもう一つレース日の映像を編集したやつあるんだが…」

「…もう一つ?」

 

 トレーナーの言葉に首を傾げる。出たレースは全部見たはずなんだけど…。

 

 

 

 

『次は圧倒的1番人気、昨年の最優秀ジュニア級ウマ娘が登場!無傷の4連勝を目指して8枠9番!スバルメルクーリです!』

 

「…えっと、とれーなー?」

 

 …何これ。

 ディスクを替えて再生したかと思ったら4分割された画面に私が4人。カメラに向かってなんかアクロバットのようなことをしてるのが右上、右下、左上、左下の順に動いたら止まったりしてるんだけど。

 いわゆるパドック映像ってのはわかる、わかるんだけど。

 

 

 ……えっと、何ですかこれは???

 

 

「…こんなの集めてどうすんのさ」

「まぁ見てみろ、これがデビュー戦の時のパドック」

「……ん」

「そんでこれがロイヤルカップの時」

「……はぁ」

「で、勝負服着てるこれが朝日杯で、今動いてるのが弥生賞」

 

 トレーナーの指し示した順に映像を眺める。…正直自分のパドック映像ってまじまじ眺めたことなかったんだけど…その、結構恥ずかしいなこれ。

 柄にもなくテンション上がって挙句にアクロバットやってる自分を見てどうしろと…?弥生賞はアクロバットこそやってないけど集中できてないの丸わかりだし。

 

 

「弥生賞の映像を見返してる時になんか違和感があってな。その原因に心当たりがないから俺なりに過去の映像を見返したり考えたりしてたんだが…パドックの映像を見てる時に1つ気付いてな…それが、これだ」

 

 そう言ってトレーナーは新しい棒付きキャンディを取り出して、映像の中の私の体…正確にいえば弥生賞のパドックの私のお腹周りをちょこちょことつついた。

 

 

 

 ……げっ。

 

 

「お前、デビュー戦からずっと体重減り続けてるだろ」

「………別に、そんなことないけど」

「本当にそうかぁ?この感じだとロイヤルカップの時がマイナス2キロ、朝日杯がマイナス9キロ、弥生賞の時はマイナスに「そんな減ってな……あっ」…やっぱりか」

 

 

 あまりにデリカシーのかけた言葉に思いっきりカバーの中の耳を絞って上を向く。これでも一応女子学生なんですけどね、私。

 

「あんまり無理な減量をしてるようにも見えなかったし、元々ウチに入った時から細いから気付くのが遅れちまったわけなんだが…量食うの苦手か?」

「……そんなことないもん」

「俺の見立てだとこの休み期間にまた減ってるように見えるんだが?」

「そんなことも…ない」

「じゃあ今日の朝飯言ってみ?」

「…………クッキー2枚

「…昼は?」

「………鶏肉とタケノコと野菜のポシェ…チクゼンニ、だっけ?よくわかんないけどおいしかった」

「…はぁ、決まりだな。ちょっと出かけるぞ」

「……話が見えないんだけど。どこにさ?」

「メルクーリにとっては地獄の特訓会場になるかもしれない場所。……さらば、俺の貯金…

「……???」

 

 ……なぜか辛そうな顔で財布を眺めてるトレーナー。いやなんで?

 

 

 

 

 

 

 

 




…なんでまたこんなに期間空いてんの?(クソ定期)
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