空から降ってくる話はあっても地面から生えてくる話はあまり見たことがないので書きました。

※氷陰様主催のボーイミーツガール杯に参加しております。

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ボーイミーツガール杯参加(遅刻)


親方!地面から女の子が!

 親方! 空から女の子が!

 

 なんて古典的な台詞と展開が世に出てからどれほどの月日が流れたか。

 世の男子たちは「本当に空から女の子が降ってこないかな」などと冗談めいて言う。某ヒロインのように可愛ければなお良し。

 実際に降って来られたらキャッチする前に悲惨なことになるのはこの際置いておくとしてだ。

 

 何故いきなりこんなことを思い浮かべたのかというと。

 

 

「いたた……お兄さん、もっと周りを見て歩いた方がいいよ?」

 

 

 女の生首が地面から突き出ていたからである。

 

 そのことに全く気付かなかった俺は、おかげで首に躓いて転んでしまった。

 人気のない校舎裏で、ただ本を読もうとしていただけなのに。

 

「あー、ごめんなさ……い?」

「何故疑問形なのかな?」

 

 いや、俺はこの奇妙な光景に目を丸くするしかない。やっとのことで出てきた言葉が謝罪だっただけだ。

 首から上は顔だけ見れば可愛いと言えるだろう。髪はボブカットなので地面についておらず、一見どこにでもいそうな女子生徒のようだった。首から下さえ埋まっていなければ。

 

「あの……何してるんですか?」

「見て分からないのかい? 埋まってるんだよ」

 

 おそるおそる尋ねてみると、女はさも当然のように答えた。

 ……ますます状況が分からない。

 

「いじめられてるんですか? 先生呼んできましょうか?」

「いやいや、私はいじめなどは受けていない。好きでこうしてるんだ」

「救急車呼びましょうか? 頭の」

「はっはっは、段々容赦なくなってきたな」

 

 いじめられっ子ではなく、単に頭のおかしい奴だと分かったので途端に関わるのが面倒になってきた。

 好きで校舎裏に埋まってる女子高生がどの世界線にいるっていうんだ。

 

「ああ、私は滋田流子(しだるこ)。3年生だ」

「先輩だったんですか」

「気軽にシータと呼んでくれ」

「おいやめろ」

 

 滋田先輩は身動きが取れないくせに偉そうな態度を崩さないまま、自己紹介と共におぞましいことを言い出した。

 こんなシータがいてたまるか。

 

「さて、君は2年生だろ? 名は?」

「……幡豆大空(はずそら)です」

「では幡豆君」

「そこは普通なんですね」

 

 てっきりパズーと言われるかと思った。こんな名前なので、小学校の頃は渾名でよく呼ばれたものだ。

 というか、早くこんな不審人物から解放されたい。

 

「ここで出会ったのも何かの縁だ。私を引き抜いてくれないか?」

「え、やです」

「あっはは。君は漫才というものを心掛けているな。では引き抜いてくれ」

「嫌です」

 

 関わり合いたくないんだから、動きが封じられてる変人を解き放つわけないでしょうに。

 マジで嫌がってると、滋田先輩から余裕そうな笑みが消え始める。

 

「え、いやこんなに可愛い女の子が頼んでるんだよ? 男なら喜んで引き受けない?」

「頼んでる態度じゃなかったでしょ」

 

 自分のこと可愛いって自覚してるのかはともかく、明らかに尊大な態度で頼んでる様子ではなかった。頭は低いけど。

 

「えー……でも幡豆君。君はこの首から下がどうなっているのか知りたくないかい?」

「いやぁ、別に」

「身動きの取れない美少女の身体だよ? 思春期の男子ならば興味あるだろう?」

 

 卑猥な言い方をされても、見えてるのは首から上だけなのでどうしようもない。

 まぁでも、そう言われてしまうと気になってしまうのは健全な男子なので仕方ないっちゃあ仕方ない。

 

「ってか、制服泥だらけになってません?」

「フッ、だから君は甘い」

 

 俺が少しでも興味を持ち出すと、すぐに滋田先輩は増長して俺を鼻で笑う。

 

「げほっげほっ、ちょっと! 土かけるのは反則! 謝るからやめて!」

 

 イラッと来たので顔に土をかけてやると先輩は咳き込みながらやっと謝ってきた。

 顔も髪も砂利塗れになって無様になりながらも(身体が埋まってるので元から無様だけど)、先輩はキメ顔で俺に衝撃の事実を伝えてきた。

 

 

「私が制服を着ているといつから錯覚していた?」

 

 

 何……だと……?

 制服を着ずに埋まっている、ということは首から下は……裸!?

 いや、流石に下着は付けているとしても、どっちにしろヤバいでしょ。

 

「おやぁ? 何を想像してるのかな?」

 

 衝撃を受けていると、先輩は俺の一部分を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 うわぁ、すっげぇムカつく。なにより、生首女に少しでも欲情してしまった自分に。

 

「あ、下着は付けてないよ」

「余計にやべぇよ!」

「まぁまぁ。それで、どうする?」

「何がです?」

「周囲に人の目はない。私と君だけだ。掘り出すなら今なんじゃないかな?」

 

 何故か俺が先輩を掘り出すことが既定路線になっている気がする。

 滋田先輩の言うことが事実なら、他の女子とかに任せた方がいいんだけど……。

 

「それとも、身動きできない女を好き放題するのが君の趣味なのかい? いやーん、鬼畜ぅ──げほげほっ!? また土をかけるなって! ごーめーんーっ!」

 

 

 

 

 結局、放っておけなくなった俺は滋田先輩を掘り出してやった。

 めちゃくちゃ都合よく近くにスコップが置いてあったが、滋田先輩が用意したものだと思い遠慮なく使う。

 

「私の身体に当たらないように掘り出してくれ。キズモノにしたら一生責任取ってもらうから」

「あー、はいはい。一々卑猥に言わなくていいですからっ!」

 

 生首のくせに蠱惑な雰囲気を壊したくないのか、それともただエロい言い回しを使いたいだけなのか。

 変態の両腕が出るところまで掘ってから、後は力づくで引き抜いてやった。

 

「いやぁ、久々の娑婆だ。身体が動かせるのはいいことだね、幡豆君」

「そうですね」

 

 泥だらけの身体のまま大きく伸びをする滋田先輩を、俺は非常に冷めた目で見ていた。

 理由は単純。先輩はジャージを着ていたからだ。そりゃそうだ、全裸女が埋まってたらただの痴女でしかない。

 

「んー? 何を期待していたのかな?」

「別に。俺はこれで」

「あ、そうだ。また助けてもらったお礼にこれをあげよう」

 

 正直に言うのも恥ずかしいので早々に立ち去ろうとすると、滋田先輩はジャージのポケットから何かを取り出して俺に差し出してきた。

 布? なんか生暖かいけど。

 

 

「言ったでしょ。下着は付けてないって」

 

 

 先輩は俺に耳打ちして、行ってしまった。

 改めて渡されたものを見ると、ミント色のブラとパンツが手に収まっていた。

 

「ちょっ、滋田先輩!」

 

 こんなもん渡されてどうしろっていうんですか!?

 そう言う前に、滋田先輩の姿は消えてしまっていた。結局最後まで先輩に振り回されるまま、後には俺と先輩の下着だけが残されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 胸の高鳴りが抑えられない。ようやく、彼に再会できたのだから。

 

「なんだかんだ言って付き合いがいいのは変わらないなぁ」

 

 ジャージの下には一糸まとわぬ私の身体はすっかりと高揚してしまっていた。

 

 

 

 幼き日の私は、地底人がいると信じてあちこちの地面を掘ってまわる変な子供だった。けど、当たり前のように地底人は見つからず、いつしか私自身が地底人と呼ばれて虐められるようになってしまった。

 ある日、自分の掘った穴に身体を埋められてしまったことがあった。身動きが取れず、助けを呼んでも誰も来ない。段々と日が沈んでいき、私は不安で泣きそうになった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 夕焼け空の中で、私に呼びかける声があった。

 少ししか動けない首を向けると、そこには知らない男子の姿。

 

「動けないのか?」

「うん……」

「そっか。今助けてやる」

 

 男子はそのまま素手で地面を掘って、私の身体を抜き出してくれた。

 数時間ぶりに外に出た私の身体はすっかり土塗れになっており、服の中にまで土が入り込んでしまっていた。

 気持ち悪いので服を脱いで土を落とすと、男子はすぐに後ろを向く。この時は子供だったので、なんでそんなことをしたのか分からなかった。

 

「あ、あの……ありがとう」

「いいってことよ。俺は幡豆大空」

「私は──」

 

 幡豆君が名乗ったので、私も名前を言おうとしたところで17時の鐘が鳴る。

 

「やべっ、帰らなきゃ。じゃあな!」

「あっ」

 

 幡豆君はそのまま、私の名前を聞かずに立ち去ってしまった。

 彼は私のことを覚えていないだろうが、私は彼の名前を片時も忘れたことはなかった。

 

 

 

 あれから時は過ぎ、高校3年になった私が再び彼の名前を見たのは図書室の貸し出しカードだった。

 見間違えるはずがない。会ったのは一瞬だったが、私にはとっての特別な名前。

 以来、図書室に張り込んで幡豆君を探し回った。そして、2年の男子がそうだということが分かった。まさかの年下だ。

 

 やっと、会える。だがなんて言って会った方がいい? あの時埋められていたところを助けてもらった女子です、なんて言えば思い出してもらえるのか?

 どうアプローチすべきか悩みに悩んだ末──。

 

「己のコミュ障ぶりが情けなく思える……だが、また幡豆君に掘り出してもらえた」

 

 あの日の再現をすることにした。今度は自分で自分を埋めたのだが。

 あと、男子は年上だと余裕があってエロい女が好きだと言うのを本で読んだので、汚さないよう脱いだ下着をあげることにした。これでもう忘れられることはない。

 結果、私にとっては大成功を収めたのだ。

 

「あぁ、でも少し恥ずかしいな……」

 

 恥ずかしさと、幡豆君と話せた喜びとで思わず顔が赤くなる。

 けど、これで今後幡豆君と話すきっかけが出来たわけだ。

 

「幡豆君……うふふっ」

 

 

 

 

 

 

 翌日。俺は校舎裏に行くと、またあの変な先輩がいた。

 

「やぁ、幡豆君」

 

 今日は埋まっておらず、ちゃんと制服を着ていた。黙って立っていれば、凛々しい美人系だ。口を開かなければ、の話だけど。

 スルーしてベンチに座ると、滋田先輩は俺の方に寄って来る。

 

「いつもここにいるのか? ひょっとして友達いないの?」

「いるけど、一人の時間も大事にしたいだけです。というか、先輩こそなんでここに?」

「暇だから、かな。幡豆君の顔も見たかったし」

 

 割と失礼なことを言いながら、先輩は尊大な態度のまま俺の隣に座ってきた。

 なんで俺に付きまとうんだこの人は。

 

「それで……使ったのかい?」

「何をですか」

「私の下着」

「使ってません! 断じて!」

 

 俺は首を横に振って必死に否定した。まぁ、その、あれだ。ちょっとは使ったけど。

 

「あっははは。幡豆君、顔真っ赤だぞ」

「う、うるさい! この痴女!」

「先輩を大声で痴女呼ばわりとはいけないなぁ」

 

 滋田先輩は何故かものすごく嬉しそうに笑いながら俺をからかってくる。何を考えてるのか掴めないのが無性に腹立つ。

 

 

 

 こうして、俺の日常に地面から生えた女が割り込むことになった。

 

 その後、先輩が掘った穴から謎のロボットが現れたり、地底文明を発見する冒険に巻き込まれることになったりするのだがそれはまた別の話。




君を埋めて

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