寝落ちでクロス   作:浅草一丁目

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エドモントンの戦い

 エドモントン近郊の廃駅では、多くの負傷者が横たわり、アトラやメリビット、サヴァランが懸命に看病し、整備班が修理や弾薬の補給に走り回っている。

 

 鉄華団がエドモントン侵入を阻むギャラルホルンと会敵し、すでに三日が経過していた。

 ギャラルホルンの軍勢を相手に数では劣勢でありながら、一歩もひるむことなく進む鉄華団。

 ろくに休む間もなく、叩いても叩いても立ち向かってくる姿に、ギャラルホルンは恐怖を覚えただろう。……彼らの、正気を失ったかのようなその戦いぶりに。(メリビット談)

 

 

 トレミーで移送したため原作より余裕をもって作戦を進められているが、どうしても犠牲は出てしまう。

 橋を崩して水を堰き止めつつ、敵防衛線の突破口を開こうとするオルガたち突入隊は大凡原作通り。

 

 一方、突入隊を背後から突こうとする敵モビルスーツの迎撃にあたる三日月たち防衛部隊は、原作より厳しい戦いとなっていた。

 原作の戦力に加えて、地球外縁軌道統制統合艦隊の部隊が参戦しているからだ。

 

 当然と言うべきか、その中にはカルタ・イシューの姿があった。

 

「圏外圏の野蛮人にまんまと入り込まれた失態……イズナリオ様のご厚意で許された参戦、何としても果たして見せる!」

『カルタ。いつあの青いのが来るかわからない。今は手筈通り――』

「分かっているわ! 奴らを消耗させようというのでしょう。……マクギリスの献策を無下にするつもりはないわ」

 

 戦力の逐次投入は、いたずらに自軍の消耗を招く愚策だが、数と地理的優位のこの場においては相手に消耗を強いる良策となる。

 そう判断したカルタ、及びエドモントン駐留軍は、まずエドモントンに入るための橋に防衛線を構築。

 足止めをしたところに背後となる都市郊外からモビルスーツが強襲を仕掛け、進攻する敵部隊を駆逐する。

 それを妨害するために敵モビルスーツが現れた場合は、乱戦を避けて包囲。戦闘部隊と待機部隊を状況によって順次入れ替えることで、敵の消耗を強要する。

 それが彼らの狙いだ。

 

『しかし、よくもまぁ保つものだ』

 

 鉄華団側も、途中でエイハブ・リアクターの反応がない青い機体(クアンタ)と交代し、休憩を挟んではいる。

 それでも数的不利の中で継続して戦闘を続ければ、肉体的にも精神的にも消耗は激しいはずだ。

 

 しかし依然として、敵の五機は健在。

 最も疲れの見えるマゼンタ色に染められたグレイズでも、迂闊に近づけば手痛い反撃を受けるだろう。

 

「……あの青い機体さえいなければ、もっと簡単に事は済んだものを。アナタの機体に乗っていた部下は無事なの?」

『ああ。機体の修理が終われば合流させる手筈になっている』

「今度は勝手な突撃は控えてもらいたいものね!」

『分かっているさ。アインも頭を冷やしただろうしな』

 

 むしろ肝が冷えた、と言った方が正しいか。

 

 作戦開始からしばらくして、ガエリオと共に現地部隊と合流したまでは良かった。

 しかし、先んじてアインが戦闘に加わった際に形勢は傾き、マクギリスを待つまでもなく総攻撃かという時に、突如青い機体が上空から襲来。

 退き始める鉄華団のモビルスーツに追撃を加えようとしたギャラルホルンのモビルスーツは、そのことごとくが一瞬のうちに無力化されてしまった。

 

 幸いだったのは、青い機体は積極的に攻勢に出るわけではなく、鉄華団のモビルスーツが戦線を離れている間の防衛役に徹しているようで、ギャラルホルンが引くのをただ眺めているだけだったこと。

 無事アインは回収され、機体もグレイズを改修することでシュヴァルベグレイズとした。

 

『あとは、マクギリスの言っていた増援を待って――』

「一気呵成に叩き潰す! ……待っていなさいネズミども。その首、引き裂いてあげるわ!」

 

 

 

 機を待っているのは、ギャラルホルンだけではない。

 鉄華団もまた、膠着状態の現状を打破すべく、その時を待っていた。

 

 しかし、それを相手に悟られるわけにはいかない。

 変わらず『無策な攻勢を仕掛けている』と思わせるため、絶えずモビルワーカーでの進攻を仕掛けている。

 

 無策でもなければ無謀でもない攻勢だが、衝突すれば犠牲が出るのは必定。

 日に日に負傷者の増えるエドモントン近郊の廃駅から、一人の老人が御付きの者を従えて姿を見せる。

 

「突破できそうかの? 明日の午後には本会議場でアーブラウ代表指名選挙が始まるぞ」

「必ず」

 

 負傷者の介護で側にいたクーデリアは断言する。

 

「だから、あなたは信じてください。あなたが焦り、不安に駆られて言葉を投げかければ……それが彼らを焦らせ、余計な犠牲を生んでしまうかもしれない」

「もちろん信じておるよ。ヤツらならきっと辿り着けると」

 

 クーデリアの窘めるような物言いにも、老人……蒔苗は飄々としたもの。

 しかし、その視線は鋭い。

 

「しかし、儂が急かすまでもなく、流れ出る血は多い」

「……」

「アレが前に出れば、それももっと抑えられるのではないか?」

 

 アレとは、確かめるまでもなく2Bである。

 実際に見たわけではないが、モビルスーツ五機分の働きを一人で補うと聞けば、その力を使わないことに違和感を覚えるのは当然の事。

 

「……それについては、私たちも話し合いました」

 

 ギャラルホルンの壁は厚く、初日を終えた時点でトレミーを別の場所に移していたベルティーナとの通信も交え、彼女たちは会議を開いた。

 そこで決まったのは、選挙当日に一計を講じ、万が一それが失敗した場合には、突入部隊にも彼女が参加すること。

 それが、あくまで鉄華団で護送を遂げたいオルガと2Bの結論だった。

 

「それまでは意地の張りどころ、というわけか。結構結構。その覚悟、特等席で見せてもらうことにしようかの」

 

 

 ☆

 

 

「これが、私たちとギャラルホルンの現状」

 

 トレミーの一室で、俺は一人の男性と面会していた。

 

「……君は、その戦場にアインが戻って来ると?」

「来る。上官のガエリオ・ボードウィンがあそこにいて、相手は鉄華団。一度は私が撤退させたけど、彼は必ず戻ってくる」

 

 二度と上官を失わないために。

 何より、敬愛していた上官の仇を討つために。

 

 言わなくてもそれを理解しているのか、男性は沈痛な面持ちで目を伏せる。

 

「……私に、何をさせたい」

「その問いに答える前に、聞かせてほしい」

 

 断る気はないのか、目を開けてこちらを仰ぎ見る男性に、俺は言う。

 

「アイン・ダルトンは今、憎しみで動いている。情けをかけてくれた相手を、無慈悲に殺した鉄華団が憎い。それどころか機体を奪い、我が物顔で使う鉄華団が憎い」

「それはっ……」

 

 悪し様に捉え、敵を憎もうとしている。

 それが分かったのか、男性の表情にも苦いものが混じる。

 

「彼がかつての上司を敬愛していたのは、紛れもない事実だと思う。でも、今の彼は鉄華団を、三日月・オーガスを殺す口実に、その怒りを使っているにすぎない」

 

 だから、殊更悪い方に考えて、相手は倒すべき敵なのだと、殺されても仕方ない存在なのだと考えようとしている。

 そもそもの発端、クーデリアへの対応やCGSの襲撃に、正当性があったかどうかには目を背けて。

 

 それを踏まえた上で、俺は男性に問いかける。

 

「あなたはどうしたい?」

「……決まっている」

 

 その表情に、沈痛さが含まれているのは変わらない。

 でも、それ以上の強い意志を、今の眼差しから感じられた。

 

「阿頼耶識なしでも使えるマン・ロディがある。戦場に出るのなら、それを使って」

「助かる。……リハビリも兼ねて少し動かしたいが、いいだろうか」

 

 勿論。

 そう答えようとした瞬間、通信が入った。

 通話ではなく単純に合図を送ってきたその通信は、ギャラルホルンのモビルスーツ部隊が、一気に仕掛けたことを示している。

 

 上空で待機させているサバーニャからの映像を確認すると、カルタやガエリオも攻撃に加わっているのが見て取れた。

 そして、アインが乗っているであろうシュヴァルベグレイズも。

 

「申し訳ないけど、その猶予はなくなった」

「仕方あるまい。……いや、いつまでも決断しきれなかった私の不徳だ」

 

 起きたタイミングが地球に来てからだったから、それは仕方ないと思いますよ、という言葉は胸中で留めておいた。

 もうちょっと早く……具体的にはドルトコロニーで色々やってる時に起きてくれたら、一番都合がよかったんだけどね。

 

「じゃあ、行きましょう」

「ああ」

 

 そんなわけで、突撃☆隣の戦場。

 

 

 

 

 現場に到着する頃。

 オルガの方は、計画通り行動を開始していた。

 

 これまでの戦闘で鉄華団の戦力を把握したと考えているギャラルホルンは、一気に攻勢をかけるモビルワーカーを見て、総力戦を仕掛けてきたと考えるだろう。

 でも、それは囮。

 別方向から進入する別動隊……宇宙から降りて合流した、イサリビ居残り組のモビルワーカーに護衛され、蒔苗氏は会議場に向かってる。

 

 そちらが順調なのに対して、鉄華団のモビルスーツ隊は少し拙い状況だ。

 

 何が拙いって、分断されてるのが一番拙い。

 阿頼耶識組はその特性を生かし、タービンズからの出向組は分断されることなく二機で組み上手く凌いでるけど、圧倒的多数による攻勢に劣勢を強いられてる。

 

 特に三日月はガエリオやカルタ、アインといったメンバーにも狙われ、それでも戦えているのは、赤い機体……グリムゲルデが巧みに立ち回っているからだろう。

 っていうか普通に介入してるんだね、マッキー。

 どう考えてもここでガエリオやカルタを倒せる機会だとは思わないけど、鉄華団を何かと気にかけてたし、ここで倒られたら困るっていう判断なのかな?

 

 結構カオスな戦場を確認して、追随するマン・ロディから通信が入る。

 

『ベルティーナ・ビアンコ、どう介入する?』

「取り敢えず、彼を引き離す。あなたはここで待機して」

『了解した』

 

 GNガンブレイドを両手に持ち、敵機の足を止めるための牽制をしながら戦場に介入する。

 

『チッ、青いのが来たか……ぐあっ!』

 

 自分がこの場で最も操縦技術が高いと自負しているからか、真っ先に突っ込んできたキマリスを蹴とばして、対応されないよう無理矢理距離を開ける。

 

『ベルティーナ?』

 

 まだ本人としては援護をされるほど逼迫した状況ではないからか、通信を通して三日月がこちらの意図を尋ねてくる。

 

「少しやることがある。戦闘を続けて」

『わかった』

 

 やることがはっきりしてる方がやりやすい。

 そう当人が語っている通り、余計な情報を伝えず簡潔に答えると、三日月はそのまま何事もなかったかのように戦闘を続ける。

 マッキーは……混乱しているようだけど、無難に戦闘中か。

 なら、敵が足を止めているうちに事を進めてしまおう。

 

『角付きィ……! なっ!?』

 

 ゴッドフィンガーじゃないけど、頭部を鷲摑みにしてシュヴァルベグレイズを投げ飛ばす。

 そのままこちらも加速し、宙に浮いた機体を掴んで戦場からある程度離れたら、距離をとって動かないよう銃口を突きつける。

 

『貴様ッ……なんのつもりだ! 宇宙ネズミどもの仲間か!?』

 

 俺が何を言っても意味はないだろう。

 ということで、マン・ロディが到着するのを待つ。……という程待つこともなく、すぐに駆け付けた丸めの機体に、シュヴァルベグレイズは警戒を露わにする。

 

『誰だ!? 邪魔をするなら――』

 

 こちらにも注意を払いながら、アインは目と鼻の先に足を止めたマン・ロディに銃を向けようとして、

 

『…………私だ、アイン』

 

 マン・ロディから発せられた言葉に、その動きを止めた。

 周囲にまで伝播するほどの怒りは既になく、目には見えなくとも、困惑が彼を支配しているのが手に取るように分かった。

 

『ク……クランク二尉……、なのですか?』

『そうだ。お前の前に姿を現すのが、これほど遅くなってしまったこと……すまなく思っている』

 

 言いながら、マン・ロディのハッチが開く。

 戦場にあっては愚行とすらいえる行為だが、勿論彼らの邪魔をさせるつもりは毛頭ない。

 アインを助けるためか、追いかけてきたグレイズを即座に無力化し、飛んでくる実体弾をGNガンブレイドのガンモードで消し飛ばす。

 勿論、話を拗らせないため殺しはしない。

 

「……すまない、ビアンコ」

『もとは私の我儘だから。後はあなたのご随意に。クランク・ゼント』

「……礼を言う。……アイン。私は生きている」

 

 姿を見せたクランクさんを認めたのだろう。

 

『あ、……ぁあ……!』

 

 嗚咽を漏らしながら、シュヴァルベグレイズもまたハッチを開く。

 邂逅した二人の周囲から邪魔になりそうな戦力を排除して、こちらの合図をクランクさんが見て取ったことを確認してその場を離れる。

 彼らなら、きっと大丈夫だろう。

 

 

 

 問題があるとすれば、もう一方の拗らせた人たち。

 それと、

 

『ククククーデデデリアはどど、どこだぁァアアアアア!!』

 

 アインがいるのに、暴れまわってるグレイズアイン(?)。

 

『なんなのコイツ!!』

『ラフタ!』

『ワワ若造どもモがぁァ、邪魔ヲするナぁああ!!』

『アジー!? 味方ごと攻撃するなんてっ……!』

 

 昭弘やシノだけでなく、味方もなぎ倒すように現れた阿頼耶識搭載型グレイズ(仮)に、ラフタさんが戸惑い、咄嗟に守りに入ったアジーさんが吹き飛ばされる。

 

 この感覚……、中にいるのってコーラル・コンラッドか?

 三日月の攻撃で死ななかったけど、この世界ではアインが健在だから、その代わりに阿頼耶識の研究にマッキーが使った、ってところかな。

 

 なんてことを考えてるうちに、ラフタさんを殺そうと大型アックスを振り上げていた。

 その足を蹴飛ばし、転がっているうちにラフタさんの機体を回収。

 

「ラフタ、無事?」

『ベル!? 助かったよぉ……!』

 

 あれ気持ち悪くてさぁ、と死にかけたこととは別の方向性で参っているラフタさん。

 起き上がり、こちらに敵意を剝き出しにするグレイズコーラル(仮)は、その動きをぴたりと止めた。

 かと思うとこちらから視線を外し、頭部をあらぬ方向に向ける。

 

 その方向は、エドモントンの市街地。

 

「あ」

『何!? どこ行ったの!?』

 

 そちらに跳んでいったグレイズコーラルに困惑するラフタさん。

 エイハブ・リアクターを搭載しているMSを、ギャラルホルンが市街地に向けるとは思わなかったんだろう。

 

「蒔苗氏とクーデリアが議事堂に向かってることを、どこかで聞いたのかも」

『聞いたのかも、じゃないよ!? 止めないとっ!』

 

 ラフタさんが追いかけようとして行かなかったのは、損傷した漏影ではグレイズコーラルの速さに追いつかないと思ったからか。

 

「……三日月に行ってもらう」

『なんで!? 君が行けば――』

「鉄華団が、あの機体を止めることに意味があると思うから」

 

 そう告げれば、反論は返ってこなかった。

 

「三日月のところに向かう」

『わ、わかった!』

 

 辺りの敵機は無力化や損傷に留めてラフタさんに任せ、三日月やマッキーたちの戦場に向かった。

 

 

 




コーラルだとマッキーに怒りを向けそうですが、
「身体は損傷が大きく、回復には時間がかかる(できるとは言ってない)。その間に、あなたをこんな目に合わせたクーデリアを逃がしてしまうのはあなたの本意ではないでしょう。だから、まずあなたの復讐を果たせる身体を用意した」(暗黒微笑)
みたいな感じで志向操作して、クーデリア絶対狙うマンに仕立て上げた感じです。
汚いさすがマッキーきたない。

他に思いつきませんでした(本音)
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