地球には下りず、侵入したコロニー内で適当な端末にハッキングをかけたところ、この世界がポストディザスター……鉄血の世界であることが判明した。
なるほど、確かに円柱の両端にある集光ミラー(?)が大小のパラボラアンテナのような形状をしていて、既視感を覚えたのはゲームで見ていたからか。
というか、鉄血世界か……。
「まさか、クランク二尉の呪い……?」
殺しまくったからなあ……。
バンナムの呪いよりありそう。
なんて益体もないことを考えているうちに、ゴシップ情報誌の一文が目に入る。
「クーデリア・藍那・バーンスタイン。独立運動の一環として、アーブラウ首長との交渉を計画か……?」
これって、もしかしなくてもハーフメタルの貿易自由化を目指すっていう、本編一期の内容じゃなかったっけ。
しかも、この書き方はまだ未確定な情報として扱っている。ゴシップ記事なのは、地球行きは秘密裏に行われるはずだったし、加えて名前が認知されてない地球圏だからだろう。
それが示すのは――、
「まだ、本編が始まったばかり……もしくは、まだ始まってない?」
鉄血のオルフェンズは、クーデリアが地球へ行くための護衛を依頼するため、火星の民間警備会社『CGS』に訪れるところから物語が動き出す。
クーデリアの活動を疎む彼女の父親が、武力組織『ギャラルホルン』に彼女を売り、反乱の芽を摘むため(という名目で、実際はノブリス・ゴルドンっていう武器商人から火星支部の長が金をもらうため)CGSは彼の組織による襲撃を受ける。
その際、これまで使い捨ての道具として扱われてきたCGS所属の元孤児たちがまさに捨て駒として扱われ、これをきっかけに彼らが反乱を起こす。
その元孤児たちの頭目が主人公の一人オルガ・イツカであり、先述の襲撃をガンダムを駆って撃退したのが、もう一人の主人公、三日月・オーガスだった。
彼らの躍進の切っ掛けとなるのがクーデリアの護衛依頼であり、破滅の切っ掛けとなるギャラルホルンとの因縁も、襲撃の撃退から始まっている。
なら、その両方を止めることができたら?
金なら十分ある(グレイズなら一千万は軽く揃えられるだけの金額に換算されてる)し、主人公たちを買い取り、別の会社を立ち上げることだってできるだろう。
「……取り敢えず、行ってみよう」
ギャラルホルンの施設に忍び込んだりして一通り調べたけど、俺のような存在や、ここに来た原因なんかは見つからなかった。
一般に公開されてない情報があるとすれば、四つの経済圏の中央政府かギャラルホルンの本部……地球のヴィーンゴールヴと火星軌道基地アーレスくらいか。
バエルも気になるけど、そちらにかまけて状況を逃したらマッキーの二の舞だし、始まっているにせよ始まるにせよ、さっさと火星に向かった方がいい。
「まずアーレス。それからCGSかな」
水や食料をたんまりと買い込み、火星に向けて出発した。
☆
二つの鋼の巨人が得物を打ち合う。
白の機体が振るう巨大なメイスは、その大きさに見合った強烈さと、それに見合わぬ精密さと反応速度をもって緑の機体に迫る。
「く……、これが子供か……!」
クランクは、困惑と悲観に僅かな感嘆を混ぜて唸る。
厄祭戦終結の立役者と言えど、所詮は旧式。
初戦のような油断や慢心がなければ、兵器としての完成度で勝るグレイズなら勝ちを得ることは可能だ。
……そう考えていたこと自体が慢心だったのか。
「言っとくけど、俺は犠牲になんてなってないよ」
スピーカーを通して発せられ、機体が拾う少年の言葉は、先に自らの発した「大人のための犠牲になることはない」に対する答えだろう。
「ぬぅ……」
庇護されるだけの存在ではない。消費されるだけの存在ではない。
自身の言葉を否定する言葉に反す言葉を見つけられないクランクに、少年は言葉を続ける。
「俺と俺の仲間のために、できることをやってるだけだ。で、今は……取り敢えずあんたが邪魔だ!」
突き出されるメイスを、クランクは機体の左腕を犠牲に受け流し、右手のバトルアックスを振るう。
メイスの柄は切断され、その衝撃で宙を舞った。
飛来した柄が轟音と共に土埃を上げようと、二機の決闘を見つめる長身の少年の目は揺らがない。
「うおおおぉぉぉ!」
得物を弾き飛ばされ、片膝を突く形で後退した白の機体に、クランクは雄叫びを上げながらバトルアックスを振り上げる。
白の機体は、しかし無手ではなかった。
「っ!」
その左手に掴まれているのは、先程飛ばされたはずのメイスの穂先。
突き出されたそれは、緑の機体に衝突した瞬間に内部機構を作動させ――、
「ぐぅっ!」
胴体を貫き、緑の機体はその動きを止めた。
――決着。
少し離れた位置からその様を見届けて、長身の少年は言葉を紡ぐ。
「鉄華団」
「え?」
戸惑う声を上げたのは、傍にいた少女。
その声に応えるように、少年は言葉を続けた。
「俺たちの新しい名前。……CGSなんてカビ臭い名前を名乗るのは、癪に障るからな」
「てっか……鉄の火、ですか?」
「いや、鉄の華だ」
言いながら浮かべるのは、不敵な笑み。
「決して散らない、鉄の華」
勝敗は決しても、白の機体に油断や慢心はなかった。
パイルを引き抜き、頭部を破壊しつつ引き倒し――、
「……あ」
その時点で、ようやく操縦席の少年は相手の状態を認めた。
制服の右半身にはべっとりと血が付着し、脇腹を支えるようにして痛みに顔を歪める操縦席の男……クランクは、白の機体から躍り出た少年を見て、笑みを零した。
それは大言壮語を吐きながら子供に負けた自身への嘲りか、それともクーデリアを含め子供を手にかけずに済むことへの安堵か。
「……本当に、子供なんだな」
その言葉に今更掛け合う意味はない。
そう断じるように、クランクを睥睨する少年は問う。
「なぁ、俺が勝った場合はどうなんの?」
少年は、それが最初から気になっていた。
「あんた、それ言ってなかっただろ。……気に食わなかったんだ」
決闘なんて手を選びながら、お前が勝つことはあり得ないと言われているようで。
だが、それは誤解だった。
「ふ……すまない……、馬鹿にした、わけじゃないんだ」
可愛げのない戦いをしながら、存外子供らしいところもある。
そんなことを想いながら、クランクは少年に謝罪する。
「その選択を、俺が持たなかった……、それだけだ……。俺は、上官の命令に背いた……。何の土産もなく帰れば、俺の行動は、部隊全体の問題になってしまう……」
それでも、子供を手にかけたくはなかった。
だからこそ。
「……だが、ここで俺が終われば、責任は全て俺が抱えたまま……うっ! がはっ!」
「もういいよ。しゃべらなくて」
納得したわけではない。
むしろ先程の戦闘が無駄な行為に思えて、さっさと切り上げてしまいたかった。
だが、それも叶わなかった。
「すまんが、手を貸してくれないか……」
「あ?」
「俺はもう……自分で終わることすら、できない……」
「……はぁ」
何を言い出すかと思えば。
どうせそのうち死ぬ命。それでも、苦しませずに殺すのも情けか、と面倒臭げに頭を掻いた少年だが、ふと手首に巻いたミサンガが目に入った。
幼馴染の少女、アトラに貰ったそのミサンガは、嗅げば彼女の纏う香りがして、心が穏やかになるような気がする。
そんな代物だから、だろうか。
――アトラに見せるようなものじゃない。
ふとそんな考えが頭に浮かんで、少年はミサンガを身体で隠しつつ銃を構えた。
その光景を見て、クランクは呟く。
「ありが――」
ありがとう。
そう言い終える前に響いた銃声。
「……え?」
「なっ……!?」
少年、そして決闘を視ていた全ての人間が、困惑の声とともに驚愕に目を見開いていた。
少年には、それが青い壁に見えた。
他の者たちには、空中で静止する青と半透明な緑で構成された人工物に見えた。
次いで辺りに降り注いだ光が衝撃と土埃を巻き上げ、彼らの視界を奪う。
「ギャラルホルンの攻撃!?」
慌てふためく少年たちを他所に、既に白い機体に乗り込んでいた少年――三日月・オーガスは、土埃を払い周囲を素早く窺う。
「……?」
しかし、空からの追撃はなく、センサーにも反応は無し。
「……なんだったんだ?」
その問いに答えられる者はおらず、
「……あれ? いなくなってる」
その時に至り、ようやく三日月は緑の機体、グレイズのパイロットが姿を消していることに気が付いた。
☆
やってもうた。
トレミーの医療ポッドに横たわる男性から視線を外し、俺は現実逃避気味に宙を仰いだ。
一か月ほどかけて辿り着いた火星を探し回ったら、そこではなんとバルバトスとグレイズが決闘しているではありませんか。
どうする!?
クランク二尉パンパンしちゃったらもう色々決まっちゃうじゃん!
と色々悩んで……いたつもりが、気付いたらクアンタに乗っていた。
そこからはもうやったれ! って勢いのままソードビットで三日月の銃弾からクランク二尉を守り、上空に待機させていたサバーニャのライフルビットをハロに撃たせて視界を奪っているうちに離脱した。
火星に来るまで慣熟訓練はしていたおかげか、救出は異常な程上手くいったけど、クランク二尉が治るかどうかは正直わからん。
……でも関わってしまったからにはしっかり関わっていくべきだ。
そんな気がする。
「なら、まずは交渉しないと」
服は2Bのいつもの服装。他のものも買ったのに、身体が拒むように着れなかった。
主人公(のメンタル)は死んだ。