どうもこんにちは、おあずけかと思ったらそうでもなかったベルティーナ・ビアンコ、略して2Bがお送ります。
慣熟訓練でデスティニーに乗ってたら、なんとなく戦場に行かなきゃいけない気がして、向かったらそこにはモビルワーカーが漂っていましたとさ。
拾ってみたらビックリ。ユージンが乗ってるじゃあありませんか。
まぁあの状況だとユージンしか乗ってなかったはずけどさ。
ということで、ハロに連絡させてイサリビと合流した。
デスティニーに乗ったまま着艦し、格納庫でオルガや主だった面々と対面する。
奥でモビルワーカーのハッチを開放する作業をある程度見遣ってから、オルガは改めてこちらを向いた。
「ユージンを拾ってくれたこと、感謝する」
差し出された手を握り返し、できるだけ朗らかになるよう表情と言葉を選ぶ。
「気にしないで。人として当然のことをしたまで」
ファラ・グリフォンだって漂流で狂っちゃったしね。いい人だったのに。
「そうはいかねえ。恩を受けておいて、それを返さねえのは筋が通らねえ」
おっふ。
これっすよこれ。団長はこうじゃないとね!
「なら、イサリビの中を見せてほしい」
「イサリビを?」
「そう。もちろん、見せられる場所だけでかまわない」
思案する時の彼の癖、片目を瞑ったままこちらを見、それからオルガは口を開いた。
「わかった。悪いが、監視は付けさせてもらうぞ」
「正直ね。案内役とでも言っておけばいいのに」
思わず言ってしまってから睨まれているのに気づき、肩を竦める。
「ミカ、頼めるか」
「わかった」
「三日月・オーガスね。よろしく」
「ん」
軽く握手して、大勢の目に追いかけられながら格納庫を後にした。
「あの外の、あんたのモビルスーツもガンダムなの?」
適当な場所に向かいながら、ついでのように三日月が訪ねてくる。
「そう。といっても、君のバルバトスとは少し違うけど」
「やっぱりそうなんだ。皆驚いてたよ。エイハブリアクターの反応がないって」
「動力が違うからね」
「へえ」
そんなふうに話しながらひとしきり回ったところで、彼とごく普通に話している自分にふと気づいた。
というより、むしろ三日月の方が普通過ぎるというべきか。
「三日月は私を警戒しないんだね」
「うん。あんたは大丈夫かなって」
まぁ、変なことするなら容赦はしないけど。
そう言って拳銃を見せる様も三日月らしくて、つい笑いが零れた。
「こんなもんだけど……なんでイサリビを見たかったの?」
「ただの興味。知識で知ってるのと、直に目で見て触れて、体験して知ってるのは別のことだから」
「ふぅん……そうなんだ」
実際、鉄華団やその家族と触れる時以外の三日月は、表情や態度の変化に乏しいイメージだったけど、こうして接してみて纏う空気……雰囲気みたいなものが結構変わって分かりやすいことがわかった。
「良い船だ。家みたいで、暖かい」
「そう? 他の船に乗ったことないからわかんないけど」
そうだったら嬉しい。
そう言いたげな空気を纏って、彼は忙しない格納庫を見下ろしていた。
その後、三日月に連れられて向かったのはブリッジ。
最初に発言したのは、テーブルタイプのモニターを挟んで対面したオルガだった。
「あんたの会社は商社だったよな? 何を扱ってるんだ?」
「色々。物、情報。条件さえ合えば何でも売るし、人だって運ぶ」
「情報?」
気になったのか、口にしたのは小太りの少年。
「そう。ビスケット・グリフォン」
「僕の名前まで……」
そりゃあメインキャラクターですから!
痩せて刀を持ってみないかい? 長男じゃないけど妹が二人もいるし、頑張ればヒノカミ神楽だってできる気がするんだ。
そしたら、俺は生殺与奪の権を他人に握らせるなって言うんだ。マッキーには言わせねえ。
「あの機体は?」
「あれは売り物じゃない」
ぶっきらぼうになってしまう話し方を、努めてやんわりと言ったつもりだった。
でも完全な拒絶の意思が伝わったのか、場の空気がわずかに張り詰めてしまった。
「というより、武器や兵器は売買しない」
「そうか」
これまでのは話の切っ掛け。本題はここから、とばかりにオルガは言う。
「ならあんた、テイワズとツテはないか」
「……テイワズを後ろ盾にしたい、と?」
「……話が早くて助かる」
先の戦闘でギャラルホルンと完全に事を構えたことで、鉄華団は案内役だけでなくギャラルホルンに対して牽制となるような後ろ盾が必要となってしまった。
その最有力候補となるのが、木星圏を拠点とする複合企業であり、その実態は地球にも影響力を持つマフィアである〈テイワズ〉。
しかし、そんな組織が子供ばかりで構成される新興企業を相手にするとは思えない。
だからなんとかツテが欲しい……ってところだったか。
「申し訳ないけど、取り扱いはない」
「んだよ使えねえ……」
「ちょ、ユージン!」
あからさまに失望するユージンを、ビスケットが諫める声を上げるが、誰もが似たような感情を抱いている。
まあ、そのくらい藁にも縋りたい気持ちなんだろう。
「ツテの取り扱いはないけど、一つ情報がある」
「情報?」
「そう。もちろんお代はもらうけど」
懐事情が厳しいからか、お代と言った瞬間に面々の顔が曇る。
いや、三日月やシノは変わってないわ。
シノに至っては地肌の見えてる胸元と裾のスリット(?)しか見てねえ。わかるよ。
「えっと、幾らくらいなんでしょうか……」
「安心して。借金まみれになる程のものじゃない」
「聞かせてくれ」
「おいオルガ!」
止めようとする声にも目を向けず、オルガはじっとこちらの目を見据えている。
やべぇ、下手なこと言ったら信頼度マイナス吹っ切れそう。
「マルバ・アーケイ」
「……マルバ? あのおっさんがどうした」
「彼は今、とある艦に乗り、鉄華団を探してる」
とある艦? というビスケットの反芻に頷きを返し、言葉を続ける。
「タービンズ」
「……誰だ?」
「……テイワズ直参の組織だ!」
「何!?」
自身のもつ情報を確認するためか、タブレットで調べたらしいビスケットが、驚きつつその内容をオルガに見せる。
テイワズ直参の組織と接触するチャンス。
だが、そう考えるには情報が少なすぎる。
「なんでマルバのおっさんがそんな艦に乗ってる」
「これ以上は別料金」
「なっ、てめぇ!」
ユージンが牙を剥くけど、これ以上話すと原作の時のようなやり取りがなくなっちゃう気がするしね。
「ということで、さっきの情報料だけど……」
そこで留めると、ゴクリ、と生唾を飲む音が聞こえた気がした。
どんだけふかっける人間だと思われてるんですかね。
取り敢えず、三日月の方を見てニッコリと微笑む。
「火星ヤシ、一つもらえる?」
「いいよ」
貰ったものを口に含むと、微妙に甘酸っぱい、ドライフルーツのような食感だった。ちょっとねっとり感が苦手な人は苦手そうかな?
ハズレじゃなくてよかったと思う一方、そっちを食べてみたかった気もする。
「は? そんなんでいいのかよ」
「三日月! 袋ごとくれてやれ! んでもってもっと吐かせろ!」
「味はわかったし、もういらない。ごちそうさまでした」
それ以上は何も教えるつもりはなかったけど、ユージンがうるさかったので最後に一つだけ教えることにした。
「これは情報ではなく、助言。だからお代もいらない」
「助言?」
「ええ」
一度頷き、ブリッジにいる全員を見回してから最後にオルガを見て、告げる。
「覚悟を見せろ」
ぽかんと目を瞬かせる面々に笑いかける。
「それが、歩みを進める原動力になる」
☆
「あの女……」
毎度毎度、意味深なことばっかり言いやがって。
言われた方は否が応でも言葉の意味について考えてしまい、ビスケットなどは一日中唸っている有様なのだから、そう愚痴りたくもなる。
それだけではなく、真っ黒で妙にひらひらとして、胸元や背中が開いた服装のせいで、妙に浮足立つ者まで出る始末。
次があったら他の服で来てくれと言ってはみたが、「これしかない」と答えたことには、オルガだけでなくクーデリアなども言葉を失っていた。
(いや、そんなことはどうでもいい)
そう断じて考えを戻すのは、タービンズ。
ビアンコ(2B)との会談の後に調べれば、様々なことがわかった。
今気にすべきことは、武闘派で名の通った組織だということか。
――覚悟を見せろ。
そう言うからには、衝突は避けられないのではないか。
ビスケットは交渉で話を纏められないかと頭を働かせているが、口先の言葉だけで覚悟が伝わるとは思えない。
万が一を考え、ビアンコに赤い羽根付きの機体で力を借りられるかを聞こうとしたが、
「力を貸すことは吝かじゃないけど、今回に限っては、鉄華団で乗り切った方がいい」
と別れ際に告げられてしまい聞くことすらできなかった。
こちらの考えを見透かすような物言いに、なんでも知っているかのような知識量。
だが、ミカはあの女を警戒している様子はなく、むしろ気安く接している節がある。
どこかぶっきらぼうな者同士、通じるものがあったのだろうか。
「何者なんだ、あいつは」
いや、と再び逸れそうになった思考を、オルガは小さく頭を振って切り替える。
今考えるべきは、ビアンコではなくタービンズ。
最近、クーデリアが年少組に文字を教え初め、それを三日月も習って自身の夢……ビスケットの祖母のような農場を経営したいという夢に向かって前進している。
とことん突っ走る。やっとできた自分たちの居場所を守ると決めたのだから、迷っている暇はない。
「……覚悟、か。やってやろうじゃねえか」
腹を括ったちょうどその時、艦に警報が響いた。
ブリッジに辿り着いたオルガを出迎えたのは、通信管制を務めているフミタン・アドモスの声だった。
「団長、他船から停止信号です」
「他船……。位置は?」
「不明です」
不明だが、思い当たる節のあるオルガ、ユージン、ビスケットは互いに目配せをして、来る時が来たのだと確かめ合う。
そして、
『ガキどもよお! 俺の船を返せ!』
怒声とともに、正面モニターいっぱいにかつての社長……マルバ・アーケイの顔が表示された。
☆
無事、というべきか。
鉄華団とタービンズの戦闘が始まった。
進路と速度を変えず艦首だけ回頭し、正面から撃ち合うイサリビとタービンズの母艦ハンマーヘッド。
昭弘はアミダさんとアジーさんの両名を足止めし、三日月はラフタとの高速機動戦に入る。
昭弘のグレイズは阿頼耶識もなく、何より本人が経験不足なこともあり、経験豊富な二人に終始翻弄される。
バルバトスはラフタの機体に出力で劣り、何より整備不良。イサリビを守らなければならない状況での高速機動戦に三日月も苦戦する。
後で待ち受けているキマリスとの戦闘でも三日月は苦戦していたし、一撃離脱の高速機動戦が苦手なのかもしれない。
そんな中、劣勢な戦況を変えたのはイサリビだった。
ミサイルにスモーク弾を混ぜ、炸裂した際にハンマーヘッドの視界を奪っている間に突撃。
二隻の艦が交錯し、再び距離を開けようとするイサリビに追撃しようとするハンマーヘッドは、艦内の異常に騒然とする。
イサリビの突撃は衝突や接近戦、初戦のような逃走を狙ったものではなく、交差する瞬間に取りついて内部に侵入。
白兵戦を仕掛けるためのものだった。
その戦いぶりと、戦闘中に明らかになった鉄華団の子供たちに対するマルバ・アーケイの所業が自らの口から発覚したことで、タービンズの代表、名瀬・タービンは鉄華団との交渉を受け入れ、戦闘は終了した。
彼らは、見事にその覚悟を示したわけだ。
そして、交渉成立(しただろう日)から数日後。
次は歳星でテイワズの代表マクマード・バリストンとの面会と、鉄華団とタービンズが盃を交わして……、と考えていたところに通信が入った。
正直暇な時間が結構あったから、商会としての仕事も少し始めていたからそれ関係かな、と思ったら開けてビックリ。
「まさか、貴方からお招きいただけるとは思いませんでした。名瀬・タービン代表」
「そう畏まる必要はねえよ。ベルティーナ・ビアンコ?」
「ではお言葉に甘えて」
ハンマーヘッドの応接間で、名瀬のアニキと握手を交わす。
隣にいるのは女傑、アミダ・アルカさんか。
「アミダが美人なのはわかるが、俺よりアミダが気になるか?」
「失礼。二人の仲睦まじさは有名だけど、美男美女というのも噂以上だった」
「はっ。よく回る口だ」
悪い気はしねえがな、とニヒルに笑う名瀬のアニキ。
もっと話していたいが、歳星に着くまでという時間制限がある以上、世間話ばかりしてもいられない。
「話があるとか」
「ああ。ウチにマルバがいることを知ってたってオルガに聞いてな。どこでその情報を仕入れたか――」
「申し訳ないけど、情報源は明かせない」
「――まぁ、そうだろうな」
元々聞くつもりはなかったのだろう、一度苦笑を浮かべてから、名瀬さんは改めて表情を引き締めた。
「あいつらの状況を知りたい。客観的な位置で近くにいたお前なら、色々知ってるだろ?」
「わかった。さすがに彼らを取り巻くすべて、とは言えないけど」
そう前置きを置いて、口頭で説明する。
ギャラルホルンがクーデリアを狙う理由。ギャラルホルン内の、鉄華団に対する印象や個人の抱いている感情。
これまでに起きた戦闘の経緯を含めて説明すると、名瀬さんはソファに身体を預け、難しい顔をする。
「ノブリス・ゴルドン……オヤジ並の大物が引っ掻き回した結果か……」
ぶっちゃけ話過ぎたかもしれない。
だって名瀬のアニキだよ?
テンション上がるに決まってんじゃん。ビスケットもだけど、この人たちを死なせる気はない。全くない。微塵もない。毛頭ない。
イオクが手を出すなら月光蝶で分解してやんよ。おかわり(フォトントルピード)もいいぞ!
おっといけない。今はイオクの処刑法よりノブリスだ。
「ゴルドン氏は、義理や人情ではなく利で動く人間。クーデリア嬢や、鉄華団に金を出せば利益になる。そう考えているうちは利用できる」
「! ハッハッハッ! 利用するたぁ大きく出たな!」
快活に笑い、名瀬さんは先程までの重い雰囲気を一切感じさせずに言う。
「請求は後で送ってくれ。口座に振り込んどくわ」
「満足してもらえたなら何より。必要であれば、先程の情報もデータで送るけど」
「頼むわ。ことが事だ。こっちでも裏付けはしておきたい」
「了解」
商談成立、と再び握手を交わし、話題は世間話へ移った。
「お前さんのところの艦は珍しい形をしてるな。厄祭戦時代のものとも、ギャラルホルンのものとも違う」
「あなたたちの艦とは、設計思想が違うから」
「ほう?」
興味を引いたようなので、話を続ける。
「プトレマイオスは、単独であらゆる環境下での作戦遂行を目的として設計されてる」
「なるほどな……エイハブ・リアクターを積んでないから、隠密行動も容易ってわけか」
「御明察」
言っていいのかよ、と笑う名瀬さんとそれからも話を交わし、その場を後にする。
「お前さんも歳星に来るか?」
「……そうね。ご一緒させてもらおうかな」
ちょうどいいと思い、トレミーに戻ってイサリビやハンマーヘッドに同行することになった。
さすがにこちらの艦には乗せられないけど、イサリビに乗ってオルガやミカ、ビスケットと話したり、ハンマーヘッドに乗って赤ん坊の玩具を作ったりした。
その中で、鉄華団と業務提携(要は両社が一方に属さずに協力体制をとること)の話が出たり、ビスケットやダンテにハロを売ってくれないかと強請られたり、実に充実した日々を過ごした。
そして辿り着いた、大型惑星間巡航船「歳星」。
商業施設を見て回ったり、ハロでハッキングを仕掛けたり、市場の動向を調査したりしているとあっという間に時間は流れ、オルガと名瀬さんによる義兄弟の杯は無事に終わったと耳にした。
次はブルワーズとの戦闘かぁ、なんて考えていたのも束の間。
「急に呼びだして悪かったなぁ」
「いえ、お会いできて光栄です。マクマード・バリストン代表」
なんかテイワズの代表、運昇さんにお呼ばれしていた。
「お前さんのことは名瀬や鉄華団の連中から聞いてる。随分と、いい目と耳を持ってるようだな」
「地球圏まで影響力を持つ、テイワズの代表にそう評していただけるなら光栄です」
「で、お前さん、何を狙ってる」
その言葉は、まるで抜き身の刀を首元に突きつけるような鋭さを持っていた。
「狙い、ですか?」
「そうだ」
マクマードさんは手にしていた葉巻を咥え、一拍置くようにふかしてこちらを見据える。
「欲ってのはあって当然のもんだ。人ってのは欲があるから生きていけるもんだからな。だからこそ、その欲ってもんを通して為人がわかる」
だが、とその視線に鋭さが増す。
「お前さんは、その欲ってやつが見えねえ……不気味なんだよ。お前さんは。そんな奴が、息子とその兄弟の周りをうろついてやがる。警戒するのは当然だろう?」
「……なるほど。理解できます」
「で? お前さんの狙いは何だ。まさか、純粋な善意……無欲とでもいうつもりか?」
「それは……さすがに違いますが」
善意ではあるつもりだけど、無欲と言われると否定せざるを得ない。
「むしろ、私は強欲です」
「ほう?」
あるべき姿を捻じ曲げ、辿るべき道を破壊する。
大義や道理でもなく、ただ「自分がしたいから」というだけで物語を変えようとしてる。
「私の狙い……私の目的は、運命をぶっ壊すこと」
「ほう……運命ときたか」
「マクマードさん、私はね」
ハッピーエンドが好きなんだ。
好きなキャラクターが、みんな笑って終わるハッピーエンドが。