分かりづらかったら申し訳ありません。
「俺たちの輸送をしてくれる船って、あんただったんだ」
歳星の工業ブロックで、俺は三日月たちと面会していた。
劇中では長距離輸送ブースター、クタン参型で輸送していたのを、マクマードさんの依頼で俺が務めることになったわけだ。
「バルバトスの整備もだが、輸送にわざわざ船を雇うとは、随分気に入られたなぁ三日月」
「どうでもいいよ」
「その依頼のことだけど、輸送後はクーデリアの護送に協力することになってる」
「そうなんだ。よろしく」
あっさりと挨拶が終わり、トレミーの底部に外付けされたコンテナにクタン参型とバルバトスが格納されたのを確認して歳星を出発する。
さほど離れてはいないが、この時間を無駄にすることはないと、三日月を連れて向かったのは、外付けコンテナの余剰スペース。
「訓練って、何すんの?」
「バルバトスに追加された武装に刀があったから、これを」
渡したのは日本刀と、木刀。
試しにと木で作った案山子に、俺が日本刀を振り下ろす。
案山子を両断した日本刀を、感心した様子で見ている三日月に渡し、同じようにやってみるよう促す。
「……あれ?」
しかし、三日月が切ろうとした案山子は両断されず、途中で刃が止まっていた。
同じ刀なのに、結果が違う。
「どうして斬れなかったかわかる?」
「……勢いとか……力?」
「それらも重要だけど、一番違うのは、刀の扱い方」
刀は重く、反りがあるので力を込めて振れば斬ることができる。
でも、その切れ味は使い方でより効果が増す。
「阿頼耶識の長所の一つは、機体を自分の身体を扱うように操縦できること、だよね」
「自分が上手くなれば、バルバトスでも同じことができる?」
「正解」
ということで、刀を使った素振りと、木刀を使った試合で三日月の練度を上げる。
勿論勉強で学力を上げることも忘れない。
「随分と目をかけてくれるもんだな?」
「雪之丞さん。退屈してない?」
「せまっ苦しいクタンで移動するはずだったんだ。どうってことねえよ」
二人はトレミー内には立ち入らせず、コンテナに設けられた居住スペースで過ごしてもらっている。
彼らが内部でどうこうするとは思っていないし、情報を盗み出すとも思ってないけど、やっぱり他世界の情報を見せることに踏ん切りがつかなかったからだ。
「俺も気になった」
雪之丞さんとの会話に、素振りを終えた三日月が加わる。
「輸送は仕事だからわかる。でも、それ以上は仕事ってわけじゃないでしょ」
なのに、どうして気にかけるのか。
「……できることが増える楽しさを知って欲しいから、かな」
「できることが増える、楽しさ?」
理解しかねている三日月に頷きを返す。
「勉強でも訓練でも、ただ続けるのは苦痛。でも、それが身になっていると実感できれば続けられるし、楽しい」
「身体鍛えても、楽しいとか思ったことないけど」
そう言いながら、思い当たることがあったのか、「そういえば」と三日月は言葉を続けた。
「クーデリアに文字を教えてもらって、みんな喜んでた」
「それだね」
あれか、と納得したらしい三日月に、俺、そして雪之丞さんもまた苦笑を浮かべる。
三日月は、片手でガエリオを爪先立ちさせるくらいに持ち上げるフィジカルお化けであり、阿頼耶識手術をしていなければ長身になっていた設定だったはず。
回された仕事、努力を欠かさない当人の質もあって、出来なかったことの方が少なかったんだろう。
「やってみて。きっとわかる」
劇中の事を考えれば、恐らく間違いない。
問題は、その結果を、その感情を、正しく認識させること。
間違っても、自分を殺人鬼か何かと勘違いさせるべきじゃない。
苦悩するならまだしも、三日月の場合「邪魔するやつを排除できるならそれでいいや」って受け入れて、他の可能性を切り捨てたりするからね。
それから数日。
「三日月、雪之丞さん」
『なに』
艦長席で、通信に出た三日月に手短に伝える。
「少し速度を上げる。万が一に備えて、MSで待機して」
『わかった。おやっさん』
『聞こえてるよ』
トレミーで輸送するから、より完璧に整備して、三日月たちの出発は劇中より遅れた。
でもクタンよりトレミーのほうが速度も上だから、タイミングとしては同じだと思ってたんだけど……どうにも嫌な予感がする。
そして、その予感は的中した。
ハロを一機抱え、全速力で格納庫に向かいながらハロを通して三日月たちにも伝えておく。
「三日月、現在イサリビが交戦中。敵の数は8」
『わかった。クタンで先に行くよ』
「いや、ハッチ解放の準備だけしておいて。ハロ、サバーニャのGNドライブを接続」
「リョーカイ! リョーカイ!」
「トランザム」
飛び乗ったサバーニャの操縦席で、トランザムを起動。
出力の跳ね上がったGNドライブが機体を赤く発光させ、トレミーが加速する。
「センサーで敵機を捉え次第トランザムを解除。戦闘航行に移行後、GNキャノンで牽制し、外部コンテナのハッチを解放」
ハロに命令を出した数秒後にトレミーは発光が停止。
「三日月、コンテナのハッチが開いたら出撃を」
『わかった』
ビームが放たれる音の後に響いた、ハッチ開放の警報。
エイハブリアクター特有の起動音を響かせて、バルバトスが投下される。
「イサリビ、応答願う」
『ビアンコか!』
応えたのは通信管制をしているだろうフミタンではなく、オルガだった。
『さっきの光はなんだ!』
「今のは艦砲射撃。状況は」
『……正直よくねえ』
でしょうね。
劇中より数が多いし、とは口が裂けても言えないけど。
「飽和攻撃を仕掛ける。イサリビは直進を」
『は!? おまえ、何を言って――』
迷えばタカキが重傷で済まなくなる。
MSで出たいが、ここはトレミーでいく。
「ハロ、GNミサイルをばら撒け。直撃を避け、手負いにするだけでいい」
下手に直撃させると、戦場のどこかにいる晶弘を撃墜しちゃうかもしれないし。
命令を伝えながら、辿り着いたブリッジで砲撃手の席に座る。
狙うは、緑色の丸い機体……の手にした武器。
「食らえ」
トリガーを引くと同時に放たれた光が、ハンマーに直撃。
融解した得物を手放し、後退を始める機体に追い縋る様に、続々と敵が撤退していく。
状況が優勢ではないと判断したら即撤退。
あのオカマ口調のクズって、指揮官としては結構有能かもしれない。クズだけど。
『ビアンコ、助かった』
「敵からの宣戦布告は?」
『あ? いや、そんなのねえけど』
「なら、準備を整えてまた来ると思う」
『……だろうな』
苦虫を噛み潰すようなオルガの声が、状況の苦しさを物語っていた。
「今後のこともあるし、そちらに向かう。許可を」
『いや、アニキとも話さなきゃならねえ。ハンマーヘッドに向かってくれ』
「了解」
「ということで、テイワズに依頼され、鉄華団のクーデリア・藍那・バースタイン護送任務への協力に参りました。クロスレイズ商会、2Bです」
ハンマーヘッドの応接間で、オルガとビスケット、名瀬さんとアミダさんに向けて会釈。
予め聞いていたらしい後者は平然としてるけど、前者……特にオルガは納得がいかないのか片目を瞑ってこちらを見ている。
「業務提携の話はしてましたけど、まさか先にテイワズが話を回すとは思いませんでした」
「さっきは奇襲でしてやられたが、ミカも来たからには同じようにはいかねえ。何よりタービンズが案内してくれるんだ。必要なのか?」
「ちょ、オルガ!」
意外に思いながらこちらを受け入れる態度のビスケットくんに対し、不満を露わにするオルガに苦笑したのは名瀬さん。
「俺も聞いた時は驚いたけどな。親父は老婆心で無駄なことをするような人じゃねえ。何を話したのかは知らねえが、利があると判断したんだろうよ」
「……アニキがそう言うなら」
不承不承と姿勢を正し、オルガがまっすぐにこちらを見る。
「あの艦も戦力として考えていいんだろ? よろしく頼むぜ、ビアンコ」
「了解。よろしく、オルガ。それと申し訳ないけど、さっきの攻撃でミサイルをほとんど撃ち尽くしたから、艦を戦力として考えるのは難しい」
「そうか……。いや、あんたの情報だけでも十分だ」
握手を交わし、ソファに座った俺たちは今後の予定について話す。
その内容は、俺の知っているストーリーと同じ。
そこにこの世界で取得した情報を加味しても、展開は変わらないだろう。
だからこそ、俺がここにいる意味がある。
「で、だ」
会議が一段落したところで、話題を変えたのは名瀬さんだった。
その視線の先には、俺。
「お前さんを、どの程度戦力として計上していいのか知りたいところだな。艦はダメでも、機体は持ってんだろ?」
「あっちの準備も考えれば時間はあるだろうし、腕試しといこうじゃないか」
ということで、ハンマーヘッドの格納庫にある百錬に乗り込み、シミュレーターでの戦闘を行うことになった。
さすがに腕試しに実戦をするわけにはいかないからね。
とはいえ、この世界にある機体で鉄血系統はなかったから、軽い説明を受けて一通り動作を確認したところでシステムを作動する。
『準備はいい?』
「いつでもどうぞ」
センサーに反応が示され、敵機の存在を教える。
操縦桿を握り、戦闘態勢へと移行した機体を奔らせる。
「!」
嫌な視線を感じて機体を滑らせ、反転。
『どこ見てんの!』
しかし降り注いだ銃撃は上から。
慌てて後退させ、続く斬撃を躱す。
『今度はいい反応じゃん!』
敵機は目の前にある。
なのに、繰り出される攻撃の際に感じる殺気は背後から。
――シミュレーターだからか!
実際の敵の位置と、データ上の敵の位置が異なる。
――なら、敵を正面に捉えつつ、タイミングだけ利用する!
『阿頼耶識もないのに……! なんて反応速度!』
さすがに機体の反応が全く追いついてないけど、パイロットだけの力を計るにはいい機会だ。
色々と試させてもらおう。
……と、思ったんだけど。
「あっ」
『なぁっ!?』
ブレードが、相手の百錬を両断してしまった。
あり得るはずのない威力にシュミレーターは中断。
ゲーム上の格闘値9999がどう現実として反映されてるかはわからないけど、シミュレーターにも影響してることは確実となった。
結局、敵機への物理干渉をゼロとして計算し、実戦におけるペイント弾と同じような扱いにすることで解決とした。
結果、劇中でラフタが味わった昭弘のしつこさを体験することになったけど、正直ラフタさんもそこまで変わらないと思いました。さっさと幸せになれ!
☆
「ベルティーナの嬢ちゃん、どうだった?」
ハンマーヘッドの応接間で、いつもの安酒の注がれたグラスを傾けつつ、名瀬がアミダに訊ねる。
「あれは……ちょっと異常だね」
「異常?」
名瀬にとって、MSの扱いは門外漢。
当人が飛びぬけた操縦技術を持ち、タービンズのパイロット育成なども任せていることもあり、アミダの判断を疑うつもりはない。
だが、異常と評した彼女の苦笑に違和感を覚えて、名瀬はその言葉の意味を問う。
「阿頼耶識の反応を超えた反応速度……あれはもう、予知とか未来視って言われても驚かないよ」
「それ程か。なら、次の戦闘でも大丈夫そうだな」
「そうだね」
名瀬は、肯定する彼女に違和感を覚える。
浮かべているのは先程と同じ苦笑だが、そこに含まれているのは哀愁、か。
「嬉しくなさそうだな。……嬢ちゃんの境遇か?」
「……あんたには敵わないね」
「惚れた女のことだ。わかるさ」
オルガたちとそう変わらない歳で、一人で操艦をしながら商売をする。それも、少女が。……苦労しないはずがない。
話し方からはどこか排他的な印象を受けるが、それを抜きにすれば発言はごく当たり前の内容だ。立ち振る舞いなどは、後天的に矯正できるにしても生まれた環境に大きく影響されるものだが、彼女の場合はその端々に品の良さを感じる。
目隠しには驚いたが、それを含めて衣類の質は上等で、振る舞いを見れば「他者から見られること」にも慣れているのがわかる。
異常と評する程操縦技術も高いのなら、幼少から触れることができ、教育を受けられる環境……没落したギャラルホルンの名家の令嬢あたりか。
少しぶっきらぼうなきらいはあるが、ひねたところもなく、鉄華団のような者たちにも対等に接する。
勿体ないと思ってしまうのは、ギャラルホルンの腐敗を知るが故、だろうか。
物憂げな空気を引き裂くように通信が入る。
「どうした」
『通信です。相手は、ブルック・カバヤンって名乗ってます』
「……ブルワーズか」
数分後。
ハンマーヘッドのブリッジには、各艦の代表者が集まり、モニター越しに豚と見紛う鼻を持つ肥満体の男と対面していた。
「んじゃあお前らは、本気で俺たちにケンカ売ろうってんだな?」
『ケツがテイワズだからってでけぇツラしてんじゃねぇよ』
にやつく男の顔は、その言葉以上にその自信が窺えた。
『何もテイワズだけが力を持ってるわけじゃねぇんだぜ。タービンズの大将さんよ』
それ以外は眼中にでもないとでもいうのか。
視線を鋭くするオルガにも気付かず、「後で吠えヅラかいても知らねぇぞ」と不敵に笑う名瀬を鼻で笑い、ブルックは通信を切る。
――切ろうとしたその瞬間に、声を発した者がいた。
「1ついい? ブルック・カバヤン」
ベルティーナ(2B)にゴミを見るような目を向けるブルックだが、それを意にも介さず彼女は問いかける。
「随分と戦力を増やしたようだけど、ギャラルホルンからそんな大金をもらったの?」
『……何を言ってるかわからんが』
さすがに認めはしないか。
しかし、余程自信があるのだろう。自慢げにブルックは教える。
『最近余所の組織を併合したんだよ』
次はお前らだ。
威嚇も兼ねていたのか、併合したらしいいくつかの組織名を挙げた後、そう言ったブルックは今度こそ通信を切った。
視線が集中するのは、当然最後の会話を行ったベルティーナだ。
しかし、当の本人は口元に手を当てたまま何かを思案しているだけで、何かを発言する様子はない。
「ヤツらの後ろについたのはギャラルホルンか……。あれだけ強気なのも納得できる話だな」
「アニキ、さっき奴が言ってた組織に心当たりは?」
「どれも規模は小せえが、それなりに名の知られた海賊だ。最近聞かなくなったが、まさかブルワーズに飲み込まれてたとはな」
だが違和感がある。
小さいとはいえ、立て続けにブルワーズが下せる程度の海賊でもない。
そんな名瀬の疑問を中断させたのは、
「ごめんなさい。ブルワーズが大きくなったのは、私のせいかもしれない」
そんなベルティーナの謝罪だった。
「どういうことだ」
「地球から火星に行く間に、何度か海賊に絡まれた。いくつかの名前は当人たちが名乗ってたし、半壊させたまま放置したのをアイツが取り込んだのかも」
「何をやってんだお前さんは……」
さすがに名瀬も呆れたが、それ以上に呆れ、怒りを覚えていたのはベルティーナ自身だ。
悪意は毛頭なかったとはいえ、自身の行動の影響で一歩間違えればタカキは死に、劇中になかった被害を出してしまうところだった。
この様でハッピーエンドを望むなど、笑い話にもならない。
「決めた」
「は?」
「次の戦闘、全力でやる」
ほう、と頼もし気な声を漏らす名瀬に対して、焦ったのはオルガとビスケットだ。
「待ってください! 実は……!」
ビスケットの口から語られたのは、先程の戦闘で戦った敵の中に、昭弘の生き別れになった弟がいたこと。
「昭弘の兄弟だってんなら、鉄華団の兄弟も同然だ。なんとかしてやりてぇ」
「なら、尚更本気でいく」
反射的に言い返そうとしたオルガは、ベルティーナの雰囲気に言葉を飲み込んだ。
「私が敵のMSを無力化する。三日月がグシオンの相手を、昭弘が弟との対話を試みる。タービンズには二人の援護をお願いしたい。……どうかな」