MS戦はベルティーナ・ビアンコの案を採用するとしても、ブルワーズにも戦艦がある。
なにより、これはタービンズと鉄華団に売られたケンカだ。
ただ眺めているなどできるはずもない。
「ダブルオークアンタ、データリンク切れました」
「いよいよだな」
フミタンの言葉に、オルガが言いつつ艦長席を操作する。
「ユージン、舵を頼む」
「あ?」
「やっぱりここ一番って時はお前じゃねえとな」
「あ」
シートに露出したのは、阿頼耶識のコネクター。
「……ったくしょうがねぇなぁ! こんなときだけよぉ……!」
言葉の割りに、表情と声音に喜びを隠しきれていない。
それを見たビスケットとチャドは、思わず笑みを零した。
一方、ハンマーヘッドでも着々と準備が整えられていく。
「イサリビとのナビゲーションシステム、リンクスタート」
「だってよ。これでこっちはお前らにおんぶにだっこだ」
「目ぇ閉じとくから、優しくするんだよ」
名瀬とアミダの視線の先には、曳こうするために先行するイサリビの艦尾が見える。
『了解!』
彼らが突入しようとしているデブリ帯は、回収困難となり放置されている破壊されたMSや戦艦のエイハブリアクターによって生まれたもので、複雑に入り組んだ重力がデブリの回避を非常に困難なものとしている。
何よりエイハブ・ウェーブの干渉によって敵の位置を把握するも困難となっており、だからこそ、そこで敵が奇襲を仕掛けてくることが予想された。
ならば、その環境を利用してデブリ帯を突っ切り、逆に奇襲をかける。
それを可能にするのが阿頼耶識による曲芸じみた航行であり、その恩恵を受けるための、イサリビによるハンマーヘッドの曳こうだ。
『これより、デブリの密集宙域に入ります。艦が大きく揺れる危険があるので、各員十分注意してください』
艦内でその通信を聞いた、フミタン以外の女性組は食堂で待機中。
「いよいよですね」
メリビットの声に応えることもできない程考え込んでいる様子のクーデリア。
ブルックは彼女の身柄を要求しているため、自身の責任に思い悩んでいるのだろう。
「え……」
そんな彼女の手を、アトラの小さな両手が包む。
「三日月たちなら大丈夫だよ。きっと」
「……はい」
彼女たちの表情にあった不安はすでになく、穏やかな空気が食堂を満たしていた。
デブリ帯に入ると、行動を制限されるという言葉を実感した2Bだが、クアンタの運動性と機動性なら全く問題はない。
こちらを見つけたらしい敵機からの連絡が本隊へ届いたのか、連鎖的に害意が膨れ上がる。
「――行こう」
発見されたと言っても、クアンタにエイハブ・リアクターの反応はない。
2Bは機体を奔らせ、できるだけ敵の意識が向くよう仕向ける。
ブルワーズの旗艦は彼女の狙いには気づかず、ただその行動を察知した。
「敵機、こちらに近づいています!」
「一機だけとは舐められたもんだ。向こうの船はまだ見えねえのか?」
「はい」
肯定に舌打ちをして、ブルックは命じる。
「まあいい。斥候が来たってことはどのみち後からやってくる。それまでせいぜいかわいがってやれ」
出撃したブルワーズのマン・ロディがクアンタに殺到する。
間もなく撃墜の報告が来るだろう。
そう考え、初めは数的優位に舌なめずりするような反応だった彼らも、一撃すら与えられず、時間ばかりが過ぎていく戦況に、苛立ちを募らせていく。
「ったく……たかが一機に。まだ敵影は見えんのか!」
「あ、……はい。こちらの斥候からはまだ何も」
その言葉を嘲笑うかのように鳴り響く警報。
「なんだ!?」
「左舷よりエイハブ・ウェーブ!」
「なっ! まさかこのデブリ帯を突っ切ってきただとぉ!?」
艦の意識がイサリビたちに集中する。
その瞬間に、2Bは攻勢に転じた。
「いけ」
展開したソードビットが、デブリを躱して敵機を襲う。
「なんだこれ!?」
「腕がっ、足がぁっ!?」
頭と四肢を両断、バーニアを潰されて漂うばかりになるマン・ロディたち。
2B自身に向けられた攻撃であればいくらでも避けられるが、敵艦が彼らごとこちらを撃とうとして無駄な犠牲が増えるのは困る。
それを避けるためのタイミングはまさしく嵌り、ハンマーヘッドがその名前を表すように敵艦へと吶喊。
ブルワーズ艦の意識は全てそちらに向けられ、漂うマン・ロディが味方の攻撃に晒されることはなかった。
そして、取りついたイサリビから敵艦内部へと乗り込み、白兵戦が始まろうとしていた。
「かぁ~! 逆に奇襲されちまったじゃねえか。どうすんだよ!」
格納庫のグシオンに乗るクダルからの突き上げに、ブルックは叫ぶ。
『ギャラルホルンからの仕事だぞ。うまくいきゃあどデカい後ろ盾ができるかもしれねぇんだ。こんなところで引き下がれるかよ!』
「んなこたぁ分かってんだよ! だからどうするっつってんじゃない!」
『とにかくクーデリアって女を手に入れりゃあ勝ちなんだ! こっちは船にとりついたヤツらの相手をする。お前は外からヤツらの船を潰せ!』
しかたねぇ、と現状を受け入れ、クダルは操縦桿を握る。
「こっちは任せたよ。クダル・カデル、グシオン出るぞ!」
出撃したクダルは、目の前の光景に絶句した。
あれだけいたはずのマン・ロディの惨状。
「ガキどもがぁ! ほんっと使えない!」
さすがに全滅ではなく、生き残っている機体を使って迎撃に向かおうとしたクダル。
『あんたの相手は俺だ』
彼の前に、白の機体――バルバトスが躍り出る。
「なんだ!? どうなってるんだ!?」
昭弘の弟、昌弘は混乱の極みにあった。
何もできず、次々と無力化されていく仲間たち。
船にも敵が取りつき、阿鼻叫喚が重なって事態を正確に捉えられない。
『晶弘、何やってんだ!』
「っ!」
仲間のヒューマンデブリ、アストンの声で我に返り、接近する敵の機体にようやく気付く。
その機体は、先の戦いで予想外の人間が乗っていた……かもしれない機体。
『な、速っ、うわぁっ!?』
「アストン!? くっ」
仲間の悲鳴に気を取られた瞬間、一部が白く塗装されたグレイズの接近に気付き、ライフルを構えようとした昌弘は、
「なっ!?」
グレイズが武器を手放したのを見て硬直。
攻撃もできず、組み付かれるのを許してしまう。
「くっ……! 何をっ」
「待たせたな昌弘。迎えに来たぞ」
兄弟の対話が始まる。
しかし、そこに介入する者がいた。
敵か、と衝撃の揺れ以上に動揺する昭弘が見たのは、青い機体色。
「ビアンコ!? 何を――」
『少し遠くに行く』
「なっ!?」
その言葉を実行し、クアンタはグレイズとマン・ロディを、押し出すようにして戦線から遠ざける。
その行動は、劇中のようなクダルによる介入を避けるのが目的ではなかった。
――人は、簡単に誤解してしまい、すれ違う。
作中でも、昭弘と昌弘は分かり合えることなく、しかし最後の最後に兄弟の絆を見せて……死別した。
生き延びて言葉を重ねれば、誤解もやがて解けるだろう。
だが、年月を経ても某荒熊子熊親子のように、和解できずに終わる可能性もないとは言えない。
だから彼女は、全力を出すと決めた。
――絶対に、兄弟にはわかり合ってもらう。
『少しだけ、お節介をさせてもらう』
その声を合図に、七色の膨大な光の奔流が兄弟の周囲を満たす。
刹那がELSに対して行った全開のクアンタムバーストではなく、通常のトランザムバースト。
アビリティ、真のイノベイターを持つ2Bの脳量子波を、クアンタのGNドライヴと連動。
高濃度のGN粒子が散布された範囲内にいる人々の意識を、脳量子波でリンクさせる。
「なんだ、これは……、昌弘!?」
「兄貴……兄ちゃん……なのか?」
誤解なく互いを理解する。それが、相互理解。
兄の無念。
弟の諦観。
それらは過程であって、結論ではない。
言葉を交わし、思いを知り――
やがて……兄弟は和解した。
程なくして、ブルワーズの艦は制圧され、三日月も原作程の苦戦をすることなくクダルを撃破。
原作よりも良い形で、鉄華団は勝利を得た。
……しかしそれは、決して最高と呼べるものではなかった。
☆
ブルワーズとの戦いは終わり、結果として艦とMS、そしてヒューマンデブリの子供たちをもらい受けることとなった。
間違いなく勝利だと言える結果だろう。
しかし、犠牲がないわけじゃなかった。
「……」
艦内での白兵戦で犠牲者が出ることを、何かしら伝えておかなかったのは俺のミスだ。
いや、ミスだなんて言ったらオルガたちは怒るだろうし、彼ら自身が戦うことを望んでいたから、俺の言葉で結果が変えられたとは限らない。
変えられた、なんて自惚れる気もない。
それでも、犠牲を出してしまったシノの慟哭……彼がMSに乗るようになる切っ掛けをそのままにして、MS戦ばかり注視していた自分に憤らずにはいられない。
せめて関わった上で結果を迎えられたのなら、ここまで引きずらずにいられたのに。
「……後悔せず、反省する」
これだけの力があって、次も同じ事したらただの馬鹿だぞ。
念じるように呟くことで気持ちを切り替え、支度を整える。
向かうはハンマーヘッド。
劇中より多くのヒューマンデブリを抱えたため、三隻の中で最も足の速いトレミーが、彼らを火星へと運ぶ依頼を鉄華団から受けることになった。
それを含め、今後についての話し合いに参加するためだ。
とはいうものの、少しだけ気後れする部分がある。
それは犠牲が出たこともあるけど、
「……全力にしても、少しやりすぎた」
トランザムバーストに関しては二人に口外しないよう頼んだけど、それでも光る空間は視認されてるし、何より暴れ過ぎた。
「あー! ベルやっと来た! シミュレーションするよ!」
「……アジー」
2Bが広まらず、別の愛称を付けられることはまぁいいさ。
でもシミュレーションは別。
助けを求めてアジーさんに話を振ると、
「安心しな。確保した機体も使って全員でやれる」
「アジー……!?」
助けを求めたら詳しい説明をされた。
アジーさんかと思ったらビルドナックル食らったくらい裏切られた気分だ。
結局逃げることはできず、会議の後に模擬戦をすることになった。
「おう。よく来てくれたな、ベルティーナ」
「待たせた」
「んなことねぇよ。気にすんな」
既にいつもの代表者が揃っている応接間に入ると、名瀬さんが迎い入れる言葉かけてくれた。
こういう気配りが慕われる理由なんだろうなー、と思いながら早速始まった会議に耳を傾ける。
「回収したマン・ロディは全部で21機。ガンダムフレームのグシオンが一機に、輸送艦が二隻です」
「改めて聞くとすげぇ数だな」
名瀬さんの呆れが含まれた声音は、それだけの数に勝ったことより、それだけの数を回収できたこと……回収できる状態で勝ったことに対するものに思えた。
みんな頑張ったもんね!(現実逃避)
「で、本当にお前さんはマン・ロディ一機だけでいいのか?」
「それでいい。阿頼耶識を外して、整備してくれるなら、それで十分」
先日どう山分けするかで一度揉めたが、その原因は今名瀬さんが言ったように「マン・ロディ一機でいい」と俺が主張したからだ。
艦を仕留めたのはタービンズと鉄華団だが、グシオン以外を倒したのは俺。
横取りするわけにはいかねぇ、と(特に)オルガに言われたが、団員も増えるし、これから入用になるのでは? と言われて黙った。家長は大変だね。
まぁ資金援助という手もありますけど、と言ったらそれは即答で拒否されたので、依然として好感度は低いらしい。
「ブルワーズにいたガキどもは全員火星に送るのか?」
「いえ、当人の希望もあって、六人程残ることになりました」
「そうか。とはいえ、マン・ロディやグシオンは使えねえだろ?」
ブルワーズにおいて、ヒューマンデブリはまさしくその名の通りゴミのような扱いを受けてきた。
トラウマとなっても仕方ない境遇を思い出す機体を、置いておくだけならまだしも使うことができるのか。
そう訊ねる名瀬に、オルガは眉尻を下げ、代わりにビスケットが答える。
「僕たちもそう思って、手放そうと思ったんですが……、昭弘が反対しまして」
「あの子が?」
思わず口に出していたのはアミダだ。
昭弘は、その出自や弟の仲間だったこともあり、姓すらない元ブルワーズの子供たちに自分のアルトランドを名乗らせるほど肩入れしている。
だからこそ、彼らへの配慮を逆に否定するとは思っていなかった。
「……辛い思い出だからこそ、それを乗り越えたい。昭弘たちはそう言ってました。俺は団長として、あいつらの考えを尊重するつもりです」
相応に悩んだうえでの結論だったんだろう。
決意を込めて言うオルガに、名瀬はまた抱え込みやがって、と言うように苦笑する。
「いいんじゃねえか?」
とはいえ、グシオンは劇中と同様に改修が施されることになっている。
現在の重装甲を高出力による運動性で補う短期決戦向けの装備は、鉄華団での運用には適していない。
阿頼耶識を積むとなれば、装甲より回避性能が上がるよう改修され、恐らくリベイクになるだろう。
「ベルティーナ。送っといた、今後の航路は確認したか?」
「確認済み。予定通りなら、ドルトに着く前後で合流できると思う」
「呆れるほど早いな」
輸送の準備が済み次第出発することを伝えると、オルガから待ったがかかった。
「明日まで待ってくれねぇか」
「構わないけど、理由は?」
「その、なんだ」
この後の行動を知る自分からすれば、言いづらそうにするオルガが考えていることは分かっている。
彼は死者を弔うという感覚を受け入れがたく思っているんだろう。
「ブルワーズとの戦いで逝っちまったやつらの葬式を行うんだとさ。付き合ってやってくれねえか?」
「ああ……、勿論」
むしろ拒否する理由がない。
初耳を装った承諾を口にした後、
「あ」
出発するから、という理由でシミュレーションから逃げる手段が使えなくなったことに気付いた。
嫌という程シミュレーションをした翌日。
葬式の際、花はさほど喜ばないだろうし花火もヤマギの好プレーを台無しにしそうだから、献杯のために酒とジュースを提供した。
「ケンパイ? 乾杯じゃねえのか?」
「死者に敬意を表して捧げるから、献上の乾杯で献杯」
「なるほどな」
話しているうちに砲撃音が響いて、宇宙に氷の華が咲いた。
献杯、と杯を掲げ、死者の冥福を祈る。
――あなたたちの次の生に、幸多からんことを。
葬式は無事に終わり、トレミーはイサリビやハンマーヘッドから離れ、火星に向け出発した。
ヒューマンデブリをスペースデブリと書き間違える二次創作作者がいるらしいっすよ?
人間としての名残すらなくす人間のクズがこの野郎!(誤字報告ありがとうございます!)