世界で一番特別なTS娘   作:ペンギンフレーム

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ep14 世界で一番特別な人

 嗅ぎなれた安心する匂いに包まれて目覚めるのは俺にとってよくあることだ。だけど、今日は少しだけいつもと違う感覚があった。それは人肌のぬくもり。俺は全裸のまま後ろからワンコに抱きすくめられて目を覚ました。

 

 どうなっても知りませんよ、なんてワンコは言っていたけど、まさか学校をサボって丸一日ヤリ通すことになるとは思わなかった。ユーザーの体力を舐めていた。

 息も絶え絶えになって後半はワンコに使われてるだけだった俺は、途中から意識が途切れては目覚めさせられを繰り返したせいで記憶が飛び飛びだ。良かったのは確かだけど、さすがにここまでやるのはしばらく勘弁してほしい。

 

 お互い初めてということもあって、最初の方はどうにか主導権を握れないかと頑張ろうとしたけど、ちょっと責められるだけで簡単に負けてしまう俺の身体ではとても勝負にならなかった。

 勘違いしないで欲しいが、なにも俺が生まれつき淫らだとかそういうことではなく、原因は怪人に付けられた紋様にある。

 

 正直こんなものを付けられたということが屈辱的過ぎて、同時にこんなものの影響を受けるような状況になるなんてありえないと思ってたからあえて意識しないようにしていた。よくある創作物から名前を取るのであれば、その紋様の名は『淫紋』。

 俺のへそより少し下あたりには刺々しい鎖が絡みついた桃色のハートマークが刻み付けられていて、首にも似たようなものが付いている。どうもあの豚怪人の固有能力だったらしく、俺がワンコにちょっと身体を触られただけで発情したりベッドの上で全く勝てなかったのは、獣のオーラだけではなくこの淫紋が原因のようだった。情事中やたらとピンク色に発光して、そのたびに、まあ、説明しにくいというか、説明したくないことになってたから間違いない。うぐぐ、まさかワンコのワンコにされるとは……。

 

 幸いにも、時間経過で効力は弱まっていきいずれは消滅する類いのものらしいから放っておけばいいんだけど、これがついてる内はワンコに勝てそうもない。負け癖とかついたらやだなぁ……。腕力では勝てなくてもベッドの上でくらいは勝ちたいものだ。

 

 ふと催してトイレへ行くために抱き着いているワンコの腕を外すと、ワンコが安らかな寝顔でむにゃむにゃと何かを喋り出した。

 

「……ラーメン……美味しい」

「ふふっ、こいつめ」

 

 ぐりぐりとほっぽを突きながら思わず笑ってしまう。散々人を虐め倒しておいて、随分と可愛い夢を見ているもんだ。普通そこは俺の夢を見て、先輩好きですとか寝言で言うところじゃないのか? まあ、ワンコの愛の告白は昨日散々聞いたから別に不満もないけどさ。

 身体を重ねてから、というよりも重ねる度にどんどんワンコへの愛が、好きだって気持ちが深まっていくのを感じた。昨日でさえ、ワンコが俺を好きじゃないって勘違いした時は死にたいような気持だったのに、もしも今あんなことを言われたら本当に死んでしまうかもしれない。それくらい、俺はワンコがいないと駄目にさせられてしまった。

 

 用を足して戻ってくると、丁度目を覚ましたところだったのかワンコが大きなあくびをして起き上がろうとしていた。俺はそんなワンコの懐に潜り込んで押し倒し、もう一度朝起きた時と同じように後ろから抱きしめさせる。

 

「先輩、さすがに今日は学校行かないとですよ」

「わかってるよ。あとちょっとだけこうさせてくれ」

 

 別に昨日の続きをしようってわけじゃない。ただ、もうちょっとだけワンコのぬくもりを感じたままでいたかったんだ。

 

「俺はさ、特別になりたかったんだよ」

「何ですか、急に」

「良いから聞けよ。今まで俺の話、あんまりしたことなかっただろ?」

「まあ、そうですね」

 

 俺はしょっちゅうワンコの家に入り浸って遊んでたけど、ワンコを俺の家に招いたことはなかった。ワンコの家族構成やら趣味やらを聞いても、自分のことは詳しく教えたことはなかった。それは別に、ワンコのことを警戒してたからとかじゃなくて、俺の内側に踏み込んで欲しくなかったんだ。特別だとか世界一強いだとか言ってたけど、自分の本質が弱い人間だってことは誰よりも自分がよくわかってる。

 

「昔、虐められてたんだ」

「えっ? 先輩がですか?」

「ああ、この俺がだ。驚いただろ?」

「それは、まあ、はい……」

 

 前世の頃の話だ。俺は内気で、根暗で、人見知りで、虐められるために存在するかのようなやつだった。中学の頃までは何とか目を付けられずにたまに弄られるくらいで済んでたけど、高校に入ってクラス中心人物が集まったグループに虐められるようになった。

 クラスメイトはみんな見てみぬふりで、薄々気づいていた教師も深く踏み込んでは来ない。あいつらは人気者だったから、クラスの中で特別な存在だったから、何をやっても許されたんだ。

 別に、それが理由で自殺したくなるほどキツイいじめではなかった。殴られることはあっても骨が折れるとかまではいかないし、虫を食べさせられるとか、万単位でお金を取られるとか、そこまで酷いものじゃない。まあ、そう思えるのは今だからだろうな。当時は毎日辛かったし。

 結局いじめは解決なんてしないまま、俺は交通事故で死んでこの世界に生まれ変わった。最初はこの世界でやり直すんだって思って、「User」の世界だって気づいてからは絶望して、自分に才能があるってわかってからは、あいつらみたいに好き勝手して生きてやるんだって思った。

 そう考えると、天罰だったのかな。俺もよく、あいつらに不幸になれって思ってたし、あいつらみたいに好きなように振舞った結果がこれだったのかもしれない。

 

「俺がオーラの力を覚えるよりも前の話だ。あいつらに対してはいまさら何とも思ってない。ただ、俺は思ったんだよ。特別な人間は何をしても良いんだって。それで、俺も特別になりたい、世界で一番特別な存在になりたいってさ」

「それでよく、世界一強いとか、一番強いとか言ってたんですね」

「ああ。大勢の人に好かれて、歓声を浴びて、好きに生きられる。俺は何をしても良い。何をしたって肯定される。そう思ってた」

 

 人は悪意を持って接してくるものだと思ってた。俺を虐めてたやつだってそうだし、それを取り巻いていた環境も、両親だって俺を肯定してはくれなかった。

 だけど、自分が特別になれば、強くて可愛い、唯一無二の存在になったら、誰もが俺を認めてくれた。悪意を向けてくるやつだっていたけど、少しも気にならなかった。そんなやつは蹴散らしてやればいいんだ。誰も俺を責めたりしない。俺は特別だから。

 

 あの日までは、本気でそう思ってた。

 

「本当は、死のうと思ってたんだ」

「っ!」

「焦るなよ、今はそうじゃない」

 

 俺の言葉に反応して、ワンコが腕に込める力を強めた。さっきまでただ腕を回しているだけって感じだったのに、今はどこにも行かせないって言うように力強く抱きしめられてる。いいな、これ……。

 

「こんな、ただ道を歩いてるだけで怪人に出くわすような世界でさ、しかも俺はこんなに美少女なんだぜ? 力がなけりゃまともに生きていけるわけない。現に、医者にだって襲われたんだ。だからもういいやって、思ってた。だけど、お前が変えてくれた。お前が俺を守るって、一生守り続けるって言ってくれた。それがどんなに嬉しかったか、どんなに安心したか。お前は俺を助けてくれたんだ。掛井からだけじゃない。俺に一生まとわりついて離れないはずだった恐怖から、俺を助けてくれたんだ」

「……はい」

「それなのに、あれはそういうつもりじゃありませんとか、俺にそんなつもりはありませんとか、よくもまあ言ってくれたもんだよな。ひどい奴だぜ。あんなの泣くに決まってる」

「それは、……すいません」

 

 ワンコにも何か考えがあったんだろうってことはわかる。でも、本当に傷ついたんだ。あの時もしもワンコが俺の腕を掴んでなかったら、抱きしめてなかったら、俺に淫紋がなかったら、獣のオーラがなかったら、どうなっていたかわからない。

 

「先輩を不安にさせたくなかったんです。俺は先輩が思ってるほど善人じゃないですから。自分を抑えないと、無理矢理先輩を襲って自分のものにしようするくらい危ない奴なんです。

 ……でも、もう何を言われても絶対に先輩を離しません。ずっと我慢してたんです。気持ちに蓋をしてたんです。俺は先輩が好きです。独り占めしたいくらい大好きです。俺は先輩を束縛します。絶対にどこにも行かせません。これから一生、先輩は俺のものです」

「最初からそう言えば良いんだよ、バカワンコ……。ん」

 

 少しだけ首をひねって後ろを向き、目を閉じてキスをねだると、ワンコが優しく唇を重ねて来た。この続きをするのなら舌を絡ませるところだけど、それを始めてしまったらまた止まれなくなってしまう。一瞬だけの口づけで我慢して、元の体勢に戻る。

 

「だからさ、何が言いたかったのかって言うと、その……」

「大丈夫です、わかりました」

 

 あれだけやっておいてなんだけど、それを言葉にするのは何だか少しだけ恥ずかしくて言い淀んでしまった。でも、ワンコはわかってくれたらしい。本当か? こいつは何だかんだでニブチンだってことが証明されてるからな。簡単には信用できないぞ。

 

「先輩は、俺にとって世界で一番特別な人です。だから先輩が何をしても、俺が先輩を肯定します。俺が先輩を許します。一生先輩を愛し続けます。だから、俺と一生一緒に生きてくれませんか」

「……たく、しょうがねえなぁワンコは。俺がいないと駄目だからな、お前は」

「先輩こっち向いてくださいよ」

「やだ」

「なんでですか」

「やだから」

 

 だって、俺の言いたかったことをちゃんと理解してくれて、そのうえでプロポーズまでしてくれて、こんなに愛してくれてるんだって実感して、きっと今の俺はすっごくだらしない顔をしてるだろうから。自分でもわかるくらい口角が上がって、笑いを抑えられないから。

 

 そんな恥ずかしい顔、ワンコに見せられるもんか。

 

「好きですよ、きららさん」

「んひぃっ!? お、おまえ、ずりぃぞワンコ!」

 

 俺をひっくり返して覗き込もうとしてくるワンコに身をよじらせて抵抗していると、不意打ち気味に耳元で吐息を吹きかけながら囁かれて、思わず俺は恥ずかしい声を上げてびくっと硬直してしまう。突然の攻撃に抗議するため、身体の向きを変えてワンコと向き合いながら声をあげる。

 

「あぁ、驚いて表情が変わっちゃいましたか? 残念です」

「お、お前なぁ~!」

「それより、先輩は言ってくれないんですか?」

「っ~~~! お、俺だって好きだよ、ワンコ!」

「そこは名前で呼んでほしかったですね~」

「バッカおまえ調子のんなよワンコこら! 言っとくけど俺の方が上だかんな! 俺は先輩で美少女なんだからな!」

「はいはい、わかってますよ」

「軽く流すなぁ~!」

 

 ポコポコと全力で胸板を叩いてみてもワンコにはまるで効いてないみたいで、ハハハと楽しそうに笑っていた。うぅ~! そんなところも逞しくて好きとか考えちゃうし~!

 

 ワンコがいないと俺はもう駄目だってことはわかってるつもりだったけど、俺は俺が思っている以上にワンコに首ったけらしい。もしかしたらこれから一生俺はワンコに負け続けるかもしれない。

 

 でもまあ、それも悪くない。

 俺はワンコにとって、世界で一番特別な人、なんだからな。




めでたしめでたし

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