でも運命は残酷だったんだ。
ウルトラマントリガー放送記念。
目の前に広がる、炎に包まれた街並み。倒れ伏す人間。響く叫び声。
それを見ていたボクは、どうしようもない虚無感を感じていた。
「どうした、グロース?」
背後から一人の女が声を掛けてくる。振り向くとそこに居たのは、くすんだ銀色の体に金色のラインが特徴的な怪人。いや、その体躯は巨人と言った方が相応しいだろう。
「別に何でもないよ、カミーラ」
自分の思考を読まれないように、感情を押し殺した平坦な声で返答する。
「それならいい。ダーラムとヒュドラも奴らを倒したようだ。それにティガも既に終わらせてこちらに向かっているらしい」
早く集合場所へ向かおうと急かす彼女に頷くと、ボクは燃え上がる街に背を向けて、カミーラの後を付いて行く。
この街の惨たらしい惨状。だけどそんな感想を持つことは許されないだろう。
何故なら、この光景を作り出したのは、間違いなく
最初に語っておくけど、ボクは所謂『転生者』というものだ。別の世界で日本という国で暮らしていたという記憶がある。だけどそれはあくまで情報でしかない。ボクがどんな姿で、どんな暮らしをしていて、どんな人生を送ったのか。その経歴がすっぽりと抜け落ち、ただ漠然と転生したという事実と前世の知識しか残っていなかった。
ただ今世のボクの性別は女性だけど、どこか違和感を感じることから、前世は男だったのかもしれない。勿論、それを確かめる術は無いけれど。
そんなボクの今世は戸惑いの連続だった。服装こそまるで古代のような簡素なものであるが、逆に周りにある道具は前世でも見たことが無い程、発達した技術で作られていた。そのちぐはぐさに違和感を感じながらも、ボクはこの世界での生活に慣れるべく、様々な事柄に触れていった。
いくら未知の技術と言えど、前世の知識が全く役に立たなかったわけじゃない。いや、むしろこの世界では前世の知識こそ未知の技術だ。だからボクは様々な道具の使い方を学びつつ、前世の知識を活かして全く別の道具を発明していった。
暗闇でも周囲を明るく照らし出す腕輪。周囲の映像を記録して映し出す映写機。息継ぎしなくても長時間水の中に入ることが出来るマスク。色んなものを作り続ける中で、ボクは発明に夢中になっていった。
気が付けばボクの道具を他の人々も求めるようになっていた。ボクはその道具を様々なものと交換することで生活を成り立たせるようになっていった。
そんなボクには親友とも言える存在が出来た。豊かな自然を愛し、どこかはかなげな雰囲気を持った女性。そんな彼女は今日もまたボクが暮らす場所に顔を見せに来た。
「……グロース、また変な物を作ってるのか?」
「変な物って……まあいいや。そっちこそ今日は彼氏と一緒じゃないの?」
「べ、別にいつも一緒に居るわけじゃない……」
ボクの返答に思わず顔を赤くする彼女。その姿を見て思わず笑みが零れてしまう。普段は凛とした態度でリーダーシップもあるのに、ちょっと揶揄うだけでこんな初々しい表情を見せるのがおかしかった。
「まあ、ちょうど切りが良いし、少し休憩にするよ。何か飲み物でも出そうか」
「ああ、それなら……」
―ッ!!―
ボクが作業の手を止め、彼女に声を掛けたその時、突然地面が大きく揺れた。ただの地震では無く、まるで巨大な何かが地面の下を動いているかのような……。
「一体、何っ!?」
「っグロース、こっちに来い!」
不意に手を引かれ思わず体勢を崩す。だけどその次の瞬間、ボクがそれまで立っていた場所に崩れた建物の壁が落ちてきた。
「無事か、グロース?」
「う、うん」
もし手を引かれていなければ自分はあれの下敷きに……最悪の想像が頭に思い浮かび、背筋が冷たくなる。
だけどそれよりもぞっとするような出来事がすぐに起きた。
―グオオオッ!!―
突如として地面が割れ、そこから巨大なトカゲのような怪物が姿を現す。岩石のような皮膚、長い尾、そして頭を覆う襟。その姿を見たボクの脳裏にある光景が走り頭痛がする。
その怪物はボク達を視界に捉えると、ずっしりとした足取りで近づいてきた。だけどボクは頭痛で動けず、ボクを助けてくれた彼女も足が竦んだかのように止まっていた。このままでは二人そろって怪物に踏み潰されてしまうだろう。
ゆっくりと時間が過ぎていく。だけどボク達はただその瞬間を待つことしか出来なかった。そして怪物の太い足がボク達の頭上に振り上げられ、踏み潰そうとしたその時だった。
―デアッ!!―
一筋の閃光。それがボクの視界を覆っていた。あまりの眩しさに目が眩むけど、何が起きたのか知るべく目を凝らす。そして徐々に光が小さくなると同時に、
「……っ」
それは銀色の体を持つ巨人。ボクの知識の中に有るそれとよく似ているけど、全く別の姿。その姿を見てボクは全てを理解した。
「ティガ……」
親友……カミーラの耳にも届かないほど小さな声で呟くのは、親友の恋人の名前。そして闇を祓う巨人の名前。
そう、ボクは後にネオフロンティアスペースと呼ばれる世界へと転生していたのだ。
ネオフロンティアスペース。それは前世で放送していた特撮番組『ウルトラマンティガ』と『ウルトラマンダイナ』の舞台となった世界。地球ではあらゆる戦争、紛争が無くなり、さらには新天地として火星開発が行われているという世界。しかし超古代の眠りから目覚めた闇の手先や、宇宙から飛来した侵略者達が現れ、それらの魔の手から光の戦士であるウルトラマン達が戦うという物語が展開される。
そして恐らく、ボクが居るのはその舞台の3000万年前。闇の手先である怪獣達の襲撃に際し、超古代人たちはかつて闇を祓った巨人の石像と一体化して抵抗した、その時代であると推測出来た。
どうしてそこまで分かったのか。簡単な話で、ボクの親友の名前が『カミーラ』で、その恋人の名前が『ティガ』だったからだ。
ボクはこの先の展開を知っている。闇の勢力との争いの果てに、徐々に巨人達は仲間同士での争いに発展する。その中で、闇に魅入られた四人の巨人が現れるのだ。その一員こそ、『愛憎戦士カミーラ』と『闇の巨人ティガ』。
四人の闇の巨人は他の巨人達を倒し、世界そのものを闇に包みこもうとまでした。だけどある日、リーダーであったティガは、地球星警備団の団長であった女性ユザレと出会い、再び光の戦士に戻ると、他の三人の巨人を封印し、光と闇の争いに決着を付けた。
後にカミーラを始めとする闇の巨人は復活し、再び世界を闇で包み込もうとするのだけれど、そこは特に大きな問題じゃない。
大事なのは、この先カミーラは大切な恋人の手で悲劇的な結末を迎えるということだ。
もし他人だったなら、何もせず放置していたかもしれない。ボクの存在によって未来が大きく変わり、地球が滅びるかもしれないと考えると、手を出すべきではない。
だけどボクはカミーラと親友になってしまった。誰よりも自然を愛し、安らかな笑みを浮かべる彼女を。恋人の前では顔を赤くして、いつもの表情が崩れてしまう彼女を。幾度となく悩むボクに手を差し伸べてくれた彼女を。
そんなカミーラがあんな報われない結末を迎えるなんて許せなかった。
怪獣がティガによって倒された後、国は再びやって来るであろう怪獣達に対抗する存在、石像と一体化して戦う戦士の存在を求めた。
いの一番に声を上げたのはカミーラだ。自分達を助けた巨人が恋人だと知って、彼女は誰よりも早く志願した。
それに続くように前に出る戦士達。だけどそこにボクの姿は無い。当たり前だ。ボクは戦士では無く、ただの市民。求められているのが強い戦士である以上、ボクには立候補する権利すら無かったのだ。
それでも、ボクにはボクのやり方がある。ボクは仲間である発明家達と共に、様々な武具を設計した。それは都市を怪獣の攻撃から守るためのバリア装置や、巨人が扱うための巨大な鎧や武器。どれも一筋縄ではいかない。それでもボクがただ黙って見ているわけにはいかない。
少しでもカミーラの助けになるように、不眠不休で作業を続けた。その甲斐もあってか、巨人達は出没する怪獣達を幾度となく跳ね除け、闇の侵攻を食い止め続けた。
そんなある日、国のお偉方がボクにある命令を下してきた。それは都市の近くにある森を開いて新しい工場とすること。この先、争いが激化するかもしれない以上、より強大な力が必要だからということらしい。
確かに、闇の軍勢の強大さは未知数。それに前世の知識にある闇の支配者がいつ復活するのかも分からないため、強大な武器は必要かもしれない。
けれどもボクはその工場を作る場所が不満だった。そこは自然が溢れ、あらゆる野生の生き物達の住処となっている森。もしそこに工場を作れば、多く木々が薙ぎ倒され、生き物たちの住処が奪われるだろう。そしてその影響は自分達にも返ってくる。自然の恵みが無ければ、人間は飢え、乾き、滅びるのは明白だ。
それにその場所は、親友にとってお気に入りの場所でもあった。ここが破壊されれば、彼女の心に大きな傷を付けることになる。
だからボクは場所の変更を求めて訴えたものの、それをお偉方たちは認めない。彼らにとってそこはただの森でしか無かった。
お互いの意見は相容れず、ボクはその命令を拒否して城から出ていった。それが大きな過ちになることも知らずに……。
徐々に戦士達の活躍によって闇の勢力を追い詰めていったが、それに応じて人々はおかしな方向へ向かっていった。
「この力は選ばれた者の証だ。無力な連中に代わり、俺達がこの世界を統べるべきだろう!」
「馬鹿を言うな! 弱き人々を助けるために私はこの力を手に入れたんだ!」
「お前達は静かにしていろ! 全ては我らが王の為にある。その意思に逆らうことは許されん!」
巨人となり戦う力を得た者同士がいがみ合うようになったのだ。それは闇の勢力との決着が見えて来たからこその結果。全ての争いが終わった後、その力をどのように使うべきか。その方向性で言い争う様になっていった。
ある者は平和を維持するために、ある者は他の人間を支配するために、ある者は……ある者は……。
そしてその考えの違いは最悪の方向へと向かっていった。
「貴様は最早戦士では無い! ここでお前を倒す!」
「それはこっちの台詞だ! 正しい力の意味を教えてやろう!」
巨人同士の争い。それは一致団結していたはずの戦士達の絆を引き裂き、人類の守護者は脅威へと変わっていった。
ボクはその争いを止めるべく、幾度となく戦士達に呼びかけた。これ以上、仲間同士で争って何の意味があるのだと。それで傷つけあった果てに残ったものが、求めるものなのかと。
だけどその声が届くことは無く、争いは止むどころか激化し、多くの者が倒れていった。
そしてあるとき、ボクの運命を捻じ曲げる出来事が有った。
「なんで……何でこんなことを!?」
ボクの目に映るのは、黒く焼け焦げた木々、傷ついた動物たち、黒く濁った湖だった。ここはカミーラが愛していたお気に入りの森。それが見るも無残な姿に変わっていた。
「どうして……こんなことは止めろって言ったのに!!」
ボクは振り向いてその激情を、背後に居た研究者達にぶつける。
彼らは新たな武具開発の工場を作るべく、この森を焼いたというのだ。そう、それはボクが拒否した、あのお偉方の命令によって。
「言ったはずだ。今、この争いを鎮めるためにはより強大な武器が必要なのだ。他の巨人達を倒すための武器がな」
「確かにボク達の技術は平和の為にある。でも、そのために自然を破壊し続ければ、いずれ自分達が滅びることになる! それが分からない訳じゃないだろう!?」
今すぐこの行為を止めさせようとボクは詰め寄る。だけどもう全て遅かったのだ。
―パァンっ!―
「……え?」
何かが弾ける音と、自分の腹部に走る衝撃。全身から力が抜け、ボクの体が地面に倒れこむ。一体何が……。
ふと地面に赤い液体が流れるのが目に見えた。そしてボクは視線を上にあげる。するとそこには銃を構えた研究者の男の姿……。
「全く、お前はもう少し利口だと思っていたよ」
―パァンパァンっ!―
続けて二発の弾丸が体に撃ち込まれる。焼けるような痛みを感じ、口から苦痛の呻きが零れた。
「な……んで……」
霞む目で男を見つめる。だが男はボクの言葉を鼻で笑った。
「当たり前だろう? 争いを止めるとか言って、誰に付くわけでも無い。ただの人間なら放っておいたが、お前は違う。もしお前が他の勢力に付いたら、その力が我々に降りかかるかもしれんだろう? こちらの思い通りに動かないというのなら、ここで消えて貰うしかない」
それが人間の言葉とは思えなかった。人々を守ると言っておきながら、こんな風に簡単に命を奪うと言うのか? それが本当に正しいのか?
「もうこいつは用済みだ。捨ててしまえ」
研究者の部下たちが、ボクの体を持ち上げる。それに抵抗しようとするけど、血が足りないのか、上手く動かない。
そのままボクは湖の畔へと担がれる。
「さて、さらばだ」
その言葉と共にボクは湖へと投げ入れられる。
意識が朦朧とする中、周囲の景色がゆっくりと動いて見える。これはボクの命が消えようとしているからだろうか。
ああ、どうせならせめてもう一度……
「グロース!!」
不意に耳に届いたそれは、聞きなれた声。ふと見ると、研究者達の背後からカミーラが走ってくるのが見えた。
ああ、ごめん。こんな姿を見せちゃって……でも最期に会えて良かった……。
そのままボクは重力に惹かれ、水面へと投げ出される。そして浮力など無いかのように、ボクの体はどす黒く染まった水の中へと引きずり込まれていった。
全身で水の冷たさを感じながら、ボクの脳裏にはそれまでの人生が走馬灯のように駆け抜けていった。
最初はただの興味から道具を作り、いつしかそれがボクの楽しみになっていったこと。そんな道具に訝し気な表情で見ていたけど、次第にボクの理解者となってくれた親友のこと。親友が恋人と結ばれ顔を赤くしたこと。怪獣に襲われた時、ティガに助けられたこと。親友が戦士として巨人へと変身したこと。そんな彼女達を助けるために武器を作ったこと。彼女の大事な場所を守るために尽力したこと。
ああ、ボクはただカミーラを助けたかっただけなのに……。
その瞬間、心の奥底からどす黒いものが溢れ出した。
そうだ。ボクはただ親友を助けたかっただけ。そのために争いを止めようとしてきた。それなのに、どうして裏切られなければならないんだ。
それまで仲間だった相手に。どうして簡単に剣を向けられる? それまで守るべきだったはずのものを、どうして簡単に壊せる?
前世の知識ではカミーラは憎悪に身を焦がす悪役だった。でも、今のボクにとってそれは間違いだ。だって、カミーラが悪だというなら、彼女に滅ぼされるあいつらは正義なのか?
許せない。何故、言葉を交わそうとしない。何故、分かり合おうとしない。何故、助けようとしない。
お前らがそのような存在だというのなら、お前らが正義を名乗るというのなら……
ボクは闇にも悪にもなってみせる。
ああ、今のボクの全身を包むこれが怒り、これが悲しみ、これが闇。
ふと水底に僅かな灯が見えた。それは暗い緑色の灯。ボクの意識はそれに導かれるように引き込まれていく。
光も届かないはずの濁った水。しかしボクには明瞭に見えた。
それは石像と化した巨人の姿。湖の底に沈んでいたため、発見されなかったのだろうか。
その石像から放たれる灯にボクは手を伸ばした。そうだ、ボクはまだここで死ぬわけにはいかない。あいつらを許すわけにはいかない。だから……
闇よ……
「お前は、グロースなのか……?」
ふと気が付くと、ボクの体は水中から脱していた。そんなボクに声を掛けるのは、金色の巨人。それはカミーラが変身した姿。だけど本来なら建物を遥かに超す身長を持つはずの彼女が、何故かひどく小さく見える。しかもその体の色は、いつもの輝く銀色では無くどこかくすんだ色。
「な……これは……」
何かが呻く声が聞こえて、ボクは視線を下に動かした。そこに居たのは、さっきボクを湖へと捨てた研究者達。しかし何故だろうか。その体はとても小さく見せる。そう、ボクの手の平程度の……
そこでボクはやっと自分の体の異常に気付いた。ボクの目に映るのは人間の肌色の手では無く、血が通っていないかのような灰色の手。さらに視線を動かすと、凹凸の少ない体に緑色のライン。そしてボクは水中での出来事を思い出して察した。
「……ボクは、巨人になったのか」
最初のカミーラの戸惑いの言葉も、この姿が原因だろう。まさかボクが変身することになるなんて。
自分の中に渦巻く邪悪な力を感じる。ああ、これが闇の力か。そして似たような力をカミーラからも感じ取った。つまり彼女も闇の巨人へと変化してしまったということ……。
止めることが出来なかった。いや、そもそも自分が闇になっている時点で、止めるなんてお門違いだろう。
「き、貴様ら! ただで済むと思っているのか!!」
自分が変身したということや、カミーラの変化に呆けている中、研究者の男が騒ぎ出した。
「巨人の力は我々を守るために有るのだ! 貴様らのような、闇に堕ち、正義を踏み躙った奴など、この先、滅ぼされるのみだ!」
うるさい。正義を踏み躙る? ボクの言葉に耳も貸さず、使えないと断じて殺そうとした奴が、正義を語ると言うのか?
「自然を、そして友を傷つけた貴様らなど守るに値しない」
怒りを見せるカミーラと共に、ボクは奴らに一歩ずつ近づく。
「……正義なんてくだらない。あんた達が正義を語るなら、勝手に叫んでいればいいさ」
だけど、許す気は無い。こいつらのような奴など滅びてしまえば良い。ボクの中に渦巻く闇に従い、ボクは腕を振り上げた。
「だから消えろ」
そして拳が振り下ろされる中、研究者たちが見せた絶望の表情をただ目に焼き付けた。
ボクはカミーラを闇の巨人にはしたくなかった。だけどそれは、ボクが部外者だったからこそ言えた言葉。実際に自分が当事者になった時、それがどれだけ綺麗事かよく分かる。
ボクの心の底から溢れ出す憎悪が、人間を滅ぼせと騒ぐ。裏切った人間が、自分以外の全てを傷つける人間が、ただただ憎くて堪らない。
だからボクはカミーラと共に、それまで暮らしていた街を滅ぼした。そこに居たのは、最早ボクの守るべき場所では無かったから。
そしてボク達と同じように人間に見切りを付けたティガもまた闇へとその身を染め、共に人間を滅ぼすべく行動するようになった。さらにもう二人、純粋な力を求めて闇を手にした武人ダーラム、他者に一切の容赦をしない冷酷さを闇に見いだされたヒュドラも加わり、その力は強大になっていった。
他の巨人達がボク達を倒そうと連日のように挑みかかって来たけれど、闇の力の前に彼らは為すすべなく倒されていく。ボクはその姿を感情の無い瞳で見ていた。
だけど、僅かに心の奥底で、自分が間違っているという思いもあった。それはボクに前世の知識が有ったからだろう。どれだけ憎しみに心を委ねようとも、破壊することで笑うことが出来ない。人間の本質が光であるということを否定出来ずにいた。
だからだろうか。徐々にカミーラ達と距離を感じるようになっていたのは。それでもボクは、離れることは出来ず、そんな矛盾した思いを抱えながらも、ボクは戦いの日々を潜り抜けていった。
だけど、どれだけ行動しようと運命は変えられない。
「何故だ……何故、裏切った!!」
カミーラの悲痛な声が響く。人々を滅ぼし、世界を闇に染め上げるまであと一歩という時に、ボク達の前に立ちふさがったのは、光を取り戻したティガだった。
それは前世の知識通りの筋書き。ユザレの説得を受け、再び人類の守護者となったティガは、ボク達に反旗を翻したのだ。
かつては闇の巨人のリーダーだった男。その力は圧倒的だったが、対するボク達は四人。闘いは熾烈を極めた。
そんな中、ボクはこの戦いに意味を見出せずにいた。何故なら、今のこの状況はボクが止めようと思っていた仲間同士の争いそのものだったから。例え光であろうと闇であろうと、立場が変われば人は争い合う。それがどれだけ空しい事なのか……。
だけど、既にもう、愛と憎しみに身を焦がしたカミーラにもボクの声は届かないだろう。争いを止めるには遅い。最早、光と闇、どちらかが滅びない限りこの戦いは終わることは無い。
だからボクは一人ティガに挑んだ。誰にも告げず、自分を終わらせるために。
ボクは戦士では無い。闇の巨人になったことで強大な力は得たものの、ティガと戦って敵うわけが無いというのは分かっている。
それでも一人で挑んだのは、矛盾した思いを抱え続けて戦うことに疲れたからか、それとも自分を止めて欲しかったからか。それももう分からなかった。
そんなボクと、迷いなく戦うティガとの間には大きな差があり、勝負は一方的なものとなった。
「……すまない」
追い詰められたボクにティガがそう声を掛けた。その謝罪はボク達を裏切ったことに対してか、それとも友を失うことになる恋人に対してか、それとも別の……。
封印を受け、体が少しずつ石化していく中でボクは考える。
何を間違えたのだろうか。ボクは親友を助けるために行動していたはず。それなのに結局カミーラどころかボク自身も闇の手先に墜ち、多くの人間を傷つけ文明を滅ぼそうとした。今もまだ、心の中からは怒りと憎しみは消えない。だけどそれと同じくらい、虚しさも感じていた。
結局、人間の本質は美しい光なのだろうか。それとも醜い闇なのだろうか。何も分からない……。
既に体の大部分は石化し、意識も消えかけていた。僅かに見えるのは、静かにボクを見つめるティガの姿。
ああ、もし封印が解かれたらどうしようか。カミーラと共に世界を闇に包みこもうか、それとも……。
そこでボクの意識は消えていった。
「おい、見てみろ!」
「これは凄い……」
「こんな巨大な石像、一体どのような文明が?」
……何かの声が聞こえる。
「早く調査を開始するぞ!」
「ええ。こんなもの、そうそうお目に掛かれませんよ!」
「これを発表すれば、我々の研究室も一気に有名になりますね!」
……これは光? 何故、こんなところに光が……。
いや、そもそもここはどこだ? ボクは一体何を……そうだ、ボクはティガに……。
「まさかインドネシアにこのような遺跡があるとはな……噂でも聞いたことは無いぞ?」
「いやあ、こいつがたまたま足を滑らせたおかげで入り口が見つかったのが、幸運でしたね!」
「そんなこと言うなって!」
この声は人間? あれからどれほどの時間が経ったんだ?
……目覚めなければ。何かやることが有るわけじゃない。それでも、目覚めなければ何もしようが無い。
「おい、なんか変な音が聞こえないか?」
「どうせ腹の音かなんかだろ」
「いや、俺にも聞こえます」
全身に力を込める。すると僅かに指先が動いた。これなら……。
少しずつ、少しずつ、固まった体が徐々に自由を取り戻していく。
「お、おい。あれを見ろ!」
「ん……なっ!?」
「うわあああああああ!!」
耳障りな人間の叫び声をバックに、ボクはもう一度全身に力を込める。石化していた体は元の鈍色と緑色が入り混じったものへ戻り、目は暗い輝きを取り戻す。
―ゼイアっ―
そしてボクは再びこの世界で目覚めたのだった。
【設定】
グロース
| 別名 | 超能賢者 |
|---|---|
| 身長 | 47m |
| 体重 | 3万8000t |
| 飛行速度 | マッハ5.5 |
●細身で全身は鈍色の体に緑色のラインが入っている。
●他の闇の巨人と比べ戦闘能力は劣るが、代わりに超能力を扱え、その力は人間の姿でも並の怪獣であればあしらえるほど。
●右腕には手甲「グローレット」が装着され、そこから光弾「ワイズバレット」を放つ。必殺技は強力な雷撃を放つ「トラジェディーボルト」。
●人間だった頃はカミーラの親友。また技術者でもあり、ダーラムの鎧やヒュドラのドラフォーク、またユザレのホログラムを残したタイムカプセルの原形を作ったのも彼女。
●名前の由来はクトゥルフ神話に登場する外なる神「グロース」。
【裏設定】
●グロースを襲撃した研究者達はキリエル人と通じていた。キリエル人は巨人の力を脅威と感じ、それに対抗もしくは支配できないかと考え、一部の超古代人と接触。研究者達もキリエル人の言葉から自分達が神に選ばれたと考え、自分の理想を推し進め、邪魔になるグロースを排除しようとした結果、彼女が闇の巨人となるきっかけを作ってしまう。