第五話 篝火
「〘…というわけで命からがら逃げてきたのですも〙」
「というわけでじゃないも!!お前はアホかも!!」
レックス達が古代船からセイリュウと共に離れてから数時間程経った頃、アヴァリティア商会会長バーンの部屋にて通信機越しにプニンが連絡をとっていた。
「どうしてきっちり死んでこないも!!あとで返金しろって言われたらどうするつもりも!!」
「〘えっ?…死んで……返金ってどういう……?〙」
「ふん、こっちの話だも」
バーンの口から聞こえた不穏な言葉にプニンが追求しようかとしていたが、その前にバーンがこの話題についてはぐらかすように話を終わらせた。
「で?……レックスとそのブレイドはどこ行ったんだも?」
「〘はい……レックス達を乗せた
「わからない……も?」
「〘はいも…〙」
「で……逃げてきたも?」
「〘は…はいも〙」
「んぐもも……」
プニンがバーンからの質問に焦りながらも答えると、バーンはそのまま唸り声を上げてしまう。
「言い訳は聞きたくないも!!とっとと戻ってこいも!!次の仕事が山盛りになってるも!!」
そして、バーンは机を叩きプニンに怒鳴り散らした。
バーンの気迫にプニンは飛び跳ねるように驚いてしまい通信はそのまま切断されてしまった。
「ももも……ウズシオにも保険をかけてたってのにこれじゃあ大損だも………それにしても」
バーンはチラリと壁にかけられたアルストの地図を見て思案し始めた。
「トルネア海から南ということは……今の時期だとグーラに向かった可能性があるも………グーラのモーフ領事を呼び出せも!!」
「わかりました、少々お待ちください」
バーンが
「(そういえばグーラの森には"空を飛ぶ巨大な蛇"が出るという噂を聞いたことがあるもが……まぁどうでもいいも)」
「うっ!?…あ……ここは?」
背中からの鈍い痛みを感じたレックスが意識を取り戻して最初に視界に入ったのは木々の生い茂る森であった。
何故森の中で倒れていたのか思い出そうとしたが、その前に後頭部に感じる暖かくてほどよい弾力のある感触を不思議に思ったレックスが不意に上を見上げると、そこには山があった。
「………山…?」
「レックス?」
思わず声を出してしまったその時、山の向こうから見知った顔が現れた。
山だと思っていたものは、膝枕をされてホムラの豊満な胸を下から見ていたのであった。
「……ホムラ?」
「良かった、どこか具合悪くありませんか?」
「具合というより……背中が
うめき声をあげながらレックスは上体を起こすと改めて周りを見てみた。
「それにしても……マジでここ何処だ?」
「わかりません……何処かの
「
ホムラの言葉を聞いて、なぜ
時は少し
「大丈夫か、お前ら」
「私は大丈夫です」
「すっごい疲れた〜」
「お嬢様と私も問題ありません」
レックスがみんなの安否を確認すると、ホムラは軽く自身の体を確認してから答え、ニアはビャッコにもたれかかりながらクタクタな様子を見せ、ビャッコが変わりに答えた。
「そうか……じいさん、傷は大丈夫か?」
「さっきも言ったが大丈夫じゃ、しばらく安静にしとれば塞がるじゃろ」
「ならしばらくはどこかの
「そうじゃったか?」
「なんだジイさん、もうボケたか?」
「ボケとらんわ!?逃げるのに必死じゃったから方角なんて気にかけてられんかっただけじゃ!!」
「はいはい……っと、見えてきたな」
セイリュウとそんな会話をしている間に、レックスはかすかに見え始めた
「ジイさん、あと少し……っ!?」
セイリュウにもう少しの辛抱だと言おうとした瞬間、妙な気配を感じ取った。
「下から何か来るぞ!!」
全員に聞こえるようにレックスが叫ぶと、セイリュウの下から不穏な影が襲い掛かってきたのであった。
「ぐあぁ!?」
「ジイさん!!」
襲撃者はセイリュウの首に噛みつき食い千切ろうと体を左右に動かし始めた。
当然、その揺れはセイリュウの背に乗るレックス達にも襲っていた。
「うわわっ!?いったいなんなの!?」
「お嬢様!!振り落とされないよう私に掴まってください!!」
「きゃあっ!?」
ニアはビャッコにしがみつき、ビャッコも主人が落ちないように姿勢を低くさせて揺れに耐えていた。
ホムラも突然の揺れに驚きビャッコにしがみついていた。
「クソッ!?揺れるせいで狙いが……!!」
レックスは襲ってきた謎の敵にブルーローズを向け、狙いを定めようとするが激しい揺れのせいで狙えないでいた。
「ぐぶっ!?……ただでやられるワシではないぞ!!」
「おいジイさん、無理すんじゃ…っ!?」
そんな中、噛みつかれていたセイリュウはレックスの静止の声も聞かず首に噛みつく敵の口に手をかけ、強引にこじ開け引き離そうとするが敵は鋭い牙をさらに食い込ませてきたのであった。
レックスがセイリュウに静止の声をかけようとした時、不意に前を見れば先程までかすかにしか見えていなかった
「ジイさん!!前っ!!前に
「ぐうぅっ!?」
レックスの声に反応してセイリュウは敵に首に噛みつかれたまま体を大きく反らし急上昇して
「うおぉ!?おっ落ちぃっ!?」
「耐えてください!!お嬢様あぁっ!?」
「ひやぁぁっ!?」
当然、背中にいるニア達は振り落とされそうになっていたが偶然にもセイリュウの体毛部分を掴んでいたため落ちはしなかったが、危機的状況に変わりはなかった。
そして
「ぐおぉっ!?」
セイリュウの首に噛み付いていた襲撃者は、急上昇した時の力を利用してセイリュウを森に向かって投げ飛ばしたのであった。
「きゃぁっ!?」
「ホムラっ!!」
それが決め手となったのかついにホムラはセイリュウの背中から振り落とされてしまったが、それを見ていたレックスが飛び出し空中で抱きとめた。
「レックス!!ホムラ!!」
セイリュウの背中にしがみついていたニアが二人の名前を叫ぶが、ビャッコとともにそのまま森の中へと消えていってしまった。
「ニア!!…クソッ!!」
レックスもニアの名前を叫ぶが徐々に近づいてくる地面に悪態をつくと
「ガフッ!?」
ホムラを抱きしめたまま自身の体を身代わりにして地面に激突した。
「レックス!?…レックス!!」
徐々に遠のくホムラの声を聞きながらレックスはそのまま意識を失ってしまった。
そして、時は再び現在に戻り
レックスはここにいる経緯を思い出したのであった。
「そうだ……俺達はたしか突然襲われて………っ!!…ジイさんとニア達は!?」
そして、セイリュウとニアとビャッコのことを聞くがホムラは深刻そうな表情のまま首を横に振ったのであった。
「クソッ!?」
そんなホムラの表情を見たレックスは顔を
「ジイさん!!どこだ!!」
森の中の沼地のような場所をレックスはセイリュウの事を呼びながら走っていた。
「レックス!!待って!!」
「ジイさん!!!!ニア!!!!ビャッコ!!!!」
ホムラが声をかけるがレックスは何度もセイリュウ達の名前を呼び続けていたが、その様子にホムラは不安感を感じていた。
セイリュウ達の名前を呼ぶレックスの表情は恐怖に怯える子供のような形相をしていた。
まるでセイリュウ達が消えることを恐れるように……
森の中を駆け巡っていると所々に折れた木の破片が目につくようになってきていた。
それを見たレックスはなにかに気付いたのか折れた木々の後を追うように移動し始めた。
しばらく進み続けると、そこには首から多量の血を流し倒れ伏すセイリュウの姿があった。
「ジイさんっ!!」
その姿を目にしたレックスは声を荒げセイリュウの元へ駆け寄っていった。
「…レ……レックス…か……」
「…ひどい」
いまだに首から血が流れ出る傷痕を見たホムラは口元を手で覆い呟いた。
「おいジイさん!!しっかりしろ!!」
「心配…するな……この程度…ぐぅっ!?」
そう言ってセイリュウは、体を起こそうとするが力を入れた瞬間、体中を激痛が襲いそのまま地面に再び倒れてしまった。
「おいおい動くなジイさん!!待ってろ、なんとか傷口を止血するから……」
「……無理じゃ…傷が深すぎる……それにだんだんと力が抜けていくのが……分かる」
「諦めんじゃねぇよジイさん、……待ってろ、薬草かなんか見つけて……」
「……無理じゃ…」
「………っ!?」
なにがなんでも助けようとするレックスであったがセイリュウの一言を聞き、本当にもう手の打ちようがないことを突きつけられ膝から崩れ落ちた。
「これもまた…
「ジイさんまで居なくなるのかよ………また…俺を一人にすんのかよ」
「すまぬ……レックス…」
俯いたまま呟くレックスを見たセイリュウはかすれた小さな声で謝罪した。。
その瞬間、セイリュウの体が発光し、エーテル粒子となって消え始めたのであった。
「…別れは一瞬……やがてエーテルの導く先で、また巡り合う」
「…………」
セイリュウの言葉を聞いたレックスは、俯いたまま膝から崩れ落ちた。
「お前と過ごした日々、楽しかったぞ………また会おう…レックス」
その言葉を最後にセイリュウはエーテル粒子になり、空に消えていった。
「…………」
「……レックス」
膝をつき俯いたまま動かないレックスを心配してホムラが声をかけるが、レックスは無言のままおもむろに立ち上がった。
「……つくづく自分が嫌になるぜ」
「えっ?」
「目の前でまた大切な家族が死んだってのに……涙のひとつも出やしねぇ」
そう言って、振り返ったレックスの顔は悲しみの表情を浮かべてはいたが涙は流れていなかった。
「もう人の死に様なんざ見飽きるほど見てきたからよ、心が壊れちまったんだな…きっと……右腕がこんな風になっちまったあの日から」
「そんなことありません!!!!」
フラフラと歩きながら呟くレックスを見かねたホムラが大声で叫んだ。
「レックスはあの時、私を助けてくれました!!私のわがままみたいなお願いを聞いてくれました!!……だから……だから!!」
「……ホムラ………?」
必死に言葉を紡ごうとするホムラを見つめるレックスであったが、静寂の中にかすかに混じって響いて聞こえてくる音に顔を上げた。
「なんだ?」
「これは……大気中のエーテルが震えています、ドライバーとブレイドが何かと戦っているようです」
「そうみたいだな…それにどうやら相手はあのクソ共みたいだしな」
レックスが右腕に視線を向けると、そこには何かに反応して脈動するように青白い光を発する異形の右腕があった。
「それは…」
「奴らが現れるとこうなっちまうのさ」
そう言うと、レックスは音の聞こえる方へ歩き出しホムラも共についていくのであった。
音の聞こえる方へ向かって歩いている途中、橋の上を折れた大樹が道を塞いでしまっておりレックスとホムラは立ち止まっていた。
「チッ、道が…」
「ここは任せてくださいレックス、私の炎で……」
「待て待て!!火なんてつけたら最悪橋まで燃やしちまうだろうが!!」
「あっ!?ご、ごめんなさい」
「ちょっと退いてろ、こいつは俺がやるからよ」
レックスは背中のレッドクイーンの柄を握りながら捻り、エンジンを吹かした。
「ルアァッ!!」
逆手に持ち替えたレッドクイーンを下から上へと噴き出す炎とともに振り抜き大樹に深々と傷を残し
「もう一丁!!」
続けざまに右腕のアッパーカットを叩き込み大樹を真っ二つに殴り折ったのであった。
「よしっ!!これでいいだろ」
「すごい……ですね」
レッドクイーンを背中のホルダーに収めて先に進むレックスであったが、ホムラは軽々と大樹を叩き折ったレックスの実力に驚いていた。
「あのクソ共の相手してたから自然と力がついただけさ、それよりさっきよりも音が近付いてきたようだな」
「急ぎましょう!!」
「あぁ!!」
先程よりも鮮明に聞こえてくる戦闘音を聞いたレックスとホムラは共に走り出すのであった。
場面は変わり、レックスとホムラの目的地である場所では
「こんの~!!とりゃっ!!…ってうわぁ!?」
「お嬢様っ!!」
セイリュウの背中から落とされたニアがビャッコと共に素早く動き回る複数の敵を相手に奮闘していた。
ニア達が戦っている敵は
その敵は、かつて魔界の帝王が世界を侵略しようとした際に引き連れていたと言われている悪魔が野生化して環境に適応した姿の悪魔『アサルト』であった。
「こいつら!!すばしっこい上に鱗が硬い上に、盾の守りも固い!!」
「お嬢様!!危ない!!」
「今度は何!?ってニャハアァ!?」
ビャッコの警告を聞いたニアがアサルトを見据えたのと同時に複数のアサルトの指先から射出された爪が眼前に迫ってくるのを見て、ニアは無意識のうちに足を地につけたまま体を後ろに倒して回避した。
「あいたっ!?」
某マトリックス的な避け方をしたニアは、そのまま頭から地面に倒れてしまい動きが止まってしまった。
そこをすかさず狙ったアサルトは、飛び上がるとニア目掛けて爪を構えたまま
「うわぁっ!?」
とっさに横に転がり回避したニアであったが、アサルトは螺旋回転したまま地面に激突するとそのまま地面の中へと潜ってしまった。
「あれ!?アイツらどこに……」
「お嬢様!!敵は地面の中に潜りました!!警戒を!!」
「下っ!?」
そう言ってニアが足下に視線を向けた瞬間、地中からアサルトが飛び出し螺旋回転したままニアに突進を仕掛けていた。
そのままニアが貫かれようとしたその時
「うあっ!?」
偶然にも足を滑らせたおかげでニアが後ろ倒れたために無事に回避した。
しかし、避けられて終わるアサルトではなく空中で静止したかと思いきや、再びニアに向けて螺旋回転を加えた突進を仕掛けてきた。
が
「ピギィィッ!?」
「ヒェッ!?」
ニアの顔面スレスレを刃が通り過ぎアサルトを串刺しにすると、そのまま木に刺さりようやく止まり、アサルトから刃を伝ってドロリと血が滴っていた。
「ちょっとレックス!?」
「おっと!?
顔面スレスレを刃が通りすぎた恐怖から震える体を動かして後ろを見れば、右腕で何かを投げたあとのようなフォームをしたレックスとあたふたとしているホムラの姿があった。
「レ、レックス……ホムラ…」
「よぉニア、顔大丈夫だったか?真っ二つに割れてねぇか?」
「レックス様!!ホムラ様!!」
「ビャッコも無事そうだな」
そう言いながらレックスは、息絶えたアサルトに足をかけて串刺しにしていた聖杯の剣を引き抜き大きく振るって滴る血を落とした。
「お前らはちょっと休んでな……ここからは俺とホムラでやるからよ」
「ニアはゆっくり休んでてください」
そして、二人は前に出てホムラがレックスに力を送ると聖杯の剣のパーツが可動して炎のようなエネルギーの刃を展開させ、レックスは仲間がやられて後退るアサルト達を指差して
「
ニヒルな笑みを浮かべながら挑発したのであった。
「グギャァァ!!」
「ピギュァァ!!」
それが悪魔の逆鱗に触れたのか2体のアサルトは大きく鳴くとレックスに向かってきたのであった。
その途中、1体のアサルトが走りながら爪を射出させ、もう1体が大きく回り込み横から鋭い爪でレックスを引き裂こうと接近してきていた。
「へぇ、トカゲの割になかなか頭を使うじゃねぇか」
そう言いながら、レックスは飛んでくる爪を首を傾けたり半身に構えてすべて紙一重で回避して
「ノロいんだよ!!」
聖杯の剣を構え直し横から向かってきたアサルトに対して上段からの振り下ろしを繰り出し、アサルトを鎧ごと真っ二つに両断したのであった。
真っ二つにされたアサルトの断面は炎のエネルギーによって焦げついており、血が流れることもなくボトリと両断された体が力無く地面に落ちていった。
「あと一匹!!」
振り下ろした体勢から素早く構え直し、残り1体のアサルトに向くが
「あれ?」
そこにアサルトは居なかった。
どうやら仲間が真っ二つにされたのを見て逃げたようだ。
「チッ!?逃げやがった……頭が回るヤツほどつまんねぇな」
そう呟くとレックスは聖杯の剣のエネルギーを消して地面に突き立て、ニアの元へと向かっていき左手を差し出した。
「大丈夫だったかニア」
「レックス……ホムラ…アンタ達なんで…」
「あの時船の甲板で助けてもらったんだ、こっちも助けて借りを返さねぇと目覚めが悪いだろ」
「ハハッ、レックスってそういう所は結構律儀なんだな」
「うるせぇよ」
レックスはそう言いながら、ニアの手を掴み立ち上がらせた。
「まぁ…なんだ……無事で良かったぜ」
「結構ギリギリだったけどね……って、そういえばあの時助けてくれたでっかい奴、あの
そうニアが聞くと、レックスとホムラは暗い表情を浮かべると俯いた。
「…まさか……」
「……手遅れだった…あの蛇みてぇなヤツから受けた傷が原因で……」
「レックス…」
「だがいつかジイさんの仇は必ず取る……あのクソ蛇を見つけ出して………ぶっ殺してやる!!……でも今はまずどこか落ち着ける所に移動しようぜ」
ギリギリと音が鳴るほど右手を握り締めて怒りに震えるレックスであったが、ここまで戦闘続きで疲れてるであろうホムラとニアとビャッコのことを考えたレックスは休息を取るように促したのであった。
しばらくして先程の地点から少し移動した所にあった程よい広さのある場所を見つけ、適当な枝を集めて焚き火を起こして全員で囲むように座っていた。
そして、レックスはホムラとの出会いやホムラの願いなどについてニアとビャッコに軽く説明をしていた。
「……なるほど、その子と楽園にね」
ニアはそう言ってホムラに視線を向けると、ホムラも微笑みながらニアと目線を合わせていた。
「そういえばまだ礼を言ってなかったね、助けてくれてありがとう」
「気にすんな、何度も言うが俺も助けてもらったんだ当然だろ?……それにジイさんもそうしたはずさ…」
「…………」
家族のような存在であったセイリュウを失った悲しみを隠すように笑いながら語るレックスを、悲痛な表情で見つめるホムラ
「さてと…明日は朝からまた歩くんだからよ、そろそろ寝ようぜ」
「そうだね……アタシもうクタクタだ〜!!」
ニアは寝そべるビャッコのお腹を枕にするように寝転ぶと、すぐに眠気が来たのか穏やかな寝息が聞こえてきた。
「では私もおやすみなさいませレックス様、ホムラ様」
「おう」
「はい、おやすみなさい」
そして、ビャッコもニアの枕にされた状態のまま眠ったのであった。
「ホムラも寝たらどうだ?ずっと戦闘続きだったからよ」
「私はもう少しだけ起きてます……それに私よりもレックスの方こそ眠ったほうが…」
「そうだな……俺も少し休むか」
そう言いながら、レックスはレッドクイーンを近くに生えている木に立て掛け、ブルーローズを抜いて即座に構えられるように手に持ったまま木にもたれるように座り燃える焚き火をしばらく見つめ続けてから目を閉じたのであった。
「…ん……」
何かが動く気配と音を感じ取ったレックスは半ば沈んでいた意識を覚醒させた。
というのも普段からレックスは完全に眠ることはしておらず、常に半分だけ意識を起こしており瞬時に動けるようにしているのであった。
そんなレックスが周囲を見渡すと焚き火のそばにホムラの姿がなかった。
まさか……連れ去られた、と最悪の展開が頭によぎったレックスが立ち上がりさらに周辺を見渡すと少し離れた水辺にホムラの後ろ姿を見つけたのであった。
ただの早とちりだったと安心したレックスは手に持ったままのブルーローズをホルスターに収めてホムラの方へと歩いていった。
「まだ起きてたのか?」
「あっ……レックス」
「明日も朝から歩くんだ、休める時に休んどきな」
「そうなんですけど……なんだか寝付けなくて…」
「……そうか」
レックスがそう言うと二人はしばらくの間、水面を眺めていた。
「そういや……礼がまだだったな」
「えっ?」
「こいつだよ」
レックスは自身の胸元のコアクリスタルを親指で指さしながら助けてもらった礼を言った。
「お前のおかげで命拾いした……改めて礼を言わせてくれよ」
「いえそんな……」
「ただこれから先、あいつらが邪魔してくるかもしれねぇ」
「古代船で戦った彼らですね?」
「あぁ……次に会うときは確実に息の根を止めてやる………あいつと俺の約束のためにも」
夜の闇の中で青白く光る右腕を見ながら、レックスは決意を固めたようにそう言った。
「あの…レックス」
「なんだ?」
「私と会った時にも言ってた"約束"って?」
ホムラがそう質問すると、レックスは表情を曇らせ自身の異形の右腕に視線を落としたのであった。
「俺に力がなかったせいで、守れずに死なせちまった家族との………約束だ…」
そう呟くとレックスは
「じゃあ俺はもう一休みするからよ、ホムラも早く寝ろよ」
「はい……おやすみなさい、レックス」
レックスを見送ったホムラは再び水辺から水面を見つめていた。
そして胸元でキュッと手を握り締めて懺悔するかのような悲痛な表情を浮かべると誰にも届かない小さな声で呟いた。
「ごめんなさい……レックス」
地平線から朝日が登る少し前の時間にレックスは閉じていた目を開いていた。
軽く体を動かして凝り固まった筋肉を
朝日が出始める頃にはレックスはブルーローズのメンテナンスを終わらせてホルスターにしまい、他の皆が目を覚ますまで焚き火を見つめて続けていた。
パチパチと薪が小さく爆ぜる音を出しながら燃える
懐かしい光景を思い出したレックスだったが、あの楽しかった日々が突如として打ち砕かれた光景も同時に思い出していた。
そして、生まれてはじめて心の底から気を許せた最愛の女性の最期の姿も
「待ってろ、神さまよぉ……俺はお前を………殺す」
皆が寝静まる中でレックスは、憎悪の感情を込めた言葉を呟きながら右手を握り締めていた。
「んぁ〜…?」
「むぅ?……おはようございます皆さま」
「ふぁ〜、おはようございます」
太陽が地平線から登りきり、その姿を見せた頃にホムラ達は目を覚ましたのであった。
レックス達は軽く身支度を整えると、今後の行動について話し合うのであった。
「で?これからどうするんだ?……つーか、ここはグーラのどの辺りなんだ?」
「たぶん…お腹あたりだね」
「ふ〜ん、すぐに分かるってことはやっぱりニアはグーラ人だったのか」
「もしかして今頃気付いたのか?」
「わりぃな、グーラ人とはあんまり交流したことねぇからよ」
ハハハッと笑いながらレックスはそう言った。
「グーラはお嬢様の故郷なのです」
「街に行きたいんなら、まずこの森を抜けないとね……道なりに登っていけば平原に出るはず」
「ならとっととこんな森抜けるぞ」
そして、レックスを先頭にニアとビャッコ、ホムラ達は歩き出し平原を目指すのであった。
道中に襲いかかってくるモンスターを相手にしながらもレックス達は上を目指していき、ついに森の出口に到着した。
森から出てレックスとホムラは視界いっぱいに広がる平原を見て圧巻され、ニアはそんな二人を見て得意気そうな表情をしていた。
「うわぁ、ものすごく広い平原…」
「想像してたのよりすごいな、こいつは」
「向こうに見えるのがグーラで一番大きな街トリゴ」
広い平原に驚くレックス達の横でニアが奥の方に見える街について説明するのであった。
「とりあえず街までは送ってく……着いたら、そこでアタシ達の役目は終わり」
「あ?何でだ?」
「何でって……アタシはアンタらと………レックス達と一緒にいることは出来ないんだ」
そう言いながら、ニアは悲しそうな表情を浮かべていた。
「……あいつらとの事があるからか?」
「出会ってから日が浅いとはいえ一応………仲間だからね」
「仲間?あのクソ野郎共はニアを殺そうとしてたんだぞ」
「それでも……アタシの居場所はあそこにしかないんだ………」
「ニア…」
「………さぁ、行くよ」
いまにも孤独感で押しつぶされてしまいそうなニアを見たレックスであったが、ニアが先に歩き出したために声をかけることが出来なかった。
そして、レックス達一行はトリゴの街に向かって進むのであった。