全てはここから始まった。
ワンダレルアストレイ。
人と違うことをしてみたい、誰かと少し違った高みを目指したいその一心でつけたもう1人の自分の名前だった。
だが、今はそれすらもどうでもいい。
この地獄ではそれすらも無意味だ。
「お前じゃ何も出来ない」
「生きる価値もない」
「所詮はお兄さんの劣化コピーだ。」
「お前は何者にもなれない中途半端なクズだ」
ひたすらそれを言われ続けた俺はもう自信も何もなくなって、誰かの指示がなければ動けない空っぽな人間になっていた。
今はもうそれでいいのだと、出来損ないの劣化コピーはこれでいいのだとずっと思い込んで塞ぎ込んだ。
「………また、始まる。」
かつて楽観的であまりにも夢を見すぎていた楽しい夢は悪夢へと変わってしまった。
罵倒と暴力が始まる。
夢だから痛くないはずなのに痛い。
その言葉から、その痛みからは逃げれない。
逃げることが出来ない。
何度何度も逃げた、だが奴らは……俺に植え付けられた恐怖やトラウマは永遠に追いかけてくる。
どこに隠れても見つけられ、引っ張りだされて痛めつける。
助けを求めるなんてしなかった。
助けを求めたって無駄だから。
今までがそうだった。
「………どうせ誰も助けてくれないんだ。」
今日の地獄の舞台は学校。
変わらずトイレに隠れていた。
見つかるのは時間の問題だろう。
扉が開く音がした、また地獄が始まる。
「……………?」
不思議なことに攻撃されなかった。
顔を見上げるとそこに、1人の存在しないはずの少女が………。
「………シノン……さん?」
間違いない、俺がもっとも過酷な時期にとある小説を読み俺に生きる勇気をくれた架空の存在が目の前にいた。
「……ほら、行くわよ。」
「ど、どこに?」
混乱しながらも、手を差し伸ばされた手に掴みながらそう聞いた。
「………アイツらを倒すのよ。」
衝撃だった。そんなことできっこないからだ。
だから思わず手を振りほどいて言った。、
「無理だよ、シノンさん。アイツらは俺より強い。俺じゃ勝てないんだ……。」
「あーもう、じれったいわね。」
俺は無理矢理手を掴まれ篭っていたトイレから引っ張り出された。
「!!いたぞ!」
もちろんすぐに見つかった。
だが、シノンさんはやけに冷静だった。
バァンと銃声が響いた。
大量にいる奴らのうちの1人が脳を撃ち抜かれて死んでいた。
「ちっ!なんで邪魔するんだお前!」
奴らのうちの1人がそう言った。
だがシノンさんはこう言った。
「アンタ達に答える義理なんてないわよ。」
そう言って偶然かは分からないが、近くにバギーに乗せられ、逃げた。
学校から逃げ、街の道路を駆け抜けている時に、俺は意を決して言った。
「シノンさん……もういいよ、降ろしてくれ。シノンさんが巻き込まれる必要なんてな……ブッ! 」
俺はシノンさんにハンドガンの持ち手の部分で殴られ最後まで言えなかった。
「アンタ、仲間は?」
「いるわけないじゃん。」
「………そう。」
そこから少し無言で走り続けていた。
そして、ある場所でシノンさんはバギーを停めた。
見覚えのある場所。
「どうしてここにあるんだ……。」
ダレルファミリーズの本拠地。
最初は遊びのつもりで作ってもらった場所だった。
俺の……俺の………。
「もうひとつの居場所……。」
確かにここは夢だ。
だがなぜこれが………。
そう思っていると、かつての奴らがぞろぞろと集まってきた。
シノンさんは銃を構えて戦い始めた。
(……どうしてここまでしてくれるんだ。)
疑問に思った。今までここまで助けてくれる人なんていなかったのに。
そう思っていると、ふと頬をぎゅーとされた。
「今までよく頑張ったねダレルっち。治療は任せて。」
声は聞いたことは無い。
姿も知らないから分かるはずがないのに名前は分かっていた。
「………かつおん?」
そう、ALOアバターのアスナのような見た目をした人間は間違いなくあの「かつお」だ。
「モチモチモチモチモチモチモチモ(ノ)`ω´(ヾ)」
頬を揉まれるだけだったはずなのに、俺は思わず泣いた。
そして俺の後ろからかなりの足音が聞こえ並び立った。
「あ、あぁ………マジかよ………」
俺はさらに涙を流した。
ダレルファミリーズが、俺の為に立ち上がってくれていた。
「みんな、ダレルっちのために駆けつけたよ。」
「ん………。」
「ゆうと………。」
「ふはははは、誰一人としてこのサッポロNAOTOは止められん!」
「NAOTO………。」
「ワンダさんらしくないからしっかりしてくれ。」
「KNB氏………。」
「まぁ、そりゃ助けに行くよな?」
「同志ふぁーすと!」
「僕も戦うよ、あなたが救われるなら。」
「……スカちゃん。」
気づいていなかった。俺にはとても多くの仲間がいた。
「……ようやく分かった?アンタが気づこうとしてなかっただけで、こんなにもアンタを大切に思ってる人がいるのよ。一応聞いておくわ、今から立って戦える?」
ある程度の数を倒してきたシノンさんが手を差し伸べながらそう聞いてきた。
答えは決まっている。
「もちろんだよ……シノンさん……。」
シノンさんの手をとると、シノンさんは消滅した。
だが、何となくわかった。
俺は、ワンダレルアストレイはそのためにあった………。
これでようやく俺は戦える。
もう、あいつらの罵倒は怖くない。
俺にも存在価値はあるんだ。
今からこの無限に近いが、決して怖くない戦いに赴くために俺はかつての過去の闇に名乗りを上げた。
「俺は素晴らしき道を行く王道ならざる者、
【ワンダレルアストレイ】だ!
行くぜ!ダレルファミリーズ!」
みんなの掛け声と共に俺は戦いを始め、暴れまくった。
気がつけば敵はいなくなっていた。
「お疲れー。」
「紫桜さん。」
「まぁ、あんまり無理しないようにね?」
「………ラジャです。」
何も恐れる必要はなかった。
過去に縛られてても助けてくれる人がいた。
「………俺、やっぱりみんなが大好きだ。
ありがとうな。俺は、幸せだよ……。」
これはワンダレルアストレイの物語。
その道に終わりはない。