はくのんは転移した   作:鎖佐

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プロローグ

落ちる。落ちる。落ちる。

 

死の罠と化した石橋の瓦礫と共に、

 

岸波白野の体は、底の見えない闇に落ちていった―――

 

 

 

落下には果てが無い。

ひたすらに流されていくような方向感覚。

視界に映るぼんやりとした光が流星のごとく過ぎ去っていく。

これが最後に見る光景、知恵も、切り札も、

都合よくこの場を切り抜ける方法は無い。ついには地面の染みとなるだろう。

 

それは至極当然の結論。

つまり、これでジ・エンド。

 

 

 

 だというのに、どうして自責の念も後悔も、なんなら恨み辛みすら出てこないのだろうか。

 

 この状況で岸波白野を救いだす起死回生の何かが現れるとでも言うのか?

 

 違うだろう?

 

 

 

 

 そう、違う。前提から間違えている。

 岸波白野は落ちたのではない。飛び込んだのだ。

 右手の甲を見る。何も無い。ある筈がない。岸波白野は何を思って右手の甲を見たのか理解出来ない。けれどなんとなく、そこに繋がりがあった気がしたのだ。

 

 手を伸ばす、視線をいずれ来る地面よりももっと近くに向ける。この死へのカウントダウンを共に数える相棒へと。

  

「南雲!!手を!!伸ばして!!」

 

奈落への道、少年と少女は手を取り合って死に抗う。

 

諦める気は毛頭無かった。

 

 

◇◇◇

 

 

 岸波白野はクラスの中で割かし浮いた存在である。

 腫れ物を扱うよう、というと過剰な表現だが彼女に積極的に声を掛ける人物は限られている。

 

「岸波さん、おはよう!」

「ん、おはよう白崎さん」

 

 一人は極まった善性の持ち主たる白崎香織、恐らく岸波白野の生涯において彼女以上に清廉な人物は現れないだろう。そう確信させるほどの善人で、面倒見の良さと責任感の強さ、ついでに可愛らしくまとまった顔と、まあ人気人望の特異点である。

 

「ね!!菫先生の新作読んだ!?」

「・・・うん、勿論」

 

 にぱっとまるで向日葵のような笑顔を向け白崎は岸波に食らい付く。少女漫画作家たる南雲菫先生の作品を白崎は全て読んでいる。なんなら愛読している。

 とは言え年頃の乙女たる白崎香織、幾らなんでも少女漫画が大好きだと大っぴらには出来なかった。専らこの話題は彼女の親友である八重樫雫とだけ密かに行っていた。が、ある日菫先生の新刊を購入するためレジに並んでいた岸波白野とバッタリ出会ったのだ。ありきたりな話だが更にそれが最後の一冊というオマケ付き。その時点では殆ど交流のなかった二人だがそこは白崎香織、何の躊躇も無く話しかけ、その日の内に家に招き入れて意気投合、貸してくれたお礼と称して自身のお気に入りの布教活動も行った。

 

ついでに言うのなら、このときに彼女の好きな人が南雲ハジメだと岸波白野は看破した。

閑話休題

 

「やっぱり菫先生の作品ってこう、締め付けられるよね~」

「酸味7甘味3、苦味少々って感じかな。皆それぞれ柵があって、感情があって、努力があって。人の見えない部分、見えてる部分、見せたくない部分があって・・・深いよね」

「コレ読んでなんだか人として成長した気がするよ。わたし」

「それは気のせい」

 

 何でよ~と文句をつける白崎であるが、正直に言わせてもらおう。

 好きな人へのアプローチを変えるべきだ。南雲の鈍感さに見えるアレは自己評価の低さである。自分が異性にモテる筈が無いという確信ゆえに彼が白崎の好意に気付く可能性はゼロである。ゼロに何を掛けてもゼロなのだ。

 

 とは言え、岸波白野は何も言わない。他人の恋路ほど見ていて面白いものも無いからだ。

 岸波の温い視線に気付かないまま、白崎は少女漫画談義に花を咲かせていた。

 そこに一人やってくる。

 

「あ、恵理!おはよう」

「おはよう白野、白崎さんも」

「おはよう中村さん」

 

 黒髪ロングのメガネっ娘、中村恵理である。

 

 二人の仲は意外と古く幼稚園時代にまで遡る。岸波は言ってしまえば施設育ちだった。そんな事情を理解する園児など居なかったが、どこと無く周囲から距離を取っていた岸波に話しかけてきたのが中村恵理だった。

 そんな二人の関係はある事件を切っ掛けに二転三転していくわけではあるが、それは後の機会に。  

 端的に二人の関係を言い表すならば・・・親友以上恋人以下と言った所だろうか。

 

 当然恵理も白野の持っているマンガは全て読んでおり、件の最新作も途中まで読んでいる。ああ、そこかー、もうちょっとで凄くいいところなんだけどなー、などと話をしつつ南雲ハジメが教室に現れたことで香織と別れた。

 

「・・・まるで主人が帰ってきた犬みたい」

「恵理、こら」

 

 恵理が毒舌家だということは白野しか知らない。

 いつも通り、香織がハジメに話しかけて教室中が殺気立つ。この空気に気付かないのだから香織も大概鈍感だ。

 

 そしていつも通りホームルームのチャイムが鳴り、連絡事項の通達があり、そして最初の授業が始まった。なんでもない一日になるはずだった。

 

 

 

 その日の昼、昼休憩で賑うはずの教室から声が無くなった。

 

 

 目覚めたのは、見知らぬ純白の大聖堂。

 試練が始まった。

 




とりあえず10話くらい書いて感想とか欲しいなーとか思い始めたメンタル弱者。
感想は「頑張れ」の一言で良いので下さい。

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

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