正直ハジメは今の蹴りで決着がつかなかったことに心底驚いた。
白野の勇者時のステータスはこうだ
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岸波白野 17歳 女 レベル:45
天職:勇者
筋力:900 〔+勇者900〕 〔+限界突破3600〕
体力:1500 〔+勇者1500〕 〔+限界突破4500〕
耐性:2000 〔+勇者2000〕 〔+限界突破6000〕
敏捷:2400 〔+勇者2400〕 〔+限界突破7200〕
魔力:4000 〔+勇者4000〕
魔耐:2000 〔+勇者2000〕
技能:皇后特権・投影魔法・道具作成〔+狐之嫁入〕・自己改造・先読・気配操作・回復魔法・言語理解・剣術・格闘術・全属性適正・全属性耐性・複合魔法・限界突破
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生来の素質故か、あるいは両腕を失った影響か、筋力ステータスの伸びは他と比べると低い。だが、『他と比べれば』だ。勇者になったことですべてのステータスが倍化、さらに限界突破で3倍化という完全チートが今の白野だ。
加えて白野のブーツだけは魔物の革を使って補強した実物で、踵と爪先に特殊な金属を仕込んでいる。
『アザンチウム合金』
世界最高硬度のアザンチウムを使った超合金だ。含有率は3%程だが、たったそれだけで硬度と靭性が跳ね上がる合金である、白野の短剣だったものだ。
右腕の短剣はやはり手首が無いために重さを乗せられず、白野の武器はその両足だった。
そんな、威力も強度も十二分で、艦砲射撃に迫る威力の蹴りは確かに痛打だったのだろうが、決定打にはなっていないようだった。
寧ろ、登場を邪魔された怒りで昂ぶっているようにも見える。
「シュラークじゃ火力不足かなこれは、ハジメ構えて」
そう言って目の前にアイテムボックスを残してサソリモドキへと吶喊する。ハジメの動体視力でようやく影が見えるといったレベルだ。
恐らく白野に一人で戦いを決める意思は無い。神水を急いで飲みつつアイテムボックスを開ける。
今の今まで日の目を浴びることは無くとも、万一に備えて常にその性能をアップデートし続けた切り札。対物ライフル『シュラーゲン』だ。
「ぶっつけ本番で扱いきれるか?ま、相手は割かし鈍足だ。何とかなるだろ」
ハジメは気負いも無く、焦りも無く、超口径のロングバレルライフルを構えた。
その様子を、隣の少女はただ見ていた。
蹴り技を放つ時、重要なのは重心の制御だ。
そもそも剣であれ拳であれ、ただ走るだけでも重心の制御は必須項目だ。では、その重心をどうやって制御するか。
腕の操作だ。
人は姿勢制御に腕を使う。両手で柄を掴めば全体重を乗せた剣撃が放てるし、左腕の脇を締めて右腕を突き出すことで正拳突きとなる。蹴りにおいても同じこと。
両腕を、特に左腕を肘から失った白野は、勇者を使ったところでハジメを下回る戦闘能力しか持って居ない。
今の白野を支えているのは戦闘において無類の活躍をする鏡と〝先読〟の技能だった。
目の前のサソリモドキの4つの鋏と2つの尻尾を白野は1万越えの俊敏と〝先読〟の技能を駆使して避け続け、反撃を叩き込む。
特に尻尾が厄介だ、鋏を注視すれば頭上という死角から攻撃が飛んでくる。これを鏡を使って視界に納めることで避け続けていた。この敵相手では鏡は盾にも鈍器にも使えない。
鋏が地面に突き刺さった瞬間に接近し、尻尾を蹴りで迎撃し、反動を利用して距離を取り、すぐさま詰める。鋏と尻尾による左右と上の同時攻撃、左を選択して鋏を足場とし、飛び上がって尻尾に蹴撃を与える。
白野はすでに個人での決着を諦めている。最初の飛び蹴りで倒せていない時点で不可能だ。だが、ハジメのシュラーゲンなら、決定打になりうるだろう。威力は白野の飛び蹴りと同等で、加えて貫通性能の高さから打撃でしかない蹴りなどよりよほど殺傷力が高い。
問題は、目の前の敵に装甲の薄い部分が見当たらない点だ。
頭なら貫通するだろうがそこは白野が射線に並んでしまう。側面は鋏が盾になってしまうため難しい。出来れば初撃で痛打を与えた左側面をハジメに向けたいところだが、先ほどから距離を取るとハジメの方、恐らくは少女の方へと向かおうとするため、間に入る他無かった。
鏡越しに背後を見る。南雲はすでに万全の状態で構えている。
あれだけ啖呵を切り、囃し立てた身で申し訳ないが、どうやら白野ではこの敵に対して決定打を与えられないらしい。
だが、
「有効打くらいは食らっていってよ。
神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!」
声を張り上げ、魔力を魔法陣へと込める。
白野が知る最大威力の魔法。
魔法陣の在り処は、白野の鏡である、真名『八咫鏡』のレプリカだ。
―――うぬぬ、おい貴様!!ちょっっとばかし美味しいところを取りすぎではないか!!
―――そうは申されましても現在手を失ったご主人様が魔法を切り札とするのは当然の帰結。そして魔法を扱うならわたくしの力が真価を発揮するのは自然の摂理です。
―――まあいいじゃないか。皇帝特権も今まさに大活躍中だぞ?投影魔術とは違ってな。
―――おや・・・拗ねてるんですの(おるのか)??
―――違うわ戯け!!
「神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!」
詠唱を詠いながら踊るように攻撃を避け、いなし、反撃すら行う。
明らかに驚異的な魔力を放出する白野に対し、全力で攻撃を行うも、寧ろ隙が増えたとばかりに蹴りを打ち込む。
「神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」
尻尾から至近距離で毒液を噴霧し、針を飛ばし、鋏を伸ばして攻撃する。
白野はコートを出して毒液を防ぐ。一瞬で消失し、続く針を脛当ての衝撃破で吹き散らす。鋏の攻撃は・・・
「隙だらけだ。化け物」
白野を優先して横腹をハジメに晒したが故に、最高威力の射撃がひび割れた装甲に着弾し、貫通する。伸ばした鋏はブレ、届かなかった。
そして、魔力ステータス8000の全力が放たれる。
「〝神威〟!」
極光が部屋を埋め尽くした。
「・・・・・・綺麗」
少女はただその戦いに見惚れていた。
圧倒的な戦闘能力と技術、何よりもお互いを信じ合った連携に、焦がれる様に憧れた。
「さて、どうやら第二ラウンドらしいよ、ハジメ」
「ああ、任せろ」
極光が止み、土煙がやんだ先にあったのは、鋏を二つ蒸発させたサソリモドキだった。
〝神威〟が放たれる直前、サソリモドキは何重もの石壁を出現させていた。放たれた後も破壊される側から発生させ、それで足りない分は鋏を盾にすることで防いだのだ。恐らく魔力は空同然だろうが、体力的にはそう消耗した訳ではないらしい。一応横腹をぶち抜いたはずなのに、なんともタフなことだ。
白野はハジメの後ろまで歩き、崩れ落ちた。限界突破に加え〝神威〟まで使えばそうなるだろう。
「はあ、疲れた」
「・・・コイツを白野に飲ませてくれ。俺はアイツを片付ける」
少女に白野を預け、シュラークとドンナーを引き抜く。シュラーゲンは火力を上げすぎて一撃でオーバーヒート寸前になってしまった。要改良だ。
開幕のドンナーとシュラークによる同時定点射撃は鋏によって防がれた。だが、弾丸は弾かれずに2発目の着弾で貫通した。そんなことはもうどうでも良いとばかりに、巨体に似合わず俊敏な突進で距離を詰め、鋏による攻撃を放ってくる。爪を伸ばさない当たりあれも魔法のひとつなのだろう。
最早近づいて鋏や尻尾で攻撃するしか出来なくなったサソリモドキに勝算は無い。
白野から何度も蹴りを受けた尻尾を撃ち壊し、トドメの顔面への銃口を向けたとき、サソリのもう一本の尻尾はあらぬ方向を向いた。
白野と少女の居るほうだ。
ハジメの発砲より数瞬先に、無防備な白野へと針弾が飛んだ。
「っ〝聖絶〟」
前に立ちはだかって防いだのは、金の髪の少女だった。
魔法陣も詠唱も無くただ一言呟いただけで〝聖絶〟を発動させた。
だが、圧倒的に魔力が無かった。最初の2発を防ぐも、最後の3発目を防げず、自らの体を盾とした。
「っ!!ポーションを・・・!!」
神水によってかなり疲労が抜けてきた白野は鉛のような体を無視して動く。不死性については記憶のどこにも無かった。
神水の入ったカプセルを噛み砕き、いざ口移し!!というタイミングでバッと両腕が伸びて白野の首に絡みついた。
「うむむうぅぅ!??ゴクリ」
後ろのハジメはすわ裏切りかとシュラークを構えたが、直ぐに降ろした。目の前の少女がそういえば吸血鬼であると思い出したのだ。
白野も抵抗していないし。問題は無いだろう。
波乱はあったが罠を乗り越え、拾った少女は魔法陣も詠唱も無く魔法を使うチート少女だ。サソリモドキによるステータスアップも期待できるし、収穫は多いといえる
・・・なんだか自分の周りはチートばっかりだなと、他人事のように思った。
◆
あの後吸血によって再度ダウンした白野を寝かせて、南雲と少女はサソリモドキと石像の魔物を解体していた。白野の方は「きゅう~」とありきたりな悲鳴を上げて布団を出してから倒れた。余り心配はしていない。
ハジメは少女の名前を聞いたが、少女は以前の名前を捨て新しい名前を二人から付けて欲しいと求めた。
「・・・なら、白野と俺で1つずつ名前を決める。ファーストネームは、・・・『ユエ』だ」
「ユエ・・・?」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」
少女はパチパチと瞬きをする。表情は変わらないが、なんとなく気に入ってくれたのだと思う。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう」
その返答から純粋な好意を感じた故に。
「白野にセカンドネームを・・・うん、セカンドネームを決めてもらうとして・・・とりあえずコイツを切り分けるか」
なんとなく嫌な予感がするが、流石にそんなことをするわけが無いと頭を振って思考を正す。
「・・・あの」
そこでハジメの袖をつまむユエ。どこと無く顔が赤い。
「服か何か、無い?」
「あ、そういえば」
ついうっかりと言わんばかりであった。まるでユエの裸になど魅力がないとでも言うようで、少女・・・ユエは頬を膨らませ、視線を逸らした。白野の方だ。
「はっ、まさかそう言う関係!!いや、寧ろそうと考えるのが自然!?」
苦虫を噛み潰したような顔をするハジメ。訳あって、というか白野が両腕を失ったのが理由の全てだが、ハジメは女性の裸に耐性があるのだ。むしろ、そういえば裸って隠すものだよなと思い出した程だ。
尤も、白野はレズなのでそう言う関係には、なれないのだが。
ユエは無自覚に、ハジメの弱い部分を抉っていた。
因みに白野は予想通りに
「・・・キシナミじゃ駄目なの?」
「キシナミ?」
「私、岸波白野」
「・・・私、キシナミ・ユエ?」
「そう」
「お、おねえちゃん?」
白野、完全勝利のBGMと共に渾身のガッツポーズで握りこぶしを高々と上げる。いや、腕がないのだった、幻覚である。
「やっぱりこうなったか」
「全力でお姉ちゃんを「言わせねえよ!!!」」
◆
一方その頃
「白野から浮気の匂いがする」
「え、エリリン?」
「飛び蹴りの練習したほうが良いかな?」
「何を蹴るつもりなの!?」
「一夫多妻去「エリリン!?」」
タマモの嫁入り道具、現在効果判明分
・鏡『八咫鏡』
使用者の周囲1mを浮かぶ例の鏡。本来嫁入り道具の鏡といえば鏡台なのに挿げ替えた。
鈍器としても優秀で操作速度は魔力量による。
馬力は無く、鏡を蹴って空中移動、ということは出来ない。精々落下速度を軽減できる程度
魔法の媒体として頂点であり、あらゆる魔法陣をその鏡面に描くことが出来る。
・服『霊衣』
魔力で編まれた服(桜ちゃんかな?)。強度は魔力量によるが、少なくとも防具として使えるレベルではない
本来戦闘中にポンと出せる物では無い。今回白野がやったことにはタマモも驚いている。
デザインは自由だが、材質は選択できない。
・裁縫箱『少名(すくな)之針』
魔力で紡がれた糸と鋏。糸は白野の意識がなくなっても存在できる。
現状数合わせの道具であり、活躍の予定は無い
・カトラリーセット『真銀』
フォークやスプーン、ナイフは勿論、箸にレンゲまで揃っている。
ナイフがある時点でどういう使い方をされるかは、もう分かりきっている。
・櫛『聖(くしび)』
形状は和櫛。頭髪を清潔にし、髪のダメージを回復する。要するにサラッサラになる。
・布団『愛之巣』
ざんねんながら、タマモがこれを使うことは無い。ダブルサイズの意味・・・
白野が意識を失っても消失しない。
布団の中を適温に保ち、床が石だろうが絨毯だろうが気にせずどこでも使える。
めっちゃ寝心地がいい。
・筆箱『書聖』
インクと万年筆。インクは白野が意識を失っても消失しない。
万年筆は記憶にある魔法陣を勝手に描く自動書記の効果があり、道具作成と八咫鏡をあわせることで凶悪な性能になる。
・・・でもぶっちゃけ魔力操作の下位互換
・ヘアケアオイル『狐之心』
ひじょうにざんねんながら、タマモがこれを使われる日は来ない。
髪に潤いを与え、ダメージを防ぐ。要するにツヤッツヤになる。
・箱『 』
明らかにスペックが可笑しい箱。タマモの独力で実現できる能力ではない。
箱に物を入れて蓋を閉めると異空間に収納できる。収容限界は不明
罷り間違ってもこれを盾にしてはいけない。
原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)
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ありふれ、EXTRA両方知ってる
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ありふれのみ知ってる
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EXTRAのみ知ってる
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両方知らない