白野の疲労が回復し、ある程度動けるようになったところでこの階層のセーフポイントへと移動した。ユエも白野が倒れている間は文句も言わず、またサソリモドキの解体などやる事があった為気にしていない風ではあったが、やはり自分が封印されていた場所というのは気分が悪いらしい。
特に何かがある部屋ではなかったので早々に移動した。
ちなみにユエを拘束していた鉱物は一欠片だけ回収して残りは放置した。ユエも複雑そうな顔をしており、本心ではいっそ消し去りたい所なのだろう。
「お姉ちゃん、あーん」
「あーん、もぐもぐ。うんクソ不味い筈のサソリ肉が100倍美味しくなったよ」
「えへへ」
白野は腕がない以上、食事等は人の手による介護が必要だ。
それを率先して行っているのがつい先ほど彼女の妹になったキシナミ・ユエだ。
3人しか居ない空間で女子二人が百合空間を展開している時の気まずさは、半端ではなかった。
ついでに言えばその役割はずっとハジメのものだったのだ。いや、他意はないが。他意はないが・・・地上では白野と恵理の百合ップルに挟まれ、地下ではスールに挟まれる。この握り締めた拳は、一体どこに振り下ろせばいいのだろうか。
世界の残酷さを感じていたとき、腕が引かれた。
「・・・次は私のご飯」
「・・・まて、さっき白野が倒れる程飲んだだろ!?」
「300年ぶりの食事・・・全然足りない」
「おいちょっと待て押し倒すな!白野もいいな~みたいな顔してないで助けろ!!」
「いいな~」
「おい!!」
流石に魔物の肉を食べさせるのは拙いだろう事は分かるが、ペースが乱されっぱなしである。無理に抵抗も出来ず、首筋に僅かな痛みが奔る。
「ぷは、ご馳走様。・・・美味しかった」
「・・・・・・そりゃ良かった」
ぺロリと唇を舐める様はロリ体形らしからぬ妖艶さだった。
それから二人はまずユエのことを聞く。強いとか死なない等漠然とした内容は聞いていたが、その詳細を知らない。
ユエの能力は圧倒的な魔力ステータスと、魔力を直接扱う魔力操作。加えて魔力がありさえすれば自動で回復する〝自動再生〟の魔法だ。
「(不死身系戦略兵器か、それは殺せない。もしかすると、また使うかも知れないんだから)」
態々口に出すことはないが、白野はそう予想した。未だに核兵器をあらゆる国が保有するように、圧倒的な武器兵器は捨てられない。
当時の年号から逆算して、ユエが封印されたのは300年程前ということになる。国が滅んだ切っ掛けは分からないが、結局封印は解かれなかったようだ。
「とすると、ユエは少なくとも300歳以上な訳か?」
「・・・マナー違反」
「12歳で時が止まったんだから永遠の12歳に決まってるだろハジメ」
「姉ポジ確保に必死すぎだろ・・・」
時折ポンコツを発揮する白野に頭を掻くハジメ。相変わらず女の子が好きすぎる。
今から恵理に合うのが怖いなと思いながら、どうせ修羅場るのは女子3人なので関係ないと切り捨てる。
「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」
「……わからない。でも……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」
反逆者。
実に不穏な響きを持つ単語にハジメは錬成の手を止めて視線を向けた。
曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。
その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。
「……そこなら、地上への道があるかも……」
「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか。・・・しかも、神代の魔法使いなら、その研究資料なんてものがあっても、おかしくない」
ハジメの目標はまず迷宮の脱出であるが、更なる長期目標として白野の腕の治療がある。自らの弱さが招いたその罪は、何よりも優先して償うべきだ。
魔法による治癒魔法や元の世界の再生治療など、使えるものを全て使って治すと決めていたが、そこに神代の魔法の知識があればより心強い。
絵に書いた餅のような可能性だが、情報が何もないよりはずっといい。ハジメは頬を緩めて錬成を再開する。
それを、真横でジー、っと見ているユエ。
先ほどまで白野が出した布団の上に座っていたが、いつの間にか真横で錬成作業を眺めていた。
「……見ていて面白いか?」
口には出さずコクコクと頷くユエ。ユエの服は白野が出した純白のワンピースを着ている。ノースリーブのそれはユエの白い腕を惜しげもなく晒し、ちらりと見える裸足がなんとも言えない魅力を出していた。ペタンと女の子座りで屈むせいで胸元が見えそうになっていてつい目をそらす。
白野と目があった。
皇后特権のリキャスト中の白野はすることがなく、ジトーっとした目でハジメを眺めていた。まて、冤罪だ。見えてもいないし、見る気も無いと視線で語る。
なら良いけど、義妹に手を出したらただじゃ置かない、と一瞬『気当たり』をして布団に潜り込む。ユエは突如現れた謎のプレッシャーに驚いてハジメにしがみ付いた。白野は不貞寝した。
しばらく二人は音のない時間が過ぎる。正しくはハジメの錬成による魔力光と加工品を床に置く音だけが部屋を満たしていた。
「・・・ハジメ・・・・・・ハジメと白野の話、聞いてもいい?」
『ようやくか』というのがハジメの感想だった。明らかに込み入った事情があるが、幾らなんでも疑問に思う点が白野とハジメには多すぎる。良くここまで聞くのを堪えたという話だろう。
どうやら白野は会話に入る気は無いらしい。ユエは知らないが、白野が寝るとユエの服は消失する。・・・・・・中々カオスな一文が出来てしまったが、事実だ。恐らくはユエとハジメの蟠り、というほどの物は無いが、これから迷宮攻略を行う上で僅かなすれ違いも許されない以上、ハジメとユエの会話の時間を設けたのだろう。そう考えると、妹だのと言ったくだりは心理的距離を詰めるのが目的だったのかも知れない。
そうしてハジメは錬成の手を止めることなく、今までの話をユエに語った。ハジメがクラスメイトと共にこの世界へ召喚されたこと、無能と呼ばれたハジメに白野が期待し、白野の彼女?である恵理と三人でチームを組んでいたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られたこと、奈落への落下に白野を巻き込んだこと、落ちた先で白野の両腕が爪熊によって切り落とされたこと、ハジメも、白野も、生存も元の世界への帰還も、腕の再生すら何ひとつとして諦めていないことを語った。
決意を新たにしつつ、ふと我に返ったハジメは隣を見ると、涙目でありながら若干頬が赤くなるユエに気付く。
「・・・二人とも・・・・・・凄く強い」
ユエは両手を切り落とされた話を聞いて、凄く辛いと感じた。両腕を失った白野も、自分を庇ったせいで白野の両腕が切り落とされる瞬間をみたハジメも、どちらも辛い。信頼にヒビが入ってもおかしくない出来事だと感じた。
だが二人は、確かに信頼し合っている。両腕を失った白野に対し前線を任せるハジメも、ハジメの援護に全幅の信頼を寄せて前に出る白野も、お互いがお互いを信頼していなければ出来ないことだ。
だから、ユエは同情しないことにした。二人の関係は凄く綺麗だった。そこに、部外者が可哀想だとか思うのは不謹慎で―――
ポンとユエの頭にハジメの手が置かれた。
「そう難しく考えるな。実際俺達の間にも目に見えない蟠りみたいなもんはきっとある。それを些事だと割り切ってるんだ。ユエも、きっとまだ俺達との関係に不安があるだろ、そもそもついさっき自己紹介したばっかりだから、当たり前だ。でも、この迷宮にそんな不安や蟠りはあっちゃいけない、割り切らなきゃならない。だから、嘘でもいい、俺達を家族だとでも思え」
「・・・・・・家族?」
「ああ、というか、ユエの名前はなんだ」
「・・・・・・キシナミ・ユエ」
「そうだろ、白野の妹の岸波ユエだ。妹が姉に遠慮することは何にも無いだろ」
「・・・・・・うん。・・・なら私とハジメは?」
「え?」
ズイ、っと接近するユエ。目が潤んでいるのはきっと先ほどの名残だろう。最早ユエに押し倒される寸前だが、筋力ステータスが違う。ハジメはどっしりと構えていた。
「白野は恵理っていう彼女がいる。つまり、ハジメはフリー?」
「まて、ユエ、ステイだ。確かに俺と白野はそう言う関係じゃない。だが今はまだそう言うことを言ってる段階じゃ・・・」
「白野の腕を治す。それがハジメの大目標」
「・・・・・・そうだな」
妖艶な吸血鬼の少女は、今までの無表情はなんだったのかというくらいの、花が咲くような、まるで向日葵を連想するほどの満面の笑みを浮かべて、目標を語る。
「きっと、私は三人と家族になる。・・・わたしの、ユエの目標・・・駄目?」
月のような少女だと思っていた。物静かで、冷静で、掴みどころのないふわふわとした少女だと。
今、彼女から向けられた熱量は、そんなハジメの考えを覆した。
「・・・駄目も否もあるか、まず脱出して、白野の腕を治す。俺はそれに集中する。それだけだ」
「ん。ハジメはそれで良い。きっとそれが良い」
体をハジメから離したユエは顔をパタパタとして白野が寝ている、フリをしてる布団を見る。聞かれてないよね?見たいな雰囲気を出しているが、多分聞いている。まあ言わないが。
「・・・ユエもとりあえず寝ていろ、白野が戦えるようになったら攻略再開だ」
「うん」
こうして、ユエを加えて白野とハジメは迷宮攻略を再会する。
攻略速度はさらに加速する。白野の暗殺者による索敵はハジメの気配感知の倍の範囲を索敵し、距離があるなら改良したシュラーゲンが、数が居るならユエの魔法が殲滅した。
耐久性に難のあったシュラーゲンはサソリモドキから得たシュタル鉱石によって大幅に改善し、加えてユエの魔法によって素早く冷却が可能となり、ある程度の連射性すら有していた。
だが、
「なんなんだあの数は!!」
「総数200を超えてる!!もう150は倒したのに!!」
「二人ともファイト・・・」
「お前は気楽だな!!」
「もっと可愛らしく!!」
「・・・おねえちゃん頑張れ・・・!ハジメっファイト・・・!」
こんな時にまでペースが変わらない白野はユエを抱えて疾走している。主戦力であるハジメの両腕を塞ぐわけにも行かず、しかしユエの俊敏ステータスでは追いつかれるため白野がユエをおんぶ紐で固定して走っている。もとよりステータスは白野が上、ハジメの全力疾走にも問題なく付いて来ていた。
「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」
とは言え問題は敵の数だ。ユエの魔法なら10や20は問題にならない。深層の魔物に対しても白野以上の魔力ステータスと連射可能な上級、最上級魔法は凄まじい殲滅力を有していた。だが50体以上の敵はそう簡単に殲滅出来ない。熱や氷に耐性があったり、耐久や魔耐が高い魔物はユエの魔法であっても耐えてくる上、俊敏値が高い魔物はユエの魔法を避けてくる。無論そこを補うのがハジメや白野なのだが、80を超えるとジリ貧といわざるを得ない。
数が100を越えた時点で撤退以外の選択肢は無く、結果こうして大量の魔物と追いかけっこをすることとなった。
尤も、ピンチかといわれるとそうでもない。
遠距離攻撃をしてくる敵は居らず、追いかけてくる恐竜モドキ、ラプトルやティラノは殆ど直線的に迫ってくる。
結果、開き直った白野達は彼らを連れまわした状態でマッピングを開始した。
新たに開花した白野の暗殺者の技能〝土地鑑〟によりどれだけ混戦になったとしても現在地を見失うことは無かった。
「OK、全体把握終わり。ここの主はやっぱりあの壁の中央の亀裂だ!!」
明らかに攻勢が激しくなったあの壁付近、壁の中にも一体だけ敵の反応があり、まず間違いなくそれがここの主だろうとは予測できた。とは言えタイミング悪く正面と後ろとを完璧に塞がれ、一先ず離脱となったのだ。
「このまま亀裂に向かって、直前で念の為一掃する!合図したらハジメは焼夷手榴弾を右後方、その3秒後にユエは左後方へ緋槍と砲皇!」
「了解」「んっ」
「3、2、1、ハジメ!!」
ハジメは焼夷手榴弾を3つ後方へ置くように投げた。3秒後に焼夷手榴弾は盛大に液化したタール鉱石をぶちまけ、着火する。
「ユエ!!」
「〝緋槍〟〝砲皇〟!」
それと同時、灼熱の槍が森を焼き、後から放たれた空気の砲弾がその火勢を強力にする。
ただの炎で倒れる程ここの魔物は易しくない、だが、その頭に咲いている花は別だ。
前方の魔物は突如倒れた。正気に返ると、後続の魔物に咲いている花に対して、狂ったように攻撃し始めた。余ほど気に喰わないのだろう。これでもう追跡どころではない。
「流石に分かり易過ぎるな。寄生といったところか」
「なかなか可愛い・・・センスだけは認めてあげる・・・」
「気をつけて、壁の中に気配があるけど・・・詳細が分からない、隠密系だ」
壁の隙間に入って直ぐ、錬成によって塞ぐ。辺りはかなり暗いが、ハジメの作った照明で十分な明るさだ。
そして、突如殺気が周囲から放たれた。
「来る!!全方位からの遠距離攻撃!!」
「〝錬成〟」
ハジメは即座に腰につけてある金属塊を錬成し、盾とする。衝撃が強くないことを確認し、さらに薄く広く延ばす。ユエと白野の心配など殆どしていないが、念の為確認しようと振り返ったときだ。
「・・・にげて・・・ハジメ!!」
いつの間にかユエの手がハジメに向いていた。ユエの手に風が集束する。即座に手元の盾をユエに向ける。だが、それを回り込むように白野が動く。
「くそっ、マジかよ!!」
盾を捨て、間一髪縮地と空歩での回避が間に合った。白野の速度からして暗殺者の効果が切れていたのも一因だ。
原因は明白、ユエと白野の頭に咲いた花だ。真っ赤なバラと白いマーガレット。何気に似合っているのが腹立たしい。
「くそっ、さっきの緑玉か!?」
悪態を付くが状況の覆し方が分からない。ユエの魔法が白野の機動力によって運用されているというのは正直かなりピンチだ。
「・・・っ」
幸いなのは、白野が若干抵抗できている点だ。目を閉ざしているため、白野の先読が機能していない上、狐の鏡も出していない。あくまで体の制御を奪われているだけらしい。
だが、ピンチには変わりない、避ける先にユエの魔法が置くように放たれ、接近すれば蹴りが飛んでくる。背中のユエは顔が青い。
「ハ、ハジメ・・・ごめんなさい」
「なんだ、もう諦めるのか?」
「で、でも・・・」
「時間は味方だ。任せろ」
ハジメはシュラークとドンナーを仕舞い。指をコキコキと鳴らす。完全に勝負を捨てていた。
「俺にお前は倒せないが、お前も俺を倒せない。だったら勝つのは俺なんだよ。植物風情が」
啖呵を切った先は先ほどから気配を隠さなくなった岩陰の後ろ、この階層の主だ。
姿を隠す必要性を感じなくなったのか、それは出てきた。
「エセアルラウネが。伐採してやる。」
女の形をした植物の魔物、便宜上エセアルラウネとするが、余裕の表情に一発ぐらいかましてやるとハジメは縮地と空歩を使って接近する。
当然白野とユエが妨害し、ハジメは回避する。その様を笑いながら鑑賞するエセアルラウネ。
壁を蹴り、天井を蹴り、風の刃を風爪で相殺し、迫る蹴りを豪脚で受ける。氷の弾丸をシュラークで撃ちぬき、水の刃を空中機動で躱す。
回避に集中するハジメにユエの魔法は当たらず、白野の機動力によってエセアルラウネを仕留めることも、花を散らすことも出来なかった。
だが、終わりの無いはずの鬼ごっこは、唐突に終わりを迎えた。
「ガブリ」
棒読みの擬音と共に、白野がユエの花を食いちぎった。
「え!?え?なんでお姉ちゃんなんで???」
「ハジメ、トドメを!!」
ドパン!!
ありえないはずの出来事に困惑していたエセアルラウネは、避けるという意思すら見せずに死んでいった。
タネを明かすならば自己改造を使ったのだ。本来異物であるものを自己の範囲に入れる技能であり、花が生えた時点でその花を自己の範囲に入れ、体の支配権を奪い返したのだ。
ハジメはこの技能の仕組みを聞いており、白野が寄生に対して抵抗出来ている点からその可能性に思い至ったのだ。
だが。
「イ゛ッ痛い痛いイタイ!!」
代償として花の摘出に激痛が齎されてしまったのだ。
「はあ、ユエ。麻酔魔法頼めるか」
「んっ〝暗寧〟」
結果として全て丸く収まったが、しばらく白野は戦えない。リキャストもあるが「痛かったよう」とユエに泣き付いている。あれは暫く掛かる。
とりあえず周囲に敵の存在はないし、ここで休息をとっても大丈夫だろうとハジメは判断した。
「しかし、痛い、か・・・・・・・・いや、今の俺じゃ無理だな」
原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)
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ありふれ、EXTRA両方知ってる
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ありふれのみ知ってる
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EXTRAのみ知ってる
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両方知らない