はくのんは転移した   作:鎖佐

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一ヶ月!?そんな馬鹿な…
…いやでも10話程書くのに半年以上掛かってたし、うんまあ、仕方ないよね。




Side恵理 可能性は0ではない

「エリリン、ごはん、置いておくからね」

 

 ハイリヒ王国王宮内、本来なら岸波白野と中村恵理に宛がわれた部屋の前で、谷口鈴は鈍痛な表情のまま、扉の前に立っていた。

 

 あの日、岸波白野と南雲ハジメの喪失から今日で5日目、恵理は部屋から出てきていない。

 どれだけ声をかけても返事はなく、扉の前に食事を置いておけば水とパンだけがなくなっており、失意の底ではあるが、最悪の決断だけは踏みとどまっているようだ。

 

 鈴は、その選択があり得るものだと知っている。

 

 

 

 あの事件の後、クラスメイト達は王国に帰還し、休養とメンタルケアを受けている。だが、空気は一様に暗く重い。原因は二つ。

 一つは言うまでもない、白野とハジメの事故死だ。

 ハジメも白野も人一倍努力していたのはクラスメイトや騎士たちが良く知っている。数名は南雲の作った武器をサブ武器として所持していたり、現代知識を駆使して作られた防具を身に着けていたりもする。アーティファクトも数に限りがあるのだ。

 

 正直に言うと、鈴を含めて数名の生徒は南雲に期待していた、銃器の作成を。

 前線に出て剣を振り回して戦うなんて、現実でやるには狂気的だ。戦いは、よりリーチの長い武器で一方的に殴る方が強い。

 そしてそれを近代化した結果、突撃してきた敵を砲撃で耕すことになる。第一次世界大戦で確立した基本戦術くらい、高校生ともなれば知っている。

 それを唯一実現できそうな人物こそ、南雲ハジメだったのだ。

 

 

 だが、この世界の人々はそうではない。未だに剣士が重装備で突撃し、敵陣に突っ込んで蹴散らすなんて云う夢物語を見ている。

 成程そんな夢を見ているから天之河に剣を教える訳か。はっきり言って、〝神威〟と〝天翔閃〟を連発する移動砲台として運用した方が強い。大量の魔力回復ポーションが必要になるが、味方の損害を抑えれば回復に物資を回さずに済む。

 おそらくは、〝神威〟という大火力を王国側が扱ったことがない故の盲点なのだろう。

 

 そしてそれは、白野の評価を著しく下げていた。

 勇者を使うと僅か3分で効果が切れ、半日に渡って弱体化する。剣士で3時間戦っても9時間のリキャストだ。万能というには程遠く、オールラウンダーと言うにはピーキー。そんな評価だ。

 所詮勇者の紛い者と、そのオマケであったのだと、物陰でこそこそとしゃべっている処を聞いた。

 

 

『王国を信用するべきじゃない。でも、信用される必要がある』

 

 

 白野や恵理が常々言っていたことが現実味を帯びる。あんな人間の一体どこを信用するというのか。

 光輝はこの話を聞いた瞬間に激怒し、貴族たちをぶん殴った後国王も貴族たちの処分を言い渡した。

 

 勿論光輝が怒って二人の評価が覆る。なんてことは起きない。

 

 結局、白野とハジメは神の威光を傷つけたアンタッチャブルという評価が、王国上層部の評価だ。

 

「…腹立つなぁ」

 

 谷口鈴にそんな空気を払拭する術は無い。八方美人として上手くクラスに溶け込むことは出来たが、影響力というものを、鈴は発揮してこなかったからだ。

 結局友人である恵理の心を癒すことも出来ず、クラスメイトの沈痛な雰囲気を払拭することも出来ないまま鈴はずるずると日々を過ごしている。

 

 

 慰める側の人間が何という顔しているのかと、パンと顔を叩き、扉の向こうに声をかけて後にする。

 今まで出来なかったことが今できるようになる筈がない。だから、今までやってきたことを貫き通すと決意を新たに、鈴は声を掛けるべきクラスメイトをリストアップしていく。

 

 

 だが、後ろからガチャリという音が聞こえた。

 

「…恵理?」

「…元気ないね?鈴、どうしたの」

 

 目には酷い隈があり、髪は艶がないどころかボッサボサで一見恵理と分らなかったほどだ。

 それでも、メガネに曇りは一つもない。白野から贈られたという丸縁のメガネは鈴もよく知っている。夜の8時から深夜12時半まで惚気られたその思い出(恨み)は早々忘れることなどできないのだ。

 そのメガネは普段使いではなく、白野とのお出かけなどにのみ使うお気に入りであったはず。それを今、掛けていた。

 

「恵理、その、大丈夫なの?それに、そのメガネ…」

「全然大丈夫じゃない。今死んでない僕を褒めてほしいくらい。あ、鈴にじゃないからね」

 

 それなりに長い付き合いだというのに、相変わらず毒がある。とはいえ、最近恵理は心の距離が近くなると毒を零しやすくなるタイプだと理解したため気にしない。

 

「それは、分るけど。その…」

「言いたいことは分るよ。でも、諸々含めてこれからの話がしたい。皆を集めて欲し、かったんだけど…調子悪いなら別の人に頼むけど?」

 

 …いや、誰のせいで落ち込んでいたと思っているのか。

 確かに王宮内への不満とか先行きの不安とかもあったけど‼割合で言えば恵理の心配が5割で香織の心配が4割、あとはその他諸々だ。5割ということは四捨五入すれば10割である。

 

「だ、誰のせいでこんなに落ち込んでると思ってんの⁉毎日毎日パンと水だけで返事も無いし‼そのうち死んじゃうんじゃないかって思ってたんだから‼」

「うわ、鈴が怒った」

「『うわ』って何⁉言うに事欠いて『うわ』って‼」

「はいはいごめんごめん」

「反省の色は⁉」

 

 鈴の頭を適当に撫でてなあなあで済ませる気が伝わってくる雑な対応。

 いろいろと捲し立てたが、本気で怒ってないことも伝わっているのだろう。今も、鈴の感情の大部分は恵理の心配なのだから。

 

「はあ、はあ、まったくもう…これからの話って言った⁉」

「まだ半ギレ…うん。これからの行動方針について、ちゃんと話したい。本当は王宮内でしたくないんだけど、そういうわけにも行かないだろうから仕方ない。…出来れば全員、先生も含めて、ちゃんと話したい」

 

 目に狂気を宿しながら理性的な視点を維持するサイコパス。それが鈴による恵理の客観的評価だ。基本的にその狂気は白野にのみ向けられていたため彼女がクレイジーサイコレズであっても友達であり続けられた。だが、白野がいなくなった今、その狂気が何処に向けらるかが不安だった。

 

「僕は、白野の生存を諦めてないんだ」

 

 狂気の方向は、変わっていない。

 

「僕の天職は„降霊術師“なんだけど…どれだけ呼びかけても、白野が来ないんだ。こんなのおかしいでしょ?」

 

 狂気度は深まっていた。さすがクレイジーサイコレズ。

 

「だから、だからさ。迎えに行かないといけないんだ。きっと白野は今も困ってる。助けてあげないと」

「だから、みんなを連れて、ダンジョンを攻略するの?」

 

 生きているかどうかもわからない白野を探すために、みんなを連れて探しに行く。

 もしその選択をとるなら鈴は反対していた。多くのクラスメイトが戦うことに折れ、挫折している。それを無理やり巻き込むというのなら本気で反対した。

 

「………足手纏いは、必要ない。やる気のある奴だけで行く」

 

 その選択が出来るから、鈴は恵理の友達で居られる。

 恵理だって分かっている。スペック的にクラスメイトは全員役に立つ。何せあのソルジャーとの戦いで正面に出た人は、すでに王国騎士の平均ステータスを遥かに上回っている。

 連れて行く人数が多ければ多いほど攻略は早く進み、白野がもし生きていた場合の救出成功率は上がる。

 

 その可能性を削ってでも、恵理はクラスメイトを慮ることが出来る。

 

 正しい選択がどちらかなんて、分らない。そんなものは結果論だ。

 だから、この選択を良い選択だと思っているのは鈴の好みの問題だ。

 

「鈴も、一緒に行くから」

「……」

「鈴ね、恵理は白野の為ならクラスメイトだろうが友達だろうが何だって投げ捨てるクレイジーサイコレズだと思ってたんだ」

「実に遺憾だけれど、何も間違ってないじゃない」

「今鈴を巻き込んでも良いのかな~とか悩んでたのに?」

「足手纏いは要らないって言ったの、もう忘れたのかなって心配したんだよ」

「鈴結構上位の方なんですけど‼」

 

 狂気とモラルが同居した不器用な友人が、助けを求めているのだ。いや、この場合は『手助け』だろうか。

 『助ける』ということは、自分では如何にも出来ない事を、如何にかすることを云う。

 だから、谷口鈴がこれからするのは自らの十八番。『余計なお節介』だ。

 

「何言ったって付いていくから‼鈴だってはくのんと友達になりたいんだし‼」

「は?」

「そ、そんな目で見ても怖くないから‼」

「っち、やっぱりこっち系か」

「違うし‼鈴は至ってノーマルだから‼」

「八重樫に甘々な雰囲気で押し倒されたら?」

「はっ………い、いや…ちゃんと嫌がるし」

「はあ…要するにバイなんだよ鈴も…あ、ごはん。持ってきてくれたんだ、ありがと。有難く頂くから、とりあえず皆に声かけといてね」

 

 パタンと閉じた扉を呆然と見つめる鈴。彼女の心中はただ一言で埋め尽くされていた。

 『も?』

 

 

 

 

 

 白崎香織が目を覚まさなくなって5日目、八重樫雫は今日も香織の手を取って物思いにふけっていた。

 その手の平には、治癒魔法でも消えない跡が、残っている。

 

 白野とハジメが伸ばした最後の頼みの綱は確かに香織と中村恵理の手に届いた。だが人2人分、加えて戦闘のための重装備を含めた重さを支えられる程の膂力が二人には無かった。否、おそらく天之河や龍太郎でも難しいだろう。だが、そんなことは何の慰めにもならない。

 

 届いた。しかし力が足りなかった。

 

 その事実が香織を追い詰めている。実際直後の錯乱具合は酷かった。

 香織は雫の拘束を振り切ってハジメを追おうとし、恵理に至っては血塗れ拳を地面に叩き付け続けていた。

 

『あ、ああああああ‼南雲君‼待って、や、約束、約束したのにぃ‼離して‼行かなきゃ‼助けないと‼』

『は、はくの…はくの…ごめんなさ、あ、ああああああ、…役立たず‼この役立たずが‼』

 

 約束の履行も謝罪も届かない。ただ自責だけが残ってしまった。

 結局メルド団長が二人を気絶させなければ下手をすれば香織は雫を振り切って飛び降り、恵理は自傷の末手を潰しかねなかっただろう。

 もはや一行の空気は死んだようなものだった。

 

 

 王都に帰還してからも香織は目が覚めず、恵理は部屋に閉じこもって最低限の食事だけを取っている。

 クラスメイト達も悪い想像を振り払うかのように訓練に打ち込む者から、塞ぎ込んで戦いを拒む者、あるいは如何にか暗い雰囲気を払拭しようと動き回る者とバラバラだ。

 

「これから、どうなるのかしらね」

 

『300人から3000人追加した程度で勝ち目が見える戦いなのですか?』

『あなた方は我ら人間族の旗印になって戴きたく思っておりますな』

 

 戦争がもうすぐ起こる国にいて、この纏まりのなさが拙いことは分かる。分かるが如何すればいいのか雫には分からない。白野や光輝が言っていたように、雫たちはこの世界の人たちに頼りになることを伝えなければならない。だというのに訓練初日に罠に掛かって最高戦力を2人失い、クラスメイトの意志もバラバラ。

 こんな人たちのどこを頼れるというのか、それが今の客観的評価だろう。

 かく云う雫も同じだ。今の香織を一人に出来ないと思い、訓練こそ受けているが続く迷宮攻略への参加は見送っている。やるべきことよりやりたいことを優先しているのだ。

 

 でも、どうしても今は他のクラスメイトより香織を優先したい。だって親友なのだから。

 

 その時、手のひらの傷跡を撫でる手がほんの僅かに握り返された。

 

「⁉ 香織!聞こえる⁉香織‼」

 

 

 

 

 

 雫は意識を取り戻した香織を介抱し、5日間の空白の時間について話して聞かせる。

 尤も、香織はずっと手のひらを見つめて上の空であったが…

 

「雫ちゃん、ごめん。私、まだ認められない」

 

 ついに香織の瞳から涙が溢れ始めた。一度決壊した涙腺は滂沱のごとく流れ続け、しかし拭うこともせずにずっと手のひらを見つめ続けている。

 

「あり得ないって分かる。生きてる筈がない、助かる筈がない。なにより、間に合う筈がないって、でも、でもね。どうしても確かめたいの」

「香織…」

「私、戦うから。例え、例え見つかったのが死体だとしても‼遺骨だけでも…グス、絶対‼連れて帰らないと、いけないからぁ‼」

 

 余りにも悲壮な覚悟に、雫は最早涙を流す他ない。止めることなどできない。

 顔を覆って泣きじゃくる香織を、雫は抱きしめた。ダンジョン攻略に次いで、ハジメと白野の捜索。きっと誰も浮かばれない結果になることは間違いない。そもそも見つからない可能性のほうが高い。

 

 正しい行動かどうかは、分らない。けれど絶対に間違いではないはずだ。

 仲間を弔うことの、一体何が間違いだ。

 

 雫もまた決意を新たにする。そうだ、こんな見ず知らずの異世界で、奈落の底に眠る等悲惨すぎる。救いでは無いけれど、こんな終わりは認められない。

 

「香織、私も、戦うから。今度こそ、ちゃんと戦うから」

「う゛ん゛‼」

 

 涙を流しながら少女たちは決意する。

 悲しい結末を迎える、覚悟を

 

 

 コンコン

 

『恵理だけど、白崎さん起きてる?』

 

 そこに、もう一人の絶望を見た者がやってきた。

 




しばらく戦闘シーンとはお別れか…ちゃんと描写出来てるかは置いておいて文字数稼ぎやすいんですよね。あと筆が良く乗る。

話し合いとか、日常シーンとか、書きたい図はあるのに表現が追い付かないんです。

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

  • ありふれ、EXTRA両方知ってる
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