はくのんは転移した   作:鎖佐

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マジで難産だった。


反逆者の住処

 ああ、夢かと自覚する。

 重力も、色も、匂いも感じないのに、声だけを確かに感じる夢だ。

 

―――どうやら、表側の記憶は思い出したようだね。

 

 そうだ。岸波白野は確かに月の記憶を思い出した…

 表側?まるで裏があるような言い方だ。

 

 

 まて、どうして3人分の記憶がある。

 まるで聖杯戦争を3回繰り返したようなこの記憶は…

 

―――それは正確ではない。マスター、君には3つの可能性があったのさ。…もう、今更語るまでも無いだろう?

 

 ああ、そうだ。今更語って聞かされる迄もない。岸波白野のサーヴァントとなりえる人は3人しかいない。

 セイバー、アーチャー、キャスターだ。

 

―――そう、そのはずだった。だが、君はもう一つの聖杯戦争を忘れている。厳重に封を施されている。

 

…それが、裏側?

 

―――その通りだ、マスター。だが、別段今後この裏側の記憶が重要になる場面は無いだろう。

―――私は、君がこうなった原因は裏側にある。という説明に来たのだよ。

 

 原因、…何かトラブルでも起きたのか?

 

―――……いや、マスターは完璧に、鮮やかに、世界を救ってハッピーエンドを齎したさ。

 

 せ、世界を救うだなんて、わたしにそんな力があるとはとても

 

―――だというのに‼

 

 ひいぃ!?

 

―――最後の最後でしくじったんだ‼

 

 あ、あのー、わたしその当時の記憶が無くてですね。わたしに怒られても実感が…

 

―――いつもの事だろう‼今更そんなことに気を使う程優しくないぞ‼

 

 ひ、酷い‼いったい何をそんなに怒ってるんだ。キャ、キャスター‼セイバー‼助け、

 

―――言っておくと二人はもっと怒っている。

 

 おわった。わたしはいったい何をしたんだ。3人にこれほど怒られるような事、まるで心当たりが…

 

―――ふん。まあいい。君も彼女も反省という文字が欠落した人間だ。言っても仕方ない

―――そろそろ起きたまえ、君の仲間が待っている。

―――というか、今後ろに抑えている二人が大騒ぎを起こしている。早く起きたまえ、魂が砕けるぞ!!

 

 い、いつの間にそんな爆弾が⁉仕方ない、もうちょっと話を聞きたいところだけど…

 

 行ってきます!!

 

―――…ああ、行ってこい。マスター。

 

 

白野が目を覚ました時、見覚えのない天井とベッドの感触があった。

鏡を出して周囲を映すが、どう見ても戦った場所ではない。おそらくヒュドラの後ろにあった扉の向こう側だろう。

 

「おーい、だれか~」

 

 こんなところに放置されているというのなら、ある程度の安全確認は終えているのだろう。白野は緊張感のない声を上げた。

 

「白野‼…起きた‼」

「おっわ」

 

 返事はベッドの中から来た。ユエが布団の中に潜り混んでいたのだ。

 

「怪我は無い?体調は?あ、水飲む?」

「大丈夫、大丈夫だから。ユエ急に饒舌になったね」

「……ん。そんなことない。大丈夫ならいいの…。安心した」

 

 もしや口数の少ない寡黙な性格はキャラ付けなのか?と疑問に思うが、まあ気にするほどの事ではない。ポフリと白野の胸に頭を預けたユエを受け入れ、右腕で抱き返す。

 

コンコンと、ノックの後に扉の向こう側から声が掛かる。ハジメの声だ。

 

「起きたか白野?」

「うん。面倒を掛けたね。ちょっと待ってくれ」

「ああ、急がなくていいぞ」

 

 さっきまで気を失っていた為、嫁入道具で出した服は消失している。白野もユエも申し訳程度のシャツを着ているが、ほぼ何も着ていない状態だ。

 ベットから起き上がって衣服を整え、ユエに髪を梳いてもらって支度を整える。

 

 寝室?の隣の部屋はリビングのようになっており、ハジメは椅子に腰かけて本を読んでいた。

 

「おはよう白野。後遺症とかは無いか」

「いや…ハジメ、それは君だろう?………中二病が悪化しているぞ」

 

 ハジメはガンとテーブルに頭突きを入れる。

 そう、ハジメはあの光線の後遺症で右目の視力を大幅に落としている。加えて、これがハジメのメンタルを盛大に削っているのだが…

 右目が赤色になっていた。

 オッドアイである。

 …痛たたたたた。

 

「…一緒に死線をくぐったってのに、相変わらずの扱いでむしろ安心するわ」

「相棒なんて多少雑に扱うくらいで丁度いいでしょ」

 

 そう言って白野とハジメは笑いあう。

 困難を乗り越えたという実感が在るからこそ、二人は久しぶりに、心から湧き出る喜びに、笑った。

 

 

 

 

 戦いの後の顛末について、特筆すべき点はほぼない。

 白野とハジメは戦いの後に昏倒し、ユエだけが残った。そして迷宮の奥への扉が開き、中を確かめたところ、危険を感じない住処のようになっていることを確認し、身体強化を駆使して白野とハジメを運び込んだのだ。

 暫くしてハジメが起き、建物内部を簡単に捜索し、特に危険が無いことを確認したうえで休息と装備類の補充を行っていたそうだ。

 

「さすがに単独行動は問題だし、意識のない白野を置いていくのは論外だからな。まあ、やっとここまで来たんだ、詰めを誤るのは馬鹿のすることだろ」

「詰め、か。そうだな。いよいよ帰還が現実的になってきた。慎重に行こう」

「ん、もうすぐ普通のご飯が食べられるね」

「「やめてくれユエ、冷静さが欠ける」」

 

 シュラーク・ドンナーを油断なく構えたハジメとユエが先陣を切って扉を開ける。差し込んでくるのは迷宮内では滅多に見ない眩い光だった。

 薄暗い迷宮内で暗闇になれたところを光で眩ませる罠かと白野は身構える。

 

「大丈夫だ白野、扉のすぐそこまでは安全確認を終えている。見ろ、人工太陽らしい」

「じ、人工太陽?」

 

 目がようやく光に慣れてきたころで、ようやく周囲を見渡すことが出来た。

 

 燦燦と降り注ぐ陽の光と青草の香り、耳に届くのは水面を打つ滝の音。まるで絵にかいたような畔の風景だった。

 

「あ。」

 

 ここが人工的に作られた場所だと理解しつつも、白野は涙を流さずには居られなかった。

 何日、あるいは何ヶ月か、穴倉を掘って気の休まらない日々を過ごした白野は、今折れた。

 

「…まあ、敵の気配も一切ない。白野、暗殺者で索敵してくれ」

「…ぅん」

 

 へたり込んだ白野を戦力ではなく護衛対象に変更し、ハジメはドンナーをしまって肩を貸す。

 緊張の糸が切れたのならば仕方がない、白野とハジメでは掛かるプレッシャーが違うのだから。

 

「…敵は、居ないけど。動体反応がある。何だろう、ロボット?」

「ん…多分、この場所を管理してるゴーレムだと思う」

 

 白野が示したのは先ほどとは違う、壁に埋め込む形で作られた建物だった。意を決して扉を開け放てば、ルンバ擬きが床を掃除していた。

 

「本格的に敵は居ないとみて良さそうだな、白野、立てるか」

「うん。ごめん、ありがとう」

「ああ、白野のしおらしい(・・・・・)一面が見れて役得だったさ。中村に自慢してやらねえとな」

「ぐぬぬ」

 

 さらに部屋を巡ればリビング、台所にトイレ(驚くべきことに水洗)と風呂を発見した。

 

「本格的だな」

「シャワーもあるね」

 

 ダンジョン内ではストレスが限界を迎えた白野がハジメに風呂を作らせ、ユエが水を沸かせる等していた為、そこまで久しぶりというわけではない。が、石鹸等も揃っているため、有難いことは変わりなかった。

 

 そして、最後の一室。三階にある唯一の部屋。

 扉を開け放って目に入るのは巨大な魔法陣と、玉座とも言える豪華な椅子に座る白骨遺体だった。

 

「…ダメ、これも解読不能だ。というか、今までで一番理解できない」

「ここまで来て罠、ということはないと思いたいが…さて、」

 

 白野の有する技能〝道具作成〟は一目見て魔法陣を理解する解析技能でもある。だが、今までにも幾つか解読できなかった魔法陣がある。トラップとして発動した転移の魔法陣やユエを封印していた建物の魔法陣だ。

 

 だが、これはそれらの比ではない。例えるならば、転移の魔法陣は知らない単語を使った魔法陣、これは知らない言語で書かれた魔法陣だ。

 

「ん、ならわたしが前に行く」

「…分かった。何かあればすぐに動く。頼んだ」

「ん!」

 

 罠の可能性は否定できない、故に、自動再生を持つユエが前に出た。

 瞬間、部屋が閃光に包まれる。

 

 

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

 

 

 

 オスカー・オルクスの幻影が語るのは、遥か昔の戦争の真実。神が齎す災厄の物語だった。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

 長い話は終わり、幻影は消失した。

 それを確認し、ハジメは閃光と同時に立ち眩んだユエを起こす。

 

「ユエ、大丈夫か?」

「ん、ちょっと頭痛がしただけ。もう大丈夫」

 

 立ち上がったユエは確かに問題なさそうだった。だが、なんだか上の空というか、信じられない物を見た、という雰囲気がある。

 

「いや、無理もないか、信じていた神が邪神だったって言うんだから」

「ハジメ、お姉ちゃん。なんか、神代魔法が使えるようになった」

「「は?」」

 

『神代魔法』

遥か古代に使われていた魔法であり、失伝したと云われる超級を超える魔術。それが神代魔法だ。転移の魔法などもこれにあたる。

 

「生成魔法っていう。アーティファクトを作るための魔法」

「「…」」

 

 

 

 斯くして、白野、ハジメは神代魔法〝生成魔法〟を獲得した。

 はっきり言って驚異的な戦力強化が可能になった。

 

 何せ獲得している二人が

 魔物の技能を習得した南雲ハジメ

 天職を一時的に切り替えることが出来る岸波白野

 である。チート乙。

 

 因みに都合2回オスカーの幻影は現れたが、悉く無視された。

 一応、丁寧に埋葬されたので、文句は無いだろう。

 

 

 

 

 

 その後、書斎や工房を漁った際にアーティファクト作成の設計書や素材。試作品に完成品にと所狭しと並べられていた。特に設計書はハジメにとって千金に勝る宝であった。

 

 魔道義手の設計書と試作品 

 ピースは揃った。南雲ハジメはそう確信した。

 

「義手を作ろう」

 

 まだ本物には手が届かない。だから、それまでの、繋ぎの両手を作ろう。

 




説明文大っ嫌い。
読むのは苦じゃないけど、書きたくない。

前半部分で白野がどの√を辿ってきたか察する人も居るでしょうか。
そうです。調子乗ったこの人と反省しないあの人と選択肢をミスったあなたのせいです。

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