岸波白野は覚醒と同時に思考を加速させる。
ここはどこだ?純白の建築物、恐らくは大理石、思いつくのはセントポール大聖堂だが、このような絵画は無い。
そう、絵画だ。まさにこの空間のメインに据えられた、恐らくは神を描いたであろう壁画に見覚えが無い。世界遺産にすら登録されるであろうこの絵画をだ。
「は、白野・・・」
ふと腕を掴まれた。恵理だ。視線の先、岸波やほかのクラスメイトの居る台座から視線をやや下げると30人近い人間が膝を付いていた。
最早岸波は状況の理解をやめ、思考をフラットにする。
こういうときに頼りになるのは、天之河だろう。彼はとにかく動いて問題解決に当たろうとするが、こういうときは動けないほうが不味い。
更に状況は動く。膝を付いている30人とは明らかに様相の違う老人がやって来た。その目に浮かぶ熱量は只者では無いと示している。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
◆
大聖堂を移動し、10メートル以上はあるであろうテーブルがいくつも並んだ大広間に案内された。
調度品や絵画が品良く並べられ、テーブルに飾られた花もその道の人が活けたものと分かる。加えて、グラスに至っては銀製だ。
岸波は白崎に引きずられて隣に座っていた。割と上座よりの方だった。
「アレがここのメイド服・・・いや、法衣の可能性もあるか・・・言ったら借りれるかな」
「何する気なのかな?というか、余裕だね岸波さん・・・」
「ふ、白崎さん、余裕というものは作るものだよ」
「ようするにバカなことに意識を割いて頭をリセットしたいと」
「着てくれる恵理?」
「馬鹿じゃないの?」
いつも通りの軽口はやはり精神を安定させてくれる。加えてなんだかんだ着てくれそうな雰囲気を感じた岸波は本題に向けて意識を切り替えた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そして聞いた話は要約すると、岸波たちは神エヒトが遣わした人類の救世主であり、神敵たる魔族を滅ぼして欲しいという話だった。
まさしく宗教国家万歳といったところ。彼らはまだ高校生の見るからに子供である岸波達が自分達を救ってくれると信じているらしい。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
それに猛然と食って掛かったのは転移してきた者達の仲で唯一の大人、愛子先生だ。
正直尊敬の念が湧いて来る。言ってしまえばここに居る生徒達は愛子先生にとって他人だ。岸波も恵理も教師という生き物が保身的なものだと理解している。まさかここで生徒の為に堂々と否と言える度量があるとは。
だが、現実は無常だった。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
引きつった呼気が周囲から漏れる。愛子先生は勢いを増して食って掛かるが返答は変わらない。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「質問、良いですか?」
騒然となりかけた大広間に凛とした声が響いた。岸波白野が挙手と共に声をあげた。
「ええ、何なりとお聞きくだされ」
「では、先ほどアナタは魔族の脅威は魔獣を従えたことによる数が脅威だといいました。其れに対して高々30人そこらの人員を追加したところで意味があるのですか?」
「ご心配は尤も、ですがご安心くだされ。あなた方はこの世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「なるほど、では人員を300人から3000人追加した程度で勝ち目が見える戦いなのですか?」
ふと、イシュタルの空気が変わった。好々爺とした雰囲気は変わらないが、声に熱が入り始めた。
「なるほど、御見それいたしました。流石は神に選ばれたお方。本心から申しますれば、あなた方は我ら人間族の旗印になって戴きたく思っておりますな。前線で戦う兵士達も先の見えない不安に苛まれております。家に待つ妻や子供達もまた日々教会で真摯に祈りを捧げておりました。そしてその祈りが、遂に届いたので御座います。」
旗印。すなわち扇動者となって兵士達を鼓舞し、勇者様万歳、エヒト様万歳と叫んで突撃する兵士を作りたいのだろう。
つまり、最前線に立てということ。
幸いなのは魔属領に突撃して滅ぼしてきてくださいというRPGも真っ青な展開ではないことか。
「き、岸波さん?まさか参加するなんていいませんよね?」
「・・・」
正直選択肢など一つしかない。これから戦争を行おうという国に足手まといを抱える余裕など無いのだから。
「悩む必要なんて無いだろう岸波」
そこに自信に満ちた声が響く。天之河光輝だ。
彼はクラスメイトの視線を集めるように立ち上がり向き直った。
「俺達には戦う力がある。救いを求める人達がいる。不安と共に戦っている人達がいる。なら、ためらう必要なんて無いだろう?俺は戦う。世界を救って、堂々と元の世界に帰るんだ。イシュタルさん。この世界を救った後ならば、返してくれるんじゃないですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「決まりだ。皆も不安だろう。でも任せて欲しい。この世界も、皆も全部全部俺が守って見せる!!」
ふと隣から小さく舌打ちが聞こえた。隣を見ればテンション最悪の恵理だ。
「空想癖の厨二病」
「こら」
少なくともクラスメイトは彼の宣言と共に団結した。信頼できる仲間が彼らしか居ない以上この展開は悪くない。
あくまで、最悪の状況におけるベターというだけではあるが。
◆
その後国王と謁見した後。宛がわれた自室にあった天蓋付きベッドに岸波と恵理のテンションはなぜか上がった。唯でさえ精神的な疲労が会ったにも関わらず、お姫様のベッドだーと飛び込んでははしゃぎ回っていた。謎のテンションだった。
「はっ」
そして岸波が目覚めれば目の前には恵理の寝顔が。メイドさんから手渡されたネグリジェに身を包みあどけない顔ですやすやと眠る恵理
「朝チュン・・・だと?」
部屋には当然ベッドが二つある。が、しかし、なぜか恵理が隣で眠っていた。左手は恵理の腰、右手は首の下を通って肩を抱き、足も絡み付いて・・・
「あ、わたしが引きずり込んだんだ」
「ん・・・」
パチリと開いた目は寝ぼけている上にメガネが無い故に焦点が合っていない恵理。
ふ、やはりメガネっ娘のメガネを掛けていない朝の時間。素晴らしい。
「おはよう恵理」
「・・・おはよう」
いつもの毒舌すらなりを潜めて赤くなる恵理に今日の活力を貰い、朝の支度を行う。
今日から座学と訓練だ。
集まった生徒に配られた銀色のプレートを眺め、指で弾いて材質を確認してみる。金属か?セラミックは無いだろう。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
そう語るのは騎士団長メルド・ロギンス。豪放磊落な性格で「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と他の騎士達にも戦友として、同僚として接するように通達した。
味方の少ない環境で彼の性格はかなり助かるところだ。もし自分達を「神の使徒」としか見ない者だったらもう恵理を連れて逃げるしかないとすら考えていた。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという固有名詞は知らないが、言ってしまえば宝具だろう。
・・・宝具ってなんだ?
ふと思考に過ぎった単語に違和感を抱き・・・霧散する。
「白野?どうしたの?」
「ん、ああ、ごめん。ちょっと緊張が」
これから戦争をする以上、力はあった方がいいに決まっている。其れがここで決まる。
深呼吸と共に針で指を突き、ステータスプレートに擦り付けた。
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岸波白野 17歳 女 レベル:1
天職:
筋力:30
体力:50
耐性:50
敏捷:80
魔力:130
魔耐:100
技能:皇帝特権・投影魔法・道具作成・先読・言語理解
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「うん?????」
意味が分からなかった。
いや、この際天職がないことは置いておこう。かなり辛いが。
皇帝特権ってなんだ。岸波は皇帝でも皇位継承権も持っていない。
というか、帝国という国があったはずだ。大丈夫なのかこれは?
「どう?白野」
どうやら恵理も終わった結果が出たらしくステータスプレートをぷらぷらと遊ばせていた。
「・・・見て良い?」
「いいよ」
ひとまず恵理のステータスを参考にしてみようとステータスプレートを借りて見る。
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中村恵理 17歳 女 レベル:1
天職:降霊術師
筋力:8
体力:10
耐性:5
敏捷:13
魔力:133
魔耐:166
技能:闇属性適正[+降霊術]・高速魔力回復・言語理解
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「術特化ヤンデレ?」
「病んでない」
死んでも離さないからと言わんばかりの技能だと思うのだがどうだろう?
やや気を悪くしたらしい恵理は白野のステータスプレートを掠め取り・・・
「うわっ高っ!」
「ステータスはね」
「まさかの天職なし!」
ふと賑やかだった空気が静かになった。其れはそうだ。すでに何人かメルド団長にステータスを報告しているが、天職なしは居なかった。空気が死ぬのも致し方ないだろう。
「ごめん、白野。ホントごめん」
「まあ仕方ないよ、どうせすぐバレる」
天職が無いのはもう仕方が無い。が、とにかく皇帝特権が気になって仕方が無い。どうか厄介なことにはなりませんようにと祈りながら白野はメルド団長にステータスプレートを渡した。心なしかメルド団長の表情も硬い。
「・・・ふむ、本当に天職が無いな。だがステータスは高め・・・、いや魔法適正が投影魔法だけか・・・というか皇帝特権ってなんだ・・・」
「あの、投影って?」
「ああ、すまない、投影は少し変わった魔法だ。たとえば石の塊に投影を使うと一時的に鉄や金に変換できる魔法だ。熱の伝わりやすさだとか強度は反映されるが、元の形状から変わると投影元の石の塊ごと砕ける。そんな魔法だ。あと、形状なんかも多少変えられるが、投影元と投影先の誤差が少なければ少ないほど術が掛けやすくなるという特徴がある。」
「道具作成は分かりますか?」
「うむ、文字の通りあらゆる道具の作り方を見ただけで分かる技能だ。魔法陣だって見ただけで理解し、書ける様になる」
「皇帝特権は分からないんですよね?」
「ああ、というか、もう名前から厄介ごとの臭いがする。余り公言するな」
劣化コピー能力と魔法陣理解スキル。なら考えられる戦闘スタイルは・・・
「魔法のスクロールを投影して乱発するしか!!」
「残念だが、魔法適正が無いからそれが出来ん」
「酷い」
皇帝特権は正体不明
投影はそもそも単品で使えない
道具作成はそもそも戦闘技能じゃない。
なら、ならば・・・
「アーティファクトやらを投影するしかない」
白野は周りから距離を取る、非戦闘職の一人の少年に視線を向けた。
「南雲君、ツーマンセルを組もう」
「え?」
青い顔をしていた少年は、まさかの事態に困惑した。
良く分かるあらすじ
白野、天職なし、謎の皇帝特権と劣化コピー能力を生かすため、錬成師の南雲に声を掛けた
もう分かると思いますが、皇帝特権が特にチートです。
原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)
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ありふれ、EXTRA両方知ってる
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ありふれのみ知ってる
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EXTRAのみ知ってる
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両方知らない