はくのんは転移した   作:鎖佐

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あけましておめでとうございます。




樹海案内人

「私の仲間達も助けてください」

 

「二回言った、必死か。…必死だよね」

 

 謎の巨乳露出過多白兎…シアは何となく嫌そうな雰囲気を出した白野に縋りついてもう一度言う。先ほどまで双頭ティラノのお口の中に入っていて、涙は勿論鼻水やら砂埃やらで汚れており、白野は少し、ほんの僅かにだけ、「うわっ」っと漏らした。女の子に基本激甘な白野が言うのだから、まあ酷いことになっている。

 

 さて、目的地であるフェアベルゲンに向かう為、現地住民である筈の兎人族を助け出したのは良かったが、問題はさらなる追加クエストが発生してしまった事だ。ゲームならある意味お約束とも言える展開だが、急ぐ旅をしている身としては、張り倒したくなってくる展開だ。

 ハジメはしゃがみこんでシアに視線を合わせ、とりあえず状況の整理をすることにした。

 

「状況が読めねえな、お前らはハルツィナ樹海に住んでる兎人族だろう。なぜこんなところにいる」

 

「そ、それは………わたしのせいなんです」

 

それからシアは語り始めた。

魔力を持たない筈の亜人族に何故か生まれた、魔力を持った魔物のような兎人族の少女とそんな彼女を愛し、見捨てなかったハウリア族。

 しかし、亜人族の国フェアベルゲンはそれを赦さなかった。

 正体がバレたシアをそれでもハウリア族は見捨てず、罵らず、一丸となって山脈地帯を目指すことにした。

 しかし、そこで…

 

「まて、その話長くなるか」

 

「ですがそこで…え…あ、ええっと。そうですね、まだ少し…」

 

「っち、長話に付き合う気は無い。端的に答えろ、今どういう状況で何をして欲しい。こっちの要求は後で伝える。いいな」

 

 明らかにシリアスな話だったのにぶった切るハジメに、流石のユエも引き気味だ。白野は未だにしがみついて離れないシアが若干鬱陶しく感じてきていて、むしろGJと心の中で思っていた。いくら美少女でも、涙はともかく鼻水を擦り付けられるのは勘弁なのだ。

 

 その後引っぺがされたシアは白野に濡れたハンカチで丁寧に顔を拭かれ、泥だらけになったハンカチを見たシアは顔を青くしながら謝ったりという一幕があったりして、そんなこんなでシアは白野の後ろに乗ってハウリア族の救助に向かった。

 

 

 

『わたしのせいなんです』

 

 別に、シアという少女に同情したとか、共感したとか言う話ではない。確かに、自分のせいで仲間を追い詰めた、という状況はハジメの過去と共通点があるのは事実だろう。でも、これはそんな上から目線の施しなどでは、断じてない。

 

「ハジメ…嫉妬してるの?」

 

「…いや、近いが、どっちかというと…敬意だな。言ってしまえばあいつの今の状況は、俺にとって白野が爪熊に腕を切れられた直後だ。あの時俺は頭が真っ白になって、白野の指示を言われるがまま行って、偶然命を拾ったんだ。あいつは、真後ろに自分じゃ絶対に勝てない敵が迫っていながら、まったく諦めていなかった。一縷の望みを掛けて逃げて、逃げ切った」

 

 これは、シアから聞きかじった状況から想像しただけの一方的な敬意と、手助けだ。彼女を見捨てることは、あの時ハジメを庇った白野を裏切ることになるような気がして、ほぼほぼ無条件で手を貸すことを決めたのだ。例え樹海探索の足掛かりにならなかったとしても、諦める。ただし、その時は長く面倒を見る気は無い。通りがかりの親切なら、その程度だろう。

 

「話を聞いた限り、精々行きがけの駄賃程度の手間だろう。俺は、白野の隣に立てる程度には真面(まとも)な人間じゃねえと気が済まねえらしい」

 

「むう…そこは嘘でもユエの隣って言うところ」

 

 拗ねたような声を出すユエに、ハジメは小さく笑う。あくまで『拗ねたような』だ。なんだかんだユエは白野に憧れを抱くハジメの事を認めてくれているのだろう。ユエを恋人として受け入れた以上浮気をする気は無い。

 ただ、ハジメには白野の背中が焼き付いている。この異世界に来てからずっと見てきた背中は、余りにも凛々しくて眩しすぎた。

 

「悪いな、俺ユエには噓吐きたく無いんだ」

 

「…じゃ、そういうことにしてあげる」

 

「おう、サンキュ」

 

 とは言えこのような話は今更だ。岸波白野は人誑し。ハジメもユエも誑し込まれた人だったというだけの話なのだ。

 

「さて、あっちの兎も誑しこまれるのかね」

 

 

 

 

「ところでシア、君。自分の事魔物のようなって言ってたよね?」

 

 白野とシアは目的地への道案内のため、ハジメたちより先行してバイクを走らせている。ただ、白野がハウリア族の気配を察知したことでナビゲーションの必要が無くなり、先ほどの話の続きを切り出した。

 

「うえ‼は、はいです。魔法が使える亜人が、人型魔物みたいだって。いやー困っちゃいますよねぇ」

 

「魔法陣はどうやって用意したの?詠唱文はどこで学んだの?」

 

「あ、あう」

 

「魔力があるだけじゃ魔法は使えない。そして、魔力の無い亜人族にそれらの知識があるわけがない。単刀直入に聞くよ。シアの固有魔法は、何?」

 

 因みに白野は、魔法に関する知識は無いことも無いだろうな。と考えていた。詠唱はそのまま相手の行動予測になる。樹海に入り込んできた人間が何の魔法を打つかを理解して先手を打つのは戦術の基礎だろう。だが、争いを好まないというハウリア族なら騙せるだろうと考えて、シアに揺さぶりを掛けた。

 

「うう、その……〝未来視〟…です。仮定した未来が見える魔法で、選んだ結果が分かります」

 

「え?つっよ、ずっる、私が欲しいんですけどその能力‼」

 

 白野の強さの屋台骨は強靭なメンタル…も、勿論あるが、基本的には〝先読〟に裏打ちされた戦術眼だ。だが〝未来視〟はその上位互換。魔法である以上魔力の消費はあるが、どう考えても強い。

 

 見切った‼ExtraAttack‼と思っていたら次の瞬間手を変えるような魔法だ。せっこ。

 

「あの、ええっと。気持ち悪いとか思わないんですか…?」

 

「鼻水擦り付けられるよりは全然」

 

「ご、ごめんなさい‼」

 

 根に持たれてた…と小さく呟くシアを放ってさらにギヤを上げて加速する。未舗装路で80km/hオーバー等自殺行為以外の何物でない筈だが、なぜかシアは平気そうだ。ライダーのセンスがある。

 因みに風壁を常に展開しているため向かい風は無く、小石なども吹き飛ばしている。段差は避けるしかないが。

 

(…未来予知か、欲しいな)

 

 白野は基本、あらゆる魔法が使える。だが、固有魔法は魔法陣や詠唱が無く、〝道具作成〟の効果が発揮されない。白野が固有魔法を使うには南雲の生成魔法によるアーティファクトを介する必要がある。

 さすがにそのルートから手に入れようとは思わない。確かに固有魔法である以上可能性はあるが、カニバリズムなど人としての尊厳を捨てた最終手段だ。

 

(…まあいいか。問題は、この才能をフェアベルゲンはなぜ捨てたかだ)

 

 仮定した未来が見れる。という尋常ではない情報収集魔法。例えば樹海に王国や帝国が攻め入ってきたとして、敵陣に突っ込む未来を見れば敵の全容が。何もしない未来を見れば敵の戦略が分かるという戦略魔法だ。或いはそこまで使い勝手の良い魔法では無いのかもしれないが、現に彼女はこのライセン大峡谷で生き残り、白野達に助けを求めることが出来ている。

 

「あ、見えてきました‼あそこです‼」

 

「…割と普通の服だ」

 

 ついに見つけたシアの同族達、なんと彼らの服装は…普通だった。

 そう、シアは痴女だったのだ。

「失礼な事考えてません!?というか、早く早く‼ハイベリアが6匹も‼」

 

「事実の再確認だよ。シッ」

 

 ハウリア族に迫る絶体絶命の脅威は、白野によって文字通り片手間に捌かれた。

 

 

 

「ど、どうして3本のナイフで6匹のハイベリアを倒せるんですか…?」

 

「いや、直線状に並んでたから2本で4匹と、1本1匹。落とした個体の下敷きになる1匹でまあ、丁度だよ」

 

「?????」

 

 そもそもシアからすれば何故ハイベリアが蠅程度にしか見えない距離でナイフを投げて当てて、貫通して2匹殺し、ハイベリアの落ちる軌道の予測まで出来るのか理解できないのだが、まるで白野はこのくらい当然だと言う風だ。そもそもあのナイフ、食器では???

 

 絶技と言うか、技という次元なのか理解不能なモノを見せられたシアを置き去りに、白野達はハウリア族との合流を果たした。

 

 

 

「さて、感動の再会の前に言いたいことが一つある」

 

 と、合流してきたハジメはバイクから降りて最初の一言を告げた後…容赦なく弾丸をぶっ放した。

 相手は先ほど襲われ賭けていた親子の父親…のすぐ横だ。

 

「何を震えて蹲っていやがる。それでそのガキが助かると思うのか?背負って逃げるなり、気を引いて注意を逸らすなり、なんだって手段は有っただろうが。五体満足の身で何を諦めてやがる。そこの兎を見て少しは根性のある奴らだろうと思っていたが、とんだ腰抜けだ」

 

 その瞳には、烈火の怒りがあった。力が無いこと、運が悪かったこと、何をしても無駄としか思えないこと、そんな物、諦める理由にはならない。

 南雲ハジメは弱者だったことを忘れない。弱者の足掻きを無駄とは思わない。無能と蔑まれながらも磨いた錬成の技能、戦闘の技術は間違いなくハジメや白野を生かすことに貢献している。だからこそ

 

「足掻く事をやめた奴が本当の無能だ。覚えとけ」

 

 言葉を切ったハジメはシュラークをホルスターに収め、白野にアイコンタクトをする。これだけ威圧的な態度を取ったのだ、実際に危機を救った白野の方が話し合いはスムーズに進むだろう。

 

『カッコつけちゃって、男の子め』

 

 念話で要らない事を言ってきたが、基本白野の方がカッコつけだろう。まあ本当に格好いいのは反則だが。

 

 そんな訳でネゴシエーターはくのんがハウリア族に向き直り、ハウリア族からは濃紺の髪をした初老のウサミミおっさんが一族を代表するように前に出て、膝を付いた。

 

「えっと、白野さん。こちら私の父でカムと言います」

 

「白野殿、まずは深く感謝を。シアのみならず一族の窮地をお助け頂き、重ねて深く感謝申し上げる」

 

「はい、如何いたしまして。私は岸波白野、あっちの男の子が南雲ハジメで女の子が岸波ユエ。宜しく」

 

 そう言って白野は手を差し出した。カムは宜しくお願いいたします。と丁寧に告げて握手を交わす。交わした手をグイっと引っ張り上げられたカムは抵抗できずに立ち上がる。

 

「感謝は感謝として受けておくけど、私達は樹海の案内役を探している。交渉が成立するなら私達は対等だ。そうでしょ」

 

「…はい。お望みならば、樹海の案内役、務めさせていただきます」

 

 握ったままだった握手に両手を重ねて、ここに契約は成立した。

 

 

 

「…ふむ、なかなかの交渉能力…恐るべし」

「…特別なことしてたか?」

「ん、亜人族はどうしても人間から下に見られがちな種族。…その中でも兎人族は特に。彼らに対して『対等』って言葉は強く響く。加えて交渉が成立するなら、という言葉は他に期待している物は有りません。ていう風にも聞こえる。恩だけ受けて何も返せないくらいなら、多少の無理はしようかなってなるセリフと、演出」

「…生きてる世界が違うな」

 

 なお、一番最初にムチ役として印象付けを行い、アメ役の白野に大きなアドバンテージを与えたのはハジメである。

 




なんかランキングに乗ってる夢見たんですよ(笑)

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

  • ありふれ、EXTRA両方知ってる
  • ありふれのみ知ってる
  • EXTRAのみ知ってる
  • 両方知らない

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