はくのんは転移した   作:鎖佐

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しつこいようですが当然のように独自解釈とか設定とか出てきます

ついでに各メンバーの様相をおさらい
白野;両腕義手(白銀)+黒長手袋 エクステラ服
南雲:左目アンクル(投影により黒目に見えるが本来は赤) 指抜黒手袋 服装は原作と同じ
ユエ:服装は原作と同じ+黒手袋+スカートの中に自動拳銃+マガジン


霧の樹海

 じっとりとした空気と濃縮されたような森の匂いは、余り快適な環境とは言い難い。ここは森林浴で来るような人を広く受け入れる場所ではない。

 日本に存在する青木ヶ原は天然記念物に指定され、キャンプ場や遊歩道が整備されており、観光名所として有名だ。

 だが青木ヶ原、通称『富士の樹海』と聞いてまず思い浮かぶのは何か、

 恐らく『自殺の名所』や『遭難すると帰ってこれない』という噂だろう。

 そう、観光名所の青木ヶ原でさえ、噂になる程人が遭難し、かつ見つからないのだ。

 そもそも森の中では真っすぐ歩く、ということが難しい。凸凹とした地面に文字通りに林立する木々、躓かない様に自然と視線は下向きになり、やがて少しずつ向かいたい方向からズレる。さらに、迷ったから振り返る、ということが出来ない。ちょっとそこまで入ってみようと軽い気持ちで遊歩道から外れ森の中に入り、そろそろ帰ろうかと振り返る。果たしてその時反転した体は、ちゃんと180°であるだろうか?もし、200°だったら?もし、150°だったら?周囲360°が似たような風景である以上、明確な目印でもなければ正確に変転することすら困難を極める。

 森の中では『来た道を戻る』ことすら、常人には出来ないのだ。

 

「そしてこれは、来た人間を殺すための森、だからなぁ」

「どうされました、岸波殿」

 

 森に足を踏み入れた瞬間視界を覆う深い霧、心得が無ければ5メートル入り込むだけで遭難するだろう。だが、この森はそれだけではない、そこまで人間に対して無関心ではないらしい。

 

「ハジメ、罠だ。この霧は転移の罠と同じ、強制的に魔力を持つモノから魔力を徴収し発動する。霧を発生させる魔法罠だ」

「成程、つまり既に?」

「うん、補足された」

 

 魔力を持たないという種族的欠点を、魔力を持たないという特徴として活かす『濃霧の結界』とも言うべき魔法。作ったのは差し詰め解放者だろう。

 ある意味謎の一つも解消された。何故シアの魔力持ちが判明したのか謎だったが、この結界に反応したとすれば納得だ。

 

 愕然とした表情をするのは兎人族の族長カムだ。恐らく知らなかったのだろう。尤も、知るわけがないとも思う。彼らはフェアベルゲンの最弱種族。最も奴隷狩りの被害にあう人気種族。そんな彼らに国家の国防機密を知らせる必要は皆無であり、知るのは主要種族のごく一部だろう。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 つまり目の前に現れた虎模様の耳と尻尾を付けた筋肉質の男は、国防の機密を理解するフェアベルゲンの軍属かつエースなのだろう。

  そして虎男がハウリア族と人間族が連れ立って歩いているということを理解すると、目を見開く。まあ、あれである。外患誘致罪である。確定死刑だ。ついでにシアも見つかった。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員、!?」

 

ドパン‼

 

 

 

 

 銃声が鳴り響き、射線上の若木に風穴が空く。よく撓り、頑丈な繊維質のその木は斧を叩きつけても早々折れる物ではない事くらい、虎人族の男は熟知していた。それを詠唱もなく、弓のように引き絞る動作もなく、一動作で風穴を開けて見せたそれは、最早理解の外側にある破壊兵器だった。

 

「今の攻撃は刹那の間に数十発単位で連射可能だ。お前等に危害を加えるつもりはないが、俺達の邪魔をするというのなら、適切に排除することも視野に入る。回れ右してさっさと失せろ」

 

 そう言いながらハジメは銃口を号令を出した男から外し、そのまま虚空に突きつける。その直線状は隠密、奇襲を最も得意とする者のいる場所だ。

 

(ザムがバレてるなら全員既に把握されている!このフェアベルゲンの森で我々の隠密を見抜く等、どんな修羅場を潜り抜けてきたんだ!?)

 

 先ほど見た超火力に、本人自身の隙の無さ。油断の一つもあれば勝ち目、勝ち筋も見えるが、すべてにおいて勝っている相手が油断も慢心も無い以上、勝ち目は無い。である以上、彼らと戦うのは警備隊を率いる者として出来ない。

 

「その前に、一つ聞きたい」

 

 だがフェアベルゲンの警備隊長として、フェアベルゲンの脅威を「どうぞお通り下さいませ」と素通りさせる訳には行かない。最悪ここにいる全員を捨て駒とし、一人を伝令に走らせて部族を避難させなければ…

 

「何が目的だ?」

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ…だと?何のために?」

 

 大樹は実際、本当にデカい樹というだけだ。無論切り倒されては溜まったものではないが、切り倒して何をするのか、目の前の男ならもしかしたら出来なくもない、かもしれないが、する理由もあるまい。まさか、まさか観光か?そんな疑問が虎人族の警備隊長ギルの頭に過る。

 

「そこに、本当の大迷宮への入り口があるかもしれないからだ。俺たちは七大迷宮攻略を目的として旅をしている。すでに【オルクス大迷宮】は攻略した」

 

 

 

 

 さて、ハジメと虎人族のネゴシエーションは続いているが、はっきり言って白野的には暇である。というか、すごく眠い。オルクス脱出から日を変えずにこの樹海まで来たのだ。特に地上脱出の感動は言葉に出来ないレベルで心を揺さぶっており、まだ19時くらいとはいえすごく眠い。

 だが、流石にここで欠伸をかますのも緊張感に欠ける。眠気覚ましに濃縮ミント飴?あんなものは人の食べるものではない。(なぜかまだマシと云う感想が浮かんだのは誰にも言っていないが)

 

 ふと、視界を左右に揺らすと…くるり巻いた特徴的な植物。ゼンマイが見えた。勿論異世界である以上それが本当に日本のゼンマイと大差ない物であるかはわからないが、もしゼンマイと同等の物なら、食べたい。

 オスカーの隠れ家では限られた食材でどうにかバリエーションを増やそうと四苦八苦していたが、結局「別の食材を使用する」以上のバリエーション、レパートリーの変化は望めない。今までは峡谷地帯であるために食材など無かったが、そう、森の中ならそれなりに食べられる山菜がある筈だ。

 

「ねえ君」

 

 勿論白野は森を侮ったりはしなかった。現地ガイドがこんなにいるのだ。食料確保の為暫く抜けても大丈夫だろう。眠気覚ましも兼ねた山菜狩りに、目についた兎人族の少女に声を掛けた。

 

「ふぇ、わ、わたしですか…?」

「そう君。君、山菜には詳しいかな?」

「え、ええ、はい。この森の必須知識なので」

「それは良かった。あのくるって回った植物があるでしょ?あれって食べられる奴だったりする」

「わ、すごい。野生で生えてるの初めて見ました。勿論食べられます」

 

 集団から意識されないようにスルっと抜けてゼンマイ擬きを収穫する。採れたてを生で…なんてやっても美味しい訳もない。いや、恐らくは奈落産野菜擬きよりはマシだろうが、適切な調理を施した方が良いに決まっている。目につく限りを適当に摘み取って、先ほど声を掛けた少女に見せる。

 

「目についた見覚えのある山菜取って来たんだけど、どうかな、毒がある奴とかある?」

「き、岸波様は山菜摘みが上手いですね…人間族はまず霧に飲まれますのに」

 

 慄きながらも籠に入れられた山菜から食べられないものを除いていく。道中の食糧は何とか残ったハウリア族の保存食とハジメたちが持ってきていた奈落産保存食(クソマズ)という味気ない物ばかりだった為、心なしか嬉しそうである。

 

「…君、名前は?」

「ほえ、わたしですか?ヤオと言います。あとこっちが妹のヨルです」

「なに、お姉ちゃん。あ、岸波様。どうかされまし…」

 

 疲労と状況(虎人族との交渉)が重なって青い顔になっている少女ヨルは『この状況で何してんの』的な表情へと変化させる。確かに呑気と言われれば否定できないが、白野としてはどうこじれても余り問題は無いのだ。白野の有する〝道具作成〟のスキルにより、今もこの『濃霧の結界』を解析し続けている。時間はかかるが一ヶ月は掛からないだろう。より広い範囲を見て回ればより解析も進む。最速で1週間という予測だ。

 

「えっと、岸波様、お腹すいたんですか?保存食ならこちらに…」

「えっと、ごめん、眠いだけなんだ。ちょっとした眠気覚ましに何かしたかっただけなんだよ」

「ア、ハイ」

 

 この状況で眠いと言い出す奴は傍から見ればヤバい奴であることは間違いない。しかし、だからと言って今の状況に緊張しろと言う方が無理な話。何かあれば念話が飛んでくるだろう事を考えれば、今のところ順調な話し合いで進んでいるということだ。

 

『白野、今から伝令がフェアベルゲンに向かう。返答が来るまで待機だ』

『ええぇ。眠いんだけど…』

『ふざけんな。俺にだけ面倒ごと押し付けやがって』

 

念話でグチグチと文句を垂れるハジメの下に白野は採った山菜を持って向かう。

白野を見た瞬間にハジメの念話も止まり、視線は小山になった山菜に向いている。

 

「素揚げにする」

「でかした」

「流石お姉ちゃん。さすおね」

 

ハジメの手の平はよく回った。しかしついて行けないのは真横で極度の緊張状態にあるシアとカム、及びその他亜人族全員である。

 

「…え。まさか今から!?この状況で!?」

「そんなにすぐ帰ってくるわけじゃないでしょ?」

 

それはそうだ。距離もあれば内容が荒唐無稽。伝令が正しく伝えられ、ハジメ達の入国許可が出せる程の人物に話が伝わる迄の間すら時間が掛かるだろう。1時間か2時間以上は見ておくべきか。

もはや止める間もなくすでに一行はキャンプ飯の準備を整えている。

 

ハジメは調理道具である鍋を取り出し、奈落産植物油(割とまとも)を熱し、白野は採った山菜の水洗い。ユエは椅子やテーブルをセッティングしている。

そして驚くべき速度でそれらの下準備を整えた一行はさっそく席につく。

 

「じゃ、揚げていきまーす」

「よし来た」

「待ってました」

 

じゅぅぅぅうううううううううう‼

 

適温に熱された油が水に触れて弾ける音と共に香ばしい匂いが充満する。

処分待ちの兎人族が、監視中の虎人族がお互いに何だこの状況と見合わせる。

そして今、皇后特権により天職〝調理師〟となった白野の目が輝く

 

「‼ 上手にできました‼」

 

恐るべき速さで掬い上げられた食材たちは繊細かつ高速の油切りにより適切に油を落とし、大皿の上に転がされていく。

きつね色が付いたゼンマイ擬きやキノコ、イモ類等々が何の趣向も凝らさずただ油で揚げただけで振舞われる。

 

即ち、極上の一品が、目の前にある。

ごくりと喉が鳴り、お互いの目が合う。

 

「「「いただきます‼」」」

 

食材たちに溢れんばかりの感謝を捧げ、品もマナーもなく食材に箸を突き刺して齧り付く。

最初に感じるは熱。油の香り、そして。

ゼンマイの深い香りと苦み。その中に確かに感じる旨味。

キノコのしっとりとした歯応え。独特の風味。

イモのホクホクとした触感。僅かに感じる甘味。

 

全て、どれもこれも地下で喰ったすべての食材を上回る。美味。

鍋に投下した第一陣を食らいつくしたあと、間髪入れずに第二陣を投入する

さらに白野は塩とスパイスを取り出し、独自のブレンドを始める。即ちオリジナルクレイジーソルトの出来上がりだ。

 

第二陣が揚がり、クレイジーソルトをチョンと付けて一口

 

 

 

出来が変わった。否、格が上がった。

生命が本能的に求める塩味という味覚の原点、これは飽食文化の日本ですらおにぎり、ポテト、焼き鳥、そして揚げ物の味付けとして人気を博している。ただ塩味が付いただけで旨くなるのは人類の生理学を基にした当然の帰結。

だがそれだけではない。塩と共に最適化されたハーブのブレンドが香辛料としての役割を果たす。

ゼンマイの苦みに絡み合いコクとなり、キノコの淡泊な味わいは塩味を引き立て、イモの優しい甘味が旨味へと昇華する。

 

これぞ、料理。

遂に白野達は食と言う文明を取り戻したのだ。

 

 

 

因みに(馬鹿馬鹿しさに)我慢しきれず飛び出した虎人族は完全ノールックでゴム弾により鎮圧されている。

 




フェアベルゲン編のボスくらいまでは書ききりたいなぁ

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

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