はくのんは転移した   作:鎖佐

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戦闘2回目、もう察していると思いますがはくのんと南雲は奈落行きです。たぶんかなり戦闘中心の話が続きます。



訓練終了

 白野とハジメは武装した集団に囲まれていた。彼我の戦力差は7:2。ハジメを1と数える雑計算で3倍以上の戦力差だった。

 

 白野から見て真横の位置から一人の男が槍を突き出す。狙いは勿論ハジメだ。させまいと白野は偽聖剣を煌かせながら槍を打ち払う。偽聖剣のデバフ効果を受けた男は剣に耐えられず後ろに下がって衝撃を流す。この一撃を誘うだけで良かったのだから下がることに躊躇いは無い。

 

 白野の偽聖剣と男の槍が交わった瞬間更に二人の男が踏み込んだ。揃って長剣を上段から振り下ろす。ブレの無い太刀筋はそれらが一朝一夕で培った技術でないことは明白。加えて白野は姿勢の崩れた状態。出来て、どちらか一方を防御する程度だろうと思われた。

 白野は振り切った偽聖剣を投げ捨てた。

 

『双剣』

 

 ハジメの頭に直接放たれる短い命令文。刹那の内にハジメは錬成。抱えた母材が変形し、そして剣の形となり、白野の手に渡る。この間、一秒未満。

 

「〝投影〟」

 

 無骨な二振りの剣は白野の投影魔法で色づいていく。それは太極図をモチーフとした白と黒の夫婦剣だった。

 白野は聖剣を手放したことで身軽に姿勢を戻し、新たな武器を手に入れて男二人に向き合う。鋭かった太刀筋は白野の予想外の動きにほんの僅かに、ブレた。それは剣術の技能を持つ白野に対して隙となる。二人の剣撃は白野の双剣により流され。続く蹴りによって吹き飛ばされる。脛当てから発生する衝撃波だ。

 

 さらに先ほどの槍持ちと二人の魔法使いが動き出す。魔法使いの狙いはハジメと白野の連携の阻止。分断して各個撃破に掛かろうとしていた。

 ハジメは錬成を使う。狙いは槍使いの2歩目だ。

 白野は双剣を投げる。誰も居ない所への暴投だ。

 

 それぞれの行動の答えはすぐに出る。槍持ちは右足が突如沈み勢いそのまま地面に激突。槍は手放され、ハジメの目の前に転がった。

 魔法使いの魔法は何故か弧を描いて曲がる双剣により錫杖が破壊され阻止される。

 

『聖剣』

『母材ラスト、以後石製』

『了解』

 

 ハジメは目の前の槍と最後の母材を合わせて錬成、聖剣の模造品を作る。白野は受け取った模造品を正眼に構えた。残りは二人。付与術師が一人と、剣士が一人。

 

「・・・凄まじいな。うむ、僅か一月でここまで出来るとは思わなかった。良くやった二人とも」

 

 その男の名はメルド・ロギンス。王国最強の騎士だ。嬉しげな言葉を発する癖に構えは極めて自然体。何時どのタイミングで仕掛けても当然のように迎撃してくるだろう。僅か一月の戦闘訓練ではあったが、白野はそれが理解できた。

 彼を相手に全力が使えないことのなんと致命的なことか。

 

「だが俺にも使命がある。この王国を守り、敵を滅する使命がな。であればお前たちの慢心や驕りといった物も、十分にこの国を脅かす敵となる」

「そんなものは無いと思っています」

「・・・本当にそうか?」

 

 圧が増す。肌が粟立つほどの闘気を向けられるが、受け流す。流さなければ動けなくなる。白野は経験的にプレッシャーに耐性がある。だが、ハジメは母の職場のデスマーチを越えるプレッシャーなど感じたことが無かった。動きが固くなる。

 

「勇者である光輝ですら五人抜きは出来なかった。いや、実際タイムアップまで粘った以上驚くべき戦果であることは間違いない。だが、お前たち二人は五人全員倒している。」

「二人掛かりですから」

「二人掛かりなら国の騎士五人倒せると思われているなら・・・かなり心外だぞ?」

「・・・時間稼ぎですか?」

「勿論そうだが?」

 

 試合中に言葉を交わすなどメルド団長らしくない、そう思ったが故の質問はあっさりと肯定された。

 

「時間が立てば経つほど白野は投影による魔力を消費する。なら時間くらい稼ぐだろう」

「投影はしていませんが」

「引っかかるとでも思っているのか?」

 

 そう言って笑ったメルド団長は・・・地面に突き刺さったまま、デバフを与えていた聖剣を叩き壊した。

 開戦の合図だ。

 

『道を作る!!』

「〝錬成〟」

「〝投影〟」

 

 後ろを向いて剣を振りぬいたメルド団長に向かって鋭く踏み込む白野とその地面をよりグリップの効く物に錬成するハジメ。上段から振りかぶられた偽聖剣は強く輝き白野にバフ、メルドにデバフを掛ける。その効果は付与術師のバフを上回る程だ。

 だがメルドはその程度のことを意に介さない。戦場において常に最高のコンディションで戦うほうが珍しい。それを思えばベッドで眠れる神の使徒達の訓練期間中は休暇中と大差ない。つまりはその程度のデバフはメルドに取って不調とは言えない。

 一合。それで聖剣は砕けた。姿勢は崩れ、苦し紛れのような姿勢から放たれた一撃は白野の全霊の一撃を上回った。当たり前だ。

 経験もステータスも、メルド団長が優に上回っているのだから。少し姿勢が悪い程度で、差は埋まらない。

 

『連続聖剣』

「〝錬成〟!」

「〝投影〟!」

 

 それを、ハジメも白野も理解していた。ハジメは偽聖剣と模擬剣がぶつかりあう数瞬前に次の聖剣の模造品を作っていた。母材がなくなり石製となったが、最早一撃で壊れるなら同じことだ。

 砕け、投影の解けた剣を右手で投げつけ、左手で次の模聖剣を受け取る。阿吽の呼吸、というよりは、白野が合わせているのが正しい。白野が合わせ、ハジメが付いていく。

 

偽物は一時本物の輝きを宿して瞬く間に砕け散る。砕けた剣の破片が白野の頬を裂き血を流す。メルド団長は何故だか傷一つない。まさか破片すら避けているとでも云うのか。

 白野は更に、防具に使っているアーティファクトから衝撃波すらも使って攻撃を仕掛けるが避けられる。白野が一振りする間にメルド団長は二振りする。

 周囲に砕けた剣を撒き散らす異形の剣戟はやがて・・・

 

「あぐぅ!」

 

 付与術師の放った魔法によって終わった。

 

 

 

「大丈夫?白野」

「だいじょばない。骨折れた」

「はいはい、痛いの痛いの飛んでいけ~。天蓋の裡、無明の揺り篭にまどろんで――〝暗寧〟」

「わあ全然痛くなーい!!ってこれただの麻酔魔法だからね!?」

「ごめん白野、僕にはこれが限界なの。でも、白野ならこれで十分でしょ?突き指したままセッター続けた白野さん?」

「あの件は悪かったって」

 

 白野には諦めが悪いという美徳と往生際が悪いという悪癖がある。なまじ状況判断能力があるぶん厄介だった。高校一年のバレー部新人戦では点差が10開いた試合ですら諦めなかった。そして勝ってしまったが故に女子バレー部は白野に対し絶対の信頼を抱いていたりする。その試合中に突き指を負っており、ほったらかしにしたままプレーして1ヶ月の部活動禁止が掛かったというオマケもある。

 

 以来恵理は白野の怪我に対して辛辣な態度を取り続けていた。甘やかしたらまた無理をするからだ。とはいえ、この傷を治療無しとはいかない。恵理は治癒術師の辻綾子を呼び止めた。

 

「あ、辻さん。白野の治療して貰って良い?」

「あれ岸波さん怪我してたの?言ってよもう」

 

 先の訓練、魔法が当たったことで決着がついた訳ではない。ただ、連携の崩れた白野とハジメに対しメルド団長と付与術師とはいえ王国騎士の二人相手は荷が重かったのだ。建て直しも不十分なまま連携しても、熟練の騎士である二人には隙だらけであり、その状態で長く均衡を保てるはずも無い。二人はあえなく地面に引き倒されて制圧、決着となった。

 

 とは言え白野が怪我をしているように見えなかったのも仕方が無い。被弾らしい被弾は風球の魔法ぐらいであり、アレを受けてからもずっと動き回っていたのだから。

 案の定風球を受けた場所は青く変色しており辻綾子もうわぁという表情だ。

 

「うわぁ。この状態で動いてたの?」

「動いたらこの状態になったの」

「一緒だよ。天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」

「うん、痛くなくなった」

「麻酔も効いてるからね」

「青痣は取れないか、内出血だもんね」

 

 何かあったら言ってね~と言って綾子は永山たちの方に歩いていった。

 

「ああ、いたいた、岸波さんに中村さんも」

 

 入れ違いでやってきたのは南雲ハジメ、先ほどの訓練終盤で付与術師にボコボコにされており、先ほどまで香織に甲斐甲斐しく治療されていたのだ。空気の読める白野達はあえて距離を取ったわけだ。

 因みにその間、ハジメに対して善意のアドバイスをしようとしている天之河を抑える雫がいたりする。悪気どころか善意100%である故に雫は実にやり難そうに時間を稼いでいた。

 

 白野、恵理、ハジメ。三人で一つのパーティであり、最も人数の少ないトップチームである。戦闘スタイル的に他のパーティと連携が取り辛く、ある意味最もメルド団長の頭を悩ませるパーティでもある。正直全員能力がピーキー過ぎるのだ。

 そして、それらは白野達自身も理解しているところである。

 

「さて、恵理。所感を聞きたい」

「経験が足りないのは前提として・・・ステータスが足りてない。戦い方はもうかなりの完成度だと思う。けどハジメは魔力が少なすぎて終盤錬成の精度が無くなってる。白野は純粋に力負けしてる。技術もステータスも負けてたら勝負にならないのは当たり前かな。」

「もし、恵理のデバフがあったら?」

「僕と南雲を同時に庇いながら戦うって?自衛能力は南雲以下の僕を?」

「駆け引き次第ではあるけど、分が悪いね。もし岸波さんが勇者だったら?」

「三分では勝てなかったと思う。特に持久戦に出られると多分誰も倒せない。」

 

 一人参加していなかった恵理が訓練を客観的に評価し、反省点を出していく。手札の多さに関してはクラス一のパーティ故に三人は常に頭を使い続ける必要がある。

 それぞれが意見を出し合い、貪欲に成長しようという三人はクラスメイト達や騎士の視線を密かに集めていた。

 

 

 

 

 

「お前たち、一ヶ月間の基礎訓練良く頑張った!!正直ここまで付いて来れるとは思っていなかった。明日この王都を離れてホルアドに向かう。そこで迷宮の魔物相手に実戦訓練を行うが、今のお前たちなら油断さえしなければ問題ない。油断さえしなければ、だ」

 

 メルド団長はクラスメイト全員の前でこれから実戦訓練に向かう前の薫陶を授けていた。実戦においては些細な油断、ちょっとしたボタンの掛け違いが致命的なミスの切っ掛けとなる。それらを経験に基づいて語っていく。殆どの生徒はそれらを心に刻み込まんと耳を傾けていた。

 ・・・読者の方々よ、特定の個人を思い浮かべて馬の耳に念仏などと言ってはいけない。彼も真剣に聞いているのだ。

 

「さあ、皆!!遂に俺達の特訓の成果を示す時が来た!!これから向かう迷宮での目標は前人未到の65階層突破!!そして最終目標は完全攻略による俺達の実力を世界知らしめることだ!!これから共に戦う人々に、俺達は頼りになるという事を証明しよう!!」

「「「おう!!」」」

 

 クラスメイト代表の天之河による激励を受け、クラスメイト達は気炎を上げて迷宮に臨む。

 

 

 

 その晩、パジャマ姿でハジメの部屋に向かおうとする香織とバッタリ出会った白野はしっかりと応援しておいた。

 

 

 

 

「・・・何してるのかな?」

「・・・はぁ、時間の無駄だった」

「どういう意味なのかな!?」

「おやすみ~」

 

 しばらく聞き耳を立てる白野は何の成果も得られないまま自室に帰るのだった。

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

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