はくのんは転移した   作:鎖佐

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ベヒモス

 「見えるには見えるけど・・・やっぱり薄暗いな」

 「ライトとかあるといいかもね。サーチライト的な」

 「魔法は魔力使うし・・・南雲、電池かバッテリー式のサーチライト作れない?」

 「いや、無茶言わないでよ・・・」

 

 オルクス大迷宮、大一層

 幅5mほどの道を前衛、中衛、後衛に分かれて進む。さらに光輝達のパーティは最前列に立っており、彼らがまずお手本となるのは間違いないだろう。

 

 白野と南雲は前衛側、恵理は光輝達の後衛組みと組んでいる。

 

 「あ、でもこの緑光石ってやつ・・・いや、出来て閃光弾かな」

 「というと?」

 「これ、壊すと溜め込んだ魔力を光にして一瞬で放つ性質があるんだって」

 「チームプレイじゃ使いづらいな」

 

 某狩りゲーにおいて閃光玉を投げまくる行為は荒らしに等しい。それが現実の戦いの場面なら使用には相応の訓練が必要になるのは確実だった。

 

 そんなことを話していると、遂に魔物が現れた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 筋肉ムキムキマッチョネズミのモンスターは女子たちに不快感を与えたものの、あっという間に退場と相成った。

 

「まあ、そうなるな」

「流石にあのメンバーが苦戦するようならもう無理だよ」

 

 圧倒的な勝利にクラスメイト達は沸きあがった。自分達も戦える。その自信を得られる一戦であったといえるだろう。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 流石のエースチームだ。次は岸波と中村・・・南雲、行けるか!」

「っ!はい!!」

 

 メルド団長は気遣わしげに南雲を見て声を掛けた。実戦の緊張を克服できるか、不安要素はもうその一点だけだろう。恵理が後衛組みからこちらに合流し、軽く作戦を立てる。

 

「今回は特権無しで行く。」

「了解、武器は?」

「流石に初戦闘だし、聖剣で行くよ」

「了解、〝錬成〟」

「白野、デバフいる?」

「要らないかな」

「なら僕は火力支援で」

 

 白野が前衛、ハジメが補助、恵理が火力支援と決まり、先頭を進む。

 

 

 

 戦闘パートはもう要らないだろう、白野が斬って、恵理が燃やして、ハジメは特に妨害の必要性を感じなかったのでいつものように武器を渡すだけで初戦闘は終わった。

 特に苦戦も山ない戦いであったが為、白野が突き出した拳に二人は苦笑気味に拳を合わせる。

 

 

「む~~~~~!!」

「どうどう」

 

 そんな3人を嫉妬に狂った目で見る人が1人・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 いや、2人いた。

 

何の問題も起きず、一行は20層まで極めてスムーズに進行していた。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 後衛組みに向かってロックマウントがロックマウントを投げつけるという珍事に対し、光輝はオーバーキルをたたき出して仕留めていた。

それを見て白野は深く頷いていた。

 

「いや、やりすぎでしょ」

「天之河がやって無きゃ私がやってたよ」

 

 後衛組みに戻っていた恵理に危害が加わるとこうである。最早南雲は苦笑いしか出来なかった。

 丁度その頃、

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

 人の話を聞かない真性の愚か者が、地獄の釜を開けた。

 

「団長! トラップです!」

 

 

 

 現階層 第60層 

 前方、ベヒモス 討伐記録無し。

 後方、トラウムソルジャー 100以上。

 

 

絶体絶命のピンチがそこにあった。

 

 

『聖剣』

「〝錬成〟!」

 

白野は当然聖剣を選択、念話を送り、条件反射でハジメは聖剣を作り出す。

 

『混戦になる!!南雲は全体の補助も意識!!』

『了解!』

 

白野を中心に前線を作っていく、だが前衛の数は十数人、対して相手は100以上だ。中には恐慌に陥り戦えないものもいるだろう事を考えると・・・苦戦というのは甘い評価だろう。

現に散り散りにトラウムソルジャーの群れに突っ込み、編成も疎らに自分勝手に戦い始めた。所詮危険の無い訓練では修羅場、鉄火場の対応力など身につかない。1週間延長された訓練の成果は一切発揮されなかった。

 

 いま、前線がほころんで一人の女生徒に剣が―――「〝錬成〟」―――落ちなかった。

 トラウムソルジャーは体勢を崩して倒れ、頭の部分に杭が現れて貫かれた。

 

 「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

 

 差し出された手を呆然と受け取り、背中を叩かれてハッとした女生徒は「南雲も結構チートだと思うけどね!」といって走っていく。

 

 白野を中心に前衛組みと後衛組みが立て直し始めた。しかし圧倒的な数的不利で劣勢だ。

 必要なのは一撃で形勢を逆転できるヒーローだ。

 

「天之河君!」

 

 ベヒモスの方を向いて走り出した時、なんとなく分かった。騎士達の聖絶はもう長く持たない。

 必要なのはあの馬力を縫いとめる拘束力だ。

 

「っ!やってやる!!」

 

 

 

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

 

メルド団長に食って掛かる天之河の正面に立ち用件を端的に告げる。

 

「あっちの前線が限界だ!!岸波さんも勇者を切ってその上でギリギリなんだ!!」

「なっ!」

 

 勇者状態の白野の実力は光輝に迫る。そんな彼女がギリギリの戦いをしているということが天之河には意外だった。加えて、勇者の使用時間は3分。均衡はもうすぐ決壊する。

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長!すいませ――「下がれぇーー!」」

 

均衡が、崩れた。

 

南雲はとっさに錬成材料を盾に加工、それを作り出した石壁に貼り付けて対抗する。

だが衝撃は絶大、盾をひしゃげさせて石壁は粉々に砕け散った。

 

「吹き散らせ――〝風壁〟」

 

 メルド団長は一瞬の拮抗にすかさず魔法を放ち、衝撃破を緩和した。

 

「行け!お前たち!クラスメイトを死なせるな!!」

 

 砂埃が吹き払われ、臨戦状態の、赤く赤熱したベヒモスが視界に映る。

 

「メルド団長!!」

 

天之河はとっさに剣を振りかぶった。だがベヒモスには神威でなければ痛打にならないだろうという確信があった。だがそれでは間に合わないと諦め、天翔閃を構えたときだ。

 ベヒモスは大きく踏み込み、思い切りこけた。

 

 「うお!!・・・地面にめり込んでる?」

 「行って天之河くん!!これならしばらく押さえ込める。メルド団長も!!岸波さんがもう限界だ!!」

 「すまない!任せたぞ!!」

 「合図を出したら走れ!!魔法による援護をする!!」

 

 メルド団長も含め、天之河たちはトラウムソルジャーの方へと向かった。

 

 

 

 ◇

 時を少し戻す。

白野は戦闘開始から間髪要れずに皇帝特権で勇者を切った。その圧倒的なステータスで敵を崩しつつ、味方のフォローも行う、向こう岸へと渡りたいのに状況は一進一退。

 

『神威は使えないの!?』

『詠唱中のフォローが出来る人が無い!!というか八重樫は!?』

『あっちで天之河くんの説得してる』

『ほんと肝心な時に使えないな天之河!!』

『岸波さん!?』

 

 最早余裕など無い、何気にチンピラグループが良い感じに調子に乗っているお陰で前線が出来始めたが、何人か負傷し始めた。

 

「負傷者は下がって!!香織と綾子は負傷者を治せ!!」

「了解!!」

「岸波!!香織が居ない!!」

「ホントいい加減にしろよマジで!!」

 

 エースチームが軒並み参加していないという裏切りに歯噛みしつつなおも聖剣を振るい続ける。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

 勇者であるが故に放てる光属性の火力魔法を放つがすぐさま後続に埋められる。その前に少しでも前に進み、前線を押し出している。

 

『聖剣はまだ持つ?』

『雑魚相手なら5分は維持できる』

『なら僕が天之河くんを連れてくる。それまで持たせて』

『了解、あと1分で勇者が切れる』

 

 密かに前線を支えていたハジメもあちらに向かった。戦闘はさらに苦境に入る。

 

「盾持ちは前に出て!!後ろに魔法師が入る!!脇を槍持ちが固めて剣士はフォロー!!永山!!焦るな!!前線の一歩前を死守!!」

 

天之河もメルド団長も居ない以上、指揮は白野が取るほか無かった。こっちに参加している騎士はクラスメイトのフォローで手一杯な上、今回初めて共闘する騎士であったため、発言に強さが無い。前線で剣を振りながら指揮を取るという無茶を集中力と先読の技能によって実現する。

 

「魔法の詠唱始め!!一斉射!!」

 

 どうにか一行も落ち着き始め、チームワークを取り戻しかけていた。魔法の一斉射によりまた前方に空間が出来る。その間に魔力回復薬を素早く飲み、天翔閃を構える。

 

「万翔羽ばた――シッ!!」

 

 詠唱を中断して頭部を防ぐ。敵は白野こそが脅威であると判断したようであり、武器を投げて来た。さらにその隙を突いて白野に対して3対1で挑んでくる。

 どうにか崩れた姿勢から一撃を放ち、3体纏めて切り裂いた。直後、前衛ごと貫く姿勢だった後ろの槍持ちのトラウムソルジャーが現れた。

 

「甘い!!」

 

 それをギリギリ手甲で受け止め、前蹴りと衝撃破で吹き飛ばす。その間にも武器を投げられ、流れ弾として味方に当たらないよう白野は上手く弾き返す。

 そして次の3体を切り裂いたとき、遂に勇者の効果時間が切れた。

 

 急激に重くなる体、精彩を欠く剣技ではトラウムソルジャーの逆撃を許してしまっていた。一撃で3体切り裂いた剣力は見る影も無く、一刀一殺が限界だった。

 

 「白野!! 暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟!」

 

 白野の窮地に気付いた恵理は魔法によって援護する。しかし恵理は純後衛であり、一撃で倒れる雑魚相手にデバフは不要。火力支援をするには詠唱が長すぎた。

 

 投擲を衝撃破で跳ね返し、

同時攻撃を剣と体術でいなし、

前の敵ごと突き出された槍によって、白野は遂に聖剣を取り落とした。

 

「しまっ―――」

 

 

 ―――ミコーンと良妻狐のインターセプト♡そう簡単にご主人様は傷つけさせないのです!!頑張ってくださいまし♡ご主人様♪

 

 

 ふと、聞きなれ無い声がした。死の間際に幻聴でも聞こえたか。だが、しかし、

 

 目の前に浮かぶ鏡が自分を護ってくれたことだけは確信できた。

 

 鏡に手を翳し、スッとスライドする。白野の動きに合わせ、空に浮かぶ鏡は敵の頭蓋を打ち砕いた。

 

「やだ!これ鈍器!」

 

 シリアスな場面で外れたことをのたまう白野。後ろで恵理はホッとすればいいのか、心配すればいいのか・・・一週回って呆れたような顔をしていた。

 

 

 ふよふよと浮かぶ鏡であるがその性能は優秀の二文字。小さくはあるが頑丈で盾としても鈍器としても使え、加えて1メートル程とは言え遠距離武器として自在に扱える。

 剣を拾いなおした白野は防御を鏡で行い、剣で斬り、手甲で防いで鏡で後ろからぶん殴った。トラウムソルジャーはさらに躍起になって白野を倒そうとし、甘くなった脇を後衛部隊が焼いた。

 

 そして、

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

 天之河光輝が登場した。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切りひら――」

「遅ェよ馬鹿!!一回死ね!!」

 

 白野、渾身の罵倒だった。マジギレしているのは確実だ。ヒーローは遅れてくるとは言うが、それが故意であったなら許される事ではない。実際何度クラスメイトが死に掛けたことか。

 

「すまない岸波!!みんなも良く耐えた。さあ、階段前を確保するぞ!!」

 

 メルド団長の掛け声と共に生徒達は悲壮な顔から希望を抱いた表情となり、冷静さを取り戻す。雫が切り捨て、龍太郎が打ち砕き、光輝が纏めて薙ぎ払った。

 

 山場を越えたという確信から白野は後ろに下がって偽聖剣を落とす。投影限界であり、落下の衝撃で砕け散った。

 

「つ、疲れた~」

「大丈夫白野?」

 

 今にも崩れ落ちそうな白野を恵理が支える。流石にしゃがみこんで疲れを癒す時間も余裕も無い。白野にとって勇者は限界突破と同じようなものだ。限界突破ほど疲労があるわけではないが、使用から12時間もの間リキャストが発生し、白野の強さの根幹である皇帝特権が使えなくなる。

 これ以上の無理はさせまいと恵理は白野を支えつつ詠唱をキープして襲撃に備えていた。

 

 

 そしてエースチームは今までの苦労は何だったのかという勢いでトラウムソルジャーを殲滅していく。恵理はそれを苛立たしげに眺めていた。

 最初から天之河がこっちに来ていれば白野はこんな無茶しなかったのに!!というところだろう。

 そして遂に階段前の奪還に成功した。

 

「白野!準備は整った!!坊主に合図してくれ!!後衛組は遠距離魔法を準備しろ!!」

 

 

 

『準備完了。撤退して南雲!!』

『了解!』

 

 もう直ぐ魔力が尽きるというタイミングで白野から合図を受けた南雲は全力で走り出す。

 だが、敵もこの瞬間を待っていた。

 ベヒモスは南雲が立ち上がろうとした瞬間に固有魔法を用いた全力で跳躍する。

 姿勢が悪く真上に向かっての跳躍ではあったが、拘束をすぐさま破壊することが出来た。

 着地の衝撃で橋が崩れ始め、生き残るためにも前方の雑魚共を蹴散らさんと疾走する。

 

 南雲はベヒモスと魔法の衝撃に体を揺さぶられながら懸命に走っていた。明確な死の予感と魔力の不足による倦怠感を無視して前へと走る。

 

 ふと、ありえない角度で曲がる炎弾が見えた。

いや、問題ない、躱せる。

 

訓練によって培った動きで南雲は向かってきた炎弾を見事に躱した。

  躱して。次の一歩、

    次の一歩が、出なかった。

 

「あれ?」

 

 

  人間は、疲労する生き物だ。

  突如知らない世界に放り出され、親しい人間も居ない中、戦うために毎日毎日疲労困憊になるまで鍛える。

  想像を絶する精神的、肉体的疲労だ。

  そして直前の獣の殺意と、今受けた人の悪意によって、

 

  南雲ハジメは思考停止した。

 

 

 明らかにおかしな軌道を描いた炎弾を見たとき、白野はすぐさま飛び出した。

 恵理は魔法の射撃に加わっていない。南雲やその他のクラスメイトより白野に比重を置く恵理は万が一に備えて魔法をキープした状態にしていた。

 それを白野は酷いことに使う。

 

「恵理!!加速お願い!!」

「は、はあ!?白野!!」

 

 恵理の今キープしている魔法は風魔法だ。それを使って加速させろとはつまりそう言うことだ。今まさに死に瀕している南雲に向かって駆け出した白野。南雲がどうなろうと知ったことではない、無いが、もうすでに白野は駆け出した。

 迷っている時間は、無かった。

 

「っ〝風弾〟」

 

 白野の背中に向かって風の塊を放つ。収束を甘くすることで風の打撃ではなく両手で押したような加速を受けた白野は落ちていく南雲の手を掴む。だが、白野の足元も今崩れた。

 

 落下の中で白野は予備の剣を南雲に渡す。

 

『ワイヤー』

 返事を返すより早く南雲は刀身を錬成、太めのワイヤーを作成する。

 

 まだ、届く。残した柄を振りかぶり頭上に投げる。

 

 しかしワイヤーは地上に届かず

 

恵理と香織の手に届いた。

 

 

 

惜しむらくは、二人に落下する人間二人分の重量を支える筋力が無かったことだろう。

 

 

岸波白野と南雲ハジメは奈落へと落ちた。

 

二人の少女に傷を残して。

 




―――初登場頂きました♪もう読者の方々もお察しかも知れませんが・・・基本ストーリーにサーヴァントがでることはありません。な・の・で、ご主人様がこの危機を乗り越えることが出来るようし~っかりと加護を与えているのでご安心を。
次回、道具作成が真価をお見せします♪

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

  • ありふれ、EXTRA両方知ってる
  • ありふれのみ知ってる
  • EXTRAのみ知ってる
  • 両方知らない
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