はくのんは転移した   作:鎖佐

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不穏なタイトルですね(残酷な描写予告)


鮮やかな赤

落ちる。落ちる。落ちる。

 

死の罠と化した石橋の瓦礫と共に、

 

岸波白野の体は、底の見えない闇に落ちていった―――

 

 

 

落下には果てが無い。

ひたすらに流されていくような方向感覚。

視界に映るぼんやりとした光が流星のごとく過ぎ去っていく。

これが最後に見る光景、知恵も、切り札も、

都合よくこの場を切り抜ける方法は無い。ついには地面の染みとなるだろう。

 

それは至極当然の結論。

つまり、これでジ・エンド。

 

 

 

 だというのに、どうして自責の念も後悔も、なんなら恨み辛みすら出てこないのだろうか。

 

 この状況で岸波白野を救いだす起死回生の何かが現れるとでも言うのか?

 

 違うだろう?

 

 

 

 

 そう、違う。前提から間違えている。

 岸波白野は落ちたのではない。飛び込んだのだ。

 右手の甲を見る。何も無い。ある筈がない。岸波白野は何を思って右手の甲を見たのか理解出来ない。けれどなんとなく、そこに繋がりがあった気がしたのだ。

 

 手を伸ばす、視線をいずれ来る地面よりももっと近くに向ける。この死へのカウントダウンを共に数える相棒へと。

  

「南雲!!手を!!伸ばして!!」

 

奈落への道、少年と少女は手を取り合って死に抗う。

 

諦める気は毛頭無かった。

 

 

 

◆◆◆

「う゛っ」

 

 白野は水の流れる音によって目を醒ました。

 全身が痛みに悲鳴を上げているが、水に濡れた部分が余りに冷えすぎ、感覚を閉ざしている。

 このままでは流石に不味いと気合で起き上がり、どうにか濡れていない地面まで移動した。

 視線を巡らせれば南雲も今目が覚めたようだ。

 

「ここは、あの橋の下?」

 

 落下途中、手甲と脛当ての衝撃破で姿勢を整えたり、作り出した鏡で減速を試みたが、真横からの鉄砲水で失敗。だが、こうして五体満足で生きているのだから辛うじてセーフといったところだろうか。

 

「リキャストは8時間か」

 

 皇帝特権のリキャストは後8時間。4時間程気を失っていたようだ。あたりを見ればこの数時間で見慣れてきた緑光石がぼんやりとあたりを照らしている。どうやら水に流されたお陰で全身の打ち身で済んだようだ。

 

「岸波、さん。無事、だったんだね」

「どうにか、ね。はあ、全身が痛い、あと寒い、というか痛い」

 

 感覚が消えつつある体に危機感を覚え、岸波は躊躇わずに服を脱いで絞っていく。恥ずかしいとか言っている場面ではない。

 

「そ、そうだ。火を起こすよ!!魔法陣は覚えてるから!!」

「うん、お願い。コレ使って」

 

 魔法の触媒となる魔石を白野は2,3持っていた。魔石の回収を教わった際にそのままポケットに突っ込んでいた物だ。

 まあ問題はそれを上半身下着姿の状態でハイと手渡しされたハジメのメンタルだろう。

 

 そんなことを言っている場合ではないとは言え、流石に目に毒だ。

 

「あ、ありがとう」

「ふぁっ、、クシュン。うん、よろしく」

 

 煩悩を振り払うように錬成に集中し、悴む指先に渇を入れて数十センチもの魔法陣を地面に描く。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〝火種〟・・・はあぁ。ああ、暖かい」

「薪要らずは助かったね。魔石くすねておいてよかった」

「ああ、うん、ソウダネ」

「南雲もその濡れた服脱いだら?」

「ウエェ!!」

「今最終手段として人肌で暖め合うが選択肢に上がるくらい追い詰められてるからね?」

「・・・はい」

 

 またしても要らない妄想に入りかけた南雲は振り払うように上着とズボンを脱いで水気を絞る。いや、めっちゃ恥ずかしい。何故岸波さんは平然としていられるのだろうか。

 

「そのまま聞いてくれる」

「な、何?」

「情報共有をする。まず、皇帝特権のリキャストはあと8時間ある」

 

 息を飲んだ。そうだ、何を先ほどから油断している。岸波白野は先のトラップで真っ先に勇者を使ってトラウムソルジャーの群れに飛び込んだ。あと8時間もの間、この状況で白野は全力を使えない。

 

「あと、なんか新しいスキルを手に入れた」

 

そう言って取り出したステータスカードには奇妙なスキルが追加されていた。

===============================

岸波白野 17歳 女 レベル:30

天職:

筋力:150

体力:250

耐性:250

敏捷:400

魔力:650

魔耐:500

技能:皇后特権・投影魔法・道具作成〔+狐之嫁入〕・先読・言語理解

===============================

 

―――ちょっと待ちなさいセイバーさん?なんですコレ?どういう梃子入れです?ただでさえチートオブチートスキルなのにこれ以上何を付け加えたって言うんです?

 

 

「狐之嫁入?いや、まって皇后特権って何?」

「いや、これ名前変わっただけで性能は全然変わってない」

 

 

―――ふっ、まさか嫉妬故に名前だけ変えたのかいセイバー?随分とさもしいな。

―――う、うるさいうるさいうるさーい!!大体なんだ狐之嫁入って!!結婚宣言だと!?ずるいではないか!!

―――そうは申されましてもわたくしの狐の嫁入りは道具作成のEX上位互換。嫁入り道具を持つご主人様は、わたくしの生涯の伴侶であると未来永劫証明され・・・

 

「うっ」

「だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫、ちょっと幻聴が五月蝿かっただけ」

「かなり不味いんじゃないの???」

「いや、もう収まった。話を進めよう。この狐之嫁入は投影魔法とかを介さずに魔力で道具を作り出す技能?みたい」

 

 そう言って白野は空中に鏡を出現させた。空中に浮かぶ鏡は白野を中心にふよふよと浮かび、周る。

 

「・・・タマモの鏡?」

「え?」

「い、いや。なんでもないよ」

 

 空中に浮かぶ鏡を見てふと呟いてしまったオタク南雲。しかし、そんな戯言を言っている場面ではないと気を取り直して話の軌道を修正する。

 

「他にも出せるみたいなんだけど、何が出てくるか分からないんだ。ひとまず全部出してみる」

「分かった。僕は周りを警戒しながら、話だけ聞いてるから続けてくれる?」

「OKまずは~あ、服だ」

「是非着て欲しいんだけど?」

「デザインが自由自在・・・便利」

「早く着てくれないかなぁ!?」

 

 黒のキャミとスパッツ、ブラウンのコート、そして黒のショートブーツ。なんとなく、これがいいと思った物を作成する。魔力で作成するので体の上に出現させることも出来た。

 

「・・・魔力無くなったら裸になるな、これ」

「分かった、絶対にそれだけは防ごう」

「次は・・・裁縫箱?・・・糸、針、鋏と揃ってるけど、コレは使いそうに無いかな。次、カトラリーセット、櫛、布団・・・布団。嫁入り道具か、これ」

「・・・ダブルサイズだね」

「まあ、いっか。次、筆箱?万年筆とインクだ」

「魔力で出来たインクならスクロールが作れるかもね。後で試してみよう」

「OK、次は、ボトル。なんだろう中身」

「回復薬とか?」

「・・・ヘアケアオイルだ」

「・・・・・・・・・狐だもんね」

「次、箱・・・空箱だ」

 

 漆塗りの横幅1メートルを超える空箱、これが嫁入り道具というジャンルと鏡や服の特殊効果を考えた場合・・・

 

「中に物を入れて消してみてよ」

「なる程、ならこの魔石を」

 

 巨大な空箱にぽつんと魔石を一つ入れる。嫁入り道具だというのになんだか戦場から帰ってきた空棺桶のようで少し不吉だ。

 そして、蓋を閉めて、開けた。

 

「あ、収納できた」

「アイテムボックス!?チートだこれ!!」

 

 そこには先ほどの魔石は存在せず、ただ空の箱だけがあった。

 もう一度閉めて開ければ魔石がぽつんと一つある。

 

「物を入れると異空間に収納できる技能・・・かな」

「天之河くんを凌駕するチートレベルだね・・・」

 

 数多の創作物でもアイテムボックス等で無双する作品はメジャーなものだ。規模は違うがかの有名作品のAUOもある意味アイテムボックスを使ったチートキャラだ。

 

「出し入れが必要だからゲートオブバビロンは無理かな」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 

 視線を宙にやって「どこかで聞いたような」と呟く白野、有名な作品とは言えサブカルチャー、特に女子である白野は知らなくてもおかしく無い。

 

「まあいいや、これで狐之嫁入で出せる物は全部。戦いに使えるのは鏡だけかな。万年筆は紙がないと使えないし」

「みたいだね。僕の方はまずポーション類は全部使った。これは岸波さんもかな」

「うん」

「加えて錬成材料を全部使った。偽聖剣は石製になる」

 

 投影魔術は母材が投影先に近ければ近いほど持続時間が長くなる。聖剣は正体不明の金属だが石よりも金属製の方が母材として優秀なのは確かだ。一撃で砕けることを承知で使うなら石製でも問題は無いが、消費魔力が尋常では無い。

 

「私の手甲や脛当ても落下中に壊れた。あるのは予備の短剣くらい」

「・・・というか干将莫耶は知ってるのにAUOは知らないんだ・・・」

「なに?」

 

 岸波白野がたまに使用する二振りの双剣、その母体として短剣は作ってある。それはまさしくエミヤが使う干将・莫耶そのものであり、見た目どころか性能も全く同じだった。今までは創作の武器すら作れるのかと思っていたが、流石に違和感を感じる。加えて、白野はFate/シリーズを知らないらしい。

 ハジメは勿論stay nightを始め、zeroやプリヤなどのメジャーどころは視聴済みだし、なんならstay nightの無印版も最近クリアした。

 

 転移前にあったやり取りの徹夜でエロゲ云々は的外れではなかったのだ。ただ、あのストーリーの熱さに当てられて眠れなかっただけで。

 

 南雲は頭を振って要らない思考を飛ばす。何度も言うが、それどころではないのだ。

 

「とりあえずワイヤーにした短剣を錬成しなおそう。それとも2本混ぜて刀身を伸ばす?」

「そう、だね。うん。南雲は無手になるけど」

「僕が武器を持つより岸波さんがより強い武器を持つべきでしょ」

 

 そう言ってハジメはステータスプレートを見せる。

 

==================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:26

体力:22

耐性:20

敏捷:22

魔力:43

魔耐:18

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+高速錬成]・言語理解

==================================

 

魔力のステータスこそ劇的に増えているがそれでもクラスではワーストレベルだ。

肉体ステータスにいたってはアレだけの激戦を乗り越えても20代であり、戦闘技能は一切無い。オール100越えの白野が倒れた時が南雲ハジメの最後の時だ。

 

短剣を錬成し直す時、寄り合わせたワイヤーロープに付着した血を見て申し訳ない気持ちが湧き上がる。きっと心の傷になっただろうことは容易に想像できる。

感傷を振り切って武装を出来るだけ整える。頑丈に作った石剣と二本の短剣をあわせた半端な長さの剣を腰につけた。防具も無いよりはマシと石で作り身に着ける。

基本は隠れて進みつつ鏡と剣で戦うことにする。

 

 

 

戦えればの話だが。

 

 

 

 ここは迷宮の深層である。

 

 

 現階層 ???層

 正面 蹴りウサギ 目撃例無し

 

 そのウサギは白野の動体視力を超えて飛び掛かった。

 投影すら間に合わず、間一髪、石剣を間に挟む。

 まるでクッキーでも砕くかのようにそれを粉砕し、岸波白野を吹き飛ばした。

 

 事ここにいたって理解する。

 ここは、余人の立ち入れない地獄であると。

 

 助走を付けて今度こそトドメを刺さんと踏み出したウサギ型の魔物は突如二つに分かたれた。

 

「グルルゥ」

 

 血飛沫を浴びた白野は更なる敵の登場に腰を抜かす。幾ら天職が無い状態でも先読の技能があれば大抵の速度に対応できた。なのに今の蹴りウサギはまったく見えなかった。その、白野の視認できない速度で動くウサギを、目の前の熊は切り裂いた。まるで木になった果実を摘み取るかのようにだ。

 

 逃げろ、逃げろ、にげろ、ニゲロ

 

 思考が一斉に行動を要求するが体がそれについてこない、体がうごかない。

 

「岸波さん!!逃げるよ!!」

 

 その手を取って立ち上がらせる者が居た。ハジメだ。

 

 先のベヒモスとの時間稼ぎや奈落への落下を経験し、南雲は絶望的状況で動くメンタルを手に入れていた。

 南雲に手を引かれて、白野はようやく立ち上がった。先の爪熊はウサギを食べてランチタイムらしい。二つの肉片をパクリ、パクリ。ごちそうさま。

 

 さて、デザートはアレでいいかな、そんな視線を白野は鏡越しに見ていた。

 

『錬成で穴を掘れ、逃げろ』

 

 念話と同時に白野は全力でハジメを壁側に突き飛ばした。

 二人の間を、鋭い風が通り過ぎた。

 

「き、きしな、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「早くしろ!!逃げろ!!」

 

 空に舞う二つの肉片。視界を彩る鮮やかな赤。

 岸波白野の両腕が、切り落とされた。

 

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

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