「はっ、はっ、はっ」
どうしてこんなことになっているのだろうか。
右手は手首が、左手に至っては肘から先が無くなった。
「ふぅ、はっ、はっ、はっ、はっ」
薄暗い穴倉で、何の価値も無く終わるのだろうか。
目の前の道のようなものは一体どこに繋がっているのだろうか。
地上か、元の世界か、新たなる世界か。
新たなる捕食者の元か。
「は、は、は、ふぅ」
どこにも繋がっていないなら、どこにも辿りつけないなら、もう、止まってしまってもいいんじゃないだろうか。
止まっても、休んでも、諦めても、良いんじゃないだろうか
そうだ、とりあえず、休もう。
「ふう、袖にベルトを追加、して、止血。よし」
腰を落として、大きく息をすって、瞼を落とそう。しばらく眠るだけ、あまりにも眠い。
今までずっと戦い続けだった。流石に体力の限界だ。これ以上は無理だ。
思えばここには、食べる物すらない。魔物の肉?どうやって手に入れるというのか。
「・・・そうだ、万年筆、試して、見るか」
回復手段など魔法にしか頼れない。借りた力もまだ使えない。私にはこの場面を切り抜ける力が無い。
だけど、だけど、今一度、力を貸して欲しいと願う。
万年筆を口でくわえ、壁面に魔法陣を刻んで・・・
「だめだ、でこぼこすぎる、くそっ」
ただでさえ精密で膨大な陣を書く必要があるというのに、これでは無理だ。ほかの手段は、元の場所に戻って火種の魔法陣を使うか?
「いや、駄目だ。死ぬ」
其処まで向かう前に失血死するか、焼いたときの痛みでショック死するのが関の山だろう。完全に詰んだ。このまま緩やかに死ぬか、魔物に食べられて死ぬか、もがいて死ぬか。
選択肢は、もう、終わりを示してる。
・・・目の前に浮かぶ鏡を見つめる。
この鏡を見ていると、なんとなく安心する。其処に絶対の守護者がいるような、そんな気分になってくる。白野の嫁を名乗る何者かは、余ほど厄介な人らしい。
―――また、アナタに期待しても良いですか?
―――お任せ下さい。ご主人様。
この絶望的状況を、彼女ならば如何にかしてくれる。そんな妄想を元に行動する。
先ほどの万年筆を、鏡の鏡面に突きつける。ただそれだけで、本来なら数メートルは必要になるはずの魔法陣を緻密に、精密に描いていく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・清浄なる天の息吹、慈悲と慈愛に満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん――〝天恵〟」
適正無しでの発動だったが、如何にかギリギリ、失血は免れたらしい。
「・・・はぁ、ここまで来て、ここまでおいつめられて、まだ、あきらめられないのか、わたしは」
死の淵、その一歩手前で、岸波白野は踏みとどまった。
白野が両腕を切断された直後、白野は周囲の緑光石に鏡をぶつけて粉砕した。
元々薄暗い空間であることと、魔力の濃度が濃いエリアであったために閃光として十分な光量を発揮。白野はどうにか爪熊から逃れた。爪熊自身が逃げた白野ではなく穴に潜ったハジメを優先したのも一因だ。
あのあとハジメがどうなったのかは分からない。壁を掘り進めれば追いつかれることはそう無いだろうとは思う。だが、希望は無い。
何せ外に出れば魔物が居るのだ。白野ですら目で追えない速度、ハジメでは勝負にもならない。外に出れば魔物に喰われ、中に居れば餓死が待つ。これ以上無い地獄の選択だ。
故に、白野は行動する。
「・・・・・・まず、水の確保だ」
幸い水のある場所は知っている。水が有るならなんらかの生物が居ても可笑しくない。
未だに諦められないのなら、確保すべきは最低限のライフラインだ。
その後、暗殺者の技能で気配を隠しながらハジメを捜索し、帰還への道筋を辿る。
「よし、いこう・・・」
失血が無くなった訳ではない。平衡感覚は消失し、吐き気と頭痛の大合唱だ。
でも、まだ死んだわけでもない、動けないわけでもない、なら、まだ自分は戦える。
岸波白野は生きるために、活動を再開した。
◆
情けない
必死になって掘った石穴の中で、南雲ハジメは絶望に耽っていた。
情けない、情けない
格好つけてベヒモスの足止めを引き受け、挙句この有様だ。まさか味方から魔法が飛んでくるとは思わなかったが、自分が嫌われていることは理解していた。立ち回りが悪かったのだ。それに、あの魔法は確かに間違いなく完璧に避けることが出来た。そんな魔法に怯えて次の一歩が出せなくなった。
情けない、情けない、情けない
変わった気になった。戦える気になっていた。思い上がって調子に乗って、このピンチを乗り越えるカッコイイ自分に酔いしれた。
情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない
全部、岸波白野のお陰だったのだ。あの正真正銘チート少女の付属品でしかない自分が調子に乗った結果、こんなことになった。
情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない
情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない
いっそこれが自分だけの終わりであればよかった(死にたくない)そうであればハジメは唯の道化として死ねた(死なせたくない)だというのに愚かな自分はこともあろうか本物の勇者たる岸波白野をこの地獄に連れてきた。(許せない)
情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない
許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、
死にたくない、死なせたくない。死にたくない、死なせたくない。死にたくない、死なせたくない。死にたくない、死なせたくない。死にたくない、死なせたくない。
結果、ハジメは最後の最後まで岸波白野の足を引っ張って、逃げた。両腕を失った白野があの後どうなったのかは分からない。念話の指輪は今頃爪熊の腹の中だ。
暗闇の中でハジメは自問自答する。誰が悪くて、何が悪くて、如何すれば良くて、如何すれば良かったのか。
自問自答の果ての果て、南雲ハジメは少しずつ本当の敵を定め始めた。
情けない。昔、ただの殺意に怯えた自分が心底許せない。
情けない。今、こんな穴倉で震える自分が心底許せない。
情けない。未だこの状況を打開する手段が分からない自身の無能が、本当に、心の底から
許せなかった。
「じゃあ、死ねよ」
南雲ハジメは死
ハジメは手始めに今居る空間の拡張を行った。無計画に突っ込んではただの犬死だ。それはハジメに許される終わりではない。
この穴倉に逃げ込む間にいくつか鉱石を発見していた。
タウル鉱石と燃焼石だ。銃の構造は資料とモデルガンでしか記憶に無いが・・・なに、材料は腐るほどある。作成と試射のための空間を拡張していたときだった。
「水?」
岩肌から液体が流れていた。それを見た瞬間今まで無視してきた口の渇きが限界を迎える。鉱毒が含まれているかも、という危機感はあれど、このまま水分も無しに戦うことは不可能だと判断し、賭けに出る。
「・・・は、はぁ!!?なんだコレ!?」
瞬間、ハジメの疲労が急激に回復し、体中の鈍痛が治まった。魔力もかなり回復し、思考はクリアになる。
急いで水源を掘り当てようと岩壁を錬成する。当然鉱石を集めてインゴット化するのも忘れない。
そして掘り当てたのは淡い輝きを放つ石、神結晶だった。
不死の霊薬にも等しい神水を生み出す奇跡の結晶。これを手に入れてからのハジメの行動はより明確かつ迅速となった。
もとより精神的にも肉体的にも限界だったところを決死の覚悟で無理矢理動いていたのだ、神水を手に入れてからは精神的な曇りが晴れ、鈍痛も止み、空腹こそ改善されないが調子は明らかに改善された。
何よりも回復効果が大きかった。
銃火気作成に至るまで、誤作動、暴発、弾詰まりなど、意図せず何度も死に掛け、神水で回復させた。
結論として複雑な機構を作成するには時間が無い。自作した時計は精度など無いようなものだが、少なくとも活動開始から40時間は経過している。白野の生存を望むなら60時間以内と決め、追求したのは貫通力と精度。遠距離から脳天を粉砕して敵を倒せる超火力だった。
数百回にも及ぶ試作の果て、遂に作成されたのが・・・
全長約35cm
5連回転式弾倉
50口径 大型リボルバー式拳銃 試製「シュラーク」
全長約120cm
装填数1発(薬室1発)
30口径 対魔物ライフル 試製「ハンター」
ドパン!!!
凶悪な銃声が洞窟に響き渡る。目の前には肉塊になったウサギの魔物。二匹いた蹴りウサギを物陰から射撃し、ハンターならば一撃、シュラークならば2~3発打ち込めば殺せることを確認できた。
恐らく爪熊相手ならシュラークは決定打になり得ない、ハンターの2発でも厳しいだろう。だがハジメの真価は錬成にある。シュラークを撃って錬成で逃げるを繰り返せば、勝算はある。
勝ち目があるのだ。
「さて、腹ごしらえして、行動開始だ」
◇
どうにか自分達が落ちてきた場所まで戻ることが出来た。
途中狼とウサギの戦いに巻き込まれたときは死ぬかと思ったが、如何にか物陰でやり過ごすことが出来た。瓦礫が飛んできたときは死ぬかと思ったが、またも鏡で防ぐことが出来た。万能であるこの鏡、愛してる。
ともかく水場を確保できた。餓えも渇きも限界だ。まずは水分を取ろうと、白野は倒れこむように水面に顔を浸ける。腕が無いのだから掬って飲むなど出来ないため、かなり品のない格好だ。
最悪飲用出来ない水であったら詰みだなと思っていたが、幸いどうやら飲用可能らしい。
だが、渇きを癒しているとふと妙な異臭を感じ取った。
それは、血の臭いだった。
白野は鏡を使って起き上がり、臭いの元へと向かう。
水路となる場所の奥、水は冷たいが、服を防水性の物へと変えることで進む。
それは、肉塊だった。
ここへ落ちることになった元凶の一つ、ベヒモスの死体だ。
あたりの水は真っ赤に染まり、異臭を放っている。しかし、水によって冷やされた為か、腐敗は余り進んでいないように見える。
挽肉のようになっているが、寧ろ好都合、現状では刃物を使って切り分けることも出来ない。
惨憺たる有様の肉塊をみて浮かんだのは、憐憫でも嫌悪でもなく、食欲だった。
白野は、肉片の一つを口に含み、飲み込んだ。
「う゛う゛う゛ぅぅぅ!!不っっ味い!!」
生臭く、鉄臭く、獣臭いその死体の味、しかし、極限の餓えと生存本能が良いから喰えと急かすように体を動かし、白野はその肉塊を咀嚼する。
少なくとも、かつてたべた金星料理よりかは100倍マシ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・金星料理って、なんだ?
「うぶっ うえ?」
口から吹き出た血が、喰った肉の血ではないとすぐに理解した。
「あ゛あ゛あ゛!!!」
神経を焼き焦がすような激痛が奔る。肉を裂き、細胞が死に、再生し、そして、死んでいくような、自身の肉体を書き換え、何か別の物へと変貌しようとして、耐え切れずに破裂する感覚が―――
―――随分と無様な姿になってますね、先輩?というか、どうしてそんなもの食べちゃったんですかぁ?食べ方にも品がありませんし・・・こういうのが趣味だったんですか?でしたらごめんなさい、そういえば犬空間で『エサ』を与えるのを忘れていました。うっかりうっかり。
とは言え、こんな所で無様に死なれるのも気に喰わないです。だ・か・ら~行きますよ~
精々、死なないように頑張ってくださいね?
―――変貌しようとする肉体を、編集する。自身の肉体の成長性を最大限に発揮し、この魔物の肉が持つ毒性へと対抗する。死ぬわけにはいかない。あの小悪魔系後輩のお仕置きの続きが未だなのだ。
そうだ、この程度、あの金星料理に比べれば何ほどもない。
ちょっと内臓が機能を停止しかけ、心臓が破裂寸前で、脳細胞が死に掛けているだけだ。
一つ一つの臓器機能を再確認し、変質した体に合わせてチューニングを行い、血管や神経、リンパ系を今の身体機能に合わせてアップデート。脳細胞を死なせる訳にはいかない、毒性に至る要素をシャットアウトする。
意識が落ち、目覚め、喰らい、飲み、気が付いたら、
皇后特権のリキャストが終わっていた。
「生きてるって、すばらしい」
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岸波白野 17歳 女 レベル:30
天職:暗殺者
筋力:450
体力:750
耐性:1000
敏捷:1200 〔+暗殺者2400〕
魔力: 2000
魔耐:1000
技能:皇后特権・投影魔法・道具作成〔狐之嫁入〕・自己改造・先読・言語理解・暗殺術〔+標的捕捉〕・気配操作
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クラスメイトの一人が持つ天職、暗殺者。白野が暗殺者となると、標的を捉えてその位置を認識する〔標的捕捉〕の派生技能がある。〔追跡〕とは違い痕跡の有無は関係なく、魔法的にその所在を把握することが出来る技能だ。
これと気配操作を使用してハジメを隠れながら捜索するつもりだ。ハジメ本人は恐らく石壁の中に要るが、白野本人が錬成師になるため問題は・・・
「なに、この動き」
捕捉したハジメが、凄まじい速度で立体軌道している。
まさか魔物に喰われて振り回されているのか?と思考するも、その割には姿勢が整っている。南雲ハジメは間違いなく、自身の能力で立体起動をしている。
しかも、
「戦ってる!??」
捕捉対象を変更、対象爪熊。
対象座標、同一。
「あの熊と、戦ってる!!」
―――う~ん。私は別に先輩を助けようだとか力を貸そうだとか思ってなかったんですけど?でもでも先輩が明らかにヤバイ世界に転移するとか、見たいじゃないですか。だからそう、ちょっとしたファイルを仕込んでいたんですよ。
―――今の私の楽しみは先輩を眺めることくらいなんですから、もうちょっと頑張って貰わないとです。
―――さあ、先輩の七転八倒の大活躍、期待してますよ♪
原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)
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ありふれ、EXTRA両方知ってる
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ありふれのみ知ってる
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EXTRAのみ知ってる
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両方知らない