はくのんは転移した   作:鎖佐

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中村恵理

少し、昔の話をする。

 

 中村恵理は昔から自分のことを僕と呼ぶような外れた子供ではなかった。

 一人称は恵理で、明るく、無邪気で、なんとなく一人ぼっちの子を見つけては声を掛けるような少女だった。

 

「はくのちゃん!!ひま?ひまそうだね!!かくれんぼしよ!!」

 

 当時の白野は自分の意思を見せることが無く、公園でブランコに揺られているのを良く見かけた。だから、声を掛けた。

 それから白野と遊んでいるうち、白野が児童養護施設で暮らす子供であると知った。

 一緒に遊ぶ子供達は親が居ないことを馬鹿にして、それを白野は言い返しもしなかった。

 そのリアクションの無さに子供は腹を立て、言動はエスカレートし、苛めになるところで、

 恵理が怒った。

 この瞬間恵理は子供達の間で、なんか空気の読めないカンジの悪いやつになった。

 

「えりとはくのはしんゆうだから、とうぜん!!」

 

 そんなことを歯牙にもかけない恵理は、白野と確かに親友と言っていい仲になった。

 4歳の時のことだった。

 

 5歳の時、恵理の目の前で父が死んだ。

 その日から始まる母の虐待と父の死の事実は恵理から笑顔を奪い取った。

 暗くて、何を考えているのか分からない少女に積極的に関わる人は、岸波白野しか、いなかった。

 

 母からの愛情に餓え、自責の念に押しつぶされそうで、心が限界で余裕の欠片さえない恵理は、会話すら成立させられなかった。

 そんな彼女に毎日毎日「おはよう」とか「シンデレラって本当は結構酷い話なんだよ」とか「なんか、赤い料理がきらいなんだよね。鳥肌がたつの。麻婆は好きなんだけどな」とか「また明日ね」とか、飽きもせずに話しかけた。

 

 気が、どうにかなってしまいそうだった。

 この冷え切った心が白野の温もりを求め始めた。だが、これは、この孤独は恵理に下された罰なのだ。そんな甘えが許されるはずも無い。

 いっそ自分なんかに構うなと言いたかった。けれど、白野は何も悪くないのだ、八つ当たりは恵理のやって良いことではない。

 

 そう考えて、恵理は目の前の温もりを無視し続けた。

 

 9歳の頃、母が男を連れ込んだ。

 一体こんな屑の何が良いのかとすら思ったが、母は男にしな垂れかかり、猫撫で声を上げていた。

 

 男の目を逸らすため、恵理は髪を鋏で切った。乱雑に、魅力など感じないように、一人称もこの頃から僕として、どうにか、如何にか、男から距離を取ろうとした。

 

 その結果、学校において、最低限の会話をしていたクラスメイトも距離を取り始めた。

 それは、白野も例外ではなかった。

 

 「おはよう」「また、明日ね」

 

 この二言だけが、恵理と白野を繋ぐ会話。いや、恵理は返して居ない以上、会話ですらない。ただ一方的に白野から伸ばされた糸だった。

 

 そして、あの日、あの日だ。

 男が恵理に獣欲を向けたときだ。恵理はあろうことか助けてなどと言ってしまったのだ。

 助けを求めたから、ヒーローはやってきてしまった。

 

 家の窓を突き破って飛んできた石片は男の頭に直撃した。

 逆上した男は下手人を捕らえようと飛び出し、車に轢かれて、死んだ。

 岸波白野の、目の前で。

 

 

白野は孤児だ。社会的な立場はどう言い繕っても悪いとなる。

警察は白野の行動を問題無しとした。男の自業自得。それを結論としたが、納得しない人間もいる。

その男に依存する女や、男の親類だ。

 

 児童養護施設は誹謗中傷の嵐を受ける。実際には極々一部の人間が過剰に騒ぎ立てているだけなのだが、そこで過ごす子供達にとっては・・・地獄と変わりなかった。

 そこで何が起きたかは割愛する。ただ、白野の味方は居なかったという事実だけを記す。

 

 それから半年後、白野は男に引き取られ、児童養護施設もその男の采配で場所を移し、嵐はやんだ。

 

 中村恵理は、何もかも失った。

 男に引き取られた白野は転校する。恵理は遂に孤独になった。

 母はより深い憎悪を恵理に向けるが、最早どうでも良かった。

 

 終わりにしよう。ふと思いついたそれは、案外悪くない選択に思えた。自分は全部全部取りこぼしたのだ。親友に、恩人に、最後の温もりに、人殺しの汚名まで着せてしまった。

 まさに疫病神、今すぐに死んで消えることが世の中への貢献というものだろう

 

 さほど流れが速いわけでもない川の鉄橋、その中腹に立ち、ここでいいかと決めた。

 川の流れに乗って、誰にも知られずに死んでしまいたい。そんな願いともいえない願望を抱いて、恵理は鉄橋を乗り越え・・・

 

「何、してるの?」

 

 ―――られなかった。その声は事実親より聞いた鈴のような綺麗な声。

 居るはずが無いと思った。白野は今引越し作業で忙しいはずだ。それでなくても恵理に会いに来るはずがない。誰のせいで人生滅茶苦茶になったと思う。

 恵理が白野の友人になどならなければ、今頃白野は女子たちに人気の、噂の天之河光輝に匹敵するような人気者になったはずだった。

 優しくて、強くて、人を思いやる白野と、恵理とは釣り合いが・・・

 

 

「何してるって聞いてるの!!聞こえないふりなんてさせない!!こんなもの見せられて黙っていられるほど!!私は大人しくない!!」

 

 

 怒られた、叱られた。

 あの女から向けられる憎悪を晴らすための憂さ晴らしではなく、ただ友達の間違いを正すために激怒していた。

 けれど、恵理とて決意の上でここに居るのだ。恩人で親友といえども好き勝手言われては言い返す他ない。

 

「・・・ほっといて・・・ほっといてよ!!僕なんか生きていても何も良いことなんか無い!!僕のせいで父さんが死んだ!!白野は人殺しって呼ばれるようになった!!僕が!!僕が居たせいだ!!」

「五月蝿い!!何のために、誰のためにあんなことしたと思ってるんだ!!」

「頼んでない!!」

「助けてって言ったくせに!!」

 

 突きつけられたのは、中村恵理の最後の罪。そして、本当の願望だった。

 

「・・・・・・・・・た、たすけなんて、たすけられてなんて・・・」

 

 言ってないとも、助けられてないとも、言えなかった。

 確かに言った。叫んだ、そしてその場に駆けつけた白野によって恵理の身は守られた。

 でも、それだけだ。助かってない。助かっては居ないのだ。

 

「・・・寂しいの。一人は、いやだよ」

「・・・知ってる。一人は、辛かった」

「どこにも、どこにも行かないでよ。一緒に居てよ。ねえ、白野さえ居れば、僕はそれで良いんだ。僕なんかの人生、幾らでも奉げる。白野の為に生きる。だから、お願い、側にいて」

 

 

 『助けて』の言葉に込められた意味を、白野はこの時理解した。

 

 

 結局その願いは叶わなかった。

 白野の養父は引っ越すことを絶対とした。白野はその決定に逆らえない。

 だから約束した。小学校、中学校はきっと別々になる。けど、進路を選べるようになれば・・・

 一緒に居ようと。

 

 

「だから、迎えに行くね」

 




―――要するに子供なのさ、この女は
昔の話をすると綴って、9歳で話が現代に戻っている。その間人間性が変わってませんと白状したような物だ。
愛して欲しいと求めながら、愛を忘れてしまったから、愛し方が分からない。
愛でもない、恋でもない。ただ現実と憎悪に打ちのめされた、ただの子供。

それが、中村恵理という女だ。


あん?このあとがきの意味?ある訳無いだろう馬鹿者め。そもタグに書いてあるだろう『プロットなし』と。事もあろうかこの作者、最後の敵を如何するかすら決めていない。
ああ腹立たしい。何故このような素人に語り部として描かれねばならない。
やめだやめだ。そも何故俺がただ働きなどしなければならない。もう金輪際出ないからな!!

原作知識について、(ありふれ読了、EXTRA、CCCクリア)

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