急に思いついたタマモクロスとしがないバイトちゃんのお話。

タマちゃんの原案の勝負服が好き。




※一人称や呼び方など、間違ってたらすみません。

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まあ続かないと思う。


タマちゃんとバイトちゃん

「お会計635円になります! はい、ちょうどですね! ……ありがとうございましたー!」

 

レジに並んでいた最後の客をなんとか捌ききり、店内に他の客がいないことを確かめてからため息を一つ吐く。

 

やはり、愛想笑いは疲れる。

おまけに最近の客の何人かは気持ち悪い視線を向けて来るし、あーでもここの時給は良いからやめられないジレンマ。ほんと嫌になる。

 

 

私は何の変哲もないただの貧乏ウマ娘。

 

両親はとっくの昔に借金を残して蒸発。

当時の私は何がどうなったのかが全然理解できず、借金取りに怯えているところに、私の状況を見かねた親戚の親切な叔父さんが借金を肩代わりしてくれた。

 

その上、一緒に暮らさないかと提案してくれたものの、これ以上迷惑を掛けたくなかった私はそれを拒否。

生きるためにバイトを複数掛け持ちし何とか中学を卒業した後は、高校に通うお金なんてないので働くことを決めた。

 

しかし、高校も出ていない小娘を雇ってくれるようなところがあるはずもなく、アルバイトの掛け持ちを増やして生活費を稼いでいる。

それでもカツカツだ。普段は茹でたもやしに塩を振った『塩茹でもやし』一食で乗りきり、酷い時にはもやしですら食べられないこともある。

 

泣いた事なんて何度もある。

だけど、はっきり言ってこの生活が楽になることはない。

 

ある時、借金を肩代わりしてくれた叔父さんの「本当に辛かったら、いつでも電話しておいで」という言葉を思い出し電話を掛けた。

土下座して、恥を忍んででもあの時の提案を受け入れさせてもらえないかと、そう頼むつもりだった。

 

しかし、電話に出たのは叔父さんとは別の人の声だった。

 

――叔父さんは持病の悪化で亡くなった

 

それを聞いた瞬間、私の希望はあっさりと砕け散った。

 

何度も死のうと思った。頸動脈を切れば、首を吊れば、海に入れば、ビルから落ちれば死ねるのに、結局怖くて死んでいない。

 

そして今も、掛け持っているバイトの内の一つ、コンビニで働いているわけだ。

 

「はぁ……」

「ため息なんかついて、幸せが逃げてまうで?」

 

また溜め息が漏れた私の背中が、小さな手に叩かれた。

 

背後から声を掛けて来たのは、私と同じウマ娘でバイト仲間のタマちゃん。

彼女も掛け持ちしているらしく、私の掛け持ちと被っているバイトもいくつかある。

 

「すまんなぁ。こっち手伝えんくて」

「ううん。大丈夫だよ」

「そっか! それより、朗報やで。廃棄処分予定の弁当、持って帰ってええらしいで!」

「まじ? 今日はついてるねぇ」

「せやせや。一週間は頑張れるなぁ」

「……この後もバイトかぁ」

「「…………はぁ」」

 

年頃の娘が、二人悲しくバイト三昧とは……先進国たる日本も世も末だ。

 

「おーい二人とも! そろそろ時間だぞ!」

「あ、はーい!」

「おお、日々の数少ない癒しの時間……!」

 

オーナーから声が掛かり、二人は店の奥に引っ込むと、そこでは少しだけ厚みのある茶封筒を2つもった天長がいた。

 

「はい、これ。今日のお給料ね。それと、そこの廃棄処分予定のお弁当、持って行っていいからね」

「「ありがとうございます!」」

 

今日の分の給料をもらい、のり弁当を貰って裏口からコンビニを出る。

 

「次のバイト、時間大丈夫なの?」

「ああ。まだ時間はあるからなー。次が最後やし、もうひと踏ん張りや」

「そっか。私はあと2つあるんだよなー」

「うちが言うのもあれやけど、詰め込み過ぎやないか? その内ぶっ倒れるで」

「あははー。タマちゃんに言われたくないよ」

「……なあ、じぶん、何か「タマちゃん」っ……すまん」

 

私たちの間でいつの間にかできてた暗黙のルール。

それが互いの事情を詮索しないこと。

 

明らかに何かしらの事情があるに決まってる私たちは、だけど干渉することをしない。

だって、相手と事情を言い合って、傷の舐め合いしたって、自分たちの惨めさを余計に意識してしまうだけだから。

 

まあ、一回うっかり洩らしちゃったことがあるんだけど……。

 

 

日が傾き始めた時間。

 

並んで歩く私たちの影がまっすぐに伸びていく。

 

道にあるのは私たちの影だけで、まるでそこが自分たちだけの世界の様で、だけどそこは、とても寂しかった。

 

この日々が続いていくんだろうな。

 

 

この時の私は、そう呑気に思っていた。

 

 

 

 

 

 

さらに日が経ち、何時ものコンビニでアルバイトしていると、タマちゃんがやってきた。

 

「タマちゃん。今日はどうしたの? 珍しく遅刻して。それに、最近全然来なかったし」

「ああ。店長に事情はちゃんと説明してきたから大丈夫や」

「そっか」

 

そして品出しをして、レジ打ちをして、いつものようにバイトが終わろうとする時間に、タマちゃんは話しかけてきた。

 

「なあ」

「どうしたの?」

「その、後でちょっと話したいことがあるんやけど……」

「……いいよ」

 

バイトが終わり、私たちは近くの公園へと向かう。

 

そこで珍しくタマちゃんが自販機でジュースを買い、私に投げ渡してきた。

 

「何これ?」

「おごりや。話に付き合ってもらう礼」

 

そう言って、自分の分の缶を開ける。

私も、ジュースの缶を開けて一口に煽る。

 

滅多に呑まないオレンジジュースの酸味が、渇いた喉を潤していく。

 

少しの沈黙の後タマちゃんは用件を切り出した。

 

「……多分、バイト辞めることになるかもしれん」

「なんで?」

 

出来る限り平静を装って答える。

だけど、頭の中では絶賛混乱していた。

 

え? え? なんで?

 

彼女のバイトの掛け持ち具合からして、お金の問題であることは間違いない。

私と同じように生活費だろうと言うことは察しが付くが、バイトを止めるということはその問題が解決したと言うことか?

 

「えっと……ずいぶん急なんだね」

「それは、すまん。実は昨日、出前配達のバイトしてる時に、声を掛けられたんや」

「声を掛けられたって、誰に?」

「トレセン学園のトレーナー。しかも中央の」

「……え?」

 

本日2度目の衝撃が私を襲った。

 

トレーナー。

 

それはレースを走るウマ娘たちを支える人たちのこと。

厳しい試験を潜り抜け、狭き門を通った者たちだけがなれるトレーナーに、タマちゃんが声を掛けられただと?

 

しかもトレセン学園って、ターフを走るウマ娘を育てる一級の施設じゃん。

その上、中央は数あるトレセン学園の中で、文字通り中心的な学園で、在籍してるウマ娘もトレーナーも一流しかいないって話じゃ……。

 

って、ちょっと待て。そのトレーナーに声かけられたってまさか……。

 

「そ、それでどうなったの?」

「スカウト、された。中央に入って、レースで走らないかって。君には走りの才能があるんだって。一応名刺も貰った。バイト先の信頼できる先輩に話聞いたけど、本物だろうって」

「それで、その話受けるの……?」

「最初は断ろうと思ったんや。そんな金ないって。そしたらな、そのトレーナー。トレセン学園の特別編入制度を使って、試験で合格すればお金が無くても入れる可能性があるって。だから、物は試しってことで走ったんや」

「まさか……」

「そしたら、受かった。授業料は免除、月に幾らかお小遣いも出る。もちろん、成果を出さないかんけど、レースで勝てれば、賞金もガッポガッポなんや……!」

 

タマちゃんの話に熱が籠って行く。

 

彼女からすれば、いきなり降って湧いたとんでもないチャンスだ。

 

「もしかして、最近バイトに来なかったのも?」

「試験とかで、いろいろと忙しくてな。それで、その、学園は寮に入れるし、バイトも多分トレーニングとかでする時間がないやろうから……」

「そっかぁ」

 

申し訳なさそうに、タマちゃんの声がしぼんでいく。

 

彼女は優しいから、きっと自分だけがチャンスを掴めることになったことに、気後れしているのだろう。

だから、これは私が背中を押さなければならない。

 

「なぁ、だから、さ「私、応援する」……へ?」

「タマちゃんがトレセン学園に行くの、応援するから!」

「あ、おい!」

 

それだけ言って、私は駆けだした。

 

まるで逃げるように

 

まるで未練を踏み切るように

 

 

まるで……流れる涙を見せたくないかのように

 

 

 

 

走る中で、学校終わりの高校生たちとすれ違う。

 

みんなの顔は笑顔で、そこに明日への不安なんてなくて、私だけが場違いな除け者のように思えてしまう。

 

タマちゃんはきっと活躍する。

何でか分からないけどそう思う。

 

そしたらきっと、私のことなんて忘れるのだろう。

 

ただバイトが同じなだけだった私のことなんて、きっと、彼女の輝かしい未来に埋もれていくのだ。

 

 

それが……何故か悲しかった。

 

 

「ああ……高校生って、やってみたかったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

あの日から数カ月。

 

ウチはグラウンドを駆けている。

 

「はぁはぁはぁ……よし」

「たまちゃーん!」

「クリークか。なんや、将来のライバルの偵察か?」

 

手ごたえを感じる中、ウチの元を現れたのはスーパークリークというウマ娘。

この中央に来てからの腐れ縁やっちゃな。

 

「もーう。そんなこと言っちゃって~」

「悪いけど、ウチは負ける気はあらへんからな。ウチは、背負ってるもんが違うんや」

「あらあら~」

 

それなりに凄んだはずなのに、クリークは呆気からんとしよる。

じぶんで言うのもなんやけど、並のウマ娘は怯んでくれるんやけどな。

 

「でもタマちゃん、休むことも大切ですよ? ほらほら~。ママに甘えて大丈夫ですよ~」

「誰がママやねん! ウチの母ちゃんは母ちゃんだけや!」

 

くそっ! うっとおしいけど悪意がないから余計タチが悪すぎるで!

 

「それで~、タマちゃんは何を背負ってるんですか~?」

「普通聞いてくるか? まあ、ええわ。ウチのライバルに聞かせたる。いいか? ウチはGⅠレースに出まくって、賞金をガッポガッポ儲けるんや。そして、チビどもや母ちゃんに楽させる。本当ならこの学園に来れなかったぐらいに貧乏やったウチが、唯一掴んだチャンス! 絶対ものにしてやる!」

「それが、タマちゃんの背負ってるものなんですね」

「……ま、それだけやないけどな」

 

思い出すのは、あの日に分かれてから一度も話せなかった()()の姿。

 

あの時、トレーナーのスカウトを受けたことは間違っているとは思わん。でもアイツを裏切った形になってもうた。

 

追いかけて抱きしめたかった。

絶対にまた会いに行くと、そう約束したかった。

 

やけど、あいつは言った。

 

『タマちゃんがトレセン学園に行くの、応援するから!』

 

その言葉を貰ったからには、何が何でもやりとおしてやる。

 

賞金を稼いで、まずはチビたちと母ちゃんの暮らしを楽にさせる。

 

そしてそれが出来たら、あの時あいつに言えなかったことを言うんや。

 

 

『私はさ、親が蒸発したから…………待って今のなし! 聞かなかったことにして! ちょっと、タマちゃんそんな落ちこまないでー!?』

 

 

「あいつと、親友と一緒に暮らす。家族の暖かさってやつを、あいつに教えてやるんや。だから、ウチは絶対に負けられへんのや」

 

 

 


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