仮面ライダー銀姫   作:春風れっさー

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五日目-2 力という絶対正義・表

 青き力を身に纏った銀姫は、階下の才姫を睨め付けながら腕を翳した。

 

「来て!」

 

 黒い霧が手中に集まる。それはやがて人を模り、結集した。それはかつて自分を追い詰めた異形。そして心を通わせた優しき人を死に追いやった仇。それでも今は、行使すべき力。

 まるで傅くようにして、包帯ダムドは表を上げた。

 

「……行って」

「ギィーッ!」

 

 手を振り下ろすと、弾かれたようにして飛び出していく。蜘蛛のように這って階下へと降りていくその姿を見送りながら、銀姫は再び手を掲げ同じ事を繰り返す。

 

「行って、行って、行って!」

 

 たちまちに生まれ出ずる悪霊の群れ。ワラワラと現われたそれらは、呼び出した主に一切逆らわず命令に従う。それがその力の本来の持ち主。かつての主の仇であろうと。

 命じられるがままに自分へ向かい始めたその軍勢と、見覚えのある装甲を見た才姫は全てを察した。なまじ優れた頭脳があるばかりに。

 

「他のライダーの力を使えるのね! 初めて見るけど、恐らく冀姫の能力……!」

「ギギィーッ!」

 

 そして最初の一体が辿り着く。包帯に包まれた異形はフロアへ降り立つと、奇声を上げて躍りかかった。何の工夫も無い本能のままの飛びかかり。才姫は即座に反応し、鋭いパンチングで迎撃した。顔面へのクリーンヒット。下顎を砕かれ、ダムドは黒い霧に消える。

 

「ふむ……強さはあまり大差ない、と。問題は操れることね」

 

 手応えを確かめ、現状の脅威を認識していく。頭脳を回し、打開策を構築する。

 その様子を見た銀姫は隙を与えてはいけないと判断し、更に包帯ダムドを増加させた。

 

「押し潰して!」

 

 やがて十数となった異形たちを一斉に嗾ける。その姿はさながら大移動するグンタイアリの群れだ。吹き抜けを伝い己へ迫る軍勢を見上げ、才姫は仮面の下の眉根を寄せた。

 

「数も多い……なるほど、圧殺するつもりね」

 

 効果的ではある。才姫の最大の武器は機動力。高速移動による攻防一体の隙のなさだ。反面、一撃の威力や武器による攻撃範囲は乏しい。数を殺すのに手間がかかるのは事実だ。だから才姫の速度を殺す為には、確かに数は有利な要素だった。

 

「――だけど」

 

 迫り来る軍勢を一瞥し、焦ること無く才姫は脚に力を溜めた。そして包帯ダムドたちが自分と同じ階に到達すると同時に、駆け出す。

 地を蹴り、勢いを増す。床が罅割れるほどに強く踏み込み、加速する。突撃してくるダムドたち――を無視し、その隣を過ぎ去って。そしてスピードに乗った才姫はそのまま手摺りから飛び出し――吹き抜けを、垂直に駆け上った。

 

「なっ!?」

 

 まるで地を走るようにして壁を蹴り上げる才姫の姿に、驚愕した銀姫は一瞬動きを止める。そしてその一瞬の内に才姫は完走し、同じ階へと辿り着いた。

 

「だけどそれでも――遅い」

 

 ストリと着地した才姫は、同じ標高へ戻ってきた銀姫を真っ直ぐ見やり、対峙する。

 

「私の速度(スピード)は、そして知能(インテリジェンス)は、貴女の予想の遥か上を行く。多少力を得たぐらいで、粋がらないで欲しいわね」

「くっ……」

 

 苦も無く苦境を脱出して見せた才姫に、銀姫は確信する。

 このライダーは、間違いなく今まで戦った中で最強だ。まだ戦ったことの無い焉姫や、戦うことの無かった乖姫を除けば――爽よりも、強い。

 

 やはりその並外れたスピードは脅威だ。攻撃に使えば鋭く見切れず、回避に使えば空を切る。どんな武器よりも強く、どんな装甲よりも無敵。スピードという単純な要素が、全ての戦術を凌駕している。

 加えて輪花が本来持つ思考の瞬発力も侮れない。数による圧殺を狙い階下へ向け包帯ダムドを大量に向かわせたが、それらを無視してこちらへやって来たことで却って孤立させられた。包帯ダムドが昇ってくるまでは、時間が掛かるだろう。それを一瞬で判断した。戦いの経験値――望まずとはいえそれを積んで来た銀姫の発想に適応するだけの頭の回転速度。

 

 手強い――銀姫は自分の背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、再び右手を翳した。

 

「来――」

「させると思う?」

 

 新たに包帯ダムドを作り壁とする。しかしその狙いは既に見通されていた。軽いステップで瞬時に肉迫され、振るわれた手刀が集い始めた黒い霧ごと腕を弾く。

 

「ぐっ!」

「この距離なら、起こり(・・・)を見極めることすら容易いわ」

 

 ダムドを生み出すための行為、即ち手を翳すことすら許さない。

 

「くっ!」

 

 窮した銀姫はどうにか自分の身体の陰になるよう手を伸ばし、ベルトの右腰を叩いて武器だけは確保する。青い光が集い、刃の大きな槍へと変化した。冀姫が持っていた物と同じ槍だ。

 才姫の神速のジャブを槍を盾にすることで辛うじて受け止める。

 

「小賢しい!」

 

 硬質な手応えに才姫は一旦バックステップで離れ、槍を避け銀姫の横へ回り込む。そしてボディへの鋭い一撃を見舞ったが、それは槍の柄で防がれた。

 

「む……」

 

 また離れる。反撃を警戒したが、幅広の刃が振るわれることは無かった。訝しみつつも才姫は攻勢を続ける。

 背中側からのハイキック。だがこれも、槍を背中に回してガードする。

 

「ふぅん?」

 

 脚を狙った抉るような低い一撃。一周回って真正面からの打撃。

 しかし悉くが防がれる。その代わり、反撃は無い。

 ここに至れば、才姫も悟る。

 

「防御に専念という訳ね。憎たらしい。でも今は有効か……」

 

 拳を叩きつけながら、才姫はチラリと階下を見下ろす。そこには吹き抜けを這い上がって戻ってきつつあるダムドの群れがあった。

 防御で時間を稼がれ過ぎると、アレらが帰還して来てしまう。

 

「それはそれでやりようはあるけど、面倒は面倒ね」

 

 才姫とてダムドは何体も処理してきた。数を相手にした戦いは経験を積んでいる。なので大量のダムドを前にした方策はある。が、それを考慮しても銀姫は放置できない。

 未だ才姫の攻撃を抜かせない防御を油断なく敷く銀姫を見て、才姫も侮りを捨てていた。このライダーは今までに少なくとも二人、戦って殺している。その経験値は自分を上回る物だと。こうして拮抗されているのがその証拠。

 そう飲み込み、計算し、しかしその上で――断じた。

 

「ま、それでも私が勝つわね」

 

 純然たる事実であるようにそう口にした才姫は、鋭く銀姫へ向かって手を伸ばす。

 

「っ!」

 

 真正面。顔狙いのパンチだと判断し銀姫は槍でガードする、が。

 

「なっ!?」

「ふふっ、捕まえた」

 

 それは才姫のフェイントだった。真の狙いは、槍その物。柄を掴み取って才姫は、それを引き寄せる。

 

「ぐぅっ!」

 

 銀姫は当然抵抗した。幾つもの武装を操るスカベンジフォームの時とは違い、デザイアフォームの槍は唯一の得物だ。放してしまえば武器が失われる。それは油断ならない才姫相手には致命的だ。だから手放さないよう力を籠める。

 両者の膂力はほぼ互角であった。拮抗しているといってもいい。押して、引いて、綱引きのようにたたらを踏み合う。

 そうしている内に、手摺りへ寄っていく。

 

「くっ……!」

「ふっ、あぁっ!」

 

 最後の拮抗に勝利したのは才姫であった。力を振り絞り、自ら倒れ込むような勢いで大きく引く。バランスを崩した銀姫は、それに追随するかのように引っ張られていく。

 行き先は、手摺りの外側。

 

「――なっ」

 

 気付いた時はもう遅かった。

 二人の体重を支えきれず、手摺りはあっという間に瓦解する。宙に投げ出される銀姫と才姫。寄る辺のない浮遊感。しかしすぐに、重力という綱が二人を捕らえる。

 落下。下へと強く引っ張られる感覚に銀姫の血の気が引いていく。しかし同じく落ちながらも、才姫はニヤリと笑った。

 

「さっき私が味わった恐怖。今度は貴女に教えてあげるわ!」

 

 まだ掴んで離さない槍をグッと引き寄せる。もう足場がなく踏ん張りの利かない所為で、銀姫はもう堪えきれない。あっさりと寄せられた銀姫は、そのまま才姫の蹴りを浴びる。

 

「うっ!」

 

 腹部に一撃を受け、怯む銀姫。しかしダメージはあまりない。踏ん張れないのは才姫も同じ。この状態では大威力の打ち合いは難しい。

 が、才姫の狙いはそこではなかった。

 

「っ! まさかっ!」

 

 足は腹に押しつけたまま、離さない。槍もまた、握り込んだまま。

 そして体勢は、才姫が上。銀姫が下。

 黄色の仮面の下で、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「宙空サーフィンよ!」

 

 銀姫の身体をボード代わりにして、才姫は勝ち誇った。

 既に体勢を入れ替えるだけの時間は残されていなかった。吹き抜けの終点が迫る。

 

「くっ、ああっ!!」

 

 銀姫が咄嗟に取ったのは、下に向けて手を翳すこと。僅かな猶予で判断した、彼女なりの最善策。

 そして。

 

「が、ああ゛あああぁぁっ!!」

 

 着弾。

 高高度からによる二人のライダーの衝突は、恐ろしいまでの運動エネルギーを生んだ。床はそれを受け止めきれず、崩落した。そのまま二人の身体も、呑まれて落ちていく。

 一番下の、更に下。崩れる瓦礫を避け銀姫から飛び退いた才姫は、降り立った場所を確認した。

 

「地下駐車場ね。一転地味な場所だこと」

 

 いくらか車はあるが暗い殺風景を見回して才姫は、目の前に転がる物体へ目線を戻した。

 

「う、ぐうぅ……かはっ!」

 

 生きては、いる。

 大きく身体を打った銀姫は、それでも意識はまだあった。だが強かなダメージが残っているのか、喘ぐようにして息を吐く。

 

「あら、意外と元気そうね」

 

 対する才姫は、無傷。銀姫を下敷きにして衝突を免れたからだ。正確に言えば衝撃は多少受けた筈だが、間に挟んだ銀姫のおかげでほぼ無いに等しい状態だった。

 故にそれを一手に引き受け、潰れたトマトみたいになると思っていた銀姫が無事なことに存外な声を上げる。だがコンクリートの粉塵に紛れて漂う黒い霧を見て、合点がいったと頷いた。

 

「あぁ、成程。ダムドをクッションとしたのね。それなら衝撃はある程度緩和される……咄嗟の判断としては上出来ね」

 

 残された時間を使って銀姫は、デザイアフォームの力を使って包帯ダムドを生み出していた。それは自分にのし掛かる才姫への反撃のためではなく、更に自分の下敷きにする為だった。

 目論見は何とか成功し、衝撃を緩和させることが出来た。でなくば銀姫の身体はぺちゃんこに潰れていた筈だ。しかしダムドは脆さい。故に、完全にショックを吸収してはくれなかった。

 結果、甚大なダメージが銀姫に残った。

 

「あ、ぎ……かふっ」

 

 全身が痛む。痛くないところが見つからないくらいだ。頭の中はぐわんぐわんと揺れ、痺れたように手足は動かない。少しでも痛みを和らげようと呼吸をするが、感覚が滅茶苦茶でもう吸っているのだかどうだか分からなかった。

 満身創痍。

 そんな銀姫へ、才姫はゆっくりと近づく。

 

「ふふ……あら?」

 

 そこで才姫は、自らの足元に転がっている物に気付いた。小さい。だが、灰色のコンクリートには目立ちすぎる金色をしていた。

 

「これ……貴女が使った物よね」

 

 拾い上げたそれは、グレイヴキーだった。レリーフには騎士王が刻まれている。

 落ちた衝撃で、ベルトのホルダーから吹き飛んだ物だった。

 

「あ、ぐ……返、せ」

 

 それに気付いた銀姫は、まだ回復し切れていない僅かな力を使って手を伸ばす。大切な物だからだ。アイテムという以上に、意味の籠もった。

 

「……ふふ。良いこと思いついた。確かこれは貴女のお仲間だったわよね」

 

 だが必死な銀姫の様子を見て才姫は、笑いながらキーをドライバーへと近づけた。

 

「これでトドメを刺してあげるわ。それも一興よね」

「やめ……」

 

 銀姫の懇願は届かず。

 才姫のスリットに、真衣の形見が差し込まれる。

 

《 Gallows Changeling 》

 

《 全ては人の為に 何故?

  世界を己の手に 何故? 》

 

 そして輝く、金色の光。

 眩い美しさに包まれた才姫は数瞬後、今までとは違う鎧姿で君臨していた。

 

 胸元と肩に掛けて広がる黄金の甲冑。肩から背中には赤いマントがたなびいて。仮面すら変化し頭部には突き立つ剣の如き一角が聳えていた。

 間違いない。真衣の――乖姫(かいき)の鎧。

 才姫・チェンジリングフォーム。

 

「ふぅん、成程。こうなっているのね。悪くない」

 

 新たな姿に身を包んだ才姫は、しばし自分の姿をしげしげと眺めた。新たな装いを興味深そうに見つめる。それに対し銀姫は、蹲いながら身を迸る激情に震えていた。

 憤り。悔しさ。情けなさ。悲しみ。恥辱。だが、口を突いて出たのは疑問だった。

 

「なん、で……」

「ん?」

「見た、筈でしょ……」

 

 銀姫は二度グレイヴキーを使った。そのどちらでも、白い空間を目撃した。そして流れ込む記憶も。彼女たちの未練も。

 であるなら、才姫も見た筈なのだ。

 残された悔いを、願いを。死んでしまった真衣の残滓(おもい)を。

 

「なのになんで、そんな平気な顔、して、いられるの……?」

 

 自分と同じ筈なのだ。

 彼女たちの暮らし。確かに人間であったという証拠と、その未来を断ってしまった重責。それがまた才姫にものし掛かった筈だ。

 

「あぁ、見たわよ。でも……」

 

 だというのに、彼女は。

 

「くだらない、些事ね」

 

 顔色一つ歪めず、切り捨てた。

 

「え……?」

「戦えない? 戦いたい? ――話にならないわ。それって結局、意気地が無いってだけじゃない。その上良い暮らしで自由がないだなんて……。ハッ! お嬢さまの戯言にしか聞こえなかったわ」

 

 何も、響いていない。

 真衣が切実に願った祈りも。彼女が死んでしまった事実も。何も。

 才姫にはまるで、影響を及ぼしていなかった。

 

「全ては自分で掴み取る物よ。人生、地位、栄光!」

 

 天を仰ぎ、巨大な何かを抱くように手を掲げる。それは黄金の装いと相まり、栄光の騎士物語が一幕のようにすら見えた。

 

「自らの才能を認めさせ、他者を屈服し、己の色で世界を染め上げる! 生まれも貧富も関係ない。全ては自分に回帰する。故にこそ! 全てを得られるかどうかは自分次第!」

 

 だからこそ、と。

 才姫はゆっくりと視線を降ろし、告げる。

 

「私はこのバトルで勝ち残り、栄光を手にする。無限の誉れを、自らの手で! その為ならば――他人事は、全て些事よ」

「っ、貴女、は」

 

 その言葉を聞いた銀姫は、震えた。

 

「全部、自分の為に――!」

 

 この人にとっては、自分こそが全てなのだと。それ以外は何もかもどうでもよく、気にもしないのだと。そしてそれを恥とも感じない。正気を削る凄惨な鬩ぎ合いも、他の命を踏みにじる願いへの階梯も、本当に愉しいと思っている。

 全ては自分の踏み台なのだから。

 圧倒的な自我。

 それが才姫――飛天院輪花の戦う理由。

 

「貴女は所詮、その障害である路傍の石に過ぎないわ」

 

 才姫が右腰を叩く。黄金の光が手に集い、身の丈に至る巨大な大剣を形成した。

 乖姫の黄金剣。それをこともなげに片手で振るいながら、才姫はゆっくり迫る。銀姫に、屈辱のトドメを刺すべく。

 

「大丈夫。私に残酷趣味は無いわ」

 

 そうは言いながらも、恐怖を煽るようにカラカラと音を鳴らして大剣を引き摺る才姫の口元には、堪えきれない愉悦の笑みが浮かんでいた。

 

「だから大人しく、死――あら?」

 

 しかしふと響いた音に顔を上げる。上、ではない。駐車場の奥から、何かが這うような音。

 

「……あぁ、そういえばまだ見ていなかったわね。てっきり今日は現われないのかと思ってたら」

 

 わさり。まるで昏い闇の中から染み出すようにして現われるのは、最早馴染みすらあるダムドたち。しかし現われた一群に、包帯はない。

 デザイアフォームの支配下にない別個体。つまりこの戦場に湧いて出たダムドたちだ。

 今まで影も形も無かった悪霊たちが何故急に現われたのか。才姫はすぐに推理する。

 

「ビルにいなかったのは、この地下駐車場に押し込められていたからかしらね。上では一体も見なかった……つまりここに全個体が存在するのなら……」

 

 才姫は更にダムドの奥。未だ晴れぬ闇の中を見つめる。

 そして出現する。闇色を纏った悪霊の親玉が。

 

「……コウモリ、かしらね」

 

 それは確かに、コウモリらしき意匠を身につけていた。背に皮膜の翼。闇に溶けるような身体。頭の両端に生える突起は、尖った耳のようにも見える。

 バットダムド。

 そう名付けるべきボスダムドは、配下を率いて才姫と対峙した。

 

「シイィィィ……」

「今更来るなんて……まぁ、いいわ」

 

 面倒そうな溜息を吐いて、才姫は大剣を突きつける。

 

「かかってきなさい。試運転してあげるわ」

「シィアッ!」

「キィーッ!」

 

 その挑発が理解できたのか否か、ダムドたちは一斉に飛びかかった。バットダムドの号令のような鳴き声に導かれ、怒濤に襲い掛かる。

 

「……ふん」

 

 しかし才姫はそれを、雑に剣を横薙ぎするだけで消し去った。黄金の波動が噴き上がり、斬撃の範囲以上のダムドを消滅させる。たちまちにダムドは、その総数の半分ほどを失っていた。

 

「シィ!?」

「これが乖姫の力……まったく、これでどうやって負けるのか気になるくらいの全能感ね」

 

 縦に振るう。鋭く伸びた黄金の光がまたダムドを半分消し飛ばす。次は腕。虫を払うような仕草をするだけで光がダムドを焼き尽くす。どうにかそれらの破壊をくぐり抜け辿り着いたダムドもいたが、重厚な鎧は爪を立てることすら許さなかった。そしてそれも、缶蹴りめいた気軽な蹴りで消失する。

 全滅。

 湧き出たダムドたちは、それこそ一度瞬きをするか否かのほんの一瞬で全て消し飛ばされてしまった。

 

「シ……シィィ……」

「あら、あなたはかかってこないの?」

 

 配下が全て焼き尽くされたのを見てたじろぐバットダムドを、才姫は不遜に挑発する。恐るべき力を行使したというのに、疲労はまるで見られない。

 

「シ……シィィ!」

 

 覚悟を決めた――ダムドにそのような心の動きがあるのなら――バットダムドは、皮膜の翼を広げて飛び上がった。駐車場の天井がある為に低空だが、それでもかなり素早い動きで才姫へと迫る。

 

「ふん」

 

 それを見て才姫は大剣の横薙ぎ一閃。黄金の光が奔り、迎撃する。

 

「シィィ!」

 

 だがそれをバットダムドは空中で軌道を変えることで避けた。線上から微かに逃れ、紙一重で当たらなかった斬撃は背後のコンクリート柱を両断するだけに終わる。

 

「へぇ? 流石に少しはやるわけね」

 

 感心したように呟く才姫。焦りはない。未だ余裕。

 一方でギリギリの回避を成功させたバットダムドはこれを勝機だと確信し、とっておきを繰り出した。口を開き、強烈な超音波を発生させる。

 

「むっ」

「くあっ」

 

 駐車場内に響き渡る高音が才姫を、そして倒れたままの銀姫を襲う。

 

「ぐ……動けない。少し舐めすぎたか」

 

 大剣を持たない片手で耳を塞ぐが、それで軽減されるほど生易しい音量でも無く。動くことも出来ず、その場で立ち尽くしてしまう。

 

「シシィィッ!!」

 

 そうして動けなくなった獲物へ、バットダムドは音波を発射したまま飛びかかる。動けないなら防御も出来ない。完成された攻撃パターン。どんな相手であろうとこれならば躱しようが無い。

 故にバットダムドの鉤爪が才姫の装甲を――裂くこと無く、弾かれて。

 

「シッ!?」

「まぁ動けないのは確かだったけど」

 

 至近距離。これ以上無く迫ったバットダムドの首を掴み、地表へ叩き潰した。

 

「シギャッ!」

「動くまでもない、と付け加えておくべきだったわね」

 

 確かに音波は才姫の動きを封じた。チェンジリングフォームの装甲は重厚といえど、超音波までには流石に効果は無い。その点は、バットダムドは上手い手を使ったと褒め称えられる。

 しかし、動きを止められたとしてもトドメを刺せるだけの鋭さは持ち合わせていなかった。装甲を貫く手段は、バットダムドには無かったのだ。つまり最初から、見え据えた勝負だった。

 

「この私に挑んだ無謀、その身に焼き付けて散りなさい」

 

 地面に縫い付けられたバットダムドの背を足で踏みつけ、才姫は大剣を逆手で握り直す。そして黄金の鍵の刺さったドライバーの、中央に収まりしマリードールをスッとなぞった。

 

《 Changeling Execution Finish 》

 

 黄金の輝きが大剣へ無慈悲に募る。目にしただけで怖気が走る程の力の漲り。溢れんばかりの膨大なエネルギーを、才姫は何の感慨も無く、バットダムドへ突き立てた。

 たちまちに注がれる黄金の光。溢れる光にバットダムドの身は内側から焼かれ、焼失していく。

 

「シ……ガ、ギャアアアァァァッ!!」

 

 それはあるいは、超音波よりも耳を塞ぎたくなるような断末魔。

 非人間であるのにあまりにも悲痛で耳に残る絶叫を残し――バットダムドは爆散した。

 

「……さて、と。余計な邪魔が入ったけど」

 

 容易くボスダムドを屠った才姫は、炎と黄金の残滓へ背を向ける。視線の先にはまだ倒れ伏したままの銀姫。

 

「続き、やりましょうか」

「ひっ……」

 

 顔色一つ変えること無く迫る才姫に、銀姫は怯懦の声を漏らして地面を掻く。それは立ち上がるためか、または逃げ出すためか。いずれにせよまだ回復できていない以上、手足は力なく滑るだけ。

 

「来な、いで……!」

 

 死の恐怖。今まで何度も感じて、そしてその中でも最も濃いそれに晒された銀姫は震える喉で懇願する。

 勝てない。戦えない。敵わない。

 身体の奥底から湧き上がる負の情念が、今際の際にある少女の心を塗りつぶしていく。

 だがやはりと言うべきか。才姫はそれを意にも介さず。淡々と、まるで普段通りに。

 

「残念。今日は貴女の番だったということよ」

 

 黄金の大剣を、ゆっくりと振り上げた――。

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