仮面ライダー銀姫   作:春風れっさー

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七日目-3 ラストページに選んだのは

『仮面ライダー……皇銀(すめらぎ)? そんなライダー、私は実装していない……!』

 

 突如朔月が変身した白きライダー、皇銀を見てノーアンサーは慄いた。このライダーバトル、全てはノーアンサーの手の平の上だ。舞台に上がる俳優も脚本も、全て計算尽くの戯曲。彼女にとって予想外のことは起こらず、今回もまたノーアンサーの思うがままの結末を迎えるはずだった。

 しかし今、計算外の存在が降臨した。

 

「みんなの力が、私にもう一度戦う選択肢をくれたんだ」

 

 皇銀の周囲を旋回するように浮遊していたグレイヴキーたちは、役目を終えたと言わんばかりにベルトへと収まった。あとはお前次第。そう告げもしているかのように。

 

『訳が分からない……でもライダーである以上は!』

 

 状況がまだ飲み込めないノーアンサーだが、それならばと先手を取ることにした。ウォーダムドを中心に波動を放つ。先に銀姫・ブラッドフォームの必殺技を封じたジャミングだ。最初から奥の手を切る。何もさせなければ、何も起きない。計算外もただの誤差で終わる。いつものように愚か者を一人消して終わりだ。

 小さな音を立て、見えない波が広がる。静かだが、それは闘士の全てを封じる致命の毒。仮面ライダーがノーアンサーの授けた力である以上、創造主に逆らえる道理はない。

 

「……何かした?」

 

 だが、皇銀にはまるで応えてなかった。

 

『な、何故!?』

「当たり前だよ。だってもう、貴女の与えたドライバーじゃないんだから」

 

 ウォーダムドのジャミング能力はノーアンサーが少女たちに与えたミサキドライバーの機能を停止する力だ。一方で皇銀が身につけるのはまったく新しいドライバー。故に通じない。そもそもシステムが違うのだから。

 

『まさか、そんな……』

「来て!」

 

 皇銀は叫び、右腰のパーツを叩く。宙空より飛来し白い手に収まったのは剣。しかし今まで銀姫として握っていたものとは造りが違っていた。

 十字架を模した柄に、太めの持ち手。鋭い刃には常に白銀の光が宿っている。清廉な気配を纏いし光り輝く長剣。

 

「銀墓剣、クリプト!」

 

 逆さにした墓標めいたその剣にそう名付け、皇銀はウォーダムドへ目掛け駆けた。その足取りには迷いも自棄もない。己の使命を胸に抱き、真っ直ぐに敵に向かう走りだ。

 己に迫り来る皇銀の姿にノーアンサーはようやく我に返る。

 

『クッ、しかし今更少し変形したところで!』

 

 ウォーダムドは砲を構え、皇銀へ向け放つ。相も変わらず命中精度の低い砲弾。しかし必ずしも全てが見当違いの方向へ飛んでいく訳ではない。幸運にも、一発の砲弾が皇銀へ向け真っ直ぐに飛来していた。

 

「変形じゃない、変身だ!」

 

 だがその砲弾を、皇銀は真正面から切り伏せた。真っ二つに両断された砲弾はそのまま左右に別たれ皇銀の背後で炸裂する。彼女の足を止めることは敵わない。

 

『クッ!? このッ!』

 

 その切れ味に怯んだノーアンサーはすかさず魚雷を発射する。ウォーダムドの頭部から打ち出され、煙の尾を引いて飛来するいくつもの魚雷。それを皇銀は今度は剣を構えることすらせずに真正面から受け止める。

 

「……はぁっ!」

 

 そして、煙の中から傷一つない姿で現われた。白銀の装甲は変わらぬ光を放ち、本人にダメージはほとんどなかった。白い鎧は銀姫の時より細身に見えても、実際の防御力は劣らない。皇銀の走りは止まらない。

 

「これでやっと……!」

 

 砲撃も、魚雷もやり過ごし皇銀は遂にウォーダムドへ肉迫した。

 

「私の距離だ!」

『クッ!?』

 

 輝く刃が下段から振り上げられる。胴を下から斜めに切り上げる軌道。銀姫の時は容易く弾かれてしまったその剣閃は――

 

『ギャアッ!』

 

 ウォーダムドの分厚い装甲を、見事に切り裂いた。まるでバターを裂くように切断される胴部。

 

『馬鹿な、こんな……!』

 

 装甲それ自体の厚みがあるおかげでまだ生身(バイタル)には届いていない。だが絶対である筈の重装甲がいとも簡単に切り裂かれてしまった事実はノーアンサーを絶句させるには充分だった。最早余裕ではいられない。だから振り上げた勢いを翻しての上段からの第二撃を、ウォーダムドは砲塔を備えた両腕を交差させて受け止めようとする。

 

「はぁっ!!」

 

 だが、それすらも。

 まったく役には立たず、刃はウォーダムドの正中線を両断した。

 

『ガッ……!』

 

 バラバラになって落ちていく腕の装甲。最早何の抵抗にもならない。

 

『まさかこの形態で勝てないとは……!』

「――せいやぁっ!!」

 

 もう一度振り上げ、上段からの斬り下ろし。腕に阻まれた刃は今度こそ胴部へ届き、モニターを真っ二つにした。映るノーアンサーは衝撃を受けた顔のまま左右に別たれ、ズルリと落下する。大きな音を立て地に落ちていくウォーダムドの装甲たち。

 派手な音を上げて崩れていくウォーダムドを見て、皇銀は怪訝な声を上げる。

 

「……終わった?」

『まだよ』

 

 あまりにあっさりな決着。その事実に拍子抜けすれば、即座にそれを否定する声が聞こえた。皇銀は再び気を引き締める。

 そして崩れる装甲の中より何かが飛び出した。

 

「!!」

『この姿を晒す気は、なかったのだけれど』

 

 少し離れた場所に着地したのはウォーダムドよりも細身な、されど悍ましき異形だった。

 赤青黄、緑にピンク。様々な色合いの斑模様。あるいはステンドグラスのように絢爛なその体色は、背後に背負った竜骨とよく似ていた。

 人のような手足には手甲脚絆のように紫の布と鎖が巻かれている。腰には元のままのミサキドライバー。そして頭の仮面にはライダーとよく似ている意匠があった。ただし割れた複眼からケダモノの瞳がギョロリと覗き、口元は鬼の如き憤怒が浮かんでいる。

 ウォーダムドのような機械の精練されたフォルムとはまるで違う――正真正銘の怪物。

 そしてなにより、仮面の後ろから伸びる銀髪がその正体を物語っていた。

 

「それが、貴女の正体なのね。ノーアンサー」

『ええ……屈辱よ。こんな醜い姿、私に相応しくない』

「そうかな?」

 

 忌々しげに吐き捨てるノーアンサーだが、皇銀はそうは思わなかった。

 

「似合ってるよ。人を食い物にして、その身体を繋ぎ合わせた醜いその肢体。貴女の本性そのものだ」

 

 皇銀には分かっていた。斑模様で色が違うのは、その一片一片が別のライダーによって作られているからだと。ライダーの使える部位をただ切り貼りしただけの存在。フランケンシュタインの怪物。それが――ノーアンサーの怪人態だと。

 

『……フフフ。言うじゃない』

 

 笑うノーアンサー。しかしその本心は真逆なことが窺えた。ギチギチと全身を鳴らし、今にも飛びかからんばかりに怒気を漲らせている。

 

『だったら――貴女もその一つに加えてあげるわ!』

 

 ノーアンサーの姿が消えた。だが皇銀には見えている。凄まじいスピードでバッタのように飛び上がったノーアンサーの跳び蹴りを、見切っていた皇銀はクリプトの刃で受け止めて凌いだ。

 

「っ、速い……!」

 

 重い外装を脱ぎ去ったことでノーアンサーの機動力は見るからに向上していた。昆虫めいた瞬発力と動きの軽さ。幾人ものライダーを厳選して貼り合わせたあの身体は、やはりかなり高性能だと思い知る皇銀。だが、目で追えないという程ではない。

 

『ハァッ!』

「そこ!」

 

 一旦離脱し、回り込んで放たれたノーアンサーの拳をクリプトで弾く。血姫に才姫。ライダーバトルという死闘を乗り越え鍛えられた皇銀の目はノーアンサーの尋常ではないスピードをしかと捉えていた。

 乱打される拳を一つ一つ確実に受け止めていく。

 

『っ、おのれぇ……!』

 

 業を煮やしたノーアンサーは一度離脱する。皇銀は追わない。単純に、足の速さだけなら負けているからだ。だからこそこれからノーアンサーが何をしても対応出来るよう、クリプトを正眼に構えて待ち受ける。

 

『ならばこれでどうかしら!』

 

《 Dominate 》

 

《 Violence 》

 

 ノーアンサーはベルトについた両腰のパーツを叩いた。すると現われる二つの武器。右手には金色の錫杖。左手には極太の金棒。

 

「……ライダーたちの武器、か」

『その通りよ。これは私が吸収したライダーたちの力そのもの。身体を構成する物体である以上、私もその力を使えるわ』

 

 皇銀は察する。ノーアンサーが握るのはこの戦いで勝者となり、そして無惨に散らされたライダーたちの武器であると。ノーアンサーの身体を形作る物質の一つとなってしまった今、それは彼女にも使用可能なのだと。

 

『貴女たち以上に過酷なバトルを乗り越えた選りすぐり中の選りすぐりよ。さあ、今度こそ死になさい!』

 

 そう言ってノーアンサーは錫杖の底で地面を叩いた。シャンという音を響かせると、皇銀の頭上に暗雲が立ち籠める。隙間から稲光が明滅するそれが何を意味するのか、想像には難くない。

 

『落ちろ!』

 

 ノーアンサーの叫びと共に、落雷する。鳴り響くは轟音。巨大な雷光は鉄槌となって降り注ぎ、皇銀の上に落とされた。

 激しい光が皇銀を覆い尽くし、束の間見えなくなる。

 

『アハハハッ! 敵対する者たちをこれだけで消し炭に変えてきた無慈悲なる落雷よ。本人は妹の病気を治したいだとか抜かす間抜けだったけれど、威力はピカイチね!』

 

 落雷が落ちた後には壮絶な破壊痕が残されていた。アスファルトは罅割れ、火種が草むらめいて方々で燃えている。膨大な電気エネルギーは形あるあらゆる有象無象を焼き尽くす――かに見えた。

 

「……そう、妹想いだったんだ。爽と似ているね」

 

 だがその中心であっても、皇銀は健在だった。

 しかも白銀の装甲には傷一つない。

 

『なっ、いくらなんでも、そんな硬さ……だったらこれでどう!?』

 

 並みのライダー、いや硬さに自信があっても消し炭となる筈の雷撃を受けても平然としている皇銀にノーアンサーは慄く。ならばと次は金棒の方を振り上げ、皇銀に肉迫して叩き下ろした。

 

『こっちはその妹の方よ! 行方不明になった姉を追って参戦したライダーバトルで、真実を知り発狂した脆弱な少女! それでもパワーは歴代最強!』

「姉想いだったんだね。だから貴女の残虐な仕打ちに狂えた。私よりもずっと優しい」

 

 それを皇銀は、片手で受け止めた。渾身の力と共に振るわれた金棒はパシンと乾いた音を立てるだけで止められ、それ以上はビクともしない。

 

『なっ!? いくらなんでもおかしい……!』

 

 あまりの手応えのなさに、この現象が単なるスペック差以上の何かだと悟るノーアンサー。でなければ大地を割り砕きビルすらも数合で平らに出来る金棒の力がこんなにも弱まっている説明がつかない。

 

「気付いた? そんな力に、意味なんてないことに」

『馬鹿な、私のこの崇高なる力を!?』

 

 通じないとみるや、ノーアンサーは両手の武器を消し去り次の武器を呼び出す。

 

《 Brave 》

 

《 Obedient 》

 

 棘の生えた剣と、マシンガン。どちらも殺傷力の高い武器。ノーアンサーは皇銀に向け抉るように突き刺し、引き金を引くが、どちらもあえなく弾かれる。

 

『何故……!』

「私はこの戦いで、少女たちの純真な想い、願いと向き合った」

『グ!?』

「自分の為、誰かの為。理由は様々でも、そこには確かに戦う理由があった。それを拳に、刃に乗せて。だから攻撃は全部重かった」

 

 反撃。クリプトの蒼白な残光が舞う。ノーアンサーは手持ちの武器を犠牲にそれを凌ぎ、次の武器を取った。

 

《 Windmill 》

 

 鉄の剣。それによる目にも留まらぬ超高速の斬撃。それでも傷つかない。

 

『なんだ、これは。あり得ない!』

「それと比べれば、あなたの攻撃は偽物もいいところだ。何も籠もってない。だったら、そんな攻撃に意味なんて、ない!」

『馬鹿な、まさかそんな理屈で……!?』

 

 子どものわがままのような、皇銀の言葉。だがそれを戯れ言と切り捨ててしまえないほど、現状は言う通りになっている。

 つまり皇銀には偽物や、借り物の力は通じないのだ。皇銀が、朔月がそうと信じる限り。

 

『グッ……ならばァ!』

 

 武器による攻撃が無意味だと悟ったノーアンサーは背後へ跳び大きく距離を取った。そしてベルトから何かを外す。

 それは六本の鍵だった。

 

「! みんなのグレイヴキー!」

『貴女にだけ渡す訳がないでしょ。こちらもキッチリ回収済みよ!』

 

 皇銀が所有する物と同じグレイヴキーを手にしたノーアンサーは、それを空中に放った。宙を舞う鍵たちが地に落ちるより早く、ノーアンサーは掌から黒い靄を放出し、吹きかける。

 するとグレイヴキーは黒い靄を纏い、形を変えていく。

 

《 Blood 》

 

《 Scavenge 》

《 Changeling 》

《 Desire 》

《 Unbreakable 》

《 Intelligence 》

 

 そこにはそれぞれのライダーを歪めたような意匠をした、六体のダムドが立っていた。

 

『ハッ! 散った奴らの無念から生じたダムドは、果たして偽物と言えるのかしら!』

「っ!」

 

 ダムドは散ったライダーたちの怨念。ライダー本人が遺した力の残滓である以上、偽物だと断じることは出来ない。人間性なきただの無念であったとしても、紛れもなく本人の欠片ではあるのだから。

 故にこそ、確かにノーアンサーの言う通りダムドによる攻撃は有効だ。

 

「……みんな」

 

 皇銀の眼前に立ち塞がる六体のダムドたち。今まで戦った少女たちの似姿。スカベンジダムド。チェンジリングダムド。デザイアダムド。アンブレイカブルダムド。インテリジェンスダムド。……ブラッドダムド。

 自分が殺めた少女が、あるいは見過ごした死が再び目の前に。

 

『行きなさい!』

 

 そう言ってノーアンサーは一斉にダムドたちを嗾けた。その先陣を切るのがよりにもよってブラッドダムドであるのは、皇銀を動揺させるための方策か、あるいはノーアンサーの性悪か。

 

「それでも」

 

 しかし皇銀は。

 怯むことなく。

 

「私は戦うと決めた!」

 

 皇銀もまた、ベルトからグレイヴキーを手に取った。だが皇銀の新たなドライバーに鍵を差し込むスリットはない。フォームチェンジは不可能だ。ならば、どうするか。

 

「だから、力を貸して!」

 

 皇銀がグレイヴキーを差し込んだのは、銀墓剣クリプトの柄だった。

 

《 Funeral Blood 》

 

 血姫のグレイヴキーを柄に押し込めば、そこから鳴り響く澄んだ電子音声。クリプトの蒼白の輝きは血色に塗り変わり、そのオーラはまるで尾のようにしなった。

 

『剣に、力を!?』

「はあああぁっ!!」

 

 双剣を抜いて肉迫するブラッドダムド。鞭めいてしなる赤いオーラは刃を躱し、その身に巻き付いてバラバラに切り裂いた。千々に裂かれ、ブラッドダムドは黒い霧へと還った。

 

 皇銀は次々と迫るダムドをグレイヴキーを変えながら迎撃していく。

 

《 Funeral Scavenge 》

 

 手にした銃を撃つスカベンジダムドを緑のオーラを射出することで射貫いた。

 

《 Funeral Changeling 》

 

 大剣を振り上げるチェンジリングダムドを黄金のオーラが真正面から叩き潰す。

 

《 Funeral Desire 》

 

 配下を増やして強襲するデザイアダムドを青いオーラで複製された剣が迎え撃ち。

 

《 Funeral Unbreakable 》

 

 拳を構えて突撃してくるアンブレイカブルダムドを紫のオーラを盾にして受け止め跳ね返す。

 

《 Funeral Intelligence 》

 

 そして高速で襲い掛かってくるインテリジェンスダムドを黄色いオーラを残す超高速の斬撃で切り捨てた。

 

 皇銀が剣を振り抜いた後には。

 もう黒い霧しか残っていなかった。

 

『な……』

 

《 Funeral Blood 》

 

 絶句するノーアンサーを、皇銀は再び装填した血姫の力でオーラを巻き付け拘束する。

 

『グッ!?』

「これがクリプトの力。みんなの遺した力を、無駄にしないための葬送の剣」

 

 締め付けられたノーアンサーを自分の方へと引き寄せつつ、皇銀は語った。

 

「私は忘れない。でも前に進む。その為の力を願って、みんなは応えてくれた」

 

 皇銀の力は全て、朔月が願ったこと。

 偽りを拒絶する力。遺された想いを再生する剣。それらは決して無敵ではない。万能にはほど遠い。されど彼女が選んだ、朔月だからこそ選べた答え。

 誰かの自由と平和を守るための騎士。

 それが、皇銀だ。

 

「だからまず、あなたを倒してみんなを呪いから解き放つ!」

『おのれ……分かっているの!? 私を倒せばこの世界は消える! 貴女だって巻き添えなのよ!?』

「……そう。でもそれは私を止める理由にならない」

 

 ノーアンサーが語った事を受けて、しかし皇銀は手を緩めない。

 

「例えそれが本当でも、最後まで私は前に進む。託された力を、無駄にはしない!」

『グ……やら、せるかァ!!』

 

《 Thorn 》

 

 ノーアンサーの身体から生じた緑の茨が巻き付くオーラを破壊した。自由を得てノーアンサーは吠え猛る。

 

『こんなところで、私の大望を邪魔させはしない! 私は成るんだ、あの頃の船体に、それ以上に!!』

「それがどれだけの願いか、私には分からない。だけど」

 

 赤いオーラを掻き消して皇銀は剣を引いた。ヒュンと振るい蒼白の輝きを取り戻したそれを、一度消す。

 

「みんなの願いだって、私には分からないほど尊かった。だったらそれを全部踏み躙って叶えようとあなたを、許せる訳がない」

 

 そして皇銀は銀色をしたマリードールの上に手を置いた。それが意味することは、かつてと変わっていない。

 

「だからここで、断つ」

『ダ、マ、レェェェ!!』

 

 対するノーアンサーも此処が全霊の賭け時と心得たのか、全身から瘴気を立ち上らせながらマリードールへ手を伸ばす。

 そして正反対の電子音声が同時に流れた。

 

《 The Answer Cremation Strike 》

 

《 No Answer Execution Strike 》

 

 鳴り響くは処刑宣告。

 皇銀は銀色の清廉なるオーラを漲らせ、ノーアンサーは黒く淀んだ瘴気を燃やし身を覆い尽くしていく。

 それらが頂点に達した時、二人は同時に宙へ飛び上がった。

 

「これが私の、答えだ!!」

『邪魔させない、私の夢ヲォ!!』

 

 キック対キック。二人の全身全霊を賭した蹴りが真正面からぶつかり合う。克ち合った力が拡散し、周囲は衝撃波で薙ぎ倒されていく。

 両者の力は拮抗した。だがやがて、皇銀の方が押され始める。

 

「うっ……くっ……!」

 

 燃える瘴気の一部が銀の光を破り、仮面の右半面を砕いた。破片が目を縦一文字に切り裂き、あっさりと失明させる。

 

「ぐっ!」

『ハハハッ! 見たことか! 贄としたライダーの数が違う!』

 

 束ねたライダーの力、その数量ならばノーアンサーの方が圧倒的に上。その事実を誇りノーアンサーは勝利を確信し高笑いを上げる。

 だが皇銀は割れた仮面の下からその言葉を否定した。

 

「違う。無理矢理剥ぎ取ったそんな力に意味なんてない。死体の継ぎ接ぎになんて価値はない。大切なのは、いつだって現実を変えるのは――!!」

 

 瘴気に押されつつある皇銀が纏う銀色のオーラ。そこにまず、赤いオーラが加わった。背中を押すように燃える、赤い色。それは金、青、紫、緑、黄と増えていき、最後には六色の光が煌めいた。

 

「――想いだ!!」

 

 そして銀を含めた七色の光は、ノーアンサーの黒い瘴気を打ち消す程強い輝きを放った。

 

『馬鹿ナ……!』

 

 瘴気が消えたことで力が失せ、ノーアンサーの足は弾かれる。そしてその身に蹴撃を受け止めることになった。銀の光を宿した爪先は胴体に炸裂し、その勢いのまま――竜骨へ。

 一見は煌びやかな巨大な骨組みへその身を叩きつけられ、ノーアンサーは罅を作って沈み込んだ。反動で離脱した皇銀は道路へ着地し、背を向ける。

 答えは、もう。

 

「さようなら、ノーアンサー」

 

 分かりきっていた。

 

『ガアアアァァァアアアアアアーーーーー!!!!』

 

 爆発。あまりにも巨大な火と衝撃が、竜骨を飲み込んで炎上した。

 継ぎ接ぎの身体を砕かれたノーアンサーは、彼女の目指した夢の果てを巻き込んで崩れていく。

 

『私ノ、私ノ夢ェ……! マタ自由ニ、色ンナ世界ヲ旅シタカッ……!』

 

 そんな願い事が炎の中より響いて。

 それを最期に、ノーアンサーの野望は潰えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――月が別れの象徴だと初めに言ったのは、誰だろうか。

 空にはいつの間にか煌々と照る満月が浮かんでいた。

 丸く大地を照らすそれを見上げて、皇銀は呟く。

 

「……これで、終わり」

 

 達成感に張り詰めた胸から息を吐き、皇銀は変身を解除した。髪が舞い、ボロボロの肢体が露わになる。破片によって切り裂かれ血を流す右目は光を灯していないが、朔月に悲壮感はなかった。

 それに、どうせ。

 

「……本当に、消えるみたいだね」

 

 ノーアンサーの作り出した異世界。そこは主を失い、粒子となって消えつつあった。世界を失えば当然、朔月も生きてはいられない。命乞いのように言い放った彼女の言葉は本当だったらしい。

 

「これでお終い、か。折角、やりたいこと見つけたのにな」

 

 最後の最後にそれを抱けただけよしとすればいいか。

 そんな風に諦めた顔つきで消えゆく世界を眺める朔月。

 

 凄惨な殺し合い。結んだ友情。裏切り。失意。恐怖。託された、想い。

 その果てにようやく辿り着いた朔月の答え。

 それは人々の自由と平和を守る、本当の騎士となること。

 人を殺してしまった罪を償い、新たな悲劇を防ぎ、誰かの涙を拭う。傷つき倒れても、また立ち上がる。いつかこの世から全ての悲しみが消え、その最後に自分を消すことになっても。その日が来るまで、永遠に戦い続ける。そんな風に誰かを守れる、悲劇の闘士としてではない――真の意味での騎士に。

 それが朔月がようやく抱けた、彼女だけの決意。変身願望。それを叶えた先の、答え。

 

 しかしそれももう、終わろうとしている。

 

「ま、それもいいか。みんなの仇は、討てたし」

 

 それでもノーアンサーは倒せた。朔月にその決意を抱かせた少女たちの分だけは、達成したのだ。ならば最低限は果たせたと満足できる。そう思えば、この命を諦められた。

 だから、これで終わってもいい。

 

 だが彼女には。

 まだ選択肢が残されていたようだ。

 

「……?」

 

 立ち上り消えていく粒子とは裏腹に、空から降り注ぐキラキラしたものがあった。

 不思議に思った朔月が空を見上げると、それは砕けた竜骨が欠片となって降り注いでいるからだと分かった。

 すると、朔月の身体に変化が起こる。

 

「目が、それに、髪が」

 

 潰れていた右目。それが見えるようになった。それだけではなく、髪の色も変わった。

 右目は紫。髪は銀に。

 まるで、ノーアンサーの如く。

 

「……ノーアンサーの力の一部を、私が受け継いだんだ。でも……」

 

 砕けて散ったノーアンサー。その余波を間近で浴びたことで力の一部分が朔月へと委譲されたらしい。それが分かる知識もまた同時に。朔月は己の身へ新たに宿ったことを理解して、しかし理解したからこそ諦めは深くなった。

 

「ノーアンサーのように世界を作る力はないみたい。これから育つにしろ、今は」

 

 受け継いだのはあくまで一部。ノーアンサーのしたようなことを、十全に行なうことはできなかった。この世界の崩壊を止めるようなことも、新しい世界を作ってそこへ避難することもできそうにない。

 結局は変わらない。そう思っていた朔月。

 しかし彼女に与えられるのは無意味な力だけではなかった。

 

「……あ」

 

 朔月の前に光の球体が現われる。全ての色を綯い交ぜにした虹色に輝く、されど宝石のように澄んだ球体。その正体を、受け継いだノーアンサーの知識から知る。

 

「願いを叶える、力」

 

 それは今回の戦いの報酬とでも言うべき力だった。勝ち残った者に与えられる権利。ノーアンサーが餌とした、ライダーバトルの終着点だ。

 七人ミサキを殺さねば、得られない筈の力。

 それが今目の前に現われた理由も、朔月には分かった。

 

「そっか、ノーアンサーを私が倒したから、それで七人目……願いを叶える準備が整ったんだ」

 

 七人倒せばいいのなら、その条件は達成した。ライダーの死骸を束ねたノーアンサーもまた七人ミサキにカウントされたのだ。ノーアンサーの死を引き金に完成した願いを叶える力。それは純粋なシステムが働いたが故に、主催が死してなお勝者へと与えられた。即ち、朔月に。

 

「これを使えば、私はこの世界から脱出できる」

 

 叶えられる願いは一つだけ。その一つに願えば、元の世界へと帰れる。この世界の崩壊に巻き込まれずに済むだろう。

 友人たちが待つ安寧の日常へと戻れる。

 朔月は球体へ手を伸ばした。

 

「……あるいは」

 

 しかし、止める。

 選択肢はもう一つあった。

 朔月はキラキラと輝いて降り注ぐ、かつての騎士たちの残光を見上げた。

 

「………」

 

 ノーアンサーによる悪辣な企みの犠牲者。願いを胸に、それを単なる糧として消費させられた人々。騎士の名を与えられただけの被害者たち。

 ただの素材にされた彼らの魂は解放できた。もう呪縛は何一つない。

 だからこそ、選べる願いがある。

 

「そう、だよね」

 

 朔月は笑ってそれを見つめた。そしてその向こう側にある、満月を。

 

「折角、本当の騎士(ライダー)になれたんだ。だったら、それっぽいことしなくちゃ」

 

 そして朔月が、願ったことは――

 

 

 

 

 

 

 

 大地が消え失せ、月も欠けていく。

 全てが無くなった時、そこには、もう。

 

 誰も残ってはいなかった。




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