そのウマ娘には足が無かった。   作:シーボーギウム

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感想評価ありがとうございます。

この作品、一応色々調べてはいますが、自分アニメは見れていないので設定にガバがある可能性があります。もし指摘があったら感想欄なりなんなりで教えていただけると嬉しいです。
知らない部分、まずもって描写されていない部分には独自設定が混ざります。

クルシイ……クルシイ…………




もし、貴女に足があったなら

 初めて彼女を見た時、絶句した。いやそれどころか心臓が止まったかと錯覚した。どれだけの苦境に晒されてきたのだろうと、想像することすら不可能だった。本来なら新入生のウマ娘達へ激励の言葉を掛ける予定だった。だが彼女を前にしてそれは不可能になった。

 用意していたあらゆる言葉が、薄っぺらいものに感じた。何か言わなければ、そう思って口を開いても、出てきたのは呻くような声だけ。

 

 私は、その場から逃げ出してしまった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 初めての模擬レース。義足を付けるのも随分と慣れたものだ。立ち上がり、ゲートへ向かう。そんな私を見て、同じく模擬レースへ出走するウマ娘達の顔が驚きに染まり、そしてすぐ表情に陰りが差した。

 

「ごめんね」

 

 それだけ告げて自分のゲートへ入った。距離は1200m。出走するのは10人。私は3枠3番だ。天気は晴れ。数分前まで雨が降っていたということも無く良バ場だ。義足はいつも通りお爺ちゃんが作ってくれたもの。義足で走る私にとって馬場状態は他のウマ娘とは比べ物にならないほど重要だ。芝は馬場状態が重くなるほど滑りやすく、レースが掛かりやすくなる。普通のウマ娘でも走りにくくなるというのに、義足の私がそんな状況でマトモに走れるわけがない。

 だから初め、私はダート路線でいくつもりだった。しかしそれも難しかった。義足では、普通の足に比べて地面へ力が伝わりにくいためか、ダートだと直線でもマトモにスピードが出ず、足が後ろに流れて何度も転びかけてしまった。普段の方が走りやすい芝か普段は走りづらいダートのどちらを選ぶべきかは明確だろう。

 

 深呼吸。既に全員がゲートの中に入り、スタートの合図を待っている。義足に蹄鉄は無い。言ってしまえば人間でいうところのスパイク代わりのそれが無いのは大きなハンデになる。

 でも、そんなのはとうの昔に織り込み済みだ。構えを取り、スタートの合図を待つ。

 

 合図と共に、ゲートが開いた。

 

 出遅れはしない。ただでさえ不利を被っているのだ。スタートで出遅れる余裕など私には無い。後方へ位置取る。私の脚質は追込。シンガリからレースの展開を伺う。逃げ2人、先行3人、差し4人、そして追込の私。スピードはやはり劣っている。

 

(そんなの、走る前から分かってる)

 

 でも、でも何故だろう。分かっていたはずなのに、胸の奥から這い上がってくるこの苦しさはなんなのだろう。分かりきっていた筈なのに、何故。

 

(やめろ。余計なことを考えるな)

 

 順位も何も忘れて、ただ走りきることを考える。きっと、一度だけでもゴールすることができたのなら、それでお母さん達の罪悪感を払拭出来るはずたから。カーブが来る。

 走って、走って、走って、それで────

 

 ────私は転倒した。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 周囲がザワつく。シンガリを走るウマ娘が転倒したからだ。

 

(義足の性能が足りていないんだ………)

 

 見る限り人間の競技用義足。当然、公道の車と同等の速度を出せるウマ娘が使う事を想定したものでは無い。もちろん芝の上を走る事も想定されている訳が無い。カーブという最も足に負荷のかかる場所で、義足が滑り、横に弾けた。そのまま数メートル転がった彼女はその場で痛みに悶えている。

 既に救護班は動き出していた。見た限り大きな怪我は無い。多少骨にヒビが入っている可能性はありそうだが骨折はしていないだろうというのが私の見立てだ。

 

 そこで、あらゆる思考が断ち切られた。

 

 周囲がさらにザワめく。彼女は、立ち上がった。擦り傷だらけの身体で、立ち上がったのだ。至る所が痛いのだろう、顔を苦痛に歪め、その目尻には涙が浮かんでいる。だがそれでも、その瞳は、ゴールへ向けられていた。もはや最下位は確定だ。だのに、その瞳の奥には、凄まじい闘気が滾っている。

 

「何、故…………」

 

 理解が出来なかった。私は才に恵まれたと言っていい。もちろんそれに胡座をかくことなく、努力もしてきた。今も尚、生徒会長足らんと研鑽を積み、全てのウマ娘が幸福を掴めるよう邁進している。人一倍諦めが悪いと自覚している。だからこそここまで突き進むことができた。例え才能に恵まれなかったとしても、同じ夢を志すだろうと断言できる。

 

「何で…………ッ!」

 

 でも、仮に彼女と同じ境遇になったとしたら、私は同じことは言えない。いや、それどころかこのトレセン学園に来るよりも前に、己の命を手折っていただろう。生きる気力も無く、ひたすらに精神をすり減らし、ただ漠然と己の終わりを心待ちにしていただろう。

 だが、彼女は違う。今尚身体を引き摺るかのように、遅々とした足取りで、それでも前へ前へと進む彼女は違う。その瞳を見るまでもなく、その身体を見れば分かる。その明確な努力の痕跡が、その不屈を証明する。

 

 もし、彼女に足があったなら────

 

「何で、彼女なんだ…………ッ!!」

 

 走るのが好きなのだろう、1番になりたいのだろう、誰よりも前へ行きたいのだろう。ウマ娘ならば誰もが持つ本能を、よりにもよって、彼女はこのトレセン学園にいる誰よりも強く持っているのだろう。あまりにも惨い仕打ちだ。何故、よりにもよって彼女が。

 

 遂に倒れ込み、痛み故か気絶した彼女を見ることすら、私には出来なかった。

 





今回の模擬レースに出たウマ娘達
エレジーを見る→やる気が下がる→それを察してエレジーが謝る→やる気が下がる。

一緒に出走するだけでやる気を二段階下げるエレジー。尚、転倒した様子でさらにやる気が下がり、それでも立ち上がって、でも結局ゴール出来なかったのを見て更にやる気を下げてます。

絶好調だろうがなんだろうが問答無用で絶不調まで下げるクソイベ。


感想評価よろしくお願いします。
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