すまんかった()
リアルの方が死ぬ程忙しかったので全く投稿できませんでした。でもその間の感想とかも全部読んでます。本当にありがとうございます。
今回、1人だけメンタル強度がバトル漫画みたいなやつが登場します。
俺はウマ娘の強さに興味は無い。名門、と言われるトレーナー一家の長男として生まれていながらこの考えを持つのは、最早欠陥と言ってもいいレベルだろう。
でも違う。違うのだ。強いウマ娘を否定したいわけじゃない。強さを求めることを貶したいわけでもない。でも違う。俺は強いウマ娘が走っているのを見たいとは思わない。思えない。俺が見たいのは心を震わせる走りだ。結果的にその走りが強くなるとしても、俺にとってその強さは重要じゃない。
だから俺はあの娘の辿る運命を嘆きこそすれど、あの娘と出会った運命に感謝し続ける。
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「サブトレーナーさん」
「はい、何ですか」
「いつまで
「担当したいと思えるウマ娘を見つけるまでです」
「いい加減にして下さいね?」
「ヒェッ」
凄まじい圧を飛ばしてくるたづなさんに短く悲鳴を洩らす。人間が出していい圧じゃない。
そう、俺はこのトレセン学園に入って3年目となるというのに、未だに担当ウマ娘がいない。普通は大抵の新人トレーナーがすぐに担当ウマ娘を決める。例えそこでサブトレーナーの道を選んだとしても、大体は1年もすればメイントレーナーとして働き始めるものだ。
「とは言ってもですね………」
「納得が出来ない、ですか」
「ええ、妥協して担当を決めるのは俺にとってもそのウマ娘にとっても良くない」
俺自身納得出来ていないのに担当してしまえば俺もウマ娘も不幸になる未来しかない。俺が不幸になる分にはまだ良いが、ウマ娘がそれに巻き込まれるのは流石にいただけない。
「でもテキトウな指導をする訳ではないでしょう?」
「そりゃあね。でも意識の食い違いは不和の種になる」
数ヶ月、下手したら数年に及ぶ時間を無為に過ごさせる訳にはいかない。そんなもんレースに出るウマ娘にとっちゃ致命的にも程がある。
「俺じゃなくても優秀なトレーナーはいるでしょう」
「それはそうですが貴方程優秀なトレーナーはそうはいません」
「過大評価でしょ」
「関わったチームのウマ娘を尽く重賞ウマ娘に育て上げてるのに何言ってるんですか………」
「元々あった才能を引き出しただけですよ」
「それが優秀だって言ってるんです」
肩を竦める。まぁ俺自身自分が優秀な自覚はあるが、これでも名家に生まれて英才教育を受けてきた身だ。他より多少出来るのも当然と言える。逆に言えば、俺と同じ教育を受けてきていれば多くのトレーナーが俺よりも優秀になるだろう。俺のは所詮は積み上げた結果に過ぎず、その才能に関しては平凡としか言えないのだ。
それに、あの娘達が重賞ウマ娘になったのもあくまでそれぞれのメイントレーナーがいたからだ。俺は彼ら彼女らが開花に至るまでの土壌をしっかりと作り上げていた所に第三者目線の外からの意見を言ったにすぎない。
「ともかく、今日は嫌でも誰かを担当してもらいますからね」
「そのウマ娘を育て切ったら後は好きにしろと?」
「そういうことです」
「はぁ……分かりましたよ…………」
トレセン学園が保有する競技場のひとつに到着する。今日、ここで模擬レースが開催されるのだ。観客席では既に幾人ものトレーナーやウマ娘達が会話を弾ませて………無いな。どうしたんだ?
(何かあったのか………?)
模擬レースに出走するウマ娘に何か問題が起きたのだろうか、とターフに視線を向け、思わず目を見開いた。そこには義足のウマ娘がいた。ゲートに入っていくその姿に釘付けになる。
「たづなさん、彼女は?」
「ハリボテエレジー、というウマ娘です。穏やかで、優しい子です」
「そういう当たり障りの無いことじゃなくて」
「………生まれつき、だそうです」
苦しげに、絞り出したかのような声。その事実に心臓を握り潰されたかのような錯覚に陥る。想定を遥かに超えた地獄の如き、そして変えようのない現実を前に俺は立ち尽くすことしか出来ずにいた。
ゲートが開く。シンガリについたハリボテエレジー。脚質は追込なのだろう。いや、少し違和感がある。だがそれが義足によるものなのかは分からなかった。しかしその走りに淀みは無い。
予感がする。俺の中の何かが沸き起こる予感。全てが覆される予感。
「ちょっ!?」
カーブに差し掛かった途端、ハリボテエレジーが転倒する。思わず柵から身を乗り出し────
────そこに、規格外の覚悟を見つけた。
「あの娘だ」
慌てふためく周囲。いつもに比べて遥かにやかましい状況だと言うのに、今の俺にはハリボテエレジー以外の何もかもがどうでも良かった。這うように、遅くとも前だけを見て突き進むその姿が目に焼き付いていく。
「医務室行ってきます」
「え?は、はい!」
短くそれだけ伝え、足速に医務室へ向かった。
────────────
この身体は、満足に膝を抱えることすら許されない。カーテンに仕切られた空間の中で、頬を伝う雫の感触だけが私に与えられていた。
(分かってた)
この結果は目に見えていた。満足に走りきることすら出来ないことはとうの昔に知っていた。それなのに、何故この涙は止まってくれないのだろう。悔しさなんてものは捨てたはずだ。走る度にそんな事を考えていたら、きっと私は壊れてしまうから。
いっそ諦めることができたなら、どれだけ楽だったろう。心を偽って、偽ったままに「ただ走り切れればそれでいい」なんて戯言を吐き続けていられたなら、走りたいなんて思わなければ、死んでしまいたいと思えてしまえば、きっとこんなに辛くて、苦しくて、悲しくて、悔しくて、それで────
「
「ふざけてんのか」
「え?」
カーテンの向こう側から聞こえた声に戸惑う。「誰ですか?」と問えば、「トレーナーだ」と短い答えが返ってきた。
「まぁ頭に『サブ』が付くけどな」
自嘲するように言った彼にカーテンを開けてもいいか問われた。慌てて涙を拭ってから許可すると、一枚の布の先から現れたのはトレセン学園に所属するトレーナーの中でもかなり若いであろう青年だった。
「これ俺の名刺な」
「え?ど、どうも……?」
手渡された名刺は特に変わったところは無い。そこに記された名前も平凡なものだ。だがその苗字がその中では規格外の異色さを放っていた。何せその苗字は桐生院家にも並ぶと言われる名門トレーナー一家のものと同じだったからだ。
そんな人が何故、と考え、私がここにいるのが気に入らないのかと考え、私へ向けられるその瞳がその考え全てを吹き飛ばした。
「どれだけ望んでも、お前がどんな環境にいたとしても、勝利への渇望はウマ娘である以上捨てられないぞ」
「………そんなこと、知ってますよ」
自分の思いに気が付かない訳が無いだろう。ただ、走り切れればいいと思っているのも事実ではある。でも、勝ちたいに決まってる。本当なら、先頭の光景を見てみたい。だけど、
「でも曲がれないから………それが無理だから、こうして苦しんでるんじゃないですかっ!!」
「嘘は感心しないな」
「あなたに何が……ッ!!」
「本気で無理だと思っていたなら、勝ちたいなんて思わない」
言葉に詰まった。反論が出てこない。嘘だ、そんなわけがない。だって、私は、
「ハリボテエレジー、勝つためにお前に足りないものはなんだと思う?」
決まりきっている、足だ。もしも私に足があったら、そんな無意味な想像を何度も繰り返してきた。足が無い、ただ一つそれだけが、致命的なまでに私の思いを妨げる。
でも何故だろう、彼の中の答えは違うのだと直感した。
「スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ、そんなもんは後からいくらでもどうにかできる」
「義足も、後々どうにかすれば良い」
「技術もそうだ。今は足りなくて当たり前のもののことは言ってない」
「率直に言おう、お前に足りないのはトレーナーだ」
ずっと、私は三女神様に見捨てられたのだと思っていた。でもこの日、その仮定は覆された。差し伸べられた手と、あまりにも真っ直ぐ向けられる瞳。
「ハリボテエレジー。俺は、お前のトレーナーになりたい」
その日、私は星に見つけられた。
異世界に飛ばされると自己再生能力と身体強化能力だけ渡されて根性だけで全部ゴリ押しするタイプのトレーナー。
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