相手は、筋肉ダルマと黒髪イケメン、シャルさんの三人。
シャルさんは、戦闘するつもりは無いのかオーラに変化は無し。それに黒髪イケメンも変化なし。ただ、筋肉ダルマはやる気十分、オーラ全開の暴走列車になってる。
身長は2メートル超え、体格はガッシリとした頭まで筋肉詰まってそうな見た目。一見すると強化系だけど、ババアの前例があるから断定は出来ない。……が、THE強化系の見た目をしてる。
オーラの乱れや出力を見る限りでは、ババアレベルには達してない。それでも、俺達より数段上ではある。まぁ、オーラの流れは荒々しいし制御しているわけでもない。がっつりパワーで押してくる気満々って感じだな。
それに対して俺達は、駆け出しの強化系と具現化系。
シズクは嵌ったら強いけど、強化系に全振りしてる相手だとそこまで強くない。そして、俺は何処かで一発決められる隙さえあればワンチャンスあるくらい。
まぁ、これが筋肉ダルマ対俺達の戦いって言うなら勝率は7対3。それくらいはある。けど、後ろにまだ二人も格上がいる。この筋肉ダルマと戦闘しながら後ろの二人も警戒して、途中参戦してくるなら対応する。それが理想的。
だけど、そんな戦闘は無理。なら、どうするか。答えは単純―――
「反射的に戦闘態勢に入ったけど、どうか命だけは見逃して貰えませんかね?」
―――命乞いをするだけ。
「ン?それはねーな。戦いは殺す殺されるの関係じゃねーと楽しめねェ。……全力を出して戦う。それが戦闘の面白れェとこだろが。生温いこと言ってんじゃねぇよ」
予想はしてたけど、最悪だ。今一番相手をしたくないタイプ。話が通じない全力で殺しに来るタイプの戦闘狂だ。
「いや、でも3対2で勝てるわけねーじゃん」
「あぁ、それは心配すんな。……団長!シャル!……この戦いには絶対手ェ出すな!!!!」
―――けど、運は俺達に向いてるな。
それにしてもこういうタイプって、やけに一人での戦闘に拘るよな。……まぁ、それに救われてるけど。とは言え、完全な2対1になっても不利なのは変わんねー。ただ、勝率は上がった。
だから、あとは覚悟を決めるだけだ。
「これで心配なくやれるだろ。さぁ、やろーぜェ!!!」
緊張感が増していく中、ケイは大きく息を吸う。
「シズク!攻撃は全部避けて無理に攻撃はしようとするな。とにかく当たらない動き重視で、攻撃は俺がやる!」
「りょーかい。いくよデメちゃん」
先手はウボォーギン。
オーラによって強化された肉体は、その巨体からは予想できない神速を生み出しながらケイへと拳を振るう。……が、それを瞬時に見切ったケイはカウンターの蹴りを入れる。蹴りが綺麗に入ったウボォーギンは宙を舞うが、ダメージは入っていない。
逆に蹴りを入れたケイの足が少しだけ痺れる。
それを蹴られた感覚から見破っていたウボォーギンは、宙で身体を捻り地面へと足から綺麗に着くと再度ケイの方へと向かう。その速さは先程と変わらない。一瞬でケイへと近づき、もう少しで手が届くといった瞬間、意識外から衝撃が走る。
「うおお!?」
シズクの振るったデメちゃんがウボォーギンの脇を捉えていた。その細腕からは予想できないパワーと意識外からの攻撃。ウボォーギンは踏ん張ることが出来ず吹っ飛んでいく。
「ありがとうシズク。マジで助かった」
焦るな俺。今のはマジで危なかったぞ。
たとえ、相手に綺麗に攻撃が入るっていっても力の調整はしっかりしろ!!!
「間に合って良かったけど、アイツ全然食らってないよ」
「あぁ、分かってる。でも、一度仕切り直しが出来た。それで十分」
それにしても、あの硬さ化物だな。でも、スピードは対応できないレベルじゃない。避けるだけなら継続できる。ただ、あの硬さと予想されるパワーは明らかに俺以上。シズクも何とか対応したけど、次は無いって考えたほうが良いな。
後は、どうやって攻撃を与えるかだけど……修行の頃を思い出せ!あの時のババアの言葉、それを忘れず対応すればヤレるはず……。
「今の一瞬だけだが、感覚的には強化系全振りのパワータイプって感じだな」
「うん。強さ的には、少女ビスケ以上大人ビスケ以下かな。あの感じだと、私の攻撃はダメージは入らないって考えていいと思う」
「ついでに俺の攻撃も基本的には通らないな」
落ち着いて情報を出せ。焦るな。
相手は、予想通りのパワーで押してくるタイプの強化系。耐久性やパワーは圧倒的に向こうが上。でも、今さっきの感じだと、たとえ本気を出してもスピードは俺のほうが上。ただ、シズクは心配だな。アレ以上になると対応出来ない可能性が高い。そう考えると……。
「……シズク、お前は少し離れた位置で待機してて欲しい。あまりにも相性が悪すぎる」
その言葉にシズクは焦った顔になる。
「それはダメだよ。ケイが一対一で戦うことになっちゃうじゃん」
「でも、それがベストだ。……それに別に戦いに入るなって言ってる訳じゃない。俺がアイツに傷を入れたら発を全力で使ってほしい」
「―――分かった……けど、危なかったら乱入するから」
「あぁ、頼む」
ちょうど作戦会議の終わった所でウボォーギンが戻ってくる。その顔に焦りはなく獰猛な笑みを浮かべている。
「そこの女。近接は出来ねェと思ってたが、案外ヤルじゃねーか」
「どうも」
「それにしても具現化系と強化系のタッグか……悪くねェ。もしオレ以外が相手だったら負けてたかもな」
「じゃあ、チェンジで」
ケイのあまりに無遠慮な物言いにウボォーギンは笑いが止まらない。
「ククク…そら無理だ。オレが闘いてェからな。……じゃあ、準備運動はこれくらいにして、こっからは本気で行くぞ。オメェら!!!!!」
三人はほぼ同時に地面を蹴る。ウボォーギンとケイは前へ、シズクは後ろへと移動する。そして次の瞬間、ウボォーギンとケイが衝突する。
先に手を出したのはウボォーギン。オーラで強化された右拳。それがケイの顔面目掛けて向かってくる。ケイは、それを攻防力70の左腕で逸らすと、瞬時に右拳へと攻防力60のオーラを流しガラ空きの胴体へと振るう。無防備な胴体へと当てたように見えたが、それでもウボォーギンにあまりダメージが入っているようには見えない。
「くっ!」
ウボォーギンは一瞬耐えるような態勢をとるが、攻めの姿勢は崩さない。自身の胴へと拳を叩き込んでいるケイに向かって拳を振るう。…が、当たらない。逆にカウンターとして顔面へとパンチを食らうが―――無意味。ダメージにはならない。
「こっ……のォ!!!!動き回るなァ!」
「アンタの攻撃当たったら死ぬんだよォ!」
次の瞬間、ウボォーギンは地面へと拳を叩き込む。
地面が揺れると同時に視界が土煙で染まる。直後、ウボォーギンの気配が一瞬で消えたことに気付く。遅れてケイも隠で気配を消そうとして……止める。
遅れて気配を消すことは位置のバレているケイにとっては下策。もし無防備な状態であのウボォーギンの攻撃を食らえば即死確定。なら、やるべき事は飛んでくるであろう攻撃に対して即座に防御態勢を取ること。そのためにも相手の攻撃を止まって待つことしか選択しかない。
それを一瞬で導き出すと、感覚を研ぎ澄ませる。
「……ッ!」
時間にして数秒。静寂が流れる。
たとえ数秒でも、相対しているケイにとっては数時間にも感じる短くも長い時間。時が進むごとに増す緊張感と消えていく土煙。それを感じ取りながらただただ待つ。
そんな時間も終わりが来る。
―――背後からの右ストレート。風切り音が聞こえた瞬間、倒れこむように全力で前へと飛び出す。ギリギリ……本当にギリギリ、紙一重でウボォーギンの攻撃を躱す。
だが、それだけでは攻撃は止まらない。畳みかけるように右、左と拳を振るうウボォーギン。ケイは、躱すのが間に合わないことを感じ取ると瞬時に方向転換。拳のラッシュを迎え撃つために、ウボォーギンの攻撃に合わせるように拳を振るう。左右の攻防力を瞬時に振り分けながら全力で防御する。
まさに神業。一瞬でも振り分けを間違えれば死ぬ。そんな考えが頭に過りながらも集中は切らさない。
「あっぁぁぁああああッ!!!!」
そうして何とかラッシュを捌き切ると、一瞬出来た攻撃と攻撃の合間を縫って、ウボォーギンの顎目掛けて攻防力80の蹴りを放つ。ソレを食らったウボォーギンは思いっ切り後ろへと吹っ飛んでいく。
「……グゴぁッ!!!」
一見すると蹴りは綺麗に入ったように見えたが、それを無防備に食らうような相手ではない。ウボォーギンも何とか攻防力60程度のオーラを移動させ防御していた。……が、完全に防御することは不可能。
戦闘が始まってから初めてウボォーギンに明確なダメージが入る。口から血が流れている。
だが、ケイも先程のラッシュでかなりのダメージを負っていた。特に左拳。あの数十の拳の応酬の中で一度だけ、ほんの一瞬だけ攻防力の配分を間違えてしまったことで左拳が砕けていた。もう戦闘では使えない。……そう感じながらも拳を構える。
たとえ重傷を負ったとしても今は戦闘中。休む暇は無い。
「今のは結構効いたぜ」
「嘘つけッ!そんなに食らってねぇ癖に!!」
実際、ウボォーギンを見てもそこまでダメージが入っているようには見えない。……が、それでも確かに血を流している。
攻防力80を込めた攻撃でやっと通る程の防御力。その硬さ……まさに怪物。
「そんなこと言うなって……まぁ、今度は食らわねェがよォ!!!!!」
そう言うとウボォーギンはケイに一瞬で近づき顔へ右ストレートを放つ。
ケイは首を傾けることで避けるとウボォーギンの後ろに回る。ただソレをしっかりと眼で追っていたウボォーギンは、体を捩じり勢いをつけながら後ろ目掛けて全力の裏拳を放つ。
自分を追っている攻撃に気付いたケイは、その場でしゃがむことで回避をするとウボォーギンの太腿を蹴り飛ばす。足蹴を食らったことで態勢の崩れたウボォーギンに対して追撃するように回し蹴りを食らわせる。
「甘ェなぁあああ!!!!」
一瞬、吹っ飛んでいったウボォーギンだったが、次の瞬間にはケイの目の前に―――。
先程と変わらないただの右の大振り。ケイは、半歩後ろに下がることでソレを軽く避けると、顔面へと攻防力70を込めた拳を叩き込む。……が、ウボォーギンは吹っ飛ばされることなく大きく後ろにのけぞるだけで終わる。次の瞬間、自身に叩きこまれているケイの手を取ると思いっきり地面へと叩きつける。
「―――ッぁ」
背中から地面へと叩き込まれたケイは一瞬息が止まる。瞬時に背中をオーラで守ったとはいえ、衝撃まで完全に防御することは出来なかった。
そんなケイに対してウボォーギンは全力の「発」を使う。
「
―――「発」を使った本格的な修行が始まった頃
どんなにブレードを使ってもババアに当たることはなく、一方的に負けるだけの毎日だった。どうやればこの化物に勝てるのか。そんなことを毎日考えながらババアに挑む日々。
その時の俺は、ブレードをただ相手を斬るための道具としてしか見てなかった。まぁ、それ自体は間違いじゃない。ブレードの使い方は、斬ることで間違ってないし、俺もそのつもりで作った。でも、それは刃物を持った人間となんも変わらない。
その時は、まだ念能力者としての戦い方を理解していなかった。
そんなある日、ババアが質問してきた。
「ケイ、アンタは自分の発をどう運用すれば強いと思う?」
ババアにボコボコにされて作戦も上手くいかず、自分の中でのイライラが溜まっていた中での質問だったから鮮明に覚えてる。
「そんなの先手必勝。相手が俺のことを警戒する前に全力のブレードを叩き込む。それが一番でしょ」
「まぁ、半分正解ね。」
そう言うババアの顔は真剣だった。
「正解は、ここぞという瞬間に使うこと。確かに、アンタの能力は最初から相手に見せても十分強い。特にその鞭という性質は、相手が瞬時に対応するのが難しいだろうしね」
「なら―――」
「でも!それだと格上には勝てない。今のアタシとの戦闘みたいに綺麗に対応されるんだわさ」
「―――ッ!」
確かに俺は勝てなかった。
自分なりにババアを倒す作戦を立てても、基礎値の絶対的な差がそれを悉く打ち砕いて行った。それくらいのアドバンテージが当時の俺とババアの間にあった。
「アンタの使うブレードは、確かに強い。実際に相手して分かったけど、近接戦においてこれほど厄介な能力は無いと思う程にはね。でも、落ち着いて対応できる範囲内だわさ。まぁ、アンタがこれから成長していけばその差も無くなって、対応が出来なくなると思うけど……それは今じゃない。それに対応できなくなるのも最低でも数年先の話だわさ。その間ずっと格上から逃げるなんてことは出来ない。」
俺の数倍は生きてきたからこそ出てくる言葉。その一つ一つが重くのしかかる。
「――絶対にその時は来る。それに逃げられない戦いを強いられたらどうするの?……例えば、逃げればシズクを殺すなんて言われたりしたら。そんな戦いで負けるなんて嫌でしょ?」
そんな状況になるなんて……。無いとは言わない。転生してからどれだけこの世界が残酷なのかはたくさん見てきた。理不尽にあふれたこの世界で生きていく中でそんな状況に陥らないとは言えない。だからこそ、容易に想像することが出来た。
シズクが人質に取られる状況を―――。
「―――あぁ、絶対に嫌だ。」
「なら、これから言うことを頭に叩き込みなさい」
発を使って格上と戦う時のLESSON1―――
土煙が明けると、クレーターの中心でウボォーギンが一人立っていた。その足元には血だまりと動かないケイ。
「良い戦いだったぜ小僧」
勝敗は一目瞭然。ウボォーギンの圧勝。
「今回はその戦いぶりに免じて命は取らねェ。……と言うよりも、同じ流星街出身、敵対してるならまだしも今回はただの勧誘だ。最初から命まで取るつもりはねぇよ。―――だから、そこで止まれ女」
ウボォーギンの背後5メートル。その位置でデメちゃんを構えたまま止まるシズク。もし、一歩でも進めば自分の首が飛ぶ。そう感じるほどのプレッシャーがシズクの足を止めた。
「じゃあ、ソコから退いて。ケイの治療がしたい」
「あぁ、いいぜ―――ッ!」
―――瞬間、閃光が走る。
次の瞬間、ウボォーギンの左腕が飛ぶ。
―――LESSON1.発は確実に重傷を与えられるタイミングだけに
意識のない暗闇の中、思い出した
“ もし、シズクを人質に取られたらどうする? ”そんな最悪な状況。そうならないために頑張ってきたのにこの様。結局ブレードを使うタイミングが無かった。
アイツのあの一発を食らう瞬間に全オーラを両腕に集中させ防御したけど……この感じだとダメだったかな。
……悔しいな。死にたくねぇ。
せめてシズクが逃げられるだけの時間稼ぎがしたい。アイツは、絶対に死なせたくない。あんな良い子を死なせるなんて俺が許せないッ!
だから、起きろッ!!!!!身体を起こせェ!!!!!!
―――瞬間、視界が晴れる。
自分の目の前にいるウボォーギンとシズク。まさに戦闘が始まるといった状況。ソレを認識した瞬間。全力で右腕を振り上げる。
ウボォーギンの左腕が飛ぶ。それと同時に体を無理やり起こす。
「逃げろぉおおお!シズクッ!!!!!」
身体が悲鳴を上げてる。「もう無理だ!」「動けない!」そう叫んでいる。それでもケイは止めない。この瞬間。神様のくれたこの数瞬。ソレを逃せばシズクが死ぬ。そんな強迫観念がケイを突き動かした。
そんなケイをシズクが抱きしめ止める。
「ケイ!!!もう大丈夫……大丈夫だから」
「ぁぇ。で、でも、あの筋肉ダルマがお前のこと殺そうと―――」
そこでおかしいことに気付く。あの筋肉ダルマが目の前にいるのに襲ってこない。それどころか此方を見てニヤついている。
「気を抜いてたとは言え一瞬で腕を飛ばすなんてヤルじゃねーか」
「な、なんで……」
「なんか最初から殺す気なんて無かったんだって」
「は、はぁ?」
いや、今さっきまで本気の殺し合いしてたのにそれは無いだろ。しかも最初に「戦いは殺す殺されるの関係じゃねーと楽しめねェ」とか抜かしてただろ。
「アッハッハッハ!!!!ああ言わねーと全力出さないと思ってな。……でも、面白かっただろ?」
「―――アンタ狂ってるよ」
「そりゃあオレにとっては誉め言葉だな」
そうして人生初めての死闘が終わった。