一番古い記憶は、殴られる記憶。
暗い部屋、お父さんの荒い息、すすり泣く私。
それが、シズク=ムラサキのはじまり。
私のお父さんは、酒飲みで毎日流星街を歩き回ってはお酒を拾ってくる生活をしてた。拾えなかった日は、私を殴ることでストレスを発散して、酷い時には私の首を絞めて気絶させるそんな毎日を送ってた。
私はそれが嫌で嫌で仕方なかった。
だから、殺した。
殺してからは自由だった。
でも、私はお父さんがいなくなってから何も出来なくなった。食べ物や飲み物は、全部お父さんがお酒と一緒に持ってきて、それをお父さんが毎日少しだけど分けてくれた。家に籠るだけのバカな私は、お父さんがいなくなった後にどうするか考えてなかった。
私は初めて流星街に落ちてる食べ物を探した。
でも、世界はそんなに甘くない。流星街まで来る食べ物なんて大体腐って食べられないか、流星街に住む住民が奪い合う。小さい私にはそんな生存競争は無理だった。
だから、死体を食べた。味は覚えてない。
そうして毎日を無駄に生きてたときに、ケイと会った。
ケイは、初めて会った私に食べ物をくれた。最初は、ただ食べ物をくれるから付いていっただけだった。何もしなくても食べ物をくれるし、新しい家もケイが見つけたし、引きこもってても殴らないしケイと一緒に居たら今まで以上の生活が出来た。
そんな生活をしてたある日、私は大きい犬に襲われた。
私の何十倍もある犬。久しぶりに出た外で私は襲われた。その時にあぁで死ぬんだと思った。やっと死ねるって思った。優しくしてくれるケイも自分の命と引き換えに助けるような人じゃないと思ってたから。ケイは優しいけどそれは自分に食べ物や家を分けても余裕があるから出来ているだけだと……。
でも、ケイは助けてくれた。
自分がボロボロになって全身から血が噴き出しても構わずに私を犬から助けた。
それからも只のお荷物をケイはずっと傍に置いてくれた。ずっと守ってくれた。一緒に暮らしていく中で、家族になってくれた。
ハンターになって、ビスケから念を習って私でもケイの力になれることを知った。
今度は、私がケイを守る。群がってくるようなゴミは全部私が掃除する。
だから、これからも一緒に――――。
――――――――――
「―――が、私の能力」
私は、自分の「発」であるデメちゃんについてケイに説明する。ケイは、私が先に発を作ったのが悔しいのか少ししかめっ面で話を聞いていた。
「へー、すげぇ念能力っぽい。それにしてもめちゃくちゃ強くないか?戦闘中に相手のオーラを吸えば勝てるじゃん」
「いやー、デメちゃんだと念能力は吸えないんだよねー」
「まぁ、それでも普通に強いし便利だな」
「でしょ」
「あ゛あ゛あ゛ー゛、俺もシズクに負けてらんねーし修行してくるわ!」
そう言うとケイはいつもの修行場へと走っていく。その後ろ姿を見ていると、いつの間にか背後にいたビスケが話しかけてきた。どうやら気になる事でもあったのか少し暗い表情で話しかけてくる。
「で、他の能力は?」
少し驚いた。
いつも一緒に居るケイならまだしもビスケが私の嘘に気付くとは思わなかったから。
「え?何が?」
「アンタの念能力。まだ隠してる事があるでしょ?」
「えー、ビスケなんで分かったの?」
「そりゃあ、あたしがどんだけ歳重ねてきてると思ってるんだわさ。それくらい簡単!」
本当なら奥の手については隠しておくべき……だけど、ビスケだったら大丈夫かな。念の師匠だし、優しいし、お母さんだし、ビスケなら知っても秘密を守ってくれそうだし……別に良いよね。
「うーん……まぁビスケにならいっか。私のもう一つの念能力は――――」
【 具現化系念能力 最新式掃除機デメちゃん 】
スティック型掃除機「デメちゃん」を具現化して、念能力を吸い込む能力。ただし念能力を吸い込むためには、デメちゃんの口に直接触れている必要がある。念能力以外のモノを吸い込むことが出来ない。相手の念能力に対しての理解度が高いほど、その吸収速度は上がる。逆に、間違った認識で吸い込んだ場合、吸収にかかる時間は2倍になる。スティック型デメちゃんを具現化系している時は、キャニスター型デメちゃんを具現化することは出来ない。また、キャニスター型デメちゃんでは最後に吸い込んだモノを吐き出すことが出来ていたが、スティック型デメちゃんにはソレが出来ない。
「なんでケイにこの能力のこと隠したのよ?」
「必殺技は隠してた方がカッコいいってケイが言ってたから」
それにケイは私の嘘に気付いてる。その上でケイは聴かなかった。多分隠している能力が知られたくないことだって一瞬で気付いてくれた。だから、大丈夫。問題なし。
「はぁ~、アンタも大概ね」