「まだかなー……」
ここは日本の東京の何処かにある住宅の一部屋、そこでは、1人の青年がある人を今か今かと待ちわびていた。
「お待たせ……」
「お、来たきた」
部屋の扉が開くと、1人の少女がプリンが盛られた皿を持ちながら部屋の中は入る。
彼女の名は怪獣娘ホーこと葦原ルイ、国際怪獣救助指導組織GIRLSに所属する見習い怪獣娘であり、彼の可愛い可愛い彼女でもある。出会った経緯とか今はそんなことどうでもいい。
「あ、美味しそう」
「えへへ、今日はいつもより腕に縒りをかけたから……美味しいはずです」
ルイはスプーンでお手製プリンの一部を掬い、彼の口元に運ぶ。
「はい、どうぞー。あーん」
「あー」
それに答えるように、彼は差し出されたプリンを頬張り、口の中で咀嚼する。
「どう?」
「……うん、美味しい!」
「良かったー。はい、あーん」
「あーん………………あのー、ところでルイ?」
「はい?なんですか?」
「いや、なんですかじゃないです、これどういうことです?」
彼は縛られた手足を見せながらルイに問いかけた。そう、今彼は手足をきつく縛られているのだ。ちなみに彼を縛ったのはルイであり、お風呂でやや逆上せていた所を、隙を着いて気絶させたのだ。
「大丈夫ですよ、ちゃんと解けないように固く結んだから。これで夜もぐっすり眠れますね、えへへ」
「へー、そうなんだー、これなら寝相も矯正されるねー……じゃなくてさ、なんで僕は縛られてるのかな?」
「……身に覚えがない?」
「…………ない」
彼が首を横に振りながら答えたその言葉に、ルイの瞳は一気に曇る。光を失うまでは行かないが、十分に負のオーラを放っていた。
「……コレ」
ルイは後ろから1冊の本を取り出す。やや厚めのA3サイズのとあるアニメ画集である。
「え、これ……」
「これ。美〇さんの画集ですよね?……棚の裏……漫画の裏にさらに板を付けるなんて」
「た、棚の裏……なんで」
「え?普通は見るよ?見ますよね?」
「あ、はい、見ますね」
ルイの何を言っているの?当たり前でしょ?というとぼけ顔に彼は思わず肯定する。
「パソコンの履歴も……全部美〇さんのものばかり……夏〇さんは?」
「ごめんなさい」
彼は目を逸らしながら頭を下げる。彼女はタイプではなかったようだ。
「スマホの検索履歴も、美〇さんの同人誌ばかり……私の……ホーのタブは一つだけですか……なんで?」
「いや、それは……てかなんでスマホのパスワード知ってんの!?」
「この前GIRLSの先輩からコツを教えて貰って、それで試したんです……そしたら思った通り。それで945698って打ったら、普通に開きましたー、へへへ」
「ははは……」
ルイがニッコニコの笑顔で答えると、彼は乾いた笑いを浮かべた。
「これ……あの人の……スリーサイズ?」
「はい」
「……あなたがあの人のファンなのは知ってた……でも、私といる時に調べてたなんて……私を見てなかったなんて……いくらなんでも酷すぎる……」
ルイが彼を縛った理由、それは彼が自分と一緒にいる時に自分よりも美〇さん関連の本を優先したことだった。自分と一緒にいるのに自分よりも他のものに見蕩れていた、彼にとっては些細なことだが、ルイにとっては縛り上げてしまうほど許せない行為だった。
「いやー、それ多分ルイがぐっすり寝てる時に調べたと思うんだけど……」
「……私が見てなければいいってこと……ですか?」
「(あ、踏んだ)」
彼の言葉にルイはぐっと距離を詰め、彼の顔面数cmまで顔を近づける。そして見開いた暗い瞳で彼と目を合わせる。
「……ショートじゃダメ?……お下げじゃないとダメ?……私じゃ……ダメ?」
「る、ルイ?」
「……こんなの……恋人なのに」
ルイは体から悲しみと何かが篭ったマイナスエネルギーを放ち始める。
「……あの時、私が告白した時に言ってくれましたよね、『これからは君だけを大切にする』って」
体を離すと、ルイは首を傾げ、暗い笑顔を浮かべる。
ルイは彼に告白した時、彼から『これからは僕も君だけを大切にする』と言われたのだ。ただでさえメンタルが弱いルイにとってこれ以上嬉しい言葉はなかった。しかし……
「(君『だけ』なんて言ってないぞー?)」
そう、彼は確かに恋人になるルイに対して君を大切にすると言った。が、君『だけ』大切にするなんて一言も言っていなかった。つまり、君『だけ』を大切にするというのはルイの記憶違い……いや、妄想なのだ。が、それを今のルイに言ったところで無意味に近い、いや無意味だ。
「……私のこと、どう思いますか?」
「ど、どう思う?」
「……そうですか」
「まだ何も言ってない……て、ルイ?」
「…………ソウルライド、ホー」
ルイはポケットからソウルライザーを取り出すと、自分の名を呼んでその身を変化させた。
大きな耳に長い尻尾、そして涙のペイントと割れたハートのタトゥー、これがルイの怪獣娘ホーの姿である。が、そんなこと今は関係ない。彼女の体全体から負のオーラが湧き出し、怪獣のような形を作った。
「私のこと、大切にするって言ってくれたのに……私以外の女の子に話しかけて……この前だって、私の目の前で……」
「あれはただの係の仕事を……」
「一昨日だって、先週の火曜日だって、先月の木曜日だって…………ミドリさんと話して……この前なんて、おんぶまでして……」
「いや、それはあの子が階段から足滑らして怪我したのを保健室に運んだだけで……てか見てたの?」
「遠くから……」
そう、彼は特に浮気なんてしていない、係の女子生徒をおぶっていたのも彼女が途中で怪我をしたからなのだ。が、ルイにとってはそんなことはどうでもいい……というより今の彼女に何を言っても無駄なのだ。
「……へへ」
…………ジャキンッ
ルイが不敵に笑ったかと思えば、いつの間にか彼女の右手に包丁が握られていた。刃渡り16cmの切れ味抜群の包丁であり、部屋の明かりにその身を光らせている。ここまではいつも通りなので彼も特には驚かない。
「彼氏って、一緒にいるものですよね?ずっと傍にいて、ずっとお話して、泣きたい時も、笑いたい時も、辛い時も、死ぬ時も、ずっとずっと、ずーっと一緒にいて、寝る前も寝たあとも挨拶をして…………それが恋人だよね?」
「(重いなー……重すぎるなー)」
「私にとって……あなたは必要なのに……あなたは……私のことを守るって言ってくれたのに……私のことだけを見てくれるって言ったのに……大切にするって言ったのに……私のあの人への愛を奪ったのに……結婚してくれるって言ったのに……あなたは…………」
「(結婚は言ったけど……あの人への愛を奪ったってなんのこと?)」
「…………私の事なんて、どうでもいいの?」
そういうと、ルイは憎しみと悲しみが篭った暗い表情のまま瞼から大量の涙を流し始め、それをナイフに垂らし始めた。時折包丁から落ちる涙がシューシューと音を立てて床を溶かす。この涙は硫酸で出来ており、怪獣娘ホーの特徴の1つでもある。
「ちょ、マジで洒落にならないって!」
流石の彼もこれには縛られた手足をばたつかせて抵抗しようとする。が、そんなことお構い無しと言わんばかりに、ルイは包丁を彼の首元に近づける。
「とりあえず落ち着いて!」
「ならあいしてるって言ってください、じゃなきゃ殺します」
「じゅ〇ちゃん……」
「……やっぱり……私の事なんてあいしてないんだ……」
「え」
「……えへ……えへ、えへへ…………へへ、へへへへ、えへへへへ、へへへ…………えへへへへ!へへへへ!」
突然ルイは狂ったような笑い声を挙げる。顔全体が暗く、目を見開き、口を三日月のような形にしたその顔は、普段の彼女からは想像できない表情だ。
「…………そっか……私なんて邪魔でしかないんだ…………」
「ルイ?」
「……あなたに嫌われるぐらいなら……いっそこの場で一緒に……へへ」
ルイは彼に近付き、包丁を彼の首元に突き立てる。いや、具体的には、引けば自分と彼の首が切れる位置に包丁を添えた。
「や、やめてルイ!」
「へへへ」
彼が辞めるよう訴えるが、ルイは聞く耳を持たない。彼女の大きな両耳は彼の叫びのみを遮断していた。
「やめろっ……て!」
「あ…………」
彼は渾身の力で身体を動かし、ルイに体当たりをかけ、彼女を軽く弾き飛ばす。隙をつかれたルイは体勢を崩し、包丁を床に落とした。
「バカ!」
「バカ……?」
そして彼は、手足を縛られたまま起き上がり、ルイを怒鳴る。その表情には、怒りと同時に悲しみや心配といった様々な感情が入り交じっていた。
「バカだよ、僕ルイのこと嫌いなんて一言も言ってないのに。なのに勝手に嫌われたなんて勘違いしてさ。勝手に話進めてこんなことして、てか毎度こんな感じじゃん!なんなのホント!」
「わ、私は……ただあなたに……」
「もうこの際ハッキリ言うよ。ルイってそういう所がさ、重いんだよ!すっごく重いんだよ!重すぎるんだよ!メッセージも大量だし、勉強中だって言ってるのに聞かないし、この前だって部活で遅くなるって言ったのに連絡に出なかったこと何回も問いつめてきたし、無自覚にメンヘラ拗らせすぎなんだよ!怪獣娘以前の問題だよ!そりゃあ友達だってウザがって離れるし、1人にもなるよ!」
「そんな……そこまで言わなくても……」
「言うよ!好きだけど嫌なとこはハッキリ言わなきゃダメじゃん!言わなきゃわかんないでしょ!」
「うう……でも、そこまでハッキリ…………言わなくてもいいじゃないですかー!……うう……うええぇぇぇん!」
彼のマシンガンのように放たれる本音に、ルイは色々通り越して悲しみが込み上げて泣いてしまった。
「そうやってすぐ泣いて…………僕だって泣きたいよ……泣きたいんだよー!」
「なんで〜!」
「ルイが重いからに決まってるでしょー!」
「うええぇん!バカー!」
「うわあぁぁ!アホー!」
2人は互いに顔を見つめ合いながら泣き叫んだ。ルイは本音を言われたショックで、彼は今まで溜め込んだストレスが爆発した影響で、目から大量の涙を流し、しばらくの間、2人はただただ泣き続けた。
────────数分後
「……ごめん」
「ううん……私こそごめんなさい、ヒステリックになって」
数分後、一通り泣き終えた2人は、並んでベットに座り、さっきの恋人喧嘩について頭を冷やしていた。先程2人が泣きあったカーペット上は、ルイの涙で溶けてできた無数の穴が空いていた。
「……でも、冗談抜きでああ言うのやめてよ」
「はい……でも、いくら何でも……さっきのは酷すぎます……」
「……ごめん」
彼とルイは互いに言い過ぎたことを反省する。
「……こういう時って、どうすれば良いのかな?」
「……とりあえず、慰めあうんじゃないかな?」
「じゃあ……え、エッチなこと……しますか?」
「……ルイって直球でそういうこと言うよね。告白された時も結婚してくださいって言ってきたし」
「……すみません」
ルイは彼の方に体を向けると、頭を下げて謝る。そしてしばらくして頭を上げ、彼の顔を上目遣いで見つめる。
「……でも私、あなたとはずっと一緒にいたい……これからも、ずっと……本当だよ?」
「……重いよ」
「ご、ごめんなさい……」
ルイはシュンっと落ち込む。そんなルイに対して、彼は彼女の背中に手を回し、優しく抱きしめる。
「……じゃあ、ルイも約束して。これからは高校生になっても、社会人になっても、歳をとって死ぬ時も……ずっとずっとずっと、ずーっと一緒にくらすって……だから、死ぬなんて言わずに、これからも一緒にいよ?」
「……ホント?」
「ルイが約束守ってくれるのなら」
「…………はい」
ルイも答えるように、彼の体にぎゅうっと抱きついた。
「……じゃあ、今日は一緒に寝よっか」
「……うん」
体を離すと、彼は部屋の灯りを消灯させ、毛布の中に潜り込む。それに続くようにルイも中に潜り込み、彼の隣に並ぶように横になる。
「……今日も……抱きついていい……ですか?」
「……」コクンッ
暗闇の中、彼が笑顔で頷くと、ルイは嬉しそうな顔でモゾモゾと身体を動かし、向かい合うように彼の体に抱きつく。
「……えへへ……あったかい……へへ」
彼の体温にルイは満面のにへら顔を浮かべながら、さっきよりも強く抱きついた。今まで彼と一緒にいた中で、誰かと一緒に過ごした中で、1番の温もりを感じ取った。
「……エッチなことは中学卒業してから……ね?」
「……うん」
そして2人は、互いの温もりを感じながら眠りについた。
──────────────────────
「ルイ?起きてる?」
「…………へへ……ん……」
「寝てる……かわいい」
時は流れて次の日の朝、彼はルイよりも一足先に目を覚ました。彼は隣で眠るルイの体を揺さぶるが、いい夢でも見ているのか、彼女は笑うだけで起きる様子はない。
「…………」
しばらくして、彼はベッドから立ち上がると、すぐ横にある勉強机の1番下の引き出しを引く。そしてその中にある鍵付きの引き出しの鍵穴に、隠しておいた鍵を差し込み、ガチャっと回し、引き出しを引く。中には怪獣娘関連の雑誌が入っており、彼はその雑誌をそっと取り出した。
「……これ、見られなくて良かった」
彼は鍵をつけた引き出しの中を見ながら、ふうっと、一息つく。雑誌を退かしたその下には、やや大きめのフォトアルバムが2冊綺麗に並んで置かれていた。彼は右側に置いたアルバムを持ち上げ、中身を開く。
「……こんなの恥ずかしすぎて見せられないよ」
彼は写真を見ながら呟く。
アルバムの中には、ルイがバンド仲間達と共にライブを行っている写真が何枚、何十枚も入った。しかもどの写真もルイがメインに写っているものばかりであり、中には休憩時間中に彼の作ったお弁当を美味しそうに食べるルイの姿を写したものまであった。さらにはお家デートの時に撮ったルイの可愛い寝顔やら食べる姿やらがこれまた何十枚も入っている。
そしてアルバムの最後のページには、小学生時代と思われるルイと彼が偶然2人っきりになった時に撮られた写真が収められていた。
『あ、あの……これ、落としましたよ……』
『あ、ありがとう……ございます』
『……あ、腕の傷……お揃いですね』
『あ、ほんとだ……はは』
『えへへ……』
「……変わんないなー」
そう言うと、彼はアルバムを元に戻し、引き出しをそっと閉めて鍵をかけた。
彼が何故このようなアルバムを厳重に保管しているのか、それはただ単にルイに見られるのが恥ずかしいだけなのか、それとも他の理由があるのか…………それは彼だけが知っている。
「……ルイ」
彼は眠るルイの寝顔に自分の顔を近づけ、起こさないようにそっと頬にキスをする。
「んん……」
「おはよう、ルイ」
「……おはよう……へへ」
目を覚ましたルイは、寝ぼけ顔のまま朝1番の笑顔を彼に向けた。それを見た彼も嬉しそうに笑顔を浮かべた。
おまけ
パスワードの犯人
「あ、あの、き、キングジョーさん!」
数日前、GIRLSの休憩室にて、ルイはキングジョーことクララ・ソーンに話しかけた。
「What?なんでスカ?」
「あの……実は、相談したいことがあって……」
「oh、何か悩み事ですか?遠慮せず言ってくだサイ!」
「はい……あの……彼の……恋人のスマホのロックを簡単に解除するには、どうすればいいですか?」
「か、解除デスカ?まさか浮気かナニカ?」
「いえ……ただ、最近彼が私を見てくれない気がして……恋人ってずっと一緒にいるものですよね?ずっとずっと(以下省略)あの人がいないと…………それで、機械とかそういうのに詳しそうなキングジョーさんなら、何かわかるかなって」
「oh……crazy……」
「はい?」
「あ、そ、そうでスカー……わ、ワタシも流石に分からないデス(それ以前に犯罪デス)。好きなキャラの誕生日とか……デスカネ?」
「好きなキャラ……ありがとうございました」
「ソーリー(なんでしょう……とってもDangerな気がします)」
後日
「あ、キングジョーさん」
「oh、ホーデスか」
「えへへ」
「ん?何かいいことでもあったんデスか?」
「はい、実は昨日、彼と喧嘩したんです。でも仲直りして……ずっと一緒にいてくれるって、死ぬまで一緒にいてくれるって、彼から告白されちゃいましたー……へへ」
「そ、ソーデスカー……それは良かったデスネー」
「あと彼のスマホのパスワードも無事に解けました、キングジョーさんがアドバイスしてくれたおかげです」
「お、おう……それは……ドウイタシマシテ。でもあまりやっちゃダメデスヨ?」
「えへへ……大丈夫です。彼、パスワードを私の誕生日に変更してくれましたから。これからは一方的じゃくて、持ちつ持たれつでやっていきます……へへ」
「あ、ソウデスカ、ハイ、ヨカッタデスネ……crazy couple……」
「はい?」
「な、何でもないデース!」
「あ、もう行かなきゃ……それじゃあ、失礼します」
「バーイ!………………なんでしょう、とっても肩が重いデス」
クララは何故かいきなり重くなった肩を落としながら、とぼとぼと御手洗に向けて歩いた。
「だからー、あれはメンヘラじゃないって」
「そ、そうかな?」
「そうだって、だってメンヘラだったら今頃『私だけを見てよ!スマホの履歴も私以外消して!ずっとずっとずーっと一緒にいてよ!』とか言ってるだろ」
「……mental health」
が、途中で聞こえてきた隊員の会話を聞いてしまい、クララはその場で倒れ、暫く立つことはなかった。
今度、ガッツ行きつけの怪獣娘専門のカウンセラーにホーについて相談してみよう、クララは心の中でそう思った。
結局メンヘラとヤンデレって、依存相手と自分に危害を加える可能性があるのがメンヘラで、依存相手に近付く輩を排除しようと考えるのがヤンデレなんですかね。