【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない   作:オリーブそうめん

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前回のヒロインダービー

◆????◆

 

 

 

 

 許せなかった。

 許せるはずがなかった。

 

 共に竜の繁栄を、共に竜の勝利を目指していたあの方が、妾を選ばなかっただなんて。

 管理された序列においてなら、確実にあの方は妾を選ぶと思っていた。

 婚姻は自由であるとはいえ、盟主ほどの血であればそうは言っていられないだろうと。

 

 共に進もう。

 その一言があれば妾は何処までも供をした。

 例えその先に約束された敗北があるとしても、妾はそれを勝利へと変えた。

 言ってくれたではないか。

 「君には勝利がよく似合う」と。

 彼は何時だって妾を守ってくれたし、庇ってくれた。

 

 ならば、妾は彼の為に、その勝利を戴くのが本懐であるだろう。

 …だというのにだ、あの男はそうしなかった。

 自らの一族を零落させる計画を練っていた。

 我ら三大公当主の中で、妾だけがそれを知らなかった。

 

 彼はニーズヘッグに言っていたそうだ。

『最も選びたい相手だから選ばない』

 

 

 

 秘密にする事を命じられたニーズヘッグは抱え込んだのだろう。

 気持ちは理解できる。

 何故妾と番にならぬのかと、少しの期待をかけて聞いたのだろう。

 けれどもその答えは、「実は君が好きだから」ではなく、好きなのはあくまで妾で、結婚しないのは敗け滅ぶ道を征く為。

 嫉妬に狂って、樹として永遠に自分の物にしようとした気持ちも分かる。

 

 だがそれはそれとして、妾は貴様を許せない。

 植物如きに捧げる精として、苗床として、あの方を辱めて殺したのだから。

 

 

 残されたのはニーズヘッグの世界樹だけではなかった。

 レヴィアタンの協力をもって、妾達の一族に似た紛い物を、次代に生きる『竜の姫』の雛型として生み出していた。

 妾には何もなかったというのに、あの二匹は不本意な形であれど、形見分けをされていた。

 やはり妾にだけは、秘密にするように言われたらしい。

 知れば気が付くだろうと。

 最後の最後に打ち明けてくれた時のレヴィアタンの眼は、正直ゾッとした。

 敗者の『嫉妬』は、勝者の『傲慢』よりよほど美しい。

 

 『竜の姫』は未だ開発初めの未完成な新種族だった。

 あれは、星に受け入れられる最小限の竜の因子しか持たぬ獣としてデザインされていた。

 大方、竜の因子を持つ人間の勇者の因子保有量を参考にしたのであろう。

 『姫』という名では呼んではならぬ。

 その言い回しは彼が妾に向けた言葉だ。

 妾だけの物なのだ。

 例え、妾と同じ『傲慢』を冠して誕生したとしても、その称号は妾だけの物なのだ。

 

 

 何故だ。

 一体何故なのだ。

 何故妾ではなく、妾の紛い物である獣なのだ。

 竜として最も優れた道を進めば、そこには勝利が約束されているはずだろう。

 否、妾が約束する。

 幾度でも約束する。

 

 妾は、妾は、何故選ばれなかった。

 分かっている。

 

『最も選びたい相手だから選ばない』

 

 これに尽きるだろう。

 だからこそそれを聞かされたニーズヘッグは狂ったし、レヴィアタンは嫉妬で何度も新竜類の雛形を壊した。

 あの方の血の流れを感じる樹の種。見た目だけは妾に酷似した紛い物。

 それらを許し保護する時代の皇帝として、我ら三大公が指定されたと、ミドガルゾルム様に聞いた。

 

 妾に、アレらを守れとは何と惨い。

 妾に残したのは分けられた皇帝の椅子だけか。

 

 妾が欲しいものは、そんなものではなかったというのに。

 

 

 

 

 そうするしかないのならそうしよう。

 ただし妾の、否、此方(こなた)のやり方でな。

 これより此方は皇帝として君臨しよう。

 今後の婚姻は管理婚を推奨する。

 そして、反逆者ニーズヘッグを討伐せよ。

 後は、そうだな。

 そうだ、レヴィアタン。生まれた獣には、不要な知識は与えず、徹底的に管理させて生かしておけ。

 完成品にさえ辿り着ければいい。

 

 ふむ、言われなくともそのつもりか。

 そうだな。

 獣の竜たる一族自身に、弱体化(進化)を研究させて進ませよ。

 

 事実はあの竜の姿をした獣共には絶対に教えるな。

 狂える賢者を生み出してからでは遅いからな。

 先天的な気狂いはどうしようもないが、後天的にそれを生み出す必要もあるまい。

 

 

 

 あの方の妹であるミドガルゾルムは、此方が進言したニーズヘッグ討伐にも、帝位継承にも興味を持たなかった。

 いや、ミドガルゾルムは一度たりとも妾に何かへの興味を見せたことはなかった。

 

 帝位在籍中に周囲の竜の代が幾度も替わった。

 ワームも、レヴィアタンも、滅ぼし切る気になれずに僅かに残してやったニーズヘッグも、そして我がバハムートも。

 此方とミドガルゾルムだけが変わらぬ姿で居続けた。

 竜には獣のような寿命はない。

 龍脈が飽和するか枯渇する事が敢えて言うところの寿命であろう。

 

 

 此方は未練を断ち切るように、一族の子を産むことにした。

 だが、ミドガルゾルムは只々生き続けるだけだった。

 理由はわかる。

 アレは完全な先祖還りだ。

 ワーム種という一族における先祖還りは、他の竜におけるそれとは意味が全く違う。

 しかも、しかもだ、あの先祖還りは、始原にすら達しているのが分かる。

 

 彼女が子さえ成せば、復興は何時だって可能だ。

 望むのなら禅譲さえしよう。

 

 そう思っていたにも拘らず、結局彼女はそうしなかった。

 

 

 

 

 

 だが、その日は遂に来た。

 何処か『彼』に似たワームと子を作った。

 他のワームが潰えていく中での快挙だ。

 

 妾は歓喜に打ち震えた。

 最大限の祝福をした。

 無論、皇帝としての威厳を保った上でだ。

 

 だが、再び『彼』に似たあの竜は死を選んだ。

 今度は、妻と子を遺しただけだった。

 

 

 あの時はレヴィアタンが獣を、ニーズヘッグが樹を貰い受けた。

 ならば此度は妾が、その子を貰い受けるのが道理だろう。

 この日の為に、管理婚体制を始めたのだ。

 今回生んだ世代(シリーズ)の我が娘を番わせようではないか。

 可愛い可愛い我が娘だ。

 あの方の甥にも十分に見合うだろう。

 

 リンドゥルムか。

 やはり似ている。

 その顔も、その道化を気取ったつもりの言い回しも。

 

 

 

 素晴らしい。

 此方の娘()貴方の甥(貴方)が一つとなるのだ。

 

 

 だが、もしそれさえも叶わないのであれば、この星の残骸と勝利を両の手に載せて、貴方に逢いに逝く事も許してくれるのだろう?


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