【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない 作:オリーブそうめん
A.ペンギンという概念はペンギンという概念であり、ただそれをペンギンと受け入れるほかはありません。
「お前もペンギンにしてやろうかぁ。えへへ冗談冗談?」
妹ちゃん。
何で疑問形なんや。
頼むからはっきり冗談って言って欲しいんや。
その妙に竜気を感じさせるキョドり気味のペンギン?みたいな何かを背後に言われると、冗談に聞こえんのや。
あのマッドサイエンティストが、「ちょっとだけカブトガニを孕ませてみないかい?」とか言ってた時より怖いで。
まあ、カブトガニとワイの子で革命起こそうとしてた姫さんの伯父もヤバいけど。
まあ、歪む事あったのは分かるで。
あの竜がマトモやった頃は、真面目で爽やかな好青年やったし。
イケメン過ぎてムカつく以外は、普通にええ竜やったで。
カブトガニがお似合いと言われたのはショックだったけどなあ。
無論、断ったで。
カブトガニに欲情する気もないし、血清とか変なものを作る材料にしそうやからな。
「大丈夫大丈夫。なんと今なら、リンくんに特別サービスで、この素敵な冠も無料でプレゼントしますよ」
う~んこれ、リースペンギンのアレ*1やんけ。
ただより怖いものはないって言うとったな。
あっ、セティスさんへのお仕事は別やで。
ワイは怖い竜やないんで。
「折角リンくんも『KAWAII』になれるし、お姉ちゃんも『可愛い』になるのにぃ」
そこはノーセンキューで。
で、ペンギンにされる以外の報酬でお仕事頼むなら考えるけどどないするん?
「うーん、リンくん世界中の世界樹の根っ子を握手させて仲良し仲良しさせてみるとか?」
──お前それ、知ってて言ってるのか?
「何のこと? リンくん目が怖いよ? リンくんに目とか無いけど」
誰かに聞いて知ったのではなく、自分で適当に思いついたのならただの天才…いや天災か。
すまんすまん、ワイの勘違いや。
結論から言うと無理やな。
「そっか、なんか凄い事になりそうな気がしたんだけどな~」
なるで。
ホンマにえげつないほど凄い事になるで。
破滅への最適解を引き当てるとか、何でこんな子が生まれたんや。
「じゃあダムとかどう?」
破壊された人間の貯水池の再生…ではないだろうし。
何の目的か…いや考えるまでもないなあ。
ペンギンの居住地か。
「だ~いせ~いか~い。
わたしのペンギンの生る木計画の為には、大きな大きなため池と、元竜のペンギンと、バロメッツとたっくさんの栄養が必要なのです」
バロメッツはともかく、栄養って…ああ、水辺には動物も人間も集まってくるやろうしな。
それでええか。
で、水はどうするんや。
まあ、雨が降るの待てばいいけど、ここは雲が素通りして雨が降らないんやで。
「雨が降らないのなら、雨が降るようにすればいいじゃない。
どっかーんと山を作って、雲がぶつかれば雨が降るでしょ」
まあ、理屈の上ではそうやな。
よし、やってもええで。
でも、ワイをペンギンにするのは諦めてな。
「今のところはそれで許してあげる。
今はペンギン人間を作るのに忙しいし」
何やペンギン人間って。
獣人の中にもペンギンの獣人は見たことも食ったこともないで。
「ペンギン人間は空を飛んで人間を支配するスーパーペンギンにするんだよ」
空を飛ぶのは、もはやペンギンでも人間でもないで。
「うーんそうだね。
それにしてもリンくんはわたしに狂ってるって怯えないんだね」
いや、ヤバい奴とは思っとるし、ペンギンにされることについては怯えてるで。
「でも拒絶しないじゃない?」
拒絶しなきゃいけない理由にはなってないしなぁ。
「…もしこの世にペンギンがいなかったら、リンくんの事好きになってたかもね」
いや、君はペンギンがいないなら、ペンギンという新生物作ってるクチやろ。
「そうかも。
でも残念だったね。わたしはペンギンたちの永遠の花嫁なので、リンくんとは結婚できないのでした」
そっか、確かに残念だ。
妹ちゃん、先祖還りでハイスペックな竜やしな。
数代遡ったレベルやないで。
ワイのオカンがまだまだ若い時代…いや、今も若いってことにしとこう。
何か悪寒がしたわ。
「オカンだけに?
池が出来てたら凍ってたよ」
今のはワイが悪かった。
「はぁ~。リンくんって、そういうところもそっくりだよね」
ワイ、一体誰と比べられたんやろな。
ニーズヘッグ妹の
「わたしもね~、本当は死なせたくなかったんだけどなぁ」
不穏すぎることを言うニーズヘッグ妹。
まあ、こういう時はよくわからない事にするで。
龍脈は巡るし、こういうこともあるやろ。
「リンくんが分かってるかどうかは別として、私は
うん、知ってるで。
昔からペンギン好きやもんな。
「…そうだね。昔から、ペンギンが好きだった。
大空を舞う鳥に生まれたのに、海の底に潜る不思議な生き物。
どうして潜るのかな。
大空を飛ぶには重過ぎる秘密でも、抱え込んじゃったのかな」
こんな詩竜になったニーズヘッグ妹は初めてや。
ペンギンの詩集でも出すんやろか。
「ペンギンよ、どうしてあなたはペンギンなの?」
う~ん、よくわからないけど深いようで浅い気がするで。
「ペンギンの生活域だけに?
じゃあ、深く潜れるペンギンを作ろうかな。
私の為に一番深い池を作ってよ。
この世で一番深い池を」
超深海ペンギンとか誰得やねん。…あっ、この子得やん。
それにしても、この子どうしてここまで天才なんやろ。
経営にしても、管理にしても、正直ニーズヘッグ姉より凄いで。
ニーズヘッグ姉でも十分優秀やから、目立たないだけなんやけどな。
明らかに経験と一致してない。
…まあ、その能力全部をペンギンに向けてるのが一番凄いんやけどなぁ。
ところでさあ、さっき言っていたペンギン人間って、身体中から煙を出している金属交じりのそれの事なんか?
「そうだよ」
ワイの中で、ペンギンの定義が迷子になったわ。
そもそも、ペンギンの定義ってなんや?
…考えるだけ無駄やな。
取り合えず雨降らす用の山作ろうかな。
なるべく手抜きで。
◆
大霊峰フウガーク。
魔王リンドゥルムが作り出したと言われる巨大な山脈。
その内部は空洞となっており、とある一種類の化け物達が一跋扈している。
かつて、この山があった場所には栄えていた行路の中継町があったが、魔王の彫り上げた土砂に押しつぶされて滅びてしまった。
また、この山脈ができる前には、この山脈があった向こう側において雨が降っていたが、フウガークが出来て以降は、此処で雨が降ってしまうために、その地域は砂漠と化してしまった。
日に日に乾いていく大地で、人々は水を求め争った。
争いを鎮めるために、人々は戒律の厳しい宗教を創造した。
この宗教は瞬く間に砂漠地帯に広がった。
この宗教の教義は、今生を助け合って水を分け合いながら過ごせば、来世では膨大な水の中を飛ぶように泳ぐことができるという内容だった。
厳しい土地を捨てず、助け合う者がいる一方で、土地を捨てる者たちもいた。
しかし、彼らは宗教までは捨てた覚えはなかった。
土地を捨てた彼らは、厳しい山を越えて見た。
大いなる湖を。
彼らはこれを伝えようとして、元の土地に戻った。
それは蜃気楼だろうと言う者もいた。
そう言った彼らは、希望を見たくはなかったのだろう。
最初から偽物だと決めつけ、希望がないのなら、絶望する必要がないのだから。
しかし、人は希望を捨てられない。
超越者でない彼らは、最初から諦めることなどできない。
理由なく自ら滅ぶことへの意思など、人間には不要だからだ。
彼らは希望を胸に足を踏み出した。
いや、意思こそが彼らの足を進めたのだ。
調査団は、山の頂上に上り、それを見た。
広大で透明で美しく、そして大地に口が生えたように深い湖を。
そして────、煙を出す人型の鉄の塊を。
「ペーンギン」という独特の鳴き声を発する鉄の人型は、軍勢で己たちに向かってきているのを調査団は発見した。
『ペーンギン』それは、彼らの宗教において、魔王たる竜の家臣である悪魔の名前と同じであった。
人々は山を防衛線として戦った。
今日を生きるために、明日へと繋ぐ為に。
そんな彼らのところに、侵略者である『ペーンギン』達は襲い掛かった。
「ペーンペン」と奇声を発しながら、その広い手で人間をはたき殺す。
ペーンギンのビンタは、人間を容易く破壊する。
ペーンギン達は人間たちを追い立てた。
戦争は高所を取ると容易になる。
それは高所に移動する移動コストが大きい事と、高所からの投石が有効であるためだ。
その優位が、ペーンギン達が山を登る度に失われていく。
ペーンギン達が山を登り切ったら、それが敗北だと誰もが分かっていた。
そしてその時が来た。
遂にペーンギン達は山頂まで到着し、人間達が麓に追い立てられる番が来たのだ。
破滅願望をもって、ペーンギン達に突撃する者もいた。
ここで殺されてしまえば、追い立て続けられて滅びる明日を見なくてもいいと。
その中には、湖を蜃気楼だと笑った男の姿もあった。
しかし、それでも諦めない者もいた。
「人間は、ペーンギンには負けないっっ!!」
彼はそう叫んだ。
叫んだところで、何に覚醒するわけでもない。
女神が加護を与えるわけでもない。
だが、それでも彼は叫ばずにはいられなかった。
「俺達は、ペーンギンには絶対に負けないっっ!!」
何処までも真剣に、どこまでも大真面目に、彼は彼の信じる言葉を放った。
人は奇跡なんか起こせない。
人が引き起こすのは、何時だって必然だ。
叫んで飛び出した彼は、すぐにペーンギンに殺されたが、人々はその勇敢さに感化されて続いた。
「「「そうだ。俺達はペーンギンに負けないぞっ!!」」」
そう叫んで、人々は突撃した。
そして死んでいった。
人間がペーンギンのビンタを受けて生きているはずがないのだ。
だが、それでも彼らの言葉は現実となった。
フウガーク山の内部は空洞である。
頂上での激しい戦闘に耐えられなかった岩盤は、その場にいた全てを巻き込んで崩落した。
フウガークの天井は極めて高い。
それは、フウガークの標高と同じ高さであるからだ。
調査団は全滅したが、ペーンギン達も牢獄の中に閉じ込められた。
調査団は生きて帰ることは能わなかった。
だがしかし、彼らは誓い通り、ペーンギンに負けなかった。
残した家族たちを守り通したのだ。
その後、多くの働き手を失った人々は、結局その土地を離れることになってしまったが、彼らを守った勇敢な男たちの記憶は、今も子孫と星に記憶され続けている。
このペンギン人間達はアップデートをすると空を飛ぶようになります。