【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない   作:オリーブそうめん

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神を堕とす日~その竜気で聖女は無理~

 ははは、これではまるで道化のようではないかね?

 いや、道化のようではなく真実道化以外の何物でもなかったのだろうね。

 

 僕たちは意図的に創り出された被創造物でしかなかったとはね。

 

 僕たちの歩んできた道程は、僕たちが歩んできたつもりの道程は、神様気取りの創造主に用意されたレールでしかなかった。

 姪が憤る『獣としての竜(レッサードラゴン)』という言葉は、まさしく額面通りの事実でしかなかったのだ。

 

 有象無象は兎も角、己惚れた支配者共はただの事実として言っていたのだろう。

 最新の竜として自らの意思で高みに上り詰めようとしていた僕らは、最古の竜共に『獣としての竜(レッサードラゴン)』となるよう進まされていることに気が付きもしなかった。

 

 これを道化と言わずに何というのか。

 あまりにも無様、あまりにも愚か、あまりにも滑稽。

 

 その事実を理解した時、────僕は世界が音を立てて割れるのを自覚した。

 

 誰が仕組んだかなど、最終調整版である姪に組み込まれていない竜の血を逆算すればわかる。

 バハムート、レヴィアタンの両帝、ニーズヘッグ────そしてワーム。

 それらの因子だけ、不自然に含まれていない。

 つまりは、彼女たち最上層と最下層が僕らを弄んでいたという訳だ。

 少なくとも、僕はそう確信している。

 

 思い上がった神気取りめ。

 僕たちに超えられるとは、塵一つほどの可能性を想定してもいないのだろう?

 いや、疑問ですら不要だろう。

 遊びで作った劣化生物を対等となど思うわけもない。

 例え粘土を捏ねて作った偶像が、動き出したとしても己と平等とは思うものか。

 ましてや己を超えるなどとは思うはずがない。

 

 目標を達成するために生まれた道具が、己を打ち負かすとは気分が悪すぎて、想像するのさえ不快だろう。

 それ自体を否定はできない。

 

 だが、同じ竜の枠組みにあると思っていた。

 そして僕たちはその最先端にいると思っていた。

 

 ある意味最先端だったよ。

 原種から最も遠くへ離れた幾つかある保険の一つ。

 その時があれば、成功例は太源から切り離されて残り、失敗例は太源から切り離されて潰える。

 

 差し詰め、僕らのコンセプトは箱舟というところだろう。

 僕の世代の極光竜の時点で、人類以外の全ての因子。

 姪の世代において、人類を含めた全ての因子を内包した。

 

 中に積み込んだ他種族の因子という積み荷を使って、世界の崩壊を超える竜の箱舟。

 ある意味における極小の星の再現。

 創造主共が求めた役割はそれだ。

 救いは、積み荷の保存ではなく、箱舟自身が保護対象という事だろうけど、だから許せるかと言われれば、それは絶対にありえない。

 あの天空の女帝に似た姿でありながら、バハムートの因子を含むことは許されず、バハムートが見下す全ての生物の因子だけを含んだ紛い物。

 ああ、見下される訳だ。

 僕が憧れたあの存在に、無価値の様に、いや無価値そのものどころか害悪そのものとして軽蔑される訳だ。

 

 許せるはずがない。

 この僕が見下されるなどと。

 耐えられるはずがない。

 憧れに疎まれるなどと。

 

 

 もういい。

 上級竜共の創世神話は今日で終わりだ。

 この瞬間において、君たちは進化の旧約を読み終えたのだよ。

 そう────、此処からは僕が進化の新約を始めよう。

 そして、僕が神になる。 

 

 

 

 僕は様々な実験生物(我が子)を産み落とさせた。

 何年も。何十年も。

 何の愛も情動もなく、ただ多くの雌を孕ませては放逐した。

 僕から見てさえ、劣化した竜。

 芽吹いた実験は生態系を破壊した(答えのサンプルを示した)

 もしかしたら百年は過ぎただろうか。

 いや、それは大袈裟かもしれない。

 けれどまあ、そんなことはどうでも良いんだよ。

 

 かの女帝を含む上級竜達は既に僕のやっていることに気が付いているだろう。

 それでも未だ処刑しに来ないということは、完全にどうでもよいのだ。

 ははは、もう道化ですらない。

 主に笑ってさえ貰えない道化などその価値もないのだから。

 

 なら、実験生物(我が子)達の手助けでもしてやろうじゃないか。

 最近では、人間どもに押し返されているようだし。

 せめて良い魔王()として、手助けと敵討ちとして世界を灰塵へと変えてみてもいいだろうね。

 その時には、彼女自身が滅ぼしに来てくれるだろうか。

 それとも、それすらも叶わないだろうか。

 

 

 もう、どうでもいいんだ。

 僕程度では、女帝()と並び立つことは赦されなかった。

 被造物では、創造主を超えることはできないと、僕の竜生全てが証明してしまった。

 実験生物(我が子)では誰一つとして、僕を超えることはできなかった。

 せめて、僕のところまで辿り着いて欲しかった。

 

 僕は、神を超えたかった訳じゃないんだ。

 ただ、(彼女)に並びたかった。

 それだけなんだ。

 

 『完成品前の試作品(セミファイナルチューンド)』として、僕は生を受けた。

 固有名称は『X-02』。

 姉に続く成功例だった。

 そうでありながら興味本位の一瞬で、滅ぼされる寸前まで壊れたこの僕が、望むのもおかしなことだった自覚はある。

 星の知識を吸収する方法を探し、一瞬で忍び込んできたその猛毒の呪病に朽ち果て、次代を遺すスペアにも選ばれなかったけれど。

 けれど、例え気まぐれでも、例え見下した上の一言でも、欠陥品の僕に声をかけた彼女に。

 

 そうして、太陽に近づこうとして、焼き尽くされることなく不可能であることを教えられたんだ。

 僕は、たった一度の事例でも、愚者が太陽に辿り着く夢を見たかった。

 ああ、ただの一瞬でも、創造主(彼女)に辿り着く被造物()の可能性を信じられる時が欲しかった。

 

 

 もういい、もう十分だ。

 いっそ壊そう。

 壊れてしまおう。

 太陽のような女帝(輝き)には届かない。

 極寒の恒星風(フレア)が生み出すオーロラの吐息で。

 

 オーロラを喰らい続けて、恒星(彼女)を再現した僕だけのフレアで。

 

 そうして僕は────天から鬻がれた極熱の恒星の残滓(オーロラ)から恒星の光(フレア)を再現して、天に向かって極寒のフレア(オーロラ)を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 君は…?

 よくぞ来た。

 脆弱な人間種が、此処まで来るとは思ってもいなかった。

 

 人間の言葉に頷くのが不思議そうだね。

 こう見えても僕は勉強家でね、他の生物の言語を聞き取る程度はできるよ。

 …といっても、こうして語り掛けても、君には竜の唸り声にしか聞こえないだろうけどね。

 

 

 

 …そうか。

 勇者()は僕が最初に孕ませた実験生物(人間)の血を引く者か。

 理論上は、神々気取りの竜以外の全ての因子を内包している。

 姉が生んだ姪と、因子の種類は完全に同じだね。

 その容器は全く違えど、内包する因子の種類だけは全く同じ。

 

 姉が義兄と子を作る時に、新規で入れた最後のピースが人間種の因子。

 僕が最初に孕ませた容器が人間。

 少しの運命を感じるね。

 

 なるほど、君はここまで来たのか。

 愚かな人類の迫害に耐えて、愚かな竜の遺した君の兄弟姉妹(災害)を超えて。

 そして僕と同じステージまで来たのか。

 

 素晴らしい。

 実に素晴らしい。

 はーはっはっはっは、愛すべき娘よ。

 君は僕の最高傑作だ。

 僕を終わらせることで、僕の願いを完成させてくれるとは。

 

 …君の様に諦めなければ、僕もそうなれただろうか。

 いや、どうだろうね。

 そこには決着を付けない(証明結果を出さない)ままでいたい。

 

 素晴らしいよ我が愛すべき娘。

 君は神様気取りのこの僕を、この瞬間超えたのだ。

 被創造物が、創造主を超えたのだ。

 これを僕の生涯の唯一の成功と言わずして何というんだい。

 

 素晴らしい。

 

 今の君よりも、純正の竜達は遥かに強い。

 いや、下級貴族の竜でさえ、知識の形をとった竜殺しに壊され切った僕よりは遥かに強い。

 だが、それでももしかすると君ならばと期待してしまう。

 

 流石に位階が違いすぎるのは分かっている。

 けれど父親に出来ることは、娘に期待する事だけだからね。

 

 ああ、歓喜の中この生涯を終えられると思わなかった。

 人間から奪った土地の半分をくれてやってもいい。

 いや、全てでも構わない。

 だが、受け取らぬだろう。

 建物(人の巣)を一切破壊せず、住民だけ破壊した時も受け取ろうとはしなかったのだから。

 

 代わりに我が血(祝福)を授けよう。

 親馬鹿になったばかりの父親の、最初で最後のプレゼントだ。

 星の縛りも彼女には継がれないだろう。

 とはいえ、劣化しつくした上で弱体化著しい血なのは申し訳なくはあるけれどね。

 

 まあ勘弁してくれたまえ。

 愛娘に捧げられる全てがこれしかないのだから。

 僕としても、人にも竜にも迷惑をかける自覚はあるが、君こそが僕の生きた証になるのだから。

 

 では、君に幸多からんことを。

 

 

 はーっはっはっは。アディオース!!マイスイートドーターーーー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 人類史において、もっとも悍ましい惨劇の一つとして数えられる中に、『魔王エクソートゥの侵攻』がある。

 縛られる様に、貫かれる様に、蝕まれる様に、輝く円環に侵されていながら尚、それは脅威。

 何故なら、直接的に人類を滅ぼそうとした竜であるからだ。

 

 その軍勢は強力無比。

 世界各地で暴れる全ての軍団員が、彼の力の一部を継承している。

 ただ一体であれど、その力は村の自警団では相手にも出来ない。

 

 魔王の庇護下に入ろうとする者も、魔王の軍勢を利用しようとする者も、魔王に抗う者たちと平等に滅ぼされた。

 

 悍ましき魔王の軍。

 その勢力は二十年に渡って増し続けた。

 小国一つを苗床としたハエの軍勢があった。

 都市一つを根切りにしたクワガタの軍勢があった。

 港町は血を吸うカブトガニによって干からびた。

 洞窟に逃げ延びた人々を全て丸呑みした、洞窟に化けたヒルもいた。

 際限なく伸びるツタ植物に吞まれた町があった。

 シロアリの大群は森一つを食べ尽くした。

 湖一つを占拠したユスリカの幼虫達がいた。

 各国の総力を挙げてようやく打ち倒せたカタツムリがいた。

 人間に寄生するアブラムシは増え続けた。

 ハナカマキリ達は、付近の人間を虐殺しつくした後、共食いを進めて生き残った個体が巨大な子を産んだ。

 大国を破滅させたチョウとスズメバチの大群がいた。

 

 だが、それらよりも遥かに恐ろしかったのは、魔王エクソートゥという一個体だった。

 

 単純に強かったというのはある。

 その腕に壊せぬものはなく、その尾に潰せない者もない。

 その牙は、魔王の軍勢の死骸から作られた剣や鎧さえ、一瞬の拮抗も無く嚙み砕いた。

 

 その翼は音と共に天を舞い、その吐息は大地から雲を貫いた。

 

 彼が天に向かい咆哮すると共に、美しくも悍ましく輝く息が天に伸びた。

 その地域の空はオーロラに包まれ、そのオーロラのベールから、雨の様に隕石の様に幾つも光が落ちてきた。

 それに触れた者は、殆どが死んだ。

 遺伝子が掻き混ぜられた様になり、代謝をすると共に壊れた設計図が示した通りに肉体が崩壊していった。

 

 稀に生き残った者がいたが、それらは別の何かへと変貌してしまった。

 その多くに理性はなく、弱者である人々はそれらに襲われてしまった。

 中には元の意識や理性を保つ者もいたが、異形の引き起こした過去の事例と、異形そのものへの恐怖によって、未だ人類である自覚のある者にさえ、弱者からの反撃の凶刃は襲い掛かった。

 

 それを終わらせたのは『勇者エウラリア』。

 彼女は人類史上最も功績のある勇者の一人として謡われている。

 聖女とも認定される彼女の始まりは、迫害に次ぐ迫害だった。

 竜に犯された母親は、彼女を産んだ。

 時折気が触れるも、娘には優しい美しき母であった。

 

 勇者の母親の身は今は滅んだとある貴族の娘であったが、娘を竜に誘拐された父親は、竜に対して全面戦争を挑み領地ごと滅んだ。

 

 

 竜に誘拐され、見た目こそ人間であれど父親の判らぬ子を産み、そして娘の為に領土を滅ぼした家族愛溢れる(領民を顧みない)領主の娘であるならば、母子共々恨まれる他は無かった。

 見た目が麗しい勇者の母は、毎日の様に生き残った人々に犯された。

 しかし、幸か不幸か竜の子を産んだ際に全ての力を使い果たした彼女の子宮は、次の子を孕む事は無かった。

 

 娘である勇者もまた美しく生まれたが、彼女に降りかかる獣欲は、全て母が庇った。

 魔王に身を売った淫売の娘と蔑まれても、母こそが勇者の誇りだった。

 

 しかし、勇者が年頃に成長すると、母よりも娘が欲しいと思う者が多くなった。

 故に母は娘を連れて逃げた。

 いや、逃げようとした。

 

 …そして娘を逃がす為に囮となり、そのまま死んでしまった。

 

 

 このような不幸があって尚、彼女は人類そのものを憎むには至らなかった。

 竜の軍勢が襲い掛かる人々を、行く先々で救い続けた。

 魔王の軍に人だけがいなくなった金属の国を授けるように誘導されても、彼女はそれを受け入れなかった。

 その様に今も尚、勇者にして聖女たるエウラリアは讃えられ続けている。

 

 魔王が天に向かい吐く息が生んだ、天を隠すベールが生み出す邪悪な光の隕石を、彼女は美しく輝くドレスをもって防いだ。

 『天の法衣』そして、もう一つの武器である『星の聖権』と呼ばれた鍵状の剣を使い戦った。

 剣を地面に突き刺し捻ると、その身体の傷は瞬く間になくなったのだ。

 

 彼女は魔王エクソートゥと同一の力をもって、魔王を倒したという歴史家もいたが、多くの人がそれは不敬だと認識した。

 その説を唱えた歴史家は、家族ごと火炙りにされたほどだ。

 

 彼女は墓地や戦場で力を蓄えたと発表した研究者も、やはり火炙りにされてしまった。

 

 それ程にエウラリアの人気は高かったのだ。

 

 彼女がその力を得たのは、世界各国にある教会への祈りの旅によってというのが、教会と多くの歴史家の正式な見解である。

 故に、彼女の足跡を辿って、百八十八ヶ所の教会への巡礼の旅が行われているのだ。

 一時、エウラリアの人気が過熱して、神と同一視されたエウラリアの偶像崇拝を禁じた時代もあったほどだ。

 

 エウラリアの宗教は、肉を沢山食べる事を神への感謝とする異端宗教『ホーリービーフ教』であったという学者もいたが、やはり彼も火炙りになった。

 

 教会における最高位の聖女にして勇者。

 それこそがエウラリアの絶対的な評価であり、それを否定することは赦されない。

 

 美しく強き乙女が真摯に神への祈りを捧げ、人を恨むことなく悪を憎む。

 例え理不尽に挫かれたとしても、社会を恨む事なく正しき信仰を持ち続けなければならない。

 それが人類のあるべき姿であるとされた。

 

 勇者の才能と美貌は益々咲き誇り、多くの者の道標となった。

 彼女を求める多くの男性や一部の女性がいたが、彼女はそれを強く拒んだという。

 

 

 

 

 後に彼女は、一匹の聖なる竜と親交を結んだともいわれているが、それは異端派の言であり、悪竜を調伏して従えたというのが、教会正統派の認識である。




Q. 何で登場竜物は全員ヤンデレキチガイしかいないの?
  世界の人々の殆どが負け組なのに、勝ち組でなければ死んでもいいとかサイコパスでは?
  何もかも手に入るのが当然だと思っていて、そうならないから許せないとか、己惚れ屋ばかりだよね?

A. それは人間の価値観の話です。竜の価値観においてはちょっと個性が強い普通の竜々です。
  寧ろ、無自覚な道化を全うする竜達より、自覚ある道化を演じる竜の方が異常です。
  プライドが高すぎるのが正常な価値観の種族で、他者は全て皇族貴族で自分達だけ最下層にする状況を自ら作り出し、それを子孫代々まで甘んじて受け入れている時点で完全なサイコパスです。
  勝ち組で当たり前の価値観が蔓延する世界で、自ら敗者を選び受け入れるのは、ちょっとしたマッドが今でも好青年に見えるキチガイと言えるでしょう。








ホーリービーフ教

A5ビーフは神具。
尚、神具は食べるもの。
この宗教は草食系男子には肩身の狭い宗教故に滅びました。
運動せずに食べ続ける信者がいたことも、滅びた遠因となっています。
現在は一部がスーパーホーリービーフ教として存続されていますが、その理念は肉だけに限らず「いっぱい食べる君が好き」と常に神様は言っているという、肉を愛した創立者の理念とは異なるものになっています。


女勇者のママ
その意志と環境があれば英雄になり得た人類の最高傑作の1つ。
仮に戦士として鍛えられていれば、当代最強の英傑として人類間の戦争に勝ち続け、国家を大きく統一する事も出来たが、父親の方針でお姫様として過保護に育てられた。
そもそも竜に対して全面戦争すれば、娘を竜から取り返せる可能性が少しでもあると信じられるだけの自負があった時点で、領主一族自体が異常なハイスペック。

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