【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない   作:オリーブそうめん

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あんたの夢叶えたろか~モテないのは認めるけど、他の非モテよりはマシと思ってるから一緒にはせんといてや~

「魔王様万歳。魔王様万歳。

我々諦念の敗者団は、世の負け組の集まりでございます。

もはや我々は人生に希望などありません。

頭の回転が悪くドモりがちで他人に見下されモテず、体も丈夫でなく仕事も出来ずモテず、容姿も醜く異性にもモテません。

魔王様と同じく醜男な非モテ共でございます。

この格差が永遠に続くなら、どうかどうか我等ごと世界を滅ぼしてください。」

 

 目の前にいるクソ辛気臭そうな人間の連中。

 子ヤギ達の血肉を祭壇に載せてアホなことをずーっと言ってる。

 こういった竜崇拝集団の人間達はたまーにおるけど、大抵が無価値な連中しかおらん。

 話の内容があまりにもしょうもなくて、アホ臭くなるわ。

 こんな話を聞いてるワイもアホみたいやで。

 最近はあまりの暇さと、なんか現実逃避したかった気分だったので、進行方向にいた連中をそのまま踏み潰さずに言ってることを聞いてみたけど、心底後悔したわ。

 

 ワイ、寿命はこんなのより長いけど、ワイの一秒はこの人間の一秒より尊いんやで。

 誰が決めたかって?

 ワイがそう決めたんや。

 

 なあ、こんな微妙な時って、ワイはどんな顔をしたらええんやろうな。

 そもそもワームに複雑な表情筋とか無いし、別に顔の表情を変える必要もないんやけど。

 

 人間如きのしかもその最下層に同類扱いされるのは勘弁なので、喋っていたやつは取り敢えず潰した。

 まあ、纏めて他にも何人か潰れたけどしゃーない。

 

 何やろうか、生き残ってる連中滅茶苦茶動揺してるしどうなんや。

 諦念の敗者団という割には、竜崇拝とかアグレッシブやし、死ぬのビビってるし名前詐欺じゃないんか?

 

 とはいえ、こいつらが、仮に金も名誉も女も手に入れて自尊心満たしても、それが人間全体にとってどんな利益にもならんやろうしなあ。

 だから誰も何も与えてくれんのやろ。

 ニーズヘッグ姉でなくても、こいつらに救いをもたらす行為の名は投資ではなく福祉の類やとわかる。

 世の中、自分で掴み取る力のある者に、周囲は貸しを作る為に捧げ、自分で掴み取る力の無い者には誰も媚は売らないもんや。

 人に限った話やないけどな。

 

 後、こいつら捧げるヤギにしても、よりによってこの種類のヤギでええんかって思ったわ。

 この捧げられているヤギって、自分達を人間だと自称する妙に頭が良いヤギやったろ。

 自分の事を人間という自覚と知能があっても、人型でないというだけで人間には認められんかったかぁ。

 いや実際ベースはヤギで人間の因子マシマシだったってだけやから、生物としてヤギなのは間違いないんやけどなぁ。

 人間に犯され続けて、遂にはヒト並みの知能の子を産んだ親ヤギ達。

 そして自分は喰らわれる側のヤギではなく、対話出来る人間だと主張しても殺された子ヤギ達。

 同情はせえへんで。

 人に、世界に、負けたのが悪いんやから。

 

 

 人間に負けた人間の負け組も、家畜を脱しようとして失敗した負け組も、どちらもより強い者に負けたというだけや。

 

 それにしても判らんのは、言語の通じない人間とはかけ離れた(チョウチンアンコウ)の人型の疑似餌端末に人権を与えようとしたり、人間を名乗る人型とはかけ離れたヤギは人間に含めなかったり、ドラゴンプラントは竜扱いしたり、ワイをヒルの親戚扱いしたりする人間の判定基準や。

 

 まあ、人間が視覚からの情報を重視しているとするのなら、そこまでは説明できるんやが、竜とは無関係な爬虫類の獣人が竜の子孫を名乗ったり、豚と密接に関係ある獣人が豚とは別種を名乗ったりするのは何でやろうな。

 竜のハーフは詐称するのに、豚とのハーフは嘘付いてまで否定するって何やろうか。

 豚の父親に孕まされた母親がいないのなら、母親は処女受胎したとでもいうんか?

 それに竜でもないのに、竜の血を誇るのが解らないんや。

 ワイらが竜である事を誇るのは、竜として生きとるからなのになぁ。

 

 竜から見たら、人間の胎にも種にも一つも当たりなんてないんやけど、人間にとってこそ実を結んだ命の中から当たりを見つける価値はあるはずなんやけどな。

 

 …結局、人間がどう考えていようと知ったこっちゃないんやけど。

 

 

 モテないことで悲観するのは勝手やけど、モテる相手を選ばないのであれば、モテる方法はいくらでもあるんやで。

 己の周囲では異性に格下扱いされて相手にして貰えないのなら、環境のグレードを落とせばええんや。

 より貧困で愚かな地域でなら、コイツ等もそこでなら金満で知的に映るやろう。

 ワイはゴメンやけどな。

 竜にモテないからって、ヒルやミミズに相手を落としてまでモテても嬉しくないんや。

 

 まあこの人間達を何処に連れて行けば、相対的に異性から見て上位ポジションに出来るかを考える義理も意義も無い訳で。

 いっそのこと、このままここで食事にしてもええとも思う。

 

 

 でもなあ、少しだけチャンスをくれてやってもええかもしれんな。

 面白いところ連れてったるわ。

 同情やないで。

 上位生物としての気まぐれや。

 ホンマやで。

 

 移動手段はワイの口の中や。

 そのまま胃まで転がり落ちた奴は知らんけど、そうなったら諦めてな。

 

 新天地行って成功するかどうかはあんたら次第やで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マンドラゴラ。

 それはアルラウネの原種の一つである。

 自発的に動く事も話す事も出来ないが、人間の感覚からすればとても美しい女性の上半身に似た花弁をしている。

 アルラウネの様に花弁を搾る事により可燃性液体は得られないが、動く事が出来ない為に危険性が無い。

 かつて、人間の先祖の時代、今と同じ様に魅力の無い男達が女にあぶれてしまい、彼等が性欲の捌け口として使ったのがこのマンドラゴラだと言われている。

 

 人間の男とマンドラゴラとの一世代目の雑種は、少女の様な実を付ける。

 人間の精を受けたアルラウネの人型の花弁が萎びれ、大きさこそ人間の胎児に近いと言えど、普通の植物の種を付けるのとは異なる点である事は興味深い。

 何故、実を人型にする特性はアルラウネに受け継がれなかったのか。

 何故、マンドラゴラは受粉しても人型の花弁が枯れないのか。

 何故、マンドラゴラは実まで人型にしたのか。

 

 其処には一つの仮説がある。

 マンドラゴラは、実を人間の娘の(かたち)にする事で、人間の男性の保護欲を利用しようとしたのではないかという仮説だ。

 

 だが、マンドラゴラの実は、人間にとってあまりに美味し過ぎた。

 桃のような香りのする人間の形をした実は、実際に美味であった。

 多くの権力ある人間達は、マンドラゴラの実を食そうとした。

 それが首を振ることしかできない人間の幼女に酷似した姿であったとしても。

 

 故に、精で受粉したマンドラゴラは、その上半身と実を人型で残す事は、他の人間に狙われるリスクとなったのでは無かろうか。

 それこそ精の提供者からも娘を狙われ、実を残せない状況が続いたのでは無いだろうか。

 だからこそ、マンドラゴラの中から、人型の花弁を枯らし、実も人型で無くなった個体が発生し、生き延び、近しい特性を持つ他の植物と受粉し、今に至るというのが仮説の内容である。

 

 夫さえ護ってくれないのであれば、夫が愛した人型の花弁も愛と共に枯らす。

 その様な情動を植物が持っているとは考え難い。

 だが、人間相手に行うには余りにも外道な事を植物にはしても良いのか?

 その様な声が、人型植物の権利を守る会『プラントライツ』から上げられている。

 

 実際のところはどうなのかというと、農産業を営む商会お抱えの学者曰く、単純に精を集める必要がある花が咲く間以外は、人型を象る必要などない事から、適応進化したアルラウネに居場所を奪われただけという研究結果が出た。

 当初信じられていた仮説は、産業科学者によって否定されたのだ。

 これ以降、プラントライツは、研究結果を顧みない感情的な集団だと批判する声も大きい。

 特にマンドラゴラによって支えられる農村地域においては、プラントライツは正しく害虫である。

 

 不思議な事に、マンドラゴラが人間以外と作った実は、人型をしておらず、美味しくもない。

 故に、自然に生る実と、人間の精と結んだ実を区別する必要があり、人間達は人間とマンドラゴラとの一世代目の雑種をブロイラーと名付けた。

 ブロイラーはブロイラー同士で繁殖させると大きく味が落ちる上に、成長が遅い為、全てが食用としてその生を終える。

 マンドラゴラを増やしさえすれば、モテない男の精を掛け続ける限りブロイラーは確保できるからだ。

 

 ブロイラーには次代へと繋ぐ権利は無い。

 ブロイラーに生まれた時点で、食われて死ぬ未来が決まっている。

 それでもブロイラー達は、マンドラゴラ達は気にしないのかもしれない。

 その一生を人間に管理されることで、人間が滅ぶまでは種族の安泰を得られるのだから。

 

 

 

 さて、誰がプラントライツを立ち上げたか。

 それは、ある少数の男性達だと言われている。

 魔王に誘拐されたとされる彼らは、人類未踏の密林の奥地へと置き去りにされた。

 

 彼らが発見したのは絶滅したはずのマンドラゴラの群生。

 性欲の限界と、竜の口のなかにいた恐怖、喉の奥に転がり落ちた仲間が返ってこない絶望から、生存本能が極限に達し、その精力をマンドラゴラで自己処理した。

 美しい女性の姿をしたマンドラゴラは嫌がることなく、ただ微笑むのみ。

 激情を落ち着かせた彼らは、冷静になるとマンドラゴラ達を愛する事を決めた。

 

 だがその数年後、彼らは密林の調査隊に発見された。

 彼らの内一人が、竜崇拝者として危険視されており、追跡魔術がかけられていた事が発見の決め手となった。

 マンドラゴラとブロイラーと共に発見された彼らは、自国へと帰る事となった。

 そして、そのマンドラゴラ達は調査隊を派遣した民主国家に管理されることとなった。

 調書曰く、彼らは完全にマンドラゴラに洗脳されており、「家族を返せ」と叫び続けたという。

 

 

 さて、言葉が通じない人型であるマンドラゴラとブロイラー。

 同じ様な生物として、アンコーンという生き物がいる。

 こちらも非常に美しい人型の生物であるが、それは疑似餌で本体は巨大な深海魚である。

 人型の部分は独立して動くことが出来、また強く発光する。

 そして充電の為に一年に一度の頻度で、正確には何処の海においても八月の中旬に、一度人型の端末(ヒューマノイドインターフェース)は海中に帰る。

 そして、本体に接続し充電を得るのだ。

 

 こちらがブロイラーの様に搾取されない理由は極めて簡単だ。

 単純に本体が強いからである。

 逆らって勝てる相手でないことは、人間の歴史が証明してきてしまった。

 何せ、本体との接続時に深海から人型端末を発光させる際には、その光は海面まで届くのだ。

 人間に友好的な個体は、灯台や集魚灯の様な役目を果たしたことがあるし、非友好的な個体は呼び寄せた船を喰らった記録もある。

 

 海の女神とも恐れられるアンコーンは、竜以外では勝てないほど恐ろしい。

 その生殖は、やはり人間の男性を好んで利用する。

 人型の端末は男性を捕まえると、海中に沈んでいく。

 そして本体の身体に取り付けるのだ。

 すると、人間の身体は首から上を遺して完全にアンコーンに取り込まれて同化してしまう。

 これが、アンコーンの婚姻なのである。

 

 昔から、食い扶持を稼げない男を十年に一度アンコーンの婿として捧げる行事が、世界各国の港町に共通して残っている。

 このことから、アンコーンは人間の歴史に密接に関わってきた生物と言ってもいいであろう。

 

 

 

 最後に、『人間と思い込んだ山羊(バフォメット)』について説明しよう。

 バフォメットは、愛玩用の母山羊から生まれる非常に知能の高い家畜である。

 彼らは人間に捕食される恐怖に怯えるあまり、自分達も人間である(・・・・・・・・・)と総じて全ての個体が認識してしまう、哀れな食肉動物である。

 だが、決して彼らは人間ではない。

 生物的には間違いなく山羊なのだ。

 山羊の母から生まれ、山羊の姿で生まれているのだから。

 故に、人間は共食いをしてはいないのだ。

 彼らを保護する動物保護団体『ブラックサバト』は、多くの宗教から邪神信仰指定を受けている。

 特に、嘗て存在した末期のホーリービーフ教からの弾圧は凄かったという。

 

 彼らの肉は非常に美味く、しかもそれは人間だけでなく他の生物もそのように感じてしまうようである。

 その証拠に、野外にその血肉を放置すると、多くの生物を呼び込んでしまう。

 その特性から、これだけ美味しい山羊ならば、きっと神も喜ぶはずだという理由をもって、多くの宗教において神に捧げられる。

 ホーリービーフ教は、これを独占しようとしたために、現在最大規模のある宗教に滅ぼされてしまったのだ。

 

 尚、『人間と思い込んだ山羊(バフォメット)』の雄は、人間の女性を疑似妊娠させることができる。

 お腹が膨らむが、その胎内に子は存在しない。

 そして、十月十日が経つとそれも収まる。

 その後、その女性は生殖能力を失う代わりに、膨大な魔力を得るという。

 彼女達は邪教においては聖女と、教会からは魔女と呼ばれている。

 無論、教会側が魔女を捕えた場合には、例外なく火炙りである。

 

 それだけの魔力を持つ魔女が人間に捕まるのか?

 誤認逮捕ではないのか?

 そう疑ってはいけない。

 神の信徒を疑うことは、魔女であると白状するに等しい行為なのだから。

 

 野に逃げたバフォメットと魔女達の多くは、深い深い洞窟に住む。

 それは魔王リンドゥルムが作り上げた迷宮であり、その中には強大な魔力とモンスターが跋扈している。

 バフォメットの幼体は魔女が浅層で保護し、成長したバフォメットはより深い場所で魔女と共に生活する。

 教会はこのことからも、竜と悪魔は同一のものであるとの見解を強く示している。


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