【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない   作:オリーブそうめん

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違うと分かっていても、優しくされるとワンチャン期待してしまうんや

 ワイも時折騙されそうになる時がある。

 というか、騙す気は無くても勝手に勘違いしてしまう時はある。

 まあレヴィアタン一門当主のセティスさん関連やろうな。後は稀にニーズヘッグ姉。

 絶対零度な姫さんは勘違いする余地与えてくれないから安牌。

 セティスさん見た目はクールなのに、凄く親切だから勘違いしてしまうのもしゃーない。

 超名門レヴィアタン一族で美竜で丁寧とか、オス竜なら惚れてしまうやろ。

 バハムート家に継ぐ序列2位のお嬢様が、丁寧語で褒め殺しにしてくれるんやで。

 勘違いしてしまうのもしゃーない。

 代わりに無茶苦茶細かく仕事の要求されるけどな。

 ワイにお願いする率トップやし、かなり便利に使われとるのは自覚しとるわ。

 良い竜は良い竜でも都合の良い竜って奴や。

 あの竜は、美竜が丁寧に頼み込んだら、異性との経験が無いブ竜はホイホイ要求聞いてしまうのをよーく分かってやっとるこわーい竜や。

 美竜はお得やな。

 お願いしたら叶うなんてホンマ羨ましいわ。

 ワイが他の竜にお願いしても何も聞いて貰えないんちゃうか?

 対価として仕事すればニコニコして貰えるけど、逆にワームのワイが何もせずニコニコしてるだけなら他の竜は相手にしてくれへんからなあ。

 アカン、悲しくなってきた。

 これがカースト最底辺。辛いわ…。

 

 セティスさんの為に海底トンネルや、プレートを貫いて地上の死火山に繋がるルートも作ったけど、ご褒美はセティスさんのニコニコスマイルだけや。

 それ以上期待してはいけないのは分かっとる。

 これが容姿格差社会や。

 美竜の笑顔は高くつくけど、ワイの仕事はプライスレスや…。

 

 似たような事をニーズヘッグ姉妹にも頼まれるけど、あそこはキッチリと線を引いてるからなあ。

 特にニーズヘッグ姉は、あくまでも貴方との付き合いはビジネスですって姿勢を崩さないんやで。

 あの鉄壁の笑顔にどれだけの雄竜が泣いたことか。

「成果に対する正当な対価ですよ」という言い方は、「好意は一切ありませんよ勘違いしないでくださいね」の言い換えに過ぎないんやから。

 きっとそうや。

 ワイが頼まれた仕事終わったら、世間話とか一切なくていきなり報酬の話から入るの鉄壁過ぎん?

 報酬でちっこい世界樹を貰ったけど、あまりにも小さいのと、根無し草みたいに常に動き回るのがワームなので、今は世界樹がどうなってるかはよく分からん。

 

 寝る時以外は動き回るのがワームや。

 移動と回避と捕食と攻撃が一体化した生き物やから、拠点防衛の概念が希薄なんや。

 他の竜みたいに留まって戦うように出来てないから、地上に世界樹植えられても使いにくいんやで…。

 星に根を伸ばした世界樹を齧ったり樹液を啜る位なら、直接星を齧りに潜った方が早いしなあ。

 まあ、折角の貰い物やし、久し振りに世界樹の一本か二本くらいは見に行くかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近起きた魔王リンドゥルムによる被害といえば、堤防国家アリャーケの沈没だろう。

 アリャーケは沖に堤防を作り、堤防の内側の海水を排水して出来た国家であり、その海抜は低い。

 その絶対的な堤防は常に強化され続けて、幼い竜であれば傷も付けられないとも言われていた。

 特に水に対する耐性は限界まで強化されて、代替わりしたばかりの氷結海から近海までを含む一帯をも引き継いだレヴィアタンでも手間取る強度になっている。

 堤防が壊れた時点で津波に襲われて海に飲まれてしまうアリャーケにとっては、堤防は命綱そのものであった。

 ハイパー堤防と呼ばれた絶対防衛壁は、事実として200年海からの侵入を許さなかった。

 いや、いまもまだハイパー堤防は傷一つ付いていない。

 ──────傷一つ付くことなく、その内側を海水に浸している。

 

 

 魔王リンドゥルムは、深海と堤防の内側にある床(・・・・・・)を繋ぐ穴を掘った。

 皮肉な事に、リンドゥルムなら海水を我慢すれば普通に堤防を壊せていただろう。

 それでもリンドゥルムは海底の岩を砕いて掘り続けて、アリャーケ共和国のド真ん中にトンネルを繋げた。

 リンドゥルムにアリャーケを水底に沈める意図は無かったかどうかは人間の記録には残っていない。

 彼はただ穴を掘り進めて移動していただけ。

 それだけで、攻撃的な竜を遥かに超える大損害を叩き出す。

 まさしく『悪意なき巨悪』に相応しい大災害であった。

 逃げ道など無かった。

 特に発展していた大防壁近くの人々には逃げ場なんて存在しなかった。

 共和国の中央に穴が空いたと言うことは、そこから溢れ出た海水は防壁の方に向かっても流れている。

 前面には大噴水、後面には大防壁。

 救いなど無かった。

 無論、大防壁と反対側の貧民街も被害を受けた。

 リンドゥルムが再び地下に潜った場所がそこであったからだ。

 約十分後、恐らく再びリンドゥルムは深海に達したのであろう。

 リンドゥルムが帰った穴からも大噴水が起こった。

 貧民街出身者には、手荷物など一切持たずに逃げた者の中には、生き残った者もそれなりにはいる。

 しかし、彼等にはアリャーケの再建などできるはずも無かった。

 高台から見渡せば、嘗てアリャーケがあった場所には海水以外のものがない。

 僅かに見えるのは、最も高い建物であった王宮の屋根くらいのものだったのだから。

 アリャーケは今もまだ、彼の国の国民と共に水底に沈んでいる。

 現在のアリャーケの水底は、深海由来と思われる温水を噴射する花が群生しており、極めて特殊な生態系が築かれている。

 

 心せよ。

 悪意なき巨悪には、神さえ貫けぬ絶対の防壁さえ通用しない。

 汝の足が大地に接している限り、そこは何時でも奈落の底へと変わるのだから。

 

 

 

 

 滅亡したアリャーケとは真逆に、同時期に絶頂の最中にあったのが、『竜不在の世界樹』の下にある三国だ。

 世界樹というのは、そのほぼ全てがニーズヘッグかその他の竜の管理化にある。

 星の生命力を地下深くから吸い上げる世界樹は、その葉、その実、その花、その根と、全身が魔力の塊である故に利用価値が極めて高い。

 そうなれば、奪い合いが起きるのは必然。

 そして奪い合いが起こるのならば一番強いものが勝つのは必然。

 その座には大抵竜がいる。

 そして竜であるニーズヘッグのみが世界樹の栽培技術を持つことも大きい。

 つまり、竜以外の生き物には世界樹は植えることも奪う事も出来ない。

 そのはずなのだが、何故か竜達が奪い合うことない世界樹が三つある。

 人間たちは、この三つの世界樹こそが神が人間に捧げた世界樹であり、それ故に竜であっても手出し出来ぬのだと決め付けた。

 その世界樹を、竜達が奪い合う事は無かったが、代わりに人類はその所有権を求めて幾度となく戦争した。

 既に所有者が決まっているというのは間違いでは無かったが、それが神ではなく根無し草な竜であるとは人類は考えなかった。

 最も南方の世界樹を最初に自分のものと言い張ったのは獣人の王だった。

 獣人の王は獣人を世界から呼び集め、ビーマルという獣人だけの国家を起ち上げた。

 彼等は世界樹の魔力を効率良く活かし切る事は出来なかったが、非効率であっても世界樹を確保した事により、それだけで他国の侵略を押し退けるには充分だった。

 とはいえ、獣人如きに世界樹を一つでも渡してなるものかと、複数のヒト至上主義の国家が共同して獣人の国家を打倒した。

 もしそうしなければ、獣人の大幅な権利向上が歯止めなく伸び続け、権利は逆転し、ヒトは獣人に支配されていた。

 事実として、今までヒトに支配された事へのやり返しという名目と、獣人としての高い暴力性能をもって、ヒトと獣人との立場を逆転させる計画がビーマル貴族の家で発見されて、獣人の王族は纏めて処刑されたり、フレシア深緑国への生贄とされた。

 獣人とヒトの立場逆転。

 そうならなかった代わりに、ビーマルの獣人は奴隷として、ヒトに支配される事になった。

 こうして、ヒトからすれば間違いなく正しく、獣人からすれば絶対に間違ったとされる、ビーマル包囲戦争は決着した。

 尤も、ビーマルの獣人がヒトの奴隷として周辺国家に連行されていったのは、彼らにとって幸運だったのかも知れない。

 数年後、一体のニーズヘッグがビーマルがあった場所を、世界樹を残して荒廃させるのだから。

 もしビーマルが勝利して、そこに獣人達が留まり続けていれば、奴隷になるどころではなく、多くの獣人達がその命を保っていないだろう。

 東の世界樹は離れた場所にリンドゥルムが出た穴があった為に、世界樹に守られながらダンジョンと化した穴を探検する事で利益を出す事が出来たが、西の世界樹の下に出来た大国はリンドゥルムが首都に開けた穴からアルラウネ達が進出し、今ではアルラウネの楽園へと堕ちた。

 また、アルラウネの上級種は大国を支配した後、同族を呼び合う能力により、人類に不可欠なアルラウネ農場から多くのアルラウネを引き寄せた。

 花が散る前までのアルラウネは、その花弁を構成する体液が液体火薬として機能している。

 それ故に火属性に弱い。

 そこに着目していた人々は、民間・軍隊に関わらず、多くのアルラウネを牧場で飼っていた。

 開くと雌しべが人に似た上半身を作る花弁。

 その花が咲く前の蕾になった時点で圧搾することで燃料が得られるのだ。

 その為に栽培されていたアルラウネ達。

 檻の中からは出ることが出来なかった彼女達だったが、その檻は外から来たアルラウネ達によって取り払われた。

 自由になったアルラウネ達がどうしたかは、言うまでもない。

 人は己が敵わぬ生き物をモンスターと呼ぶのだ。

 束縛を解かれたモンスターに、人が敵う道理はない。

 

 かつてフレシア新六国と呼ばれていた連合国は、液体燃料の産地として大変栄えていた。

 世界樹による魔導技術の発展と、液体燃料による科学技術の発展。

 その栄華をもって、ヒトも獣人も有り余る富を分け合って豊かに生きていた。

 地上の楽園。

 差別無き新天地。

 それが実現されていたのだ。

 それには成熟前のアルラウネを搾る事が必要だったのだ。

 しかし、今のフレシア深緑国においては、アルラウネ達がヒトや獣人やその他の生物を栽培している。

 アルラウネ牧場は今、人間牧場として管理されているが、その檻を壊して助けに来る者は────未だ現れていない。








 セティス
 海皇竜レヴィアタンのご令嬢。
 最近当主になった。
 笑顔で他者を動かす事になれているヒモ気質。
 スレンダーなので見た目もヒモっぽい。
 ヒモ気質の矛先は殆どリンドゥルムに集中する。
 お願いという名目で頻繁に長時間リンドゥルムを拘束する。
 リンドゥルムでなければやれない要件を選びまくるのはわざと。
 セティス曰く、リンドゥルムの首には既にセティスが紐付けしてあるのだとか。
 その件で大口ビジネスパートナーであるはずのグレースヒルトとは実はプライベートでの関係は良くない。
 世界樹の根本に寄生させた、海底に咲き温水を吹く花の上で眠るのが好き。
 尚、この花は最も深い海溝の底においては、根を伸ばして直接星に寄生させる事ができる。
 海水仕様世界樹の下位互換である。
 この事から世界樹の秘密を知っていた事が、ニーズヘッグとの大口ビジネスパートナーになれた所以。


 アルラウネの女王
 風や媒介者を使った乱婚が基本の植物系モンスターにしては極めて珍しく、リンドゥルムの精で受粉したいという狙いがある。
 ただし、リンドゥルム以外の精では受粉したくないという発想は植物系なのでない。
 グレースヒルトの計らいで、世界樹の花粉で受粉した娘がいる。
 彼女自身も父親は世界樹である。
 一代で因子を濃縮出来る特性を持っている。
 世界樹の因子を引く己が更にワームの因子を受けて妊んだ種なら、意思を持つ巨大な竜に近い大樹に育つのではと考えているが、リンドゥルムに言わせれば竜に似た大樹なんてものは、竜の下位互換である。
 本物の竜がいるのに、植物で竜を再現する必要がないとのこと。
 竜の因子を濃縮する代わりに、アルラウネとしての因子を削るなんて、自らの強みを放棄して、使い道のない武器を手にするが如くとリンドゥルムは考えている。
 尚、実際に世界樹とワームの因子を濃縮したアルラウネベースのモンスターが生まれた場合、リンドゥルムの予想とは異なり、花が咲く頃にはその地域は地獄と化しているだろう。

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