【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない 作:オリーブそうめん
ワームに似てるって言われる植物がおるんや。
かつて古代に一匹の恥晒しな竜がおってな、植物モンスターに負けたんや。
その竜は殺されはせんかった。
ただ生かされたまま、幾度となく精を絞られたんや。
花はその精で受粉して、出来た種から生まれた植物は成長すると、父親であるその竜の精で受粉した。
おぞましいやろ?
それが何世代も何十世代も続いたんや。
最初は母親の植物そっくりの娘が生まれたんやけどな、竜の因子は蓄積し続けた。
遂に竜が息絶えた時に、最新の世代の植物は、草というよりはもはや竜に似ていたんや。
…見た目だけはな。
ドラゴンプラントって言うんやけどな。
決してプラントドラゴンではないで。
アレはホンマに竜っぽい見た目と動きを再現しただけの植物や。
人間の様な頭が悪い生き物は、ワイの事はミミズやヒルって呼ぶのに、地上から出た茎から上だけが竜っぽいだけのドラゴンプラントを竜扱いするのはホンマに解せんわ。
アレ、土から下は腕も胴体も無くて、深〜い根しか無いんやで。
…深い根と言えば世界樹なんやけど、竜の血を幾ら注ぎ込んでも世界樹なんかになるわけないしなぁ。
まあそんな事言ってたらニーズヘッグ姉妹の姉の方には「そんなことある訳無いじゃない」って言われたし、多分違うんやろうな。
ただなぁ、植物族モンスターは世界樹とドラゴンプラントに滅茶苦茶憧れがあるんや。
竜そっくりの植物より、植物っぽい植物の方が植物らしくてええやろ。
自分の種族をもっと誇れや。
他種族の因子マシマシで変異した混じり物を崇めんな。
ワイなんて無茶苦茶純粋な竜なのに、竜以外の因子なんてほぼないのに、それでも人間からはヒルやミミズの混じった竜扱いなんやで。
それなら良い方で、竜の血を受けたヒルやミミズ扱いされることもあるんや。
何でや。
何で生粋の竜のワイが他種族扱いで、竜混じりの植物が竜扱いやねん。
これやから人間は頭悪くてかなわんわ。
別に混じりもんが悪い訳ではないんやで。
何も混じらんかった結果が
極光の姫さんとか、竜としてじゃなくて、生物として一つの完成型やと思うで。
人間からしたら、ヒルやミミズと間違えようのない竜やろうしな。
竜の血の濃さよりも、最適なデザイン婚姻を選んだ結果よな。
あのビジュアルは反則やろ。
あそこまで美竜やと、どんなに口が悪くても許せるわ。
…何でうちのご先祖様は同族としか結婚せんかったんや。
…………分かっとる。
見た目が悪過ぎて、同族にしか相手にしてもらえんかったんよな。
純血種ワームって負け組にも程があるわ。
せやから、血の濃さだけを気取る竜は嫌いなんや。
血の濃さを大事にするんやったらワイに美竜の嫁をくれ。
ブスはノーセンキューでな。
竜としては断トツで純血なんやで。
美竜なら誰とでも結婚するで。
それと人間の度し難いとこはまだあるで。
人間はビックリするほど遺伝子ヨワヨワで、二世代で種族間のハーフが出来てしまう。
それはええんや。
繁殖力と遺伝子すぐ変わっちゃうのが人間の強いとこやしな。
でもなぁ、人間が鳥と番うやん?
人間50%鳥50%な
人間が魚と番うやん?
人間50%魚50%な
ハーピィとマーメイドが番うやん?
人間50%鳥25%魚25%なセイレーンが出来るやん?
パーセンテージとか適当に言ってみただけやし、セイレーンは異種交配だけじゃなくて魔法要素マシマシやから、厳密には全く違うけどな。
で、ヒトの恐ろしいところは、自分の仲間が産んだハーピィやマーメイドやセイレーンをモンスターとして扱うところや。
ワイやて、同じ竜が精子タレ流しにして出来たドラゴンプラントに嫌悪感持っとるし、差別意識あるのは否定せんで?
自分と違うものが、自分に似た生き物のフリしとるのは気持ち悪いのも分かるで?
微妙に似せてるのを嫌悪するのを不気味の谷現象って言うんやろ。ワイもわかるで?
ベースが植物とはいえ、竜の血を引いとっても、ドラゴンプラントの事を、竜ちゃうやん草やんって思とるで?
でもな、向こうから攻めてこない限りは討滅戦争しようとは思わん。
不出来な同族の雄が不出来な異種族の雌に捕まって、不出来な異種族の子を作ったわって目線で見とるし、滅びそうになっても全く助ける気も無いんやけど、それでもな、自分から滅ぼしに行こうとは思わん。
第一、セイレーンって知能以外ヒトの上位互換やん?
完全に成功例やん?
泳ぎも飛行も出来て、見た目も良くて筋力も魔力も高いやん?
ちょ〜〜っとアホやけど、顔が良ければおバカも可愛いやん?
星の叡智とか無くてもアネキもオカンも生きてるし、ワイより余程幸せそうやで。
そんなに知能って必要ないんちゃうか?
それとな、ヒトとセイレーンの立ち位置って、ワイと極光の姫さんと同じやないか。
ワイやて姫さん見とると、己が劣ってるのを見せ付けられるで。
せやかて、じゃあワイこそが竜のスタンダードやから姫さん滅ぼそうかーとは思えんしなぁ。
あーあそうなんか。
姫さんが前にセイレーンの集落を守って、人間の国と戦争した訳が分かったわ。
混じり者への迫害が許せんかったんやろうなぁ。
姫さんそういうとこあるし。
弱小生物への同情とか、クソ高プライドな姫さんは絶対認めへんやろけど。
◆
セイレーン討滅戦争。
ビョード全人種民主主義国が採決により、セイレーン、ハーピィ、マーメイドはヒト・獣人ではなくモンスターであると決議し、深く海に逃げたマーメイド、高く空に逃げたハーピィと違い、浅い海・低い空にしか逃げられなかったセイレーンを対象に起こした絶滅戦争。
ビョード首都近くのセイレーン居住区にいたセイレーンが当初の半分を切った際に、現れるはずの無い極北の竜の出現により、突如戦争はビョードと共に終了した。
首都の人口密度の急上昇による地価上昇に伴い、首都近くにある、広大なセイレーン居住区を他のビョード国民に開放しろとビョード全人種代表団が命令したが、セイレーンが拒んだ事が原因とも言われている。
その裏付けとして、困難であったとはいえ、ハーピィやマーメイドには一切追撃が無かった。
あくまでセイレーンの居住区こそが目的であった事が分かる。
セイレーン討滅に最も強く支持したのは、純粋種のヒトではなく、セイレーン居住区に隣接した獣人の低所得者層であった。
彼等はこの戦いを既得権益者への革命だと叫んだという。
ビョードを滅ぼした竜により、ビョードの大地は虹のように輝く氷が拡がっていた。
何とその氷は一ヶ月間を超えて残っていたという。
セイレーンの生き残りは竜への敬意から、ビョードの居住区に戻る事なく、極北へと住処を変えた。
元々、ビョードはセイレーンの声により加工される特殊な金属に頼っていた産業が発達していた。
それ故にセイレーンには広い土地や大量の財貨など様々な特権が認められていたのだ。
もし戦争が起こらずに大人しくセイレーンが土地を放棄したとしても、ビョードの凋落は免れなかったであろう。
『魔術』 計算された魔力の操作。理論的な使用法。
『魔法』 ふわ〜ぁっとした魔力の操作。感覚的な使用法。
『魔導』 機械や道具を使用した大規模な魔力の操作。