【悲報】ワイ、ワーム。竜やけどモテない 作:オリーブそうめん
最も優れた『竜殺し』やって?
そりゃあ最新の『竜殺し』やろ。
簡単過ぎる理屈や。
竜による被害は年々蓄積していくんや。
星に還った魂の竜への憎悪は使わなければ溜まっていくやろ。
溜まり続ける竜の被害者の憎悪の総和に、竜のポテンシャルが負けた時、それが竜の時代の終わりやろな。
────そうなる前に、星の核に直接『
…それが出来ればの話やけどなあ。
星の核に近づき過ぎて、溶け落ちたワームの話なら婆ちゃんから幾らでも聞いてる。
核近く程、
でも星の核に触れるまで近付くのは、今の所無理やろうな。
何時になるんやろうか。
何世紀先の事か分からんけど、竜やし少しずつ深くは潜っていくんやろ。
…望む望まざるに関わらずな。
最近な、アネキやオカンにパンダを食べながら色々教えてもろうた。
パンダって食べるところで北極熊とグリズリーの二つの味を楽しめる訳じゃないんやな。
後な、二匹ともアカシックレコード読みまくってるワイより物知りなんは何でなんやろ。
地下一キロメートルの龍脈で育った身体は、もう地下百メートルの龍脈ではエネルギーを維持出来なくなるんやわ。
ワイが生まれた頃に潜っていた懐かしい場所の深さでは、もうワイは身体を維持できないんや。
せやから、ワイの意思に関わらず、成長と共に核に近付いて行くしか無いんやで。
もし仮に、ワイがこの星の核まで喰らい尽くした時、それがワイの終わりや。
成長するのもええ事だらけやないな。
ワイだけやない。
ニーズヘッグの姉妹も、小さな世界樹一本で身体を維持していたのは昔の話。
ニーズヘッグ族が世界樹を育てて増やすのは、そうしないと滅びるからや。
先代のレヴィアタン当主かて、最も深い海溝で得られる海底龍脈だけでは肉体を維持できなくなるほど育ち過ぎた。
せやから滅びたんや。
セティスさんが細いのも、アリャーケの防壁一つ壊せなかったのも、最小限の龍脈しか喰らおうとしなかった為や。
海底の泥を一掃したのは、海の深さを確保する為や。
セティスさんが細いのは、自ら得られる龍脈を絞る必要に駆られたからなんやから。
それを竜と呼ぶかどうかは、未来の竜達に任せるとしよう。
概念の竜から、生物としての竜へ。
それもまた、竜の選んだ道なんやから。
何処までも竜でしかない古過ぎるワームには、そんな生き方は絶対に適応出来ないやろからな。
せやから、龍脈を得る力が弱いと姫さんの一家を馬鹿にする連中の事を愚かにしか思えん。
自分らワイと一緒に滅びるしかないんやで。
天に近づき過ぎて溶け落ちるか、地に潜り過ぎて焦がし果てるか、暴食の果てに餓死するか、海の底で朽ち果てるか。
そんな未来しか竜には残されていないんや。
それならせめて『竜殺し』を持った戦士と戦って死にたい。
今はカッコつけや冗談でしかそんな事言わんけど、もしかすると果ての終末には、ワイも本気で滅びる為の絶滅戦争に参加しとるかも知れんな。
旧き竜が滅び去った明けの朝はどんな色やろうかってオカンが黄昏とったけど、ワームの見た目でそんなくっさい台詞言っても似合わんかったで。
その時に星の循環はどうなるんやろうか。
大量の寄星生物が核に還るんや。
そのままなら分解されて終わりやろうけど、他の竜もワイのセキュリティと同じ事をして星に還ったらどうなるんやろうか。
寄星生物のままの魂が核に運ばれるんや。
地獄か天国か。
どちらにせよ酷い事になるんやろうな。
◆
彼は英雄だった。
品行方正、文武両道、才色兼備。その魂に命ぜられしは竜滅。
思い付く限りの美辞麗句を重ねれば、彼という英雄になるだろう。
何故なら彼は生きた『竜殺し』。
そうあれかしと星によって調律された『
今現在星に詰め込まれた記憶を元に、髪先から爪先まで、歴代最高の能力を与えられている。
過去最高の戦士の魂を元に調整された肉体。
過去最高の賢者の魂を元に調整された頭脳。
生まれもつものが違うのだ。
不自然なまでに、自然の力が奇跡を詰め込んで生まれた完全な英雄。
その剣の一振りは、邪悪な竜に支配された世界樹を切り落とし、その槍の一刺しは邪悪な竜の右半分を消し飛ばした。
『
彼の身体が『竜殺し』であり、彼の意思が『竜殺し』であり、彼の魂が『竜殺し』であるならば、その指先、その手に担う物、その視線、それら全てが『竜殺し』足り得るのだから。
英雄は個にして個にあらず。
その肉体は星の記憶の研鑽なり。
英雄は個にして個にあらず。
その頭脳は星の記憶の研鑽なり。
英雄は個にして個にあらず。
その魂は星の記憶の研鑽なり。
────故に、無敵。
ニーズヘッグの再生したばかりの右半身を、再び消し飛ばした。
使用したのは咆哮のみ。
これが彼の力だった。
武器も視線も竜殺しであるならば、その咆哮さえも竜殺したるは必然。
姉妹竜の片割れは、今まさに滅び去ろうとしていた。
再び英雄は構え、剣を振る。
その軌跡は竜に届く事あらず。
しかし、その剣風は竜へと迫る。
勝敗は決した。
──────土埃とはとても呼べない地下から噴出した土石流に阻まれなければ。
魔王リンドゥルム。
最も旧き血統における、最新の継承者。
災厄の魔王リンドゥルム。
生ける災害にして、悪意なき巨悪。
その脅威の前には壁も砦も城でさえ無力。
人に許されるのは、どうか居住地がリンドゥルムの移動経路にならぬ事を願うのみ。
その肉体は『対竜因子』を弾き、その精神は『対竜因子』を挫き、その魂は『対竜因子』を蹂躙する。
勝てるはずも無かった。
負けるしか無かった。
それでも、それでも英雄は立ち向かう。
何故なら彼には
その剣は人類史上最速。
その魔術は人類史上最大。
その肉体は人類史上最強。
例えそうだとしても、奴は人類の歴史そのものを踏み躙り続けて来たのだ。
それが魔王リンドゥルムなのだ。
英雄が飛び跳ねた直後に、かの竜はその地帯を丸ごと喰らい尽くした。
英雄が身を躱した一瞬後、かの竜はその地帯を
英雄がいなしたと同時に、かの竜はその地帯を日の当たらぬ深みへと変えた。
かの竜はただ動き地を喰らうのみ。
ただそれだけで、星の核へと英雄と共に近づいて行く。
その戦場を沈めていく。
星の意思が、星の炎が、星の流れが、二つの魂を熱していく。
無理だ。とは英雄は思わない。
使命を放棄する権利は、彼は知ることも考えることも許されない。
勝てない。とは英雄は呟けない。
目的を遂行する以外の意思は、彼には存在しない。
逃げたい。とは英雄は縋れない。
彼はこの戦いの時点で完成している。
この先のいつかなんてものは、今の下位互換にしかならない。
故に、
それが滅びしかないとしても。
◆
人間としては断トツでイケメンな男が、ニーズヘッグの姉の方を今まさに殺しかけてた。
「人間如きが何してんねん」
間一髪。
間に合った。
下手人は、人間としてはムカツクほどイケメンな男やった。
『英雄』やと直ぐに分かった。
今までにも何度か見た事がある。
憎たらしいほどモテるのに、女を相手にせず、子孫を残さず散っていく、使い捨てのハイエンドモデル。
さしずめVer.5.00ってところか?
イケメンってだけで許せないのに、美竜を殺す事を厭わない全雄竜の敵。
いや、普通に
「EEEIIMMMEEEEEN!!!!!!」
「GAAAAAAAA!!!!!!!!」
互いの咆哮をぶつけ合う。
ワイが
オトンのお陰やな。
ワイにセキュリティの必要性を教えてくれたオトン。
丈夫に産んでくれたオカンに感謝や。
ほな、往くで。
英雄よ。
「精神状態の不安定化を観測。現在の精神状態における不利を確認。現在の精神状態を破棄し、行動を神星に委託────
…その技は前に見たわ。
思考の演算処理を
自分で決断する事にビビッた弱虫の技や。
オーディエンスに頼ってばかりのクイズ回答者とか、白けるわ。
なあ、自分知っとるか?
今やっとるそれ、
それともう一つ教えたるわ。
人間如きの最適解程度で勝てないから、ワイらはこう呼ばれるんや。
星の叡智がそんなんも知らんかったとか、世界樹生えるわ。
龍脈を巡る魂の竜への憎悪が『竜殺し』の本質なら、その龍脈の魂を竜への恐怖と絶望へと作り変えたものが、ワイの
やけどな、そんなの使うまでもない。
ただ単純に、潜る。動く。喰らう。
これだけで事足りるんや。
ほら英雄君。
最適解では左足を残すのがやっとやろ?
右足は相当スパイシーな味やったで。
最適解を超えて漸くこちら側なんや。
完全を超えて漸くスタートや。
幾ら最高値が高くても、最高値止まりでは駄目なんや。
最高値が駄目駄目でも、そのひっくい最高値を超越出来るのが人間の強みやろ?
おおっと、また避けそこねたなぁ。
自分の最適解その程度なんか?
──最適解以上のおもろい答えを魅せてくれんのか?
…なあ英雄君。
定められた最高以上になれないんなら、自分人間以下やで。
ほなさいなら。
もう手足も全部ワイの腹の中や。
残りは全部丸呑みや。
ワイの腹の中で消化された魂は、星に循環する事は無いから、生まれ変わりはさせてやれんけど、もし、何かの奇跡で生まれ変わることがあったなら、次こそ
なあ、ニーズヘッグ姉。
今回は報酬の話先にせんのやな。
…いや、何でそこで怒るんかさっぱり分からんのやで。